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115.瓦解/融解


ファブリカはその先に見えた存在を報告するなり、私を後に先へと消えた。



取り残されたことと合流の兆しに触発(しょくはつ)され、足を強く踏み出す。



私が彼女の先を求めて角を曲がると、そこには(ひら)けた空間が待っていた。





「おお、ファブリカ、オネスティ」





窪み……そう、まさに窪み。

曲がり角の連続で、敷地の中にこれでもかといった量の建物が(ひし)めき合う弊害、もう帝国には建築可能な空間はないのではないかと思わされた。



だが、この特異なる光景、限られた土地を……こうも使用したものが存在しているとは考えもせず、そのせいか驚きが増幅される。



低い円柱形の建物。

その円周が大きく取られながらに()り貫かれ、鎮座している。



まるで、剥き出しになった半地下。

通常は目には見えぬであろう形状がそのまま(あらわ)になっており……。

綺麗にくり抜かれた円は、その存在を異様に際立たせていた。





「思ったより早かったな。同郷の者との再会はどうだった?」



「そうですね。あまり実感としては難しいものですね」



「まあ、そうだろう。にしてもよく、オネスティの存在に気づけたな……」



「どうやらー、偶然らしいですよー」



「?」





ファブリカの間髪入れずに行われた返答。

私はただそれを頷きながらに通過させようとしていた。



しかし、それが流れ過ぎようとした頃。

最後の最後で突っかかり、留めた。



……なぜ、彼女が会話の内容を知り得ているのか。



カトブレパスとの会話。

その最中において、彼女は少しばかり離れた角に存在していた窪地に体を任せて、不干渉なる印象を抱かせていたはずである。





「どうした?」



「いえ、たしかにそうだなと。いくら偶然とはいえ、不思議ではあります」





彼との会話、その内容について知り得ているファブリカ。

私は、彼女には指摘せず、()えて当然であるとした表情にて迎える。



一度自身で飲み込み、吐き出された疑問点を改めて。

ここで、新たなることとして、露にさせる。



ファブリカとしても内面的なことは知り得ぬだろうとの仮説であるが、この場を繋ぐには必要不可欠であると私は信じて疑わなかったのだ。





「もしかしたら! 遠くからでも目立つとか?」



「=うん。可能性としてはある。うん」



「なおかつ、このような人数にて通りを歩いていれば、気にはなるのですよ」



「確かにそうだな。彼が偶然ということなのならば、納得する他はない。……オネスティ。我々について何か尋ねていたか?」



「いえ。トーピード魔導騎士団については何も。それと言ってはあれですが……彼、再び帝都で待つと言っていなくなってしまいましたね」





真実を告げた。

カトブレパスが帝都にて「私を待つ」といった情報。



当初こそ、そのような込み入った話は私の任務である人数把握が済んだ頃に()()()行うものであるために、話すつもりはなかった。



しかし、ファブリカが聞き耳を立て。

……「情報」についてを知り得ているとしたら。



彼女が得ている情報の底が知れぬ以上。

当初の計画を変更し、所謂(いわゆる)隠し事は、無しにしなければならなくなった。



……まずは、話の流れを目の前の存在へと寄せていく必要がある。





「なるほど、我々の存在については今のところは判明していないようだな……。ほう、それと再び帝都にて待つと」



「はい」



「良かったな。また会えると思うぞ」





(……それだけ?)



私は身構えていた。



唐突なる同郷人物の現れ、そして次なる出会いの約束。

その情報を前にしたトーピード魔導騎士団団長。



────「イラ・へーネル」はどのような反応を示すのか。



私は、これ以上の情報を口にしなければならないのかと。

密かに、体を(こわ)ばらせていたのだ。



しかし、告げられた言葉は淡白(たんぱく)で、そこから含みのなさを感じ取れば、確実的な「違和感」が増幅させられる。



私は(たま)らなくなって、このような気持ちになった元凶に目をやる。



────(ほう)けた笑み。



彼女……そうファブリカは、目を丸くさせて「なんですかー」と言わんばかりの表情のままに笑みを浮かべている。



私の取り越し苦労か。

そう感じてしまうほどに無意味なる印象に、私は溜息を心の中でつく。



彼女に対する詮索(せんさく)は無用。

目の前の団長さんに関しても不要である。



恐らく、ファブリカは私とカトブレパスとの会話を聞いている。

そして、その内容は今のところイラ・へーネルには伝わっていない。



それが分かれば、あとはよろしい。



……そう思う他ないのだ。





「また会うっていっても、仕事が終わってからだけどね!」



「=うん。頑張るんだぞー。うん」



「オリヴァレスティもですよ」



「ゔ」





未だトーピード魔導騎士団を発見したことを告げたきり言葉を発しないファブリカ……寄りかかる壁さえないのに、そうしているように見える彼女。



それが答えなのだろうかと過大に思考を重ねるも、背後を蹴るようにして足を動かし始めたのを確認し、小さく丸めて捨てた。





「オネスティーくんと彼がまた出会うためにはー、まずーこの中からー始めないといけないねー!」





団長の元へと歩みを進めながらに告げるファブリカ。

彼女の表情はいつものものへと……戻っていた。


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