107.融合/擬態
主に防術塔の跡地。
その周辺に魔術士が空を飛び、騒然とする中。
トーピード魔導騎士団は気付かれることなく「帝国」へと降り立った。
遠く上から目にした人の流れから離れた陰地。
そこに建てられた建物を遮蔽物として、身を隠す。
人々は事件の中心に集まり、壁に近いこの場所には人通りがない。
石畳で舗装された道、人気のない帝国。
そこに住まう人々と同じ目線になったことによって。
その実情を、目にすることが出来た。
様相。
これはまさに、融合しつつある。
ネオン街に表示された文字は、私がよく知るものであった。
まるで、元の世界ではないか。
帝国。
ここが、彼らの拠点というわけか。
しかし、現状において確信に至る訳では無い。
未だその可能性が最も高いといった域からは出ない。
なぜなら、シュトルム。
王国側の人間であれ、現代の技術に似た画面や、彼の本体。
工学的なものである魔術槍などを見れば、文化、そして知識レベルともに発展を自然的に迎えているのであると捉えてもおかしくは無い。
つまりは、何らかの外的要因による「発展」ではないと……。
その可能性に、どうしても縋るしかない。
さすれば、このような様相に至る原因が、外なるものの影響であるとすると、私は、行動を起こさねばならない。
……それは、以前より決まっているのだ。
一度向かえば、帰還する手立てはない。
そう告げられて先遣隊は旅立った……当然、彩雲彩花も同様だ。
彼らが旅立った頃、切迫した状況にて行われた派遣。
それは、発見された出土物を巡り、統合機関といえども。
各国が利権を争い、介入を迫っていたからだ。
本国にて発見された出土物、その貴重性かつ、有用性。
誰よりも先に調査をする権利を得た本国は……。
形振り構わず、人員を派遣したのだ。
時は経ち、条約改定や、それに伴った各整備が落ち着きを見せる。
私がいざ、派遣へと向かう頃には通信環境の改善は捨て置き、帰還に関しての受け皿、その実現に至り、効果を得た。
情報を告げに、私は向かう。
未だ帰還に関しての情報を得ず、未知なる土地にて一生を送る決断をした先遣隊に対して「真実」を告げる必要がある。
それこそが、有益なる情報を決死の覚悟にて齎した先遣隊に対する返礼であり、帰還を行うことが私の機関から与えられた主たる任務であるのだ。
「あー、もうだめだー」
杖から降り、トーピード魔導騎士団の面々が揃って杖の展開を解除する中。
建物にもたれ掛かるファブリカは、疲労感に塗れた口調のままに、口にする。
「ご苦労ファブリカ。あとは任せろ。……調査するに当たっては、顔が割れている者は当然、偽らねばならない」
「そうなのですよ。ましてや素性の判明は、王国の関与を裏付けることとなり、避けねばならないのですよ」
「そのためには、まずは食事だ。今後のためにもファブリカの力を回復する必要がある。……オリヴァレスティ?」
食材。
今まで延々と持ち続けていた食材袋。
それが今、効果を示すというのか。
「ああ、こっちね! はい!」
「=うん。そわそわ。うん」
オリヴァレスティは、別の方向を目にしながら……。
二つある内の一つをファブリカの元へと移動させた。
「我々が使用する分を残した上で……足りそうか?」
「はいー、問題はないと思いますー。……けどー」
「けど?」
「そっちの袋もー、気になりますねー!」
「まさか……」
「=うん。これのこと? うん」
驚いた様な表情を浮かべながら。
オリヴァレスティは、残された袋を抱き抱える。
その袋の大きさと様子から……。
内包された正体が、菓子類であると考えられる。
「あははー! 冗談だよー! でもー、もし良かったら一緒に食べたいなー、なんてー」
渡されたメノミウスの肉を目にも留まらぬ勢いにて頬張るファブリカ。
当初こそオリヴァレスティは菓子類を死守する姿勢を見せるも、共に食べるという彼女の提案によって、妥協した。
トーピード魔導騎士団における食糧難とは、認識阻害を発動させるために必要な「消費」の多さによるものだったのか。
・・・・・・
「よしー! 栄養はこれで摂取出来たしー、あとはー頃合を待つだけだー! ありがとねー! オリヴァレスティー?」
「うん! メノミウスの肉はそのための備えだし! ……それに一緒に食べるなら問題は無いし!」
「=うん。問題といえば、次に使用された後の食料の備えが手持ちでは無いことが挙げられる。うん」
「それについては……管理区に貯蓄されているもので対応しよう。回収が完了次第、戻ることになる」
「そうですねー次使ってもー、そこまでは持続しそうーかなー!」
認識阻害。
ファブリカや、その他の人員からの会話から察するに。
今後もその使用が考えられているそうだ。
それも……そう遠くなく。
「朗報だな。ところで、ファブリカ。疲労感や違和感、不具合は感じられるか?」
「問題ありませんー!」
先程、発動限界を迎えたばかりであるというのに……。
その管理区なる場所に至るまでに発動の姿勢を取れるとは。
食料からなる供給源の浸透性の高さに、驚きを隠せない。
「素晴らしい。さて……次なる動きとしては、一度、フェルニオールに捕縛されているために、素顔が判明している可能性が高いため、擬態する必要があるな」
「それを、これでするんだよね!」
「その通りだ、予め保管してもらったものを使用しよう」
「……擬態。その……肉を使用するのですか?」




