104.攪乱/認識
発動限界。
つまりは、ファブリカが現在も行っている「認識阻害」に限度があり、発動に際して疲労を伴うものであることが判明する。
靄に被さった人間は外部から認識することは出来ず、また内部からは違和感なくして外部を捉えることの出来る「能力」を思えば、それが有限であることは何ら不思議ではない。
寧ろ。
そのような力をもってして、平気な顔をしながら持続している様を現実として捉えると、彼女の力量の底が知れぬと実感させられる。
「まー、といってもー。弱点はあるんだけどねー……」
「それは……」
弱点。
彼女から告げられたその言葉。
進行を続ける杖の上にて耳にした私は……。
大いに身を乗り出す勢いで、次なる言葉を待ち望む。
「風ー! 風に弱いんだー! あんまり強いのだと掻き消されちゃうのがー、難点かなー」
「そういえば、ファブリカさんは風を使って攻撃をしますよね。それはその、支障となることはないのですか?」
背後より認識阻害、その弱点について耳を傾けるが、颯爽と現れた「風」という単語に、実際に体験した記憶が浮かび上がってくる。
ファブリカが戦闘を行う際。
彼女は空間を揺らがせ、圧縮させた濃密なる風を用いて敵を切り裂いた。
空間断絶といった空間を切ってしまうほどの風を用いた魔術を使用する彼女にとって、認識阻害との関係性が些か不可解に思えたのだ。
「いい指摘だねー! そうなんだよー、私が使える魔術と相性が悪くてさー。発動中に攻撃をするとー放ちっぱなしってわけにはいかなくてー、維持用に空気を弄らなきゃいけないからー。……二重で労力がー……」
「そうなると極力、認識阻害発動中の攻撃は避けたいわけですね」
「そうそうー、だからあの時、オネスティーくんに魔術槍での攻撃を頼んだじゃないー? あれは……そう。危険性を限りなく低くしようとした結果なんだー!」
「危険性……ですか」
確かに思えば……。
包囲網を敷く魔術士に対する攻撃の手段として、ファブリカ自身の手段も存在していた。
突破を図る上で、認識阻害は必須であり、気密性の高い魔術士群を「攪乱」するために攻撃が行われるが、その手段は私の魔術槍によるものだった。
「うんうんー! いかに二重で魔術を使ってー、阻害を保持したとしてもー、弱点は弱点だしー……どうしてもどこか穴が生まれちゃうんだよね」
「……攻撃を行うと、ですね」
突破に際して必要不可欠である認識阻害には弱点が存在し……。
その露見は、風によって、齎される。
私が行った魔術槍による攻撃。
それを勧めた理由。
つまり、弱点を補い、尚且つ攻撃を行うために。
攪乱と隠密性の向上を……重ね合わせたのだ。
「一瞬ねー、どんなに頑張ってもー、見えちゃうからねー! 背後とかに調節はするけどー」
「なるほど。そこに気をつけなければならないと」
「逆にー! そこさえ気をつけてー、見せなければー、限界を越えない限り平気なんだよねー!」
「……恐れ入りました」
列を組み、生み出された黒霧に包まれながら……。
認識されることなく空を飛ぶ、トーピード魔導騎士団。
空を滑空するように進み、柔らかなる挙動と定まった進行方向から、視界に映す光景の移り変わりを鮮明に、確認する。
────ターマイト戦略騎士団。
離脱の際に確認した多数の魔術士群は、今やその射程圏内に捉えているようで、既に攻撃が始まっていた。
横一列を上下にそれぞれ、二段三段と列を組みながらに攻撃を行う魔術士群。
その並びを見れば、まるで雛壇のように思える。
色彩豊かな光線や噴煙。
多種多様なる「形」をした方法による投擲や射出などが魔術士群によって行われているが、それを受けた側に動きはない。




