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103.転進/侵攻


足場が勢い良く上昇し、止まる。



踏ん張りをつけて接着していた足は簡単に離れ、空へと向かった。





「────ッ」





全員が手を繋ぎ、身体を一つに(まと)める中。

上昇を続けているとその速度が「明らかに」速いといったものではないことに、どうしたものか、気づいてしまう。





「あれだねー。へーネル団長ー! あの人達に見えてるかなー」



「ああ。問題ないだろう」





ファブリカが指し示し話題にした存在。

私は上昇し、耳を傾けながら、外の光景に意識を向ける。



────空を覆う魔術士群。



比較的緩やかなる速度と、対象の存在を確認すれば、この行いが「認知」させるためのものであることが分かる。



シュトルムの攻撃によって帝国の設備は破壊され、その対応として訪れた魔術士に対して、私達は逃亡を敢行しているのだと思わせなければならない。



故に……。

防御魔術を展開し迫り来る敵を前にして、認識阻害を発動していないのだ。





「よし……。今だ。全員、即時杖を展開。オネスティはファブリカと移動するんだ」





上昇を重ね、その間にも魔術士群に離脱情報の浸透を深める最中。

上へ上へと塊として空を昇っていた私達の運動は、ある時を境に止まる。



一切の運動が感じられず、浮遊そのものと錯覚してしまいそうな「停止」にイラ・へーネルはすかさず問いかける。



空中上にて今まで繋がっていた手を離し……。

離脱すると、それに伴った挙動が巻き起こる。



つまりは、空中に解き放たれた単一のそれぞれが。

個々に、分裂してしまったのだ。





「……オネスティーくん! さあー、掴まってー!」



「……はい────」





空中上にて手を伸ばし、杖に跨った状態において。

身を乗り出すファブリカに、私は、対応する。



未だ浮遊する私に近づき、こちらへと差し伸べた細い腕を取り、互いに手首を掴んで正確に、そしてより強固に保持をした。



……彼女の努力あって抱き抱えられるかのように、「保持」された私は、素早い動きによって杖の後ろへと移動させられた。





「どうー? すごいでしょー!」



「……恐れ入りました。ありがとうございます」



「でー? 後ろの乗り心地はどうよー?」



「……悪くないですね。いえ、むしろ良いかも知れません」



「そうー! なら良かったー! これから忙しくなるからねー、頼んだぞー」





イラ・へーネル、ダルミ、オリヴァレスティ、そしてファブリカの全員が杖を展開し(またが)り、(ある)いは乗ると、統率の取れた距離感を形成させる。



進行方向へと定めたのは、先程ファブリカとオリヴァレスティと共に出発した「王国」方面であり、私としては元来た道を戻るといった感覚に近く、その挙動がより身近な存在に感じられた。



魔導騎士団各位────陣形を組み、王国へ向かって、離脱を始めた。





・・・・・・





「そろそろ頃合だな。ファブリカ。頼む」





進行を重ね、魔術士の姿が遠く小さくなった頃。

イラ・へーネルは……呟く。



改めて受け取ったファブリカは小さく頷き、黒い靄を生み出した。



私達の全身を覆ったそれは、最初こそ暗がりとなり視界不良となるが、すぐに鮮明なる元の光景が映し出される。





「……はいー完了ですー! これで帝国向けの動きは終わりー! ですねー!」



「ご苦労。……そうだな。後は踵を返すようにして『侵攻』へと転じる」



「そうなのですよ。今までは逃げに徹し、行動を起こすことは避けてきたのですよ。帝国にとって現状の敵は……シュトルム。後の対処は(おろそ)かになるのでしょう」



「帝国の魔術防御を担う防術塔が、破壊されたってなったら……それはもう、大変だよね!」



「=うん。囚われたことになっている私達。そして報告によって離脱が帝国へ通達された時。……私達の存在は完全に見えなくなる。うん」



「文字通り、だな。ファブリカのお陰で敵に見つかることなく、侵入が可能だ。……現在生み出された現状を生かすために全力で行動を行いたい。────そこでだ」





大きく半円を描いて、先程の進行道を辿るトーピード魔導騎士団。

徐々に徐々にと一度は小さく不鮮明となった魔術士。



異物が、大きく映し出される中。

イラ・へーネルは進行陣形から移動し、ファブリカの元へと接近した。





「あと、どれくらいだ?」



「あー、発動限界ですかー? うーん、でもやっぱり疲労感が割と来てますねー。……帝国の中に入るまでが限界ですねー!」



「了解だ。無理はするなよ。……よし、更に加速を行いたい。基準はターマイト戦略騎士団を通過した後だ」





イラ・へーネルはファブリカに発動限界なるものを尋ねる。

答えを得た彼女は、ファブリカの肩を叩いた後、元の位置へと戻る。



進行の指針を規定した彼女。

映し出される魔術士群とターマイト戦略騎士団。

両方を視界に映す私は、ファブリカが問われた質問に疑問を抱いていた。





「あの、ファブリカさん」



「んー?」



「発動限界って、どういうことですか?」



「知りたいー?」



「……はい」



「では教えてあげようー! 発動限界とはー、この認識阻害があとどれ位使えるかーってことを示すものだよー!」



「認識阻害……。つまり、存在を発覚させずに移動することが出来るのが、帝国へ入る頃までである。ということですか」



「そうそうー! 存在を見えなくするなんて力はー、やっぱり限度があってねー。使えば使うだけ疲れちゃうんだよー」



「……剣を振り続ければ、疲労が蓄積されるといった感じでしょうか」



「うんー! そんな感じだねー! いくら好きな食べ物でもー、ずーっと食べてたらお腹いっぱいになっちゃうー! みたいなー!」



「……?」


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