102.陽光/魔杖
「そういえば、オネスティ。杖を持っているが、適性はあったのか?」
「……そう、でした。それがあの」
移動を重ねる射出台。
そこに足をつけ、全員が立ち続ける中。
自らが手にしていた杖は行き先を定めず……。
彼女達の間で、ひとまずは静止していた。
そんな杖の存在に気づき、王国へ向かった「本来の目的」である魔術適性の結果について尋ねる……イラ・へーネル。
その言葉を皮切りに、未だ挟まれたままである私に視線が注がれ、正しく次なる訪れに「期待」をしているようであった。
「実は、魔術は使えないそうなんです。……ですが、その」
「あのね! へーネル団長! 兄ちゃんね! 出すことは出来ないけど、吸い上げることは出来ているみたいなんだ!」
「=うん。つまり、適性はあることにはある。だけど使えないだけ。うん」
「そうだねー、詰まってるって感じかなー。開通させれば完全に使えるようにはなると思いますよー!」
「そうか。オネスティは完全に適性が無いわけではないんだな。……なるほど、それで」
イラ・へーネルは私が持ち得た杖を見ている。
……そして、彼女は含みのある表情を浮かべながら、小さく頷く。
「……私なんかに、せっかく用意してもらいました。ア号姉妹さん達にもお手間を取らせてしまいましたし」
「おお、姉妹と。今回は何人だった?」
「?」
「今回は」という言葉。
特段聞き慣れないものでもないが……。
姉妹の話との関連性を考えると、聞き慣れない言葉である。
「五人でした」
「調子がいいらしい。……それだけいれば討伐も捗るだろう」
「……今回は……とは」
「ああ。君が出会い、魔術適性を行ったア号姉妹とは単一の存在だ。しかし、日によって『分裂』をする多重人格的側面がある」
「……つまり、元は一人の存在であるのですか」
「そうだな。一つの人間。それが時として分かれる。まあ、本人には自覚はないようだが」
私が出会ったア号姉妹。
彼女達は元は一つの存在であり、記憶に残る彼女達は……。
────分裂した存在であるという。
思えば、奇妙な程に似ていた少女。
確かにその名の通り「姉妹」であると疑いはしなかったが、空間内を移動する際の「変化」を照らし合わせれば思い当たるところはある。
「そういえば、名前を……イラ・へーネルさんが付けたと聞きました。それはその……どのような意味合いですか?」
「彼女達。瓜二つであっただろう? ……だから私は本当の姉妹のようであるから、名付けたのだ。……もちろん、そう願ってな」
「そうですか。私が杖を持ち帰ったのは、確かに自身の可能性を諦めていないという表現でもありますが。……彼女達を連れ出す気持ちも含んでいます」
「ほう、それは彼女の境遇を知ってか?」
「……それは」
「……彼女。日に当たるところにいられないんだ。杖をもって、汲んでくれるのは有難いが。……どうかこのまま留めておいてくれ」
「……そうですね。思えば、オリヴァレスティさんにも、その気持ちが感じられますし」
私は、杖を持ち帰ることによる複合的な効用を元に、運搬を決めた。
何故か彼女達の前で。
断ることは、決してしてはならぬことであると、感覚的に思ったのだ。
オリヴァレスティは、彼女達の境遇を知って……。
渡されたものを大切に運んだのだろうと考えた。
「はは。それでオリヴァレスティはあのような状況下においても、食料を手放さなかったのだな」
「……ち、違うから! 捨てるとか考えてないし! 食料大事だし!」
「=うん。また戻った時に空になってたらいいね。うん」
「ふーん。私は絶対そうだ思うけどなー」
「私もそう思うのですよ」
「だ、ダルミ? なんで?!」
【────射出台接続】
【────密閉弁解放……】
シュトルムを見送り、完全にその姿を目にすることが不可能となった後。
籠内から感知できる光は、限りなく少なくなった。
単調的な音声が辺りに反響し、寂しげな印象を助長させる。
台の進行が止まり、下部に確かな振動を覚えるなり……。
上部から一筋の「線」が生まれる。
陽光が差し込み、辺りを照らす。
この光を浴びる暗い杖は、いつの間にか清く光っていた。
「開いたねー!」
「あれが、私達の出口なんだね」
「=うん。飛び出してしまう。うん」
「ああ。あの先を越えれば、もう後は別々の存在だ」
まるで開かれた扉。
上面に私達と外界を隔てるかのようにして存在していた二枚の板。
台を前にして、口を開けている。
【────射出準備完了】
【────耐衝撃姿勢への移行を推奨……】
【────衝撃に備えてください】
「全員、前を向くんだ」
「こうですかー?」
「ああ、そうだ。そして、この位置を変えずに、全員が強固に繋がるんだ」
「つまり、手を繋ぐんだね!」
「=うん。飛び出した時に離れないようにだね。うん」
「分かりました。その後は、上昇の最大減少位置にて、離脱なのですよね」
「ああ。それまでは暫しの辛抱だ。射出が完全に行われる前は、直前まで足を台に着け、踏ん張るんだ」
杖を持つ者は杖を介して、袋を持つ者は袋を介して手を繋ぐ。
全員が揃って繋がり、開かれた「空」を臨む。
【────秒読み開始。上昇につき段にて経過報告】
【────第十段、第九段、……以後省略】
【────三、二、一】
「────ッ今だ! 踏ん張れ!」
【────射出開始】
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