101.複合/任務
「なにって……決まっているではないですか。私たちといえば、そう! 帝国内にて魔鉱が見つかったのですよ! それも、上物ですよ!」
「ほ、ほんと? なるほどねー、それを拝借するためにここまで大掛かりなことを……」
「=うん。かなり大掛かり。うん」
「より正確に言えば、私達の目的とシュトルムさんの任務が合致……一致したということですよ」
「へーネル団長はー、魔鉱を回収するためにもその任務に協力したんだねー。でー、ダルミー。そのためには何が必要なんだっけー?」
「射出……ですよ。魔術士群を欺くほどの盛大な……」
【────反射反応確認……】
【────軌道予測……】
【────事前座標第三節を通過】
「皆さん! 最終調整は完了しました。敵がすぐそこまで迫っています! ですので、こちらへ……」
大きく扉は開き、その開閉音は音声にも負けない程に響き渡る。
聞こえ始めた音声と発生した現象に耳を傾けると、その関連性から、自らの視界にシュトルム、そしてイラ・へーネルを収める。
備え付けられていた窪みに存在する「階段」を指し示すシュトルム。
その傍で腕を組むイラ・へーネル。
再び現れた二人の姿は、対照的にも思えた。
「さぁ、行こう」
一瞬にて切り替わった笑顔のままに口にするイラ・へーネルに誘われ、ファブリカ、オリヴァレスティ、ダルミはシュトルムが案内をする窪みへと向かう。
私はその確かなる動作に置いていかれぬよう……。
重く固まり始めていた足を動かし、進行の背後につく。
先導するシュトルム、形成された列。
それを閉じるかのように私の背後についたイラ・へーネルの表情は……正しく、無なるものへと舞い戻っていた。
・・・・・・
《暗室》
勢いよく階段を登り、揺れ動く変化に辿り着く。
登れど登れど変化無き暗黒の世界に、次なる空間の訪れはあるのだろうかと当初こそ思ったが、すぐにそれは杞憂であると実感させられた。
────正方なる平面。
五人の人間が身動き取れない程の窮屈さを感じさせる程の大きさ。
それ程までの空間を作り出す「足場の平面」へ至るのに、階段から見て、そこまで時間は掛からなかった。
暗がりの中に灯った光。
その灯火には、上面が切り落とされた籠のようなものが映されていた。
互いに前を向き、前方イラ・へーネル、ファブリカ……。
後方オリヴァレスティ、ダルミの並び順。
足場にて両足をつけ、静止するトーピード魔導騎士団。
私はそんな並びの中央、挟まれながらに立っている。
そして真っ先に先導をし、この場を作り案内したシュトルムというと、私達より遥か上方にて何やら計器に触れながら作業をしている。
「そういえば、これから皆さんは……その、魔鉱を帝国へ取りに行くんですよね。……ところで、なんですが」
「なんだ? 怖気付いたか?」
「いえ、気になっていたことがあるのです。……その、トーピード魔導騎士団は、どのような目的をもって行動を?」
「つまりー、オネスティーくんが気になってるのってー、私達の任務がなんなのかーってことだよねー!」
「そうですね。前線の対処に当たっているというのは、穴の中にて耳にしましたが、具体的なところに関しては……」
「まあ、いいだろう。そうだな……オリヴァレスティ。頼んだぞ」
「ええっ、私? ……まあ、団長が言うなら仕方ないかー。あのね。私達の任務は、各地に存在する『魔鉱』を集めることなんだ」
「……魔鉱、ですか?」
「=うん。魔鉱とは魔素を凝固させて生成される魔石から、稀に生まれる希少物なの。魔鉱には……たった一つだけでも国家を動かすには十分な程の莫大な力が秘められている。うん」
「それをー、私達がー、集めてるってわけー! まー、そっちは仕事だね!」
「って、私の仕事盗ったよねー! 私が説明するって団長も言ってるじゃん!」
「えー、嫌だったんじゃないのー?」
「=うん。それとこれとは別なのだ! うん」
「……つまり、皆さんは今までその魔鉱を集める任務に当たっていたと……。そして今回。帝国に魔鉱が」
「そうなのですよ。シュトルムさんに告げられた撹乱の任務。そして帝国内にて発見された魔鉱。二つの任務を複合的に行えば、効果的な結果が得られるということなのですよ」
「そういうことだ。ターマイト、トーピードにとってこれら一連の流れは両得なる任務。そして、これより。我々にとっての本願を達成するべく『仕上げ』を行いたいのだ」
────鳴り響く足音。
その擦れるような金属音と独特な作動音。
音声の発生源は、容易に特定可能だ。
「お待たせ致しました。へーネルさんとも念入りに行いましたが……問題はありません。……ただいまお乗りになられているものは、射出台でありまして、緊急脱出用の装置として認知されております。よって、加速や上昇につきましては安全面は全くと言っていいほど考慮されていませんので……くれぐれもお気をつけて」
不穏な言葉を並べ立てるシュトルム。
彼の手には接続線にて繋がれた押込機器が清々しく握られている。
「そして、上昇が薄く変化し、落下を始めてから王国への進行を始めてください。それ以前ではおそらく……」
「見えないんだったな」
「はい。ですので、その点に注意をしてから移動を。……それでは、ご武運を」
冷静に別れの言葉を口にするが、ここより分かたれることになれば、お互いにお互いを干渉することが出来なくなる。
……それを知ってのことであると、それこそ複合的に考えてしまう。
【────射出台、動作開始】
上面の楼閣。
硝子のようなもので作られた空間にて手を振るシュトルム。
段階的に動き出した足場、傾斜状なる挙動にて上昇をする中で。
次第と、彼の姿は見えなくなっていく。
……その姿を誰しもが、見送っていたのだ。




