000.プロローグ
「まずはこの資料を見て欲しい」
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今日。発見された「事実」に基づき、すべての人類に共有済みである基礎情報に新たなる時代が記述される。その内容。人類発祥以前の地層成分からみられた相違における調査に赴いた学者達によって、当該区域から存在するはずのない高技術人工物が確認された。
別世界から来たかのような出土品。現文明とはかけ離れた不整合な存在である。人の理解を超えた発見は、今までの時代とは根本的に異なる新しい時代の存在を明らかにした。今までの歴史年表に新たな時代を追加する必要がある為に、機関は着実と作業を進め、その発見された新地層(新時代)は未確認地点、通称「α」と暫定。これらの発見により。歴史が根底から覆され、以来の人類史も大いに揺らぐことになった。
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「これは、世界の共通理解として広く伝わった事実です。ここに記載されたことを良く知っていることでしょう。しかし、これより目にする情報は、君にとって未知なる情報なのです。これを見れば、後戻りは出来ない……」
「さて。彼の前置きをどのように取るかは君次第ではあるが。────どんなに喚き、悲しみを受けたとしても、これより先の情報は、未公表の機密情報であることには変わりがない」
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現封鎖地帯「α」から発見された直径八十米の円柱型物体。その中には、一冊の『書物』が収蔵されていた。収容物を含む全ての出土物に関する調査の結果。現段階の技術を駆使しても決して解明出来なかった「最後の魔術」との関連性が認められた。
最後の魔術と収容物に関する重要な事実。それは加害者と被害者が明確に存在する、いわゆる殺人現場の後に起こる未知の現象という既成概念を一新するもの。今回発見された人工物の(存在・出現)理由が偶然のものではなく、我々人類の歴史の中で起こる殺人という事象を条件とし、生み出された霧を蓄積し続ける一種の「器」であることが判明したのだ。
当収容物に記載されていた内容の研究、指定事項の実行によって引き起こされる現象の実証と各種の実験結果に基づき、我々は未確認地点「α」から発見した人工物内の収蔵物を────『魔術書』と呼称する。
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「現資料にある通り、我々は旧来より不確定であった『最後の魔術』を解明へと至らせる手立てとして、出土物ないし魔術書について調べる必要がある」
「君には、これから、最後の魔術の解明のために、魔術書の研究に当たって欲しいのです」
「────はい」
「先立って調査へ向かった先遣隊は、これまでに幾度の時を経て門を通過しました。確立された通信回路から調査隊の情報を得ることは出来たのですが、彼等の帰還方法については未だ不透明であるのです」
「まあ、というのも、こちらからあちらへと至るには『時差』があり、辿り着く先の時系列は未確定かつ無作為的であるがために────向かう先が、今より前なのか後なのか、それが一日、百日……どれほどの差を持って到達することが出来るのか、根本的な理解には至っていない」
「────……」
「派遣を重ねることによって、世界から魔術を消した原因、その発生地点を調査するが、未だ先遣隊からの報告は……ありません」
「だが、私達は派遣を続けなればならない。全容を把握し、現世より現れた『災厄』を打ち止めなければ、未来はない。……彼等は皆、それを念頭に門を越えたのだ」
◇ ◆ ◇ ◆
元は、世界は分裂していた。広大な惑星に幾多にも分かたれた国家領域が存在し、互いの利権を掛けて分裂、衝突、合併などが行われ、それらによって引き起こされる流動的な情勢により、「世界」の形態は何度も変わり続けていたのだ。しかし。そんな世界の理は、あの日から全てが変わってしまった。
出土物が日の目を見たあの時。内部からの急性放熱により辺りは焦げ、周囲を吹き飛ばした結果。円柱形の物質を残して、周辺は窪地へと一変した。噴火口のように抉られた大地。その中心に存在する円柱形の外見。侵入禁止区域として封鎖された「α」から発見された存在。それは、言うなれば器であり、内部に格納された「魔術書」があちらとこちらを繋ぐ門としての役割を担っていた。
太古より残されていた最後の魔術。人の命を殺めた人間が、霧のごとく消え去ってしまう未知の現象。科学の発展した現世において。当現象は取り残された唯一の謎と言っても過言ではない。故に最後の魔術を解決するべく国家が……。世界が主体となり、躍起になっていたのだ。
過去において。発生し続けた現象についての詳細は判明しておらず、長らく放置されていたが、現代において研究は加速し、国家の垣根が存在しない「世界共通の謎」として全人類が解決へと日々、知力を駆使していた。世界がより近くに感じられるようになった頃。科学を共通として一つの連合体が組織されるようになる。
【世界共通調査機関────通称:魔術機関】
分かたれた世界を一つにまとめた「出土物」の存在。共通の謎に向かって調査を続ける機関は、今後の世界を揺るがす重大な事実を秘匿していた。
突如として消え去った魔術書。《魔術書の喪失》
その所在を探るべく、機関に所属する調査員が派遣されたのだ。
◇ ◆ ◇ ◆
「────移動に際して、所持可能物品は」
「多大なる影響を与え、改変の危険性が存在するために物品の持ち込みは最小にしなればならない。主には通信用機器、護身用の武器であるが、型番は小型水圧式にのみ限定される」