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これ、伝説の勇者の剣かもしれない  作者: 東野ゆうや
ー序章ー
2/2

第1話:「伝説の勇者の剣かもしれない」

第1話:「伝説の勇者の剣かもしれない」


人々は穏やかな暮らしをすごしていた。

魔王がいなくなってから、脅威というものが現れなかったからだ。

今や魔王や魔獣、そして勇者の存在は文献にしか残っていない。


かつては妥当魔王討伐のために一致団結するために大きな国々があった。

戦士や武闘家、鍛冶屋といった職業が人気で、時折大きな怒号が鳴り響き、魔王討伐とみられる部隊が行き来するのが日常だった。


しかし今はそんな職業の者などはほとんどいない。

大きな国々もいつしか解体され、今は中規模の自治体のみ。

かつて魔獣から民を守るために築かれた大きな壁や城は今はなく、太陽の光が心地いい。

人々は必要以上のものを採らず、自然との共存をして暮らしていた。


そして、とある小さな村からこの物語は始まる。


大きな街から少し離れたソーロウの村で過ごす16歳の少年イチモツは、この日一人で隣の山に芝刈りに来ていた。

山を切り開いて作られた畑では、精力のもととなる野菜マンゲキョウを栽培しており、大きな街に出荷するほどの人気だ。

村の主な収入源で、それ故に大事な仕事であるが、大人に付いてきてもらわなくても、イチモツは一人前の仕事をこなしていた。


イチモツには血の繋がった親兄弟はいない。

イチモツは赤ん坊の頃、村の入口に捨てられていた。

村の者に見つけられたイチモツは、その後村長オフホワイトの家に引き取られ、我が子のように大事に育てられた。

イチモツという名は「大きく健康に育ちますように」という願いを込めてオフホワイトに付けられた。

村の皆から愛されて育ったイチモツは、幼き頃から村のために働くしっかり者だった。


イチモツ「ふぅ、これでしばらくは大丈夫かな」


収穫期を終えた畑を次の季節のために耕し直す。

余計な雑草を取り除き、肥料が畑にのみ栄養がいくようにする。

ひと仕事終えて、イチモツは帰路につこうとした。

その時、


???「グルルルルルルル・・・」


どこからともなく、聴いたことのない生物の鳴き声が聴こえた。


イチモツ「なんだ?このあたりには大きな獣はいないはずだけど・・・」


???「グルルルルルルル・・・」


威嚇するような鳴き声は次第に大きく、しかもこちらに徐々に近づいてくる。


イチモツ「くっ・・・」


静寂が鳴き声を引き立て、より一層恐怖を駆り立てる。

あたりを警戒して後ずさりするイチモツ。


ズルッ!


イチモツ「しまった!」


急な斜面に脚を滑らせてしまった。


イチモツ「う、うわああああああああああああ」


イチモツは山を滑り落ちていってしまった。


???「・・・」


そして不気味な気配もその場を立ち去ったのであった。




イチモツ「・・・うぅ・・・」


イチモツは大きなケガをする事もなく、山の麓にいた。


イチモツ「しまったなぁ、全部落としちゃったか」


畑仕事をするために身に付けていた装備も、先ほどの転落時に落としてしまったらしい。

先ほどの謎の生き物の事も気になるし、身を守れる装備もない、とにかくここから離れなくては。

痛みはあるが、歩けないほどではない。


イチモツ「ここ・・・は、どこだ?」


あたりを見渡す・・・が、慣れ親しんだ村と山とはいえ、まだ16歳のイチモツは知らない場所だった。


・・・


イチモツ「川・・・」


川のせせらぎが聞こえる、村の近くを流れる川だ。

そっちに向かって歩けばなんとか村に帰れそうだと確信する。

イチモツは道なき道を進み始めた、すると・・・


イチモツ「・・・洞窟だ」


少し歩いたところで小さな洞窟を見つけた。

森の茂みの暗がりで分かりづらい事もあったのか、しばらく誰かに開拓された様子はないようだ。

立派に成長したイチモツでも、なんとかしゃがんで入れそうな感じだ。


イチモツ「ふふっ、お宝みたいなものがあったりして」


イチモツは洞窟の中に入ってみた。

狭いのは入り口だけで、中は大きな空洞になっている。


イチモツ「立てる・・・」


中に入ってしまえば、しゃがみ込まなくても立つ事ができた、思いのほか大きいのだ。

入口からわずかに差し込んでくる日の光で、洞窟そのものはそれほど深くない事がわかる。

隠れ家にするにはもってこいだろう。


イチモツは洞窟の中を端から端まで探索してみる。

人が居たような感じはしない。

しかし・・・足に何かがぶつかった。


イチモツ「なんだ?」


硬い棒状のものが地面に突き刺さっているようだ。

イチモツはそれを引き抜いてみることにした。」


イチモツ「うぅ・・・」


それほど深く埋まっているようには思えないが、

土と泥で滑りやすく、引き抜くのが難しい。


イチモツ「よいしょっ」


なんとか引き抜く事が出来た。

硬くて、そして重い・・・、だが暗くてよく見えない。


イチモツ「なんだろう?」


イチモツはそれを持って洞窟の外へ出た。


イチモツ「・・・剣・・・だよな?」


陽のもとにさらされたそれは剣といわれるものだった。

イチモツも文献でしか見たことがない。

魔獣がいなくなってからというもの、世界から武器という武器の生産は急激に減った。

今では刃のついたものなど、農業や一部の狩猟にしか使われない、それだけ世界は平和なのだ。


始めて見る剣というものに興味がわいてくる。

イチモツの身長の半分近くはある長さだろうか。


イチモツ「重いな」


16歳の腕力にはずしりと重い。

畑を耕すための鍬とはまた違った重みがある。

泥にまみれているが、特別な作りをしているような気がする。


イチモツ「そうだ」


痛みをかかえながら、イチモツはその剣を持って川の方に向かって歩き始めた。




見覚えのある景色・・・、村までは近いようだ。


バシャバシャ


目の前の川の水で先ほど拾った剣の泥を落としていく。

すると少しずつその姿が現れてきた。


イチモツ「へぇ・・・」


その剣は文献で読んだ事があるものとは異なる形状をしていた。

剣の柄の部分には金色に輝く宝玉が2つ取り付けられている、硬いのか、柔らかいのか、何で出来ているのか材質は分からない。

鞘を抜いてみると、刃はついているが切っ先が丸みをおびている、これで本当に切れるのだろうか。


イチモツ「不思議な形をしているな」


イチモツは初めて見る剣に俄然興味津々が湧いてくる。


イチモツ「えいっ!やぁっ!とぉっ!」


はじめて剣を振りかざしてみせるが、


イチモツ「うわっととと・・・」


剣の重さにむしろイチモツの身体の方が踊らされてしまっている。


イチモツ「イチモツの剣!・・・なんちゃって」


剣を太陽にかざして笑ってみせた。


パシャッ


その時、人の気配がした。


イチモツ「誰だ!?」


パシャッパシャッ


明らかに人だ、人の気配が近づいてくる。

警戒するイチモツ。


???「イチモツ?」


聞きなれた声だ。

岩影からその姿を現したのは・・・


イチモツ「なんだ、シコルか」


1つ年上の少女で、オフホワイトの一人娘だ。

同じ屋根の下で暮らす彼女はイチモツにとって友人であると共に姉のような存在でもある。


シコル「こんなところで何してるの?」


イチモツ「シコルは?」


シコル「私は川へ洗濯に。」


ズボンのや腕の裾をまくって、普段はおろしている髪も後ろで結っている。

完全に仕事のスタイルだ。


シコル「イチモツは今日は山へ芝刈りに行ったんじゃないの?」


だがイチモツの異変に気付く。

身体中に擦り傷や切り傷を見つけたのだ。


シコル「・・・どうしたの!?傷だらけじゃない」


イチモツ「実は・・・」


イチモツは山に行ってからのいきさつを話した。


シコル「これが剣なのね・・・」


シコルも剣を見るのはこれがはじめてだ。

興味深く、柄の方から切っ先の方へとまじまじと見つめる。


シコル「この2つの玉とか、おもしろい宝飾をしているわね」


素人目に見てもやはり変わった形状のようだ。

玉の部分を触ってみようとするが・・・


シコル「あ、洗濯物」


空がオレンジ色に染まってきていた事に気づき、洗濯物を置いてきてしまっていた事を思い出す。


シコル「もうすぐ日も暮れるし、そろそろ帰りましょ。」


イチモツ「うん」


シコルの後を追うイチモツ。


シコルの案内のおかげで、なんとか村へと続く道に戻る事が出来た。

ここまで来れれば大丈夫だ。


イチモツ「助かったぁ」


シコル「ふふふ。」


笑い合う2人。


シコル「帰ったらすぐに傷の手当てもしなきゃね。」


イチモツ「そうだね。」


そして帰路についても2人の話題はやはり剣の話になる。


イチモツ「あんなところに洞窟があるなんてね。」


シコル「私も知らなかった、

    でもそこに剣があったって事は、誰がが居たんだよね?」


イチモツ「誰かが住んでた感じはしなかったけど、そういう事になるよね。」


シコル「その剣を隠すためだったりとか?」


イチモツ「わからない・・・、これも何て読むんだろう?」


鞘の部分には何か文字が刻み込まれているが、知らない言語なので読む事が出来ない。


シコル「私にも分からない、古代文字かしら?」


イチモツ「俺も大きな街の本屋で古代文字に関する文献を見たことはあるけど、これは初めての種類だよ。」


シコル「不思議ね、村の近くにこんなものがあったなんて。

    もしかしたらこの村には、私達の知らない伝承がまだあるのかもしれないわね」


イチモツ「とりあえず、村のみんなに聞いてみようか。

     村長なら何か知ってるかもしれないしね」


シコル「そうね」




シコル「えっ・・・?」


その時、2人は異変に気付く。

オレンジ色の空に、村の方から黒煙が上がっているのだ。


シコル「何かあったのかしら?」


イチモツ「早く戻ろう!」


2人は村に向かって走り出した。




ドサッ


村の光景を目の当たりにしたシコルは抱えていた洗濯物を落とした。

そこには信じがたい光景が広がっていたからだ。


???「ガルルッルルルル!グシャッグシャッ」


村人A「たすけてーーーーっ」


見たことのない異系の姿のものが村人を襲っているのだ。

毛むくじゃらで人の倍ほどの大きさがあり、両手からは長い長い爪が伸びている。


???「ギャルルルル!」


村人A「ああああぁぁぁっ」


村人B「ぎゃーーー」


平和慣れした村人達はなすすべもなく殺やられていき、地面は血に染まっていた。

知った顔の者が何人も倒れている。

異形のものは次々と目の前の獲物へと襲いかかる。


イチモツ「あれ、本で読んだことがある!

     魔獣だ!たしか・・・魔獣チンカス!」


かつて魔王がいた時代にしかいなかった魔獣がどうしてこんなところに・・・。

魔獣は村人を捕食するでもなく、ただただ惨殺を繰り返していく。


シコル「・・・」


恐怖と混乱でシコルは言葉にならない。


オフホワイト「逃げろーーー!逃げるんだーーー!!」


村長のオフホワイトは村人達を避難させるべく、声を枯らして叫び続けていた。


イチモツ「くっ、なんとかしなきゃ・・・、でもどうしたら・・・」


イチモツは考えを巡らせ、あたりを見渡す、しかし何も見つからない。

とにかくシコルだけでも守らなければ。


イチモツ「シコル!しっかりしろ!動けるか!?」


シコル「ダメ・・・」


シコルは足がすくんでその場から動く事すらできない。


イチモツ「くそっ」


チンカス「グルルルルッ」


そして魔獣チンカスの視線が村長オフホワイトを捕らえた。


オフホワイト「ヒッ・・・」


魔獣チンカスがオフホワイトに襲いかかる。


イチモツ「くっ、うおおおおおおおおおっ!」


イチモツは育ての親であるオフホワイトへの危険を察知すると、思わず身体が動いた。

今日拾った剣の鞘を抜き、チンカスへと斬りかかる。


シコル「イチモツ!!」


ガキィーーーーン!


しかしイチモツの剣はチンカスの長い爪で受け止められる。


イチモツ「ぐうぅ・・・」


しかも斬れない、爪にはそれだけの硬さがあるという事か。

そしてチンカスはニタリと余裕の笑みを浮かべた。


イチモツ「なん・・・だと・・・。こいつ・・・」


どれだけ力を入れてもイチモツの剣はビクともしない。


チンカス「グアアアッ!」


そしてチンカスはイチモツの身体をそのまま薙ぎ払った。

イチモツのカラダは軽々と宙に浮き、シコルの目の前まで吹き飛ばされる。


イチモツ「ぐはぁ!」


シコル「イチモツ!」


たったの一撃で大ダメージだ。


イチモツ「ぐふっ・・・」


全身を打ちつけた衝撃のせいで、立ち上がる事が出来ない。


シコル「イチモツ!イチモツ!」


イチモツのもとに駆け寄るシコル。

顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


チンカス「グルルルルッ」


そこへ標的をイチモツへと変えたチンカスが迫る。

逃げる事のできない獲物にゆっくりと近づく。


オフホワイト「イチモツっ!逃げろーーーーー!」


イチモツ「ぐっ・・・」


絶体絶命、チンカスがその長い爪を振りかぶった。


シコル「神様・・・!」


シコルはイチモツをかばうように覆いかぶさった。

その時、シコルの手がイチモツの握っている剣の2つの金の玉に軽く擦れた。

するとその瞬間、剣が急に白く光り輝きだした。


シコル「え・・・?」


剣から発せられる強い光が村中を包み込む。


チンカス「ギャーーーーース!」


急にチンカスは苦しみ出した。

明らかにその光を浴びて苦しんでいる。


イチモツ「・・・今だ!」


イチモツは残された体力を振り絞って立ち上がり、光る剣を握りしめた。


イチモツ「うわあああああああ!」


イチモツは身体ごと突進していく。


シコル「イチモツーーー!」


イチモツ「あああああああっ!」


チンカス「っ!!」


ザシュッ!!


そしてイチモツの剣がチンカスの身体を貫いた。

そして白い光がチンカスの身体中から溢れ出す。


チンカス「ウギャーーーーーー!!」


断末魔の声を上げたチンカスはその場に崩れ去った。


イチモツ「ハァハァハァ・・・」


肩で息をするイチモツ。

限界を越えて勇気と体力を振り絞ったイチモツも、その場に膝から崩れ落ちた。

そして剣の輝きも徐々に小さくなり、そして消えた。


イチモツ「あの光はいったい・・・」


剣を見つめるイチモツ。

そこへオフホワイトとシコル、そして残された村人達が駆け寄ってくる。


チンカスの亡骸を前に息を飲む村人達。


オフホワイト「イチモツ、よくやってくれた。

       それにしてもその剣はいったい・・・?」


イチモツ「村長も知らないんですか?」


オフホワイト「うむ・・・。」


オフホワイトや村人の誰もその剣の事を知らなかった。


イチモツ「俺にもわかりません。これは今日洞窟で拾ったものなんです。

     それにしても急に光りだすなんて・・・、

     この剣には自ら発電する能力があるのか?」


オフホワイト「それにしてもまさか魔獣が現れるとは・・・。

       もしかすると魔王が復活したのかもしれぬ。」


イチモツ「あの・・・伝説の?」


オフホワイト「魔王バイアグラじゃ。

       かつて勇者イキリタツが討ち倒したという」


村人達がどよめき出す。


村人C「伝説じゃなかったのか?」


村人D「ということは、まさか魔獣を倒したその剣は!?」


イチモツ「これ、伝説の勇者の剣かもしれない!?」


オフホワイト「分からぬ・・・、だがまずは傷を癒そう。

       シコル、イチモツと家に帰ろう」


シコル「うん」


シコルはイチモツの身体を支えた。


シコル「イチモツ、大丈夫?」


イチモツ「あちこち痛いけど、なんとかね。」


シコル「よかった・・・。お父さんを助けてくれてありがとう」


イチモツ「大事な家族を守っただけだよ」


笑顔を振り絞るイチモツ。

一雫の涙を流すシコル。

イチモツはオフホワイトとシコルに抱えられながら、自宅へと帰っていった。

そして悪夢のような夜が明けた。




シコル「イチモツ、起きてる?」


イチモツ「あぁ」


イチモツはシコルの声で起こされた。

だが、身体中が痛くて思うように起き上がれない。

シコルが部屋に入ってくる。


シコル「大丈夫?立てそう?手伝おうか?」


イチモツ「大丈夫だ・・・」


なんとか立ち上がるイチモツ。


シコル「昨日の事、嘘だったらいいのに・・・。

    でも夢じゃないんだよね。」


イチモツ「・・・」


何人もの村人が犠牲になった、

返す言葉が見つからない。


シコル「お父さんが、呼んでる」


イチモツ「分かった」


イチモツは部屋を出た。

居間にはイチモツを呼んだオフホワイトと、数人の村人達が待っていた。

そしてオフホワイトの前の大きなテーブルにはあの剣があった。


オフホワイト「身体の方は大丈夫か?」


イチモツ「はい、なんとか。ところでどうしたのですか?」


オフホワイト「うむ・・・」


オフホワイトは表情を曇らせた。


オフホワイト「魔王を、魔獣を倒せるのは、もしかすると本当にその剣だけなのかもしれない。」


イチモツ「あの白い光の事ですね」


オフホワイト「うむ、だが我々にはこれ以上の知見がないのだ。」


村人D「あの後、その剣を私達も触ってみたのですが、何も起きなかったのです。」


村人E「剣が光るなんて見たことも聞いた事もない。」


イチモツもそうだ、しかし・・・


オフホワイト「今のところそれを扱えるのはイチモツ、お前一人だけだという事になる。」


イチモツ「そんな・・・、俺も無我夢中で・・・、どうして光り出したのかわからないんです。」


剣を見つめるイチモツ。


オフホワイト「そうか・・・」


イチモツ「どうすればよいのでしょうか?」


オフホワイト「まずは情報を集める事が重要じゃ。

       勇者の伝説を語り継ぐ賢者シルダンユーを探す必要がある」


ざわつく村人達。


イチモツ「賢者シルダンユー?」


オフホワイト「勇者イキリタツの事を知る唯一の人物なのだそうだ。

       だが生きているのか、どこにいるのかはわしにも分からん。」


村人F「そんな・・・、生きているか死んでいるかも分からない人物を探し出すなんて・・・」


雲をも掴むような話だ。

村人達の表情も暗い。


イチモツ「わかりました。俺が・・・いきます!」


戦士の瞳になったイチモツが立ち上がった。


村人達「おお・・・」


オフホワイト「おぉ、行ってくれるか」


シコル「イチモツ、そんな・・・あなたが行かなくても・・・」


心配そうにイチモツを見つめるシコル。


イチモツ「このままじゃ、またあの悪夢が起きてしまう。

     誰かがやらなくちゃいけないんだよ」


その時、ある村人が切り出した。


村人G「でも・・・、またあんなヤツに襲われたらどうしたらいいんだ・・・」


村人H「そうだ、イチモツがいなくなったら、その剣がなくなったら、誰がこの村を守るんだ!」


村人達「・・・」


イチモツが村を離れる事に異を唱える者が現れ出した。


オフホワイト「皆、鎮まれ」


オフホワイトがざわつく村人達を鎮める。


オフホワイト「イチモツ、昨日の魔獣については知っているな?」


イチモツ「はい。文献で読んだだけですが、魔獣の中でも最も弱い部類に入る方です。」


シコル「そんな・・・」


村人H「あれで一番弱いだなんて・・・。じゃあもっと強いヤツが襲ってきたらどうするんだ・・・」


絶望に表情を曇らせる村人達。


オフホワイト「だからじゃよ。

       魔王が完全に復活して、魔獣の大群に襲われれば、この村なんぞ一貫のおしまいじゃ。

       しかしまだ完全に復活していなければ、きっとそこに望みはある。」


イチモツ「はい!」


決意を固めるイチモツ。


村人G・H「・・・」


異を唱えていた者も黙ってしまった。


オフホワイト「すまぬな、村の事はまかせなさい。

       まずは隣街マスタベーションに向かい、旅の身支度を整えるのじゃ。

       そして賢者シルダンユーを探し出し、その知恵を借りて魔王を倒すのだ」


イチモツ「わかりました。俺からも1ついいでしょうか?」


イチモツが切り出した。


オフホワイト「どうした?」


イチモツ「他に強くなる方法はないのでしょうか?

     この剣を使いこなせるわけではないですし、いつ賢者シルダンユーに会えるか分かりません。

     それまでに奴らにやられるわけにはいかないんです、俺自身が強くならなきゃ!」


オフホワイト「なるほど、ならばマスタベーションからそう遠くない、テングノハナ村のシャクハチという男を訪ねなさい。」


イチモツ「!!

     聞いた事があります。

     今の世にも剣術を教えている方がいらっしゃるとか、しかもかなりの腕前だと。」


オフホワイト「うむ。

       性格に多少難ありの老剣士だが、きっとお前の力になってくれるはずだ。

       彼から多くの事を学びなさい。」


イチモツ「はい。」


オフホワイト「テングノハナ村には私から先に書状を送っておく。

       マスタベーションで旅の準備が出来たら行ってみなさい。


イチモツ「ありがとうございます。」


そうしてイチモツは軽く身支度を済ませた。


オフホワイト「あまり多くはないが、持っていきなさい」


それはオフホワイトがイチモツの為に村中からかき集めてくれた旅の資金だった。


オフホワイト「そしてこれを・・・」


オフホワイトはイチモツに1枚の紙を渡した。


イチモツ「これは?」


オフホワイト「それはお前が捨てられていた時、一緒に籠の中に入っていた一通の手紙じゃよ」


イチモツ「!!」


手紙には短くこう書かれていた。


「この子をどうかよろしくお願いします。 テンガ イロハ」


イチモツ「テンガ・・・イロハ・・・」


オフホワイト「おそらく、それがお前の本当の両親の名前だろう」


シコル「イチモツのお父さんとお母さん・・・」


オフホワイト「魔王を倒して平和を取り戻したら、探してみなさい」


イチモツ「はい!」


イチモツは手紙を大事にしまった。


シコル「ごめんなさい、私何もできなくて・・・」


イチモツ「大丈夫、俺は帰ってくるよ。ここが俺の家だからね。

     それに、俺の家族はやっぱりここまで育ててくれたみんなだよ。」


シコル「イチモツ・・・、本当は行って欲しくない。

    でも・・・、頑張ってね」


イチモツ「あぁ、行くよ!」


イチモツは伝説の勇者のものかもしれない剣を握り締め、家を出た。


オフホワイト「イチモツが最後の希望となるか・・・」


シコル「神様、どうかイチモツをお守りください・・・」


あの日、捨てられていた子をここまで育ててきたのは、今日この日を迎えるためだったのではないかと運命を感じるオフホワイト。

大きく、たくましく成長したイチモツの背中を、娘のシコルとともに送り出すのだった。



イチモツ「魔王は・・・俺が倒す!」


イチモツは決意を新たに魔王バイアグラを倒す手掛かりを知るかもしれない賢者シルダンユーをもとめ、

ソーロウの村を後にして、隣街マスタベーションに向かって歩き出した。

これから大きな困難がいくつも待ち受けているであろう、彼の旅路はこうして始まったのであった。


・・・そして・・・


???「フッ・・・、そうか、あの剣が・・・」


怪しげな視線がイチモツの後を追うのだった。



ー次回予告ー

マスタベーションの街にたどり着いたイチモツは、

宿を探す途中、おかしな兄妹のケンカに巻き込まれ、しぶしぶ同行する事になってしまう。

一体彼らは何者なのか?

次回:「受けか?攻めか?最強の兄妹ギシギシとアンアン」お楽しみに

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