姫君奪還戦編 2『もう一人の悪魔』
テスト期間や、スマホ故障によるメモ帳の内容破棄等のアクシデントがありまして……
投稿までに二ヶ月も空いてしまいました……
すみません(´・_・`)
やる気ですねw
とりあえず徹夜で書きました。
誤字が多いかもしれせんが、指摘してください。
それでは新章第二話になります!!
ごゆるりと!!
「ここがあいつらの本拠地なのか……?」
窓ガラスや玄関、入口。
至るところに血痕があり、地面には、引こづられたのだろうか、血痕が線を引いている。
引こづられた者が生きていたのか、死んでいたのか。
考えたくも無い。
そんな生々しい光景を目の当たりにし、白虎は背中に冷たい何かが走るのを感じた。
「間違いないな。ここだ」
恭夜が、そう言うと、続けて話す。
「いいか、お前ら。能力の使用は許可する。とにかく生きて帰ってこい。俺からは以上だ。
A班、B班は正面から。C班、D班はそれぞれ左右に散開して待機。俺、白虎、イリーナは真上から突入する。C班、D班の突入指示は、泉がする。いいな?」
その会話をぼけーっと聞いていた白虎はまだ不安を隠せないまま居た。
少し時を遡る。
数時間前
作戦会議を終えた白虎、イリーナは極秘で恭夜に呼ばれていた。
内容は
極秘の作戦内容。
恭夜は、姫の命は後回し。と伝えていた。
だがその裏には部下達では到底敵わない敵が潜んでいる。という事なのだ。
それもそうだ。
あの時、死にかけの白虎を助け、イリーナを保護した。
この理由は戦力補強ということで納得がいく。
だが莉佳は?
彼女はただの一般人であり、酷い言い方をしてしまえば、彼女はお荷物なのだ。
それも、必要の無い。
だがそんな彼女の保護も引き受けたような彼が、お姫様1人助けません。と言うわけがない。
部下達では姫より自分たちの命を優先してほしい。
そして恭夜にとっては自分の命より姫の命。
という事なのだ。
さて本題に入ろう。
彼の実力がわからないのは確かだが、団長という事は、それ相応の実力を持っていないといけない。
だが、実力は無くとも団長にもなれるであろう。
だが白虎には恭夜がかなりの実力者と断言出来る絶対的な理由があった。
それは白虎が目を覚ました時。恭夜が見せたあの動き。
白虎がいくら、病み上がりの、寝起きとは言え、あれは確かな実力を持つものだけができる動きなのだ。
その彼が白虎と、イリーナに手助けを求めるという事は──────
考えたくはないが、そういう事だ。
悪魔、もしくは適正者に悪魔の血を混ぜた、グレイルの様な特殊な存在。
もしくは白虎のような半人間。
そして最後に考えられるのは〝イリーナと同じような力〟を持った存在。
もし、後者の予想が的中したのなら。
考えるだけで恐ろしいものだ。
だが白虎も断るわけにはいかなかった。
遠目から見ただけでもわかった。
姫様を連れ去った連中は、姫様を人質として使うだけではない。
〝彼女の身体〟で楽しむつもりだ。
それをわかりきっていて、「はい。自分の身が大事なので行きません」等と言えるわけがない。
「あ、あの……」
突如聞こえた少女の声が白虎の意識を現実に引きずり戻した。
声の主は莉佳だ。
「皆さん頑張ってください!」
そう言うとイリーナと白虎に「頑張って!」と目配せをする。
イリーナは静かに頷くが、白虎は軽く手を挙げただけで、しっかりと正確な返事はしなかった。
いや、出来なかった。
先程の考えだ。
もしイリーナの様な敵だったらまず、少なくとも白虎は死ぬだろう。
一番戦闘経験が低いからだ。
いくら白虎に憑いている千火が優秀であっても、彼には経験が圧倒的に足りていない。
この場合の莉佳の頑張ってとは
頑張って=生きて帰ってきて。ということだろう。
それを「わかった!生きて帰ってくる!」とはとても言えない。
そう答えてしまった場合、もし死んだ時裏切ることになるからだ。
確かにこの方が不安感や心配を煽るであろう。
だが、今はこれが精一杯白虎に出来る彼女への返答であった。
「気をつけろ。内通で他の敵対組織と、連絡を取っているかもしれない。能力の使用は極力抑えるように」
恭夜はそういうと「突っ込めぇぇぇ!!!!」と叫んだ。
それと同時に兵士達が怒号の咆哮を上げ、敵の本拠地へと突っ込む。
「俺らも行くぞ」
恭夜が地を蹴り、屋根を目指す。
軽く地から屋根まで40メートルはある。
立派な豪邸だ。
白虎が地を蹴ると同時に、兵士達の咆哮が再び響く。
戦闘が始まったのだろう。
いくつもの金属音と爆発音、銃声が聞こえてくる。
この戦いに自分の命が、そして自分のミスでここにいる2人も死ぬかもしれない。そんな責任感に押し潰されそうになりながらも、目的地へと彼は向かった。
一方下では
泉こと、赤宮 泉は部下達に無線による合図を送っていた。
『あと10秒で突撃します。準備を』
左担当の泉が無線で樹に告げる。
『りょーかい。D班準備できたよ』
『3、2、1……突撃してください!!!』
直後、応戦している敵軍からは予想にもしていなかった、鋼の如き鉄槌が、豪邸の側壁を突き破り敵軍を一気になぎ払った。
「ん…………」
連れ去られた一人の少女。
所謂この国の王女が目を覚ました。
「っ!ここは……!?」
手首から鉄錠を掛けられ、鎖で吊るされ、足も拘束されており、身動きが取れないことを察し
た少女は恐怖と不安、憤りに満ちた声を漏らすと、周りを見渡す。
「やっと起きましたか?」
全身に鳥肌が立った。
耳元で囁かれたのだ。
そしてその場で少女の髪の毛の香りを鼻に染み込ませるかのように、大きく息を吸う。
「ふふっいい香りだ」
そう言いながら少女の目の前へと移動する。
「っ!今ならまだ許せます。今すぐ拘束を解きなさい!!」
涙が今にもこぼれ落ちそうな瞳で、男をキッと睨みつける。
「いいと思いませんか?嫌がる少女を無理矢理犯す!!!これ程心地よいことはありません!」
両手を大きく広げ男が言う。
狂ってる……
そう思ったが、思ったところで、だ。
助かる訳では無い。
何とかして説得しなければ。
「あなたの目的は……私の身体ですか?」
「もちろんですとも……」
そう言いながら彼女へ一歩また一歩と近づく。
「では……まずその初々しい唇から犯して差し上げましょう」
そう言って少女の顎を指で固定すると、男は唇を重ねる。
「や……やめっ……やめて……やめなさっ……〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」
声にもならない悲鳴が部屋全体に響き渡る。
歯を食いしばる少女の顎を無理矢理広げ、舌を口内へと侵入させた。
「ッ!」
ピチャピチャと粘液が絡む音が、少女の耳に入り込む。
涙を零しながら、少女は男の舌を持てる力を振り絞って噛み付いた。
「グッ!?いだぁぁぁぁあ!?」
男は口を離すと、舌から出血する血を手で抑えながら、後ろへと後退する。
そして少女は、自身に侵入した男の不快な唾液、糸を引いた唾液、舌に噛み付いた時に出血したのであろう血液を全て地に吐き捨てる。
男を睨みつけようと顔をあげた。
だが。
ガッ!!っと突如少女の頭を男が持っていた拳銃で殴りつけた。
「いッ!!」
頭から熱いものが垂れてくる。
それが何か。
まともな怪我をしたことすらない、王女でもわかった。
血液だ。
今の打撃で頭部が切れたのだ。
初めての痛み、恐怖が彼女を襲う。
「本来、こういった趣味は無いのですが。あなたは私を怒らせた!!」
そう言って男は上着のポケットから注射器を取り出し、舌に突き刺した。
途端に傷は修復し、さらに顔色まで良くなっていた。
間違いないだろう。薬物だ。
人間世界と同じ。と言うと少し偽りになるが、この世界にも薬物乱用という言葉がある。
それは悪魔の魔力による薬物。
人間界の薬物とは天と地ほども差がある物だ。
「あなたと……いう人は……どこまで罪を……」
そう言う少女の腹部を男は膝で蹴りあげる。
「がふっ!?」と逆流した血液を口から吐き出す。
異常な痛みに涙が止まらなくなる。
「どうです?痛いですか?先程までの威勢は……どこいったんだよォ!?」
更に男は頬、横腹、腹、腕、足、首と暴力を振るい続ける。
「かはっ!た……すけて……」
もう抵抗するどころか、声も、いや、恐怖のあまり涙まで流れなくなっていた。
「少しやりすぎましたかね?」
「あ……うぅっ……」
かなりのダメージを受けたのか声に力さえ残っていない。
「ちっ……このままヤっちまったら死んでしまいますか……惜しいことをした」
男はそう言って踵を返す。
直後、轟音を立てて、天井から2人の男女が降りてきた。
イリーナ、恭夜だ。
「くっ……」
男は後ろに下がり、少女を人質にしようと、少女に右腕を伸ばすが────
その右腕が少女に届くことはなく、右腕は男の真上を鮮血を散らしながら舞った。
「い……痛いぃぃぃイィィ!?!?!?」
腕を飛ばされた男は、痛みに耐えれず絶叫する。
「ッ!あんた……本当にいい趣味してるよ……!!!!」
腕を飛ばした少年。白虎は、全身アザだらけで、鎖に繋がれ、衣服を剥がされた下着姿となっている少女を見て、男を睨みつけた。
男目掛けて、刀を振り上げる。
「白虎、殺すな」
恭夜が言う。
「殺さねぇよ」
白虎は男に鼻スレスレまで刀を振り下ろし、そのまま軌道を変え、少女を戒める鎖を切断する。
チャリン……と静かな音を立て、切断された鎖が床に落ちた。
支えがなくなり、崩れ落ちる少女を白虎が抱えると「う……」と少女が口を開く。
「大丈夫か……じゃなくて大丈夫ですか!?」
白虎がお姫様ということを懸念して、敬語で話しかける。
だが痛みが酷いのか喋ろうと口を開くが、すぐに顔を顰め、再び気を失ってしまう。
「イリーナこの人頼む」
イリーナに少女を渡す。
「でも……大丈夫、ですか?」
イリーナが心配そうに恭夜と白虎を見つめる。
「なにが?」
恭夜がイリーナに言う。
「いや……その、敵の屋敷なので、不利じゃ……」
「いいや、寧ろ俺らよりお前の方が、確実に姫をグレイル本部に連れていける。だから頼む」
恭夜が言う。
イリーナが不安そうに白虎に目を移すが、白虎も「同じだ」と言うように頷く。
「わかりました。気をつけて!!」
そう言って壁を破壊すると、イリーナはグレイル本部へ少女を連れていくために、床を蹴った。
「あいつ……結構ガサツだな……」
白虎が言う。
「さて……そろそろ出てきてもいいんじゃねぇか?わざわざ、お前の苦手な相手を帰してやったんだからさ」
恭夜が柱に向かって声をかける。
「ほう?」
すると、柱から一人の男がゆっくりと姿を現した。
「お前は……!あの時の!」
そう。白虎を爆殺した男だ。
「君は能力者だったのか。完全に殺したと思っていたのだが?」
少し不快な、まるで、自分の食事のおかずにハエが止まった時のような表情で白虎を見る。
「白虎、同時に行くぞ」
恭夜が刀を抜く。
「……わかった」
白虎が右腕を正面に突き出す。
そこから禍々しい赤黒い煙が立ち込み、千火が刀身となって具現化する。
「思っていたより、禍々しいなそれ」
恭夜が歪な形状の刀を見つめ言った。
「素晴らしい威圧感。それが〝君の能力〟かな?」
男が言う。そしてそのまま話を続け男が自己紹介を始める。
「自己紹介だ。私は松永。この魔界に来てからはアルケミヒトと名乗っているがね」
「名前を言う必要はねぇよ」
口を開こうとしていた、白虎に恭夜が言う。
「冷たいものだな……では……」
松永と名乗った男は、ポケットから錠剤の様なものを取り出し、口に含む。
口に含んだ瞬間、男の左腕には青の焔、右腕には赤の焔が発現する。
「始めようか!!!!!!!」
地を蹴り、松永が最初に狙ったのは、白虎でもなく、恭夜でもなく、白虎が右腕を飛ばした男だった。
「クソ……!」
助けようと動く白虎の腕を恭夜が掴む。
「助けるな!敵だ」
「ッ!」
歯を食いしばってその光景を眺める。
「これだよ。これ。これが欲しかったのだ」
男を殺した松永が手に取っているのは一つの注射器だった。
死んだ男の服を探り、更に7本の注射器を取り出す。
合計8本。松永はその全てを腹部に突き刺した。
「お前……なにを……!?」
白虎が警戒し刀を構える。
「白虎気を抜くなよ……」
恭夜も刀を構え白虎に忠告する。
「フン!!!」
かけ声と共に、松永は床を蹴り、10m以上はある距離を一気に詰める。
その時間0.5秒未満。
「遅ぇ!!」
白虎は松永の右腕の攻撃を避わすと、そのまま首目掛けて刀を振り下ろす。
だが、彼は避けない。
そして、青く輝く左腕をゆっくりと、持ち上げ、刀を受け止める。
白虎の刀が松永の青く輝く焔に触れた瞬間、右腕の焔の激しさが増す。
(コイツの能力は吸収!?)
白虎が左腕から刀を離し、距離をとる。
だが。
「甘いぞ小僧!!」
右腕の焔を白虎目掛けて放つ。
遠距離攻撃。
右腕に宿っていた炎を投げ飛ばしてきたのだ。
「ッ!?」
慌てて刀で防御体勢に入る。
白虎は軽々と吹き飛ばされ、轟音と共に、激しく建物が揺れた。
天井からパラパラとコンクリートの破片が落ちていく。
白虎は、右腕の袖に所々燃え移った炎を腕を振るって振り払う。
「クソ……痛てぇ」
(そこまでダメージは大きくないよ。やっぱり悪魔と比べると、比較的破壊力は低いみたい)
周囲をもくもくと、土煙が覆う。
そして土煙を払い、松永が突っ込んでくる。
「何度も何度も!同じ手が通用すると思うなよ!」
白虎がカートリッジを装着する。
速度重視のカートリッジ。
攻撃を間一髪回避し、距離をとろうとする白虎。
だが、まだ近い。
松永は白虎の左腕を掴み取り、燃え盛る右腕を叩きつけようと拳を振り上げる。
「しまっ!?」
白虎の背中に冷たいものが走り、激痛を覚悟した直後、松永の背中から血液が吹き出す。
背中が裂けたのだ。
「!?」
何かを警戒し、後ろへ後退する。
「人を忘れない方がいいぜ。2体1ってことをな」
恭夜がいうと、刀を高く振り上げた。
先程まで松永の居た床から、振りあげた刀に呼応するように、1本3mは容易にあるであろう針が、無数に飛び出していた。
その場から退避していなければ、今頃彼の身体は串刺しだっただろう。
「ふむ」
一瞬にして松永の背中の傷が再生する。
「まだ君達の能力がわからない以上、突っ込み我武者羅に戦うのは、得策ではない。か」
そう言って彼が取り出したのは一つの球状の器具。
それを部屋の中央に投げつけた直後、閃光が辺りを包み込む。
「また、その手か!」
白虎は一度この手で負けている。
故にすぐさま目を瞑り、千火のサポートで聴覚を一時的に無くし、耳をやられるのを防ぐ。
そして、閉じた瞼で光が無くなるのを確認すると、目を開けた。
直後。
白虎は腹部に強烈な痛みを感じ、苦悶の声を上げる。
「がっ!?」
歪む視線の中、強烈な痛みの走る腹部に視線を落とす。
そこには赤く燃え盛る腕が腹部にめり込んでいた。
松永の右腕だ。
「な、んで……そん、なに速くなってんだよ!!!」
刀を我武者羅に振り回し、距離を取る。
腹部が痛む。熱い。視界が歪む。
一番辛いことは今までの戦闘では、確実に〝死んでいた〟という事だ。
死んでしまえば、意識は一瞬で途切れ、勿論痛みも消える。
正確には脳が痛みを拒絶するのだ。
だが、今回はそれに満たない一撃だった。
これが、悪魔とは違い、〝非力な人間の力〟なのだろう。
そして白虎は、歪む視界が徐々に戻っていき、気が付く。
今、白虎と、松永の立っている場所は、先程の豪邸ではないと言うこと。
洞窟だろうか?周囲は凍った岩で覆われており、天井には、異質な程に尖った氷柱が、地に向いている。
更に、地面が物凄く滑る。
まるで、凍りついた地の上にいるような。
だが、地面は足に力を込めるとしっかりと、ジャリ。と音を立てる。
凍ってはいない。
何故滑るのか。相手の能力だろうか?
疑問はまだある。
恭夜が周囲に居ないと言うことだ。
そして、間違いなく今自身の居る場所は、相手に有利な場所ということ。
(千火、ここは?)
(あの男の結界みたい)
(あいつ、能力は無いはずじゃ……!)
(うん。〝悪魔みたいな身体能力〟が無いだけみたい)
(どういう事だ?)
(悪魔の匂いは全くしないから……別の何か)
(人間が能力を発現……)
白虎は今まで起きたことを頭に浮かべる。
「あの……錠剤か!!」
そう。彼が両腕に焔を宿したのも、錠剤を口に含んでからだ。
もし、あの錠剤を飲めば飲むほど、能力を付与出来るのならば。
想像出来ないほどの力を手に入れることが出来る。
だが人間が、異能を手にするなど身体への負担は決して軽いものではない。
そのための先程の注射なのだろう。
「クソ……!完全にやられた!」
「おい!白虎!!!松永ァ!!」
恭夜は二人を探していた。
「この豪邸には居ないのか!」
………………
返事はない。
探さなければ。
だがその前に。
松永が万が一、部下達の元へ向かったのなら。
恭夜は壊れつつある階段を風の如く、駆け下りた。
ガィン!と大きな金属音を立てて、赤く燃える焔の拳を、千火こと白虎の刀が受け止める。
「ッ!!」
反動で白虎の身体が後方へ押された。
本来ならこの程度、悪魔との戦闘で慣れているのだが。
地面が、滑る。
反動で後ろへ下がった際、多少バランスを崩した白虎の隙を逃さず、松永はショットガンを背中から取り出すと、白虎の右太股目掛けて放つ。
轟音を立てて放たれた銃弾は、白虎の太股を捉えた。
太股の肉を容易に破り、骨を砕き、尚威力の弱まらない弾丸は白虎の右足を軽々と吹き飛ばした。
吹き飛ばされた足は地を滑りながら、何度も転がり、血液を撒き散らし、地を汚しながら、暗闇へと消えていく。
「がっ!?ぁあぁああアアアアッッ!!!!」
「どうかね?ショットガン『レミントンM870』の威力は。狩猟用や戦闘用として使用されていて、日本でも導入されているのだよ?ちなみに銃弾は『スラッグ弾』を採用しているのだが……」
スラッグ弾は散弾専用の弾丸ではあるが、散弾のように周囲に広がる弾丸ではなく、破壊力を追求した、単発近距離〜中距離弾丸である。
熊等を狩猟する時に使用する弾丸で、破壊力は、人間の腕や足等軽々と吹き飛ばしてしまうほどの威力を用いている。
はぁ……!はぁ……!と息を荒くしながら、白虎が言う。
「スラッグ弾って、おい……それ俺の腹に撃てば殺せてんだろ……『M870』なんて狩猟銃使いやがって……更にプラスアルファ狩猟弾……〝 人間の狩り〟でもしてるつもりか?」
人間をなんだと思っているんだ。と言わんばかりの目付きで、松永を睨む。
白虎はFPSゲームに一時期没頭していた為、銃種には、それなりの知識があった。
「おお?詳しいな。察しが良くて助かるよ」
白虎はショック死でも、残り魔力を無視して死亡する。
白虎にとっては一番やりにくい相手だ。
そして何より厄介なのは、M870のスラッグ弾を片手で撃つことができる。ということだ。
常人には無理だろう。
だが松永は左腕が全ての衝撃、つまりダメージを全て右腕に吸収してしまうという能力だ。
好き勝手片手でショットガンを撃っても本人には全くの害がない。
本来なら肩が脱臼し、手首も壊れてもおかしくはない。
だが、その分の衝撃が全て右腕に吸収され、力になったのなら恐ろしい連携だ。
(厄介だね)
(ああ……早めに殺してくれねぇとこっちも厳しいんだが……そろそろ痛みで気が狂いそうだ)
……突っ込むか。
ドクドクと断面され、僅かに残った太股から血液が流れ出る中、打開策を考える。
だが、起き上がることは出来ない。
それに起き上がろうとしたところで、動かした残り三肢の内、どれか一つを撃ち抜かれて終わりだろう。
ならばやることは一つ。
ショットガンの破壊。
彼が甚振るタイプなのならば、白虎が狙うことは3つ。
怒らせて殺させるか、出血多量か、撤退させてから自害する。
このまま玩具にされては、死ぬのは確実にこちらだ。
白虎は千火に空間攻撃のカートリッジを装着し、左手で起き上がろうとする。
「う、おおおぉぉおおおおぉ!!!」
左手で起き上がろうとした白虎の左腕をショットガンで松永は撃ち抜いた。
再び銃身が、轟音をあげ、白虎の左腕を吹き飛ばした。
衝撃に耐えきれず、グチャグチャになった左腕は数メートル先の凍った岩に叩きつけられ、停止する。
「ぐあっ!?」
(覚悟してても痛いもんだな……)
(当たり前でしょ)
だが、案外あっさりと策にハマってくれた。
これで白虎は出血死を狙うと共に、ショットガンを破壊できる。
残された右腕を素早く振るう。
直後ショットガンが真っ二つに切断される。
「なに!?」
松永は、怒りと驚きが混ざったような声を上げ、白虎の右手の拳を、右腕で砕く。
「ッ!?」
痛みに顔を顰める。
「素晴らしい!素晴らしいよ!君は!!!」
そしてもう1度拳を振り上げたその時。
「なぁ……もう少し〝 上〟に気を配った方がいいぞ?」
天井に張りついていた氷柱が、松永目掛けて落ちてくる。
「チッ!!」
後方に下がろうとする松永の足を砕かれた右腕を引っ掛け、妨害する。
「逃がさねぇ!!!」
「ッ!!クソ……ガキがぁぁぁぁぁああ!!!!」
足を引っ掛けられた事で、バランスを失った松永の足は、落ちてくる氷柱の真下にある。
「はは……本性出たじゃねぇか。どうだ?初めに腹撃ち抜いときゃこんな事になってねぇんだぜ?」
鈍い音を立てて、松永の膝から氷柱が突き刺さる。
松永の足より遥かに太かった氷柱は松永の足を潰し、そのまま氷柱の先端が突き刺さり、切断された。
「ぐあああああぁあああ!?」
「はは……お返しだ。今どんな気ぶ────」
松永が白虎の胸板を殴りつける。
バキバキバキ!という痛々しい音を立て、白虎の動きが止まる。
「糞ガキが……!だがな、足は治るのだよ、悪かったな」
松永は錠剤を口に含む。
途端に足はトカゲの尻尾のように新しく生え、何事も無かったかのように再生する。
だが。
「がふっ!?」
逆流した血液を右手で口を覆い、受け止める。
人間が、これ程の力を用いるのであれば当然負担は大きい。
「少し……休まねばな」
そう言って、白虎に背中を向けた瞬間。
左腕に痛みが走る。
左腕を切断されたのだ。
「な、何故だ!?」
「そうだよな……普通、最初に殺しておけば〜なんて言ったら俺が〝 不死〟っていう能力を持った適正者なんて思わないよな?」
「貴様……!」
今度は怒りに満ちた声で、白虎に怒声を上げる松永。
「甘い考えだな……そんなんじゃ狩りなんて出来ねぇよ。俺の〝 適正者としての能力は5回までは死を無効化できる能力〟そして〝 悪魔としての能力は剣を生成し、生成した剣から斬撃を放つ〟能力だ!!」
「……糞ガキが」
錠剤を飲み、左腕を再生させる。
再び、左腕に蒼い焔が宿り、戦闘態勢に入る。
先程、左腕を飛ばせたということは、焔さえ、出ていなければ攻撃できる。
もしくは、敵が能力を発現させていない場合のみ有効。これは当然といえば当然か。
常時発現させられる能力ではないようだ。
これが悪魔だったなら相当厳しかっただろう。
「五回といったな。だが、それ以上死ねるんだろう?一度騙した人間の言う事を私が聞くと思うかね?」
松永が問う。
「いや、思わないね。だったらどうする?」
「逃げさせて頂こう」
「それをさせるとでも?」
「逃がしてくれるとは思っていないさ。だが、〝 逃げると逃がす〟は違うだろう?」
「何を言うかと思えば、屁理屈だな」
そう言って白虎は千火を再び出現させる。
先程、刀を発言させる能力と言った以上、彼が刀を吹き飛ばす様なことはしない。
そして千火を持っている限り、白虎はいくらでも能力が使える。
「屁理屈も理屈の仲間だろう?」
攻撃態勢に入る松永。
「……そうかもな」
白虎が刀を構える。
「死ねガキィ!!」
燃え盛る右腕を洞窟の側面へと叩きつける。
「遅いって、何回言わせるんだよ」
空間攻撃で、全ての氷柱を切り裂く。
だが、切り裂き終わった時には、松永は次の手段に動いていた。
「私は一つや二つの道具だけではなくてね」
そう言って松永は小麦粉をばら撒く。
「粉塵爆発か?そんな手に引っ掛かる訳がないだろ」
「そんなこと考えていないさ。君程の頭があればね。そんな事で突破できるとは思っていないさ」
再び錠剤を飲み込み、右腕の焔が、今度は水を纏う。
その水を白虎に向かって噴出した。
焔同様、左腕で吸収された分威力が増している。
量もだろうか。
白虎はその水流を、刀を地に刺すことでバランスをとり、次々と回避していく。
「そろそろかな?」
松永はスタンガンを取り出すと水たまりに向かって投げ飛ばす。
そして氷柱を落とす際に空けた穴に即座に飛び込む。
「そういう事か!!」
白虎はすぐに地を蹴るが、電気の流れという物は速く、電撃は足に直撃する。
「がっ!?」
痺れて、コントロール出来なくなった身体は、地に再び堕ちる。
転げ落ちた際の飛び上がった水が、僅かに口の中に入りこみ気がつく。
そして全身に込み上げる痛みと、焦げ臭い臭い、動かなくなる手足。
(さっきのは粉塵爆発に見せかけた小麦粉と塩を混ぜたフェイク!?)
「どうかね?水の量はかなり多いからな、すぐに感電死することはないと思うが……0.1Aで人間は死んでしまうのでな。人間は電圧ではなく、電流で死ぬって知っていたかね?
身体くらいは痺れるんじゃあないかな?だが、いずれ死んでしまうだろう。君が気がついた時には、私がどこに居るかは知らないけれどね」
どこからともなく聞こえてくるその声を、遠のく意識で聞き続ける。
(クソ……)
(二連敗だね)
(はは……そうだな)
プツンと白虎の意識が途切れた。
「大瀬 白虎からは逃げきれましたよ。思いの外手強かったですね」
洞窟から脱出した松永は、何者かと通話をしていた。
「わかりました。次回からは気をつけますよ。〝 岸田〟さん」
そう言って通話を終えると松永は、ため息を付くと、洞窟をもう一度振り返り、白虎が追いかけてきていない事を確認すると、颯爽とその場から去って行った。
「恭夜さん!白虎くんは?」
恭夜が部下達の安否を確認し終わった丁度のタイミングで、イリーナが作戦決行場であった豪邸に、戻ってきた。
「悪い……敵とどっかに行っちまった……」
「っ!す、すぐ戻りますから!先に帰って皆さんを治療しててあげてください!!」
そう言って、黒龍を具現化させたイリーナは、黒龍の背中に跨り、「行って!ヒュドラ!!」と呼びかける。
黒龍は高々に咆哮すると、縮めていた翼を広げ、荒々しく、だがしかし何処か神々しく、美しく。
黒龍は豪邸の扉さえ吹き飛ばし、空を舞った。
その黒龍を見た恭夜は言った。
あの黒龍は災厄そのものだ────
「ぐぁぁあああ!?」
イリーナ達からは遠く離れた場所。
松永は苦悶の表情を浮かべながら、必死に走り、何者かから逃げていた。
「クソ!クソ!なんで、どうしてこの俺が!!あいつか!岸田の奴が!!」
だが彼の言葉は続くことはなく。
松永の足が吹き飛ばされる。
震える手を必死に抑えながら、錠剤を口にしようとする松永だったが、その腕は切り刻まれ、あられもない姿に変えられる。
「あぁぁあああああああ!!!!許さん!許さん許さん許さん許さん許さん!ゆるさん!ゆる─────」
何者かが松永の顔面を鷲掴みにすると、顔面を握り潰す。
目玉や、舌、脳、血肉、骨などが、指の隙間から転げ落ちる。
「やかましい。黙って寝ていなさい。下等生物風情が、氷千に唾を散らさないで頂けます?」
白銀の髪を束ねたツインテールの少女が言った。
そして少女は1枚の写真を取り出し呟く。
「待っていて下さいね……お姉様」
寂しげにそう呟いた彼女の手に握られていた、写真の人物は──────
白虎の幼馴染であり
悪魔階級元2柱であり
白虎の刀であり
白虎と居ることを幸せに思っている少女であり
白虎のかけがえの無い家族同然である少女───────
どうだったでしょうか?
予想通りな方も居られれば、ビックリな方、色々おられると思いますが、キャラが把握できない場合は
前回の投稿の新章1話の前書きに設定集を出していますので、そちらでご確認ください!!
それでは、今回もこのような小説に時間を潰していただき、ありがとうございます!!
今度はもっと早く出さないとなぁ……w