白虎と千火
今回は白虎とアルカダの戦闘となっています。
そして今回は3日も日が過ぎてしまったこと本当に申し訳ないです。
それではお楽しみいただければ幸いです。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
最初に仕掛けたのは白虎だった。アルカダの右腹部目掛けて切り上げを放つ
「ふむ」
アルカダは白虎の攻撃を難なく避けると背後に
回り込み白虎の左胸部に刀を突き刺す
(白虎!後ろ!)
(わかってる)
(白虎ってば!!)
(黙ってろ)
ドス……
「っ!」
胸に走る痛みが彼を襲う
白虎の意識が途切れる。そして死
「もう終わりか。適正者にしては呆気なかったな。最下位レベル、いや成り立てだったか。運が悪かったな」
白虎に近づき、生気を吸い取ろうとアルカダは彼の喉を引きちぎろうとするが───────
刹那、白虎の胸の患部から赤黒い煙が発生し瞬時に傷が塞がる。千火の蘇生効果だ
「口の中は……柔らかいの……かっ!?」
白虎はアルカダを油断させ接近させるためにわざと命を絶ったのだ
そして白虎は自身の喉を食いちぎらんとしている彼の大口に刀を突き立てる
「ッ!?」
(どうなっている───!?)
動揺するのも当然だ。白虎は先程〝死んだ〟のだ
アルカダは口内に侵入し今にも喉を突き刺さんと喉している刃を牙で受け止めた
ガィン!と音を立て刃が停止する
「……ッ!カートリッジ!」
白虎は赤色のカートリッジを取り出す
筋力増加効果の魔力がかかったカートリッジ
それをはめ込み、増幅した力で押し切ろうとするが
グシャッ!
白虎の左脇腹がひしゃげ、メキメキ、ブチブチという千切れ、砕ける音を立てる
ダイヤモンドの数倍の硬度の拳で腹部を砕かれたのだ
再びの死。再びの赤黒い患部から出る煙
「なん……だコイツは……!」
驚嘆の声をあげるアルカダ
傷は完全に完治し白虎は再び起き上がる
「っ……防ぐってことは当たったらヤベェってことで……いいんだよな?」
痛みに歯を食いしばりながら言う
治るとはいえ、痛みが消える訳では無い
痛みは身体にしっかりと染み付き、残っているのだ
(白虎……大丈夫?あいつは動きが遅いから脚力上げれば逃げられるよ?)
千火が白虎の身を案じ、問う
(問題ない……まだ行ける)
「貴様……何者だ」
アルカダが問う
「俺か?さぁ、なんだろうね?」
「ふざけるなよ……適正者!人間風情が!貴様がどんな能力を持っていようと、このアルカダに傷をつけることはできん!!」
アルカダが地を蹴り、白虎に斬り掛かる
白虎は攻撃を5分以上回避を繰り返していた
後退し続ける白虎にアルカダが言う
「どうした?仕掛けてこないのならそろそろ本気を出させてもらうぞ……!」
「へぇ……ずいぶん余裕だなアンタ」
白虎に焦りの表情はない
「人間如きに出すには勿体ないのだ」
「なら出さなければいいのによ?」
白虎はアルカダを逆撫でする
「この数分でなにか引っ掛かるのだ。そうだな貴様は何か臭いのだ。そうだな……裏切り者の臭いだ」
「っ!?」
一瞬の。1秒にも満たない動揺
だがそれが彼を窮地に立たせた
「まるで……悪魔の臭いだ……!」
ズブリ。と白虎の腰に刃が通る
ブチブチブチッ───────
(は……白虎ッ!!!)
「くっ……そ!」
アルカダの顔を蹴り、刀は抜ける
何とか〝本当の死〟を逃れた白虎だが腰の傷は思いのほか深く、意識が途切れる
再びの死
赤黒い煙が患部から発生し白虎は蘇るが、意識を取り戻した直後アルカダが既に刀を腰に目掛けて振りかぶっていた
(白虎!!)
「チッ!」
千火で攻撃を防……
刹那──────ビチャッ!とみずみずしい音の後、地が赤に染まった
雨の振り終わったばかりの樹海のように湿りきり、緑に染まった廃街から抜けたイリーナ、莉佳、大村。
「やっと抜けたか……部室までどれくらいだ?」
大村が莉佳に問う
「わ、私!?ごめん……ここ、どこかもわからない……この辺りに見覚えない……ケータイも壊れちゃってるし」
大村が莉佳にいうには理由があった
莉佳は幼い頃親とこの辺で住んでいたのだ。
もっと緑町側ということか。それともこの荒れ果てた光景故気付けないのか
「あと、40分もあれば着くと思う」
イリーナが言う
「あと、40分か……遠いな。それにしてもイリーナ?だったか?こんなに俺らは目的地から離れてたのによく俺らを見つけたな」
大村の性格上気になったことは聞かなければ落ち着かない性格だ
「そうじゃなくて、私あそこから緑町っていう街まで降りてくるつもりだったの」
そう言いながら少し前白虎を眺めていた崖を指差す
どうやら彼女は莉佳達のいた廃街から更に3、4キロはある地点からここまで来たようだ
と言っても悪魔を圧倒する力を持つほどだ
莉佳達を置いて行っていればとっくに目的の白虎とは対面できている
だが彼女は今莉佳と大村を連れている。彼女、イリーナ・シグ・スフェアの優しさと言ったところか
(血の臭い?まだ薄いそれに遠い……〝彼〟の血の臭いではない?)
「急いで!少し走るよ!」
「え?」二人が口を合わせる
そう言ってイリーナは2人を担ぎ上げ、疾風迅雷の如く地を駆けた
バチャチャチャ!!と地が赤で染まった
その血の主は白虎でもアルカダでもない
「千火……?」
血の主は白虎の持っていた歪な形状の刀。千火から出たものだ
彼女は本来怪我すら負わなかっただろう
だがあのまま防いでおけば白虎はなぎ払われ更に窮地に陥っていた。その為刀身を軟質化させたのだ
そして彼女は知っていた。白虎は自身が傷付くことよりも仲間、家族が傷付いた時真価を発揮する男だ。
彼はまだ悪魔成り立て。とてもじゃないが魔力コントロール等できない
武器故、扱われる物故魔力回路に介入することはできない
だが、怒という感情を利用しコントロールできない魔力を波のように乱れさせ、溢れ出した魔力から流れを掴み、怒により他の事の集中力警戒力を緩めれば、魔力回路を奪取出来る可能性が出てくる
彼が魔力をコントロール出来てないからこそ出来る荒業だ。
(…ッあ!だっ、だ、大丈夫……慣れてる……か、ら)
痛みに耐え震えた声で白虎を心配かけまい、そして彼の怒りを更に掻き立てる為彼女は口を開く。
当然彼女も傷に慣れているはずがない
彼女は序列7柱以上にトップクラスの上級悪魔だ
能力はクリエイトで更にカートリッジもある
本来悪魔とは戦闘をしないため、適正者との戦闘であっても擦り傷1つないだろう。
あの時白虎が彼女左胸を撃ち抜いた日以外彼女は傷を負ったことは無いのだ
そして今回は場所が悪かった
左目を切られていたのだ……
魔力は……掴んだ
「どういうことだ?刀身から出血だと?……その中にいるのは誰だ」
アルカダが口を開いた
「…………せぇ」
憎悪に満ちた声が漏れる
「聞こえん。そして次私が刀を振れば貴様の持っている刀は真っ二つだぞ?」
アルカダが腕を上げ、刀を掲げる
狙いは頭部から下半身までの切断
真っ二つというやつだ
「う、るせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
音もならぬ程静かに振り下ろされた刀
グチャァ!!
「な!?」
アルカダが思わず驚きの声を漏らした
自身の渾身の力を左手で。しかも人間に防がれたのだ
「人間を…………ナメるなよ悪魔」
白虎は千火の身を案じ、自身の左手で受け止めた。だが彼の出血は酷く、手の骨は割れ、刀は手首の骨につき立っている
刹那────ガチャンと機械音がなり、カートリッジ挿入口には紫色のカートリッジがはめ込まれている
空間攻撃のカートリッジ。
(白虎……サポートはするよ?)
白虎は無雑作に乱暴に力いっぱい刀を振るう
(ごめんな千火……)
アルカダの背中に一筋の線が入る
刃が通ったのだ
「な!?なぜだ!!」
アルカダが全力で飛び退く。距離をとる
千火は自身の刃に殆どの魔力を使用し、それを上乗せし、第7柱の力を最大限使用したのだ
刃が通った理由は簡単だ。彼はダイヤモンドの数倍の皮膚を持つ悪魔であり、それは体質ではなく能力だ。
能力によって〝補われた〟ものでありダイヤモンドそのものの高密度の炭素等では無い
能力。つまり魔力によって補われるもの
魔力で補われたならその魔力を超えることこそが相手へのダメージの一歩となる
それが白虎にはできなかった。戦闘経験が浅く悪魔になって半日経たず、更に半悪魔の彼には本来7柱の力を振るっていても不可能に近かったのだ
だが現在魔力回路を支配し扱っているのは千火だ
刀は通った
そして刀が通ったということはクリエイトが可能になる
互角─────
残るは頭脳、反応速度、力量、が勝負を制する
(白虎!すごい!刀が入ったよ!?)
(お前……傷は平気なのか?)
(少し痛いけど……もう平気)
(ごめんよ……)
その言葉に千火の胸が痛む。
白虎は自身の力量不足と捉えているが実際は違う。単純に彼女が白虎の魔力を把握し、奪取し1度だけコントロールするための演技のようなものだ。
(う、うん。私もごめんね……あとさっきの一撃で無意識だっただろうけどかなり魔力を使っちゃってる)
(なんでお前が謝るんだよ。あと……何回死ねる?)
(3回)
白虎に緊張が走る
あと3回死ねば自分は死ぬ
死の恐怖を知っている白虎にとってその言葉は凄く重く鋭かった。
覚悟はしていたはずなのに………………
白虎はゆっくりと深呼吸をする
そしてカートリッジに手をやり、赤色の筋力増加のカートリッジを挿入する
「そうだよな……死ねないよな」
頭に浮かぶのは殺された部活のみんな、莉佳、大村、千火───────
次に白虎はアルカダの攻撃を防いだことによる左腕の様子を確認する
治っている
「行くぞ……悪魔。お前をぶっ飛ばして俺はあいつらと合流しなきゃならないからな!!!」
白虎が斬り掛かる
アルカダはそれを防ぐと白虎の頭部を叩き割ろうと手刀を叩きつける
白虎は手刀を身体を反らし避わすが重心が崩れた為、ガィィン!とアルカダに刀が弾かれる
白虎は大きく右腕が弾かれた。隙だらけだ
「っ……!頼む……!!」
背中側に弾かれた右手に握っている千火を手放す
落下する千火を左手で掴む
多少の誤差は意思のある刀、千火が補正してくれる
パシッと左腕で柄をとる
アルカダは両手で全力の1振りを白虎の右胸部に叩き込む
だが白虎は左手で千火を掴むとそのまま身を低く下げた
ブンッ!とアルカダの刀が空を切る 。直後その威力は途絶えぬまま剣圧となり地を抉りドォン!!と大きな音を立て土煙を発生させた
その土煙を払いながら迫る一筋の刃、夕日を浴び千火が淡く光っている
その光が弧を描きながらアルカダの右胸を捉える
「届け…………届けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ズブッ……ブチブチィ!!
と音を立てアルカダの右胸が大きく引き裂かれる。
メキメキメキィ!その傷は右胸下部から入りバキィ!!と音を立て、アルカダの左肩の鎖骨を砕き刀は抜ける
バチャチャ!!と血が傷口から溢れ出る
「ぐ、あぁぁぁぁぁあ!?」
初めて感じる激痛に患部を抑えながらよろよろと後退するアルカダ
「はぁ……はぁ……はぁっ!」
息を荒らげながらもアルカダに近づくが
「く……ナメるなよ…………人間風情に俺が……この俺が殺されるものか!!」
アルカダは左胸の傷口に刀を突き立てる
自害だ
「!?」
驚きを隠せず唖然とする白虎
「ガハッ!グボァ!ふ……ふふ……フハハハハ!!いい……か?人間このアルカダを倒した……の、だ。貴様は悪魔達全員から敵視され一番の標的とされるのだ!!どちらにせよ……貴様は、誰一、人も守るこ、となどできんのだ!」
そう言ってアルカダは魔法陣を発生させ最後の足掻きとして何かしら攻撃を仕掛けようとするが───────
「…………」
ブチィ!!
空間攻撃のカートリッジに取替え、左肩の傷から首を切断する
ゴトン……と重い音を立て首が落ちる
白虎は静かに目を瞑ると踵を返し立ち去る
(ここには……居ないみたいだな)
(ごめん。予想が外れたっぽい)
「仕切り直し……か……。」
仕切り直し。というには優しすぎた
あと3回しか死ねずダメージも疲労も大きい
「今日は……何処かに泊まろう」
そう言って河原から抜け、何も無い血と死骸、放置された車のみがある道路を歩いていく
この世界は悪魔に占領された街
争うことも逆らうことも許されず人類は退くことしか許されない世界
そして退くことさえ許されない非適正者
そんな腐った世界でも彼らは懸命に生きる
「はぁ……泊まろうってどこで泊まるし」
疲れきった彼の声が空に虚しく響く
子供たちが「バイバイ」というように小鳥たちがチュンチュンと鳴いて飛び去っていく。
(なぁ千火)
(何?白虎)
(悪魔を滅ぼしたら……また人間は差別を受けずに昔みたいな平和になるのかな……)
(……わからない。けど今はなるって信じてさ)
(そうだな)
白虎は夕日を見上げる
夕日は──────変わらず綺麗だ。
俺は必ず昔みたいに誰もが安心して暮らせる世界を作りたい。
そしてみんなを守りたい。もう誰も……死なせはしない
そのためになら俺は……人間を捨てる
莉佳、大村を見つけ出すため彼は急ぐ
莉佳、大村、イリーナは廃場に捨てられた部室を目指す。
それぞれの不安や期待を乗せて彼らはこの狭い街を歩く。
どうでしたか?
これで第1章終わりになりますが物足りなかった方も多かったでしょう
次章もしかしたら彼女達が再会?するかも……
そして何より今回もこのサイトを開いてくれた方々本当に嬉しいです。
それでは、今回はここで終わりにさせていただきます
誤字脱字気になる点ございましたら教えてください。
ありがとうございました!