世の頂点に君臨せし少女
今回は少し長いです。
次回は序列10柱のアルカダと白虎の一騎打ちを書きたいです!
そして毎度のこと、何か脱字、誤字、気になる点ありましたら気軽にお申し付けください!
白虎は木造建築から出ると最初に目を向けたのは窓が返り血で真っ赤に染まったトラックだ
「ごめんな……守れなくてあとで必ずお墓作ってやるからな」
首を千切られた少女が脳裏に浮かぶ
拳を強く握りしめ、自分の無能を憎む白虎
(白虎早くしないと)
「わかってる」
千火の言葉を遮り、続けて白虎は言う
「お前索敵とかできねぇの?」
(索敵はできる。適正者の反応もキャッチできる。けど非適正者は……その、無理)
若干口篭ったのは言いにくかったからだろう。あの時もこんな風に大人しければ良かったのに
そう考えながら白虎は
「手当たり次第に探すしかないのか……」
(うん)
つまりこの広い街でどこにいるか手当たり次第に探さなければならない彼女はそう言っていた
「まて、ケータイが……!ケータイでどうにか」
ポケットからケータイを取り出し電源ボタンを押すが
カチッ
カチッカチッカチッ……
「嘘だろ!?」
カチッカチッカチッカチッカチッ……
(………………白虎、壊れたものが動くなんてそんな都合のいい奇跡、起きるわけないよ)
あの時か……
白虎は先程の悪魔との戦闘で木造建築の一軒家に突っ込んだのだ。その際に破損したのだろう
「…………」
白虎はケータイをポケットに戻すと
「公衆電話!」
そう言ってこの世界でまだ壊れておらず、使用できる公衆電話を探し白虎は荒地を走る
所─────とある小部屋
「…………最後の最後できっとあの適正者さん達私たちのこと助けてくれたよね」
莉佳が言う
「多分悪魔の悔しがる顔が見たかったんだろ。そのために利用されただけだ」
大村は吐き捨てながら、莉佳の応急処置を止血程度だが今出来る最善を尽くし行っている
莉佳の脹ら脛は思っていたより出血が多く、このままでは逃げきれたとしていずれ大量出血という最悪のケースを渡りかねない
「なぁ……莉佳」
「何?大村君」
「お前言われてたよな?適正者の奴らを誘ったって」
「うん」
「本当か?」
「黙っていてごめんなさい。何回も色々な人を誘ったわ、けどみんなに断られた。時には殴られも蹴られもしたけど私は諦めっ!?」
大村は莉佳の口を掌で塞ぐ
「む、むぅ!むー!」
何故か顔を青くし不安そうな顔をする莉佳
それもそうだ
今部屋にいるのは2人っきりそして莉佳は手負いなのだ。外に助けを呼んだとして悪魔を呼び寄せるだけ
だが大村は
「何想像してんだ!お前なんざ女としても見てねぇよ!足音だ静かにしろ」
女として見ていないという言葉に対し、かなりの憤りを覚えたのか大村の手を払い除け声を抑えながら言う
「うっさい!ド変態!!普通に喋るなって言えば黙るわよ!触れるな!引っ付くな!近付くな!!!あとよくも…………女の子に向かって……」
意外と心にはトゲとして刺さっていたようだ
「……っ!だ、だから今は黙れ悪魔かもしれない」
ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……
足音は小屋の前で止まる
「!?」
さらに足音はこちらに近づいてくる
そして─────
ガチャン
所────白緑町付近の公衆電話ボックス
「くそ!あいつら電話でねぇ……どういうことだ!?死んじまったのかよ!嘘だろ……頼むぞおい!」
(可能性としてはその方が高いと思うよ所詮人間だしそれも非適正……)
「っ!その言い方はするな虫唾が走んだよ」
非適正者。その言葉が白虎は大嫌いだった
その言葉を言われるとわかっていてもイライラしてしまう
そして彼女達が電話に出ない、いや出れない理由は川で流された際、ケータイは水没してしまったのだ
つまり連絡の取り用は一切無い
振り出し。いや時間を掛けてしまった分もっと時間は無くなっている
状況が悪化しただけだ
「手当たり次第……なのか」
(そうなるね。けど戻るか進むかどっちにする?選択次第ではあの子達は生きていたとしても死ぬかもね)
千火は白虎を焦らし、揶揄い、判断能力を低下させようとする
「お前は俺の味方か敵かはっきりして欲しいな」
多少の苛立ちはあったが、千火は昔からこういう奴だ。仕方がない
(ふふふっ)
そう笑うと千火は言う
(このまま進んでいいよ)
「信用できない」
(本当だよ?悪魔が群がってるから居る可能性は高いと思う)
一か八か。という事か
彼は千火の言う通り前に進むことにした
所─────小部屋
ガチャン!
「っ……!?」
悪魔ならこんな狭い部屋から抜け出すことはできない。確実に殺されるだろう
だが
「ここで何を?」
そう言ったのは黒ずくめの少女だった
多分歳は自分たちより2、3歳下だろうか
フードで髪を隠しているがショートの髪、橙色の髪ということはわかる
なぜ隠すのか
そんな疑問もわいたがその前に彼女が敵なのか味方なのかまずはそこからだ
「あんたは味方なのか敵なのかどっちだ」
大村が問う
「敵か味方か……私としては人間の味方で〝いたい〟と思ってる。私も会いたい人が居るから。その人に会うまではあなた達の命の保証はする。着いてくるならだけどね」
周りを警戒しながら少女は言う
「待って!あなたこれくらいの身長で黒髪でそこにいる大村君と同じ制服の大人しそうな男子見なかった!?」
白虎の生存をもしかしたら知っているかもしれない。そう思い、祈るように問う
だが
「待って一気に質問されても困る。一つ目黒髪ではない。次に二つ目。大人しそう?ではなかったと思う。三、制服は同じ……だったと思う」
その答えに莉佳は
「そっか……」
結局手掛かりはゼロ
ゴホン!と咳払いをすると大村は
「とりあえずそのガキの言うやつと合流しよう。もしかしたら白虎の情報を何か知っているかもしれないからな。だがその前に俺らは廃棄場のトラックに向かわなきゃなんねぇんだ」
「トラック?なんで?」
少女が不思議に思い問う
「俺らの友達がいるかもしれねぇからだ」
「友達…………うん。それには付き合ってあげる」
えへん。と言わんばかりの表情で少女は言った。
「私の……せいだ」
ボソッと拳を握りしめ、莉佳が呟いた。
「あな……」
莉佳の言葉に気がついた少女が喋りかけようとするが
「よし、行くか!」
大村が無意識に遮る
「うん……」
そして莉佳
「…………なんであなたが仕切るの?」
と謎の少女
大村達はみんな仲良く平等に。の部室そして〝白髪の少年〟を目撃したという方角へと向かい始める
所──────白緑町
「はっはっはぁ」
白虎は千火に言われた方角へとひたすら走る
可能性の高いと言われた悪魔の群がる方向へ
それが逆方角だとすら知らずに……
所──────小部屋から少し歩いた狭道路
小部屋から出た外の光景は都会とはとても言えなかった。いや、都会だが都会とは呼べなかった。至るところに木が生え、雑草が生え苔が生え、ジメジメしており3日もここにいれば気が病んでしまいそうなほどだ
そんな時少女が口を開く
「お姉さん足をケガしてるんだね」
「っ!?なによ足手まといなら別に……」
「そんなことは無いけど……ただ治療しないとそれ」
「な、なに……」
「足を切断することになるかも既に細菌が入って皮膚が変色してる」
「え……う、うそ」
莉佳の顔が青ざめる
「うそ。でも前者は事実だよ。けど、変色はまだしてないよ」
淡々と少女は言う
「ちょっ!?ふざけないでよ!こっちは本気で怖かったんだから!」
「莉佳うるせぇよ。悪魔にバレたらどうすんだあとちっこいの。名前は?」
莉佳を宥めつつ少女の名前を聞いていないことに気付き大村は質問する
「はい?人の名前を聞く時はまず自分から名乗るべきじゃ?」
少し呆れたような表情で彼女は言う
「そうか、そうだな」
「彼はこういう性格なの……気にしないで。あ!私は篠見 莉佳!17歳!」
足を怪我していても相変わらずの元気さ
「え!?」
少女が驚く
「どうしたの?」
「私より……と、し……うえ…………三つも…………」
小さい声でボソボソっという
「なに?聞こえないよ?」
煽っているようだが本当に莉佳には聞こえてないのだ
「〜〜〜〜っっ!!」
少女が、拳を握りプルプルと震わせている
「ちっ俺は大村 俊吾19。部活は元陸上部よろしく」
「そこまで聞いてないし……」
冷たい眼差しでいう
「あぁ!?俺が何したよ!なんで俺にだけ冷たいんだよ!」
「……身の危険を感じる」
そう言って大村から距離をとる少女
「あァァ!?」
思いっきりフルに燃えている大村に対し冷めに冷めきっている少女
「あれ!?大村君、ケータイは!?」
焦った莉佳が言う
「あ?ケータイ?あるけど」
そう言いながらポケットに手を突っ込む大村
「私落としちゃったかも……そうだ!大村君白虎に電話してみよ!繋がるかもそれにみんなにも!」
莉佳がまるで暗黒の空を引き裂き、希望の光を纏う太陽が日を指した時のような目をしていう
「壊れてるな……無理だ。すまん」
どうやら希望の太陽は一瞬にして消えたようだ
「そっか…………あ、そうだ!あなたケータイは?」
「けーたい?」
「え」
2人が同時に口にする
「ね、ねぇケータイってわかるよね?」
別の意味で不安な顔をし莉佳は大村のケータイをパシッと取ると見せつけながら少女に問う
大村が「あっ!?」と言っていたが関係ない
「四角くて面白い形…!」
少女は少しケータイに興味を持ったようでまじまじと見つめる
そしてケータイに夢中になっている少女を見ながら
「大村君、ケータイを知らないってどんな生活してきたのあの子……。」
「知らねぇよ、今そんなこと考えてる暇はねぇだろ」
と小声で話し合う
そして突然
「下がって!」
少女が大村のケータイを投げ捨て叫んだ
「あ、ケータイ……」
直後。スタン!
と静かに着地した8体の悪魔
莉佳と大村の背中に冷たいものが走る
その原因は先程の8体の悪魔のうち3人は橋の下で適正者達が対立したアルカダという悪魔と同じものを感じたからだ
「これは俺ら死んだかな」
「っ!」
莉佳と大村が死を覚悟した
だが少女は違った
「二人共あの物陰に隠れて。絶対にあの物陰出たらダメ、それまでは私が時間を稼ぐから」
そう言って少女は悪魔の軍勢へと突っ込んでいく
「ちょっとあなた何考えて!」
止めようとする莉佳の腕を大村が掴む
「今はあいつにかけるしかねぇ!隠れるぞ!」
そう言って莉佳を担ぐと全力で走り少女の指定した物陰へと向かう
「ケッ行かせると思うか?久しぶりの非適正者っつうご馳走なのによ!」
そう言い、一体の悪魔が彼らを追いかけようと地を蹴るが─────
ガッ!
瞬間、悪魔の顔面を少女が鷲掴みにしそのまま前方へと放り投げた
「あ!?」
そのまま木々を薙ぎ払い10本以上倒れただろうか。巨木に叩きつけられようやく悪魔の後退は止まる
「ほう」
1人のアルカダと似た雰囲気を持つ悪魔が興味深そうに呟く
そしてもう一人
「これは驚いたな人間はこんな強いヤツを隠していたのか」
リーダー格なのだろうか。最後のひとりが口を開く
「厄介だ一気に殺るぞ」
悪魔が指揮を出す
その指揮と同時に全員が刀を抜き一斉に少女に斬りかかった
上位悪魔にはそれぞれ階級が存在する
1から30までの順位があり順位が低いほど強力な能力、強靭な肉体そして多くの部下を持つ。
1〜30までの上位悪魔にはそれぞれ能力が備わっており、更に7位から上の階級の超上級悪魔には全て不老不死という能力が備わっている。
そして今回責めてきた悪魔は階級13柱のアルカダであり、今回彼が率いてきた軍勢はおおよそ300弱
その中に更に上位悪魔を3体引き連れてきていた。
19柱のスカル
21柱のイルミナ
28柱のインテート
付け加えると、階級30の上位悪魔より下の階級の悪魔は中級悪魔、下級悪魔に分かれる
彼らが悪魔とはいえサタン、バアル、ルシファー等と言った名前を持っているわけではなく、それぞれの氏名があるのだ。
所──白緑橋付近
白虎は莉佳達を探すため走り続けていた
やはり半悪魔の分スタミナも走る時速も格段に上昇している。50メートル程度なら3秒を切ってしまうだろう
そして少しずつ疲れの表情が浮かんできた白虎に千火が言う
(まって。白虎悪魔が近いよ?)
白虎に緊張が走る
「っ!?どこだ!」
(すぐ横かなブロックの先。多分相手気付いてる……ね、いや!気づかれた!攻撃来るよ!白虎の側頭部狙ってる。後ろに身を引いて)
白虎は身構え悪魔が攻撃を仕掛けてくるのをじっと待つ
(3、2、1……はいっ!)
どうやら親切に千火は教えてくれていた
そして
バゴォ!と下級悪魔がブロックを破壊し先程まで白虎の顔面があったであろう位置に拳を突きつけていた
まともに食らったなら潰れていたはずだ
白虎は指示通り避けるとブロックから突き出た無防備な腕を大刀で切断する
「ぐゥ!?」
下級悪魔の右腕は軽々と吹き飛ばされ、白虎から少し離れた位置にドチャッという音を立て地面に落下する
(悪魔逃げるよ)
「どうすんだ?俺飛んだりはできねぇよな?」
(まだ無理だと思う。だから私の能力を白虎が使って?)
「能力?お前の能力は不老不死なんじゃ……」
(もうひとつあるよ、悪魔は本来一つの能力しか使うことは出来ないけれど、階級7からの悪魔達はみんな悪魔の個別能力の他に固定として不老不死がつくの。そして私の個別能力はクリエイト。どんな物でも刀身に吸収できて、その物質の特徴をコピーして刀身にステータスとして一時的に反映させれるの。あと、そこにある6……いや間違い、5個の私が作ったカートリッジ。それを武器に差し込むことが出来るの♪赤は文字通り筋力、青は肉体強化、黄色が速度、紫が空間攻撃、白が高速治癒。空間攻撃以外は20倍の力が出るから試してみたら?今は空間攻撃が良さそうだけど)
既に100メートル近く悪魔は白虎から離れていた。
「悪魔って逃げ足も速いんだな」
(空間攻撃の射程距離は150メートルだから早くしないと逃がしちゃうよ?)
「カートリッジってどうやってはめ込むんだよ」
刀をくるくる回して確認する
(そこにあるレバーを引くの)
「機械みたいだな。てっきり悪魔だから魔術とかだと思ったんだが!」
レバーを引く
ガチャン!という音と共に刀身と柄の付け根が外れカートリッジ挿入口が出現する
「おお?」
(どう?カッコいいでしょふふふ♪)
「そうだな……そういえば子供の頃からこういうの俺ら好きだったよな!」
(うん!)
白虎が久しぶりに千火に笑った
いや笑ってくれた。そのことだけで千火は十分だった
何より、昔の白虎を見ているようで千火の気が緩む
「いやぁすごいなこれ。お前が作ったのか?」
(う、うん気にいってくれたなら嬉しい)
「そうだな……気に入った」
(けど、さ?)
千火がいち早く正気に戻る
「ん?」
昔話に惚けていた白虎に千火が言いにくそうな声で言う
(悪魔……射程外に…………)
「あ………………」
彼らが悪魔とまともに渡り合うようになるまではまだまだ経験とコンビネーションそして集中力が足りないようだ─────
所───狭道路
悪魔達の攻撃を少女はひたすら避け続ける
彼らが物陰へ逃げ切れるまでの時間稼ぎだ
だがとうとう少女は足を掴まれ
「へへっやっと……掴まえたっぞっ!」
そう言うと下級悪魔は少女を地面へと叩きつける
地は砕けそれ相応の衝撃が少女の身体に響き渡る
「……っ!」
痛みに顔を歪めるが悪魔達の攻撃はそれだけではない
肩、太ももを刺し、わざと横腹を浅く斬る
彼らはどう見ても楽しんでいた
「お返しだ」
そう言うとイルミナが少女の顔面を持ち、木々に向けて投げ飛ばす。
投げ飛ばされた少女だが、体制を立て直すと大木にしっかり足をつけ、大木を蹴りつけると悪魔達に一気に接近する
そして下級悪魔2体の腕を掴むと悪魔の腕を捻る
1種の関節技だ
本来曲がることのない方向に関節を捻られると
身体や脳はその痛みから逃れようと無意識に自身から地を蹴り、通常の関節の状態に戻そうとする
「くっ!?」
地に叩きつけられ痛みに顔を歪める下級悪魔
だが少女は残りの悪魔全員に背中を見せ、隙だらけだ
その隙を見逃してくれるほど悪魔達は優しくはない
スカルはその少女の首を飛ばそう刀を振り上げるが……
莉佳達が物陰に隠れるのを確認した少女は
「お待たせ……いくよヒュドラ!」
再び〝何物〟かの名前を呼ぶ
少女の空気が一瞬にして変わり、その雰囲気は既に悪魔を超え更にもっともっと深く、濃い何かもっと異物な物へと変わり、
少女は掌を広げ前に突き出す
ドス黒い魔法陣が出現し、魔法陣の中心部からうっすらと得体の知れない〝何か〟が口を開いた
刹那─────
「!?」
3体の上位悪魔スカル、イルミナ、インテート以外の5体の下級悪魔が一瞬で消滅する
幸い危険を察知し後ろに身を引いた3体の上級悪魔達だが、彼女に驚愕する
「なんだコイツ……!?」
まだ少女は止まらない
彼らの視界から少女が消える
刹那────
スカルの視界が突如歪む
メキメキメキ……!
スカルの頭から異質な音が響く
少女はスカルの側頭部を蹴ったのだ
そのまま力を緩めることなく一気に足を振り抜く
スカルは大きく吹き飛ばされ地に派手に叩きつけられる
ドドォン……と大きな地響きが鳴り響く
その光景を莉佳と大村は唖然と見ていた
彼らは悪魔が圧倒されている図を今まで見たことが無い
悪魔が適正者を圧倒するように彼女は悪魔を圧倒していた
「これを使うには本来アルカダ様の許可が必要なのだがな……のうのうと許可を得ていたら貴様に殺されかねん」
イルミナが言う
19柱スカルの能力は重力
当然ではあるが重力に影響する対象者を絞ることができる
つまり対象者の身体を縛ることなども可能なのだ。
21柱イルミナの能力は空間転移
28柱インテートの能力は傷を負うほど能力の上がる恨み
彼らはそれぞれに掛かった能力規制リミッターを外す
「いくぞ?」
スカルはそう言い能力の『重力』を発動させる
「っ!?」
かなり離れているはずの莉佳達にもその影響は出ていた
「く、るし……」
陸上部でスタミナや肉体を鍛えていた大村はともかく、莉佳は特に身体を鍛えていたわけでもない。故に心臓を押し潰されるような痛みが彼女を襲う
だが、ほぼ中心に近い位置にいる少女は重力に蝕まれているはずなのだが
「ヒュドラ?いける?」と〝何物〟かと確認をとり「よし」と呟くと
ズズズ……と再び魔法陣が出現する
「させると思ったか?」
イルミナの能力空間転移により、イルミナは少女が能力を使うより速く首を切断し息の根を止めようと斬り掛かるが……
既に〝そこに来る事をわかっていたかのように〟イルミナを冷たい氷のような瞳で見つめていた
「な!?ありえな────」
少女は左腕に黒槍を出現させるとイルミナの首にその黒槍を突き立てる
ドスッ!という静かで重い音が響く
刹那───────
イルミナの身体を突き刺さった喉を中心にドス黒い焔は静かにイルミナを蝕み数秒で焼き尽くす
「まず……一人」
そして次に少女はスカルを視界に入れる
彼女の目からは殺気や攻撃的と言った感情が全く見られない
だがそこで一つ少女にとって気にかかることがあった
何故インテートを巻き込み重力を彼に集中させているのか
例えそれがどんな理由であれ、彼女にとってその行為は無駄であり無能であるという事すら知らずに……
「重力が効かない……のか!?」
動揺しているスカルの視界から少女が消え、ドスッ!とやはり静かだが何処か重い音が響く。そしてスカルの胸部にイルミナを殺した時と同じ黒い槍が突き刺さっていた
彼女が速すぎたのだ
決してスカルが弱いわけではない。それ程に彼女と悪魔には力の差があった
「な、なぜ……だ…………き、さまは……いった……い」
スカルを蝕んでいた黒槍は彼が最後まで喋ることを許さず彼を灰に変える
「クソが……クソがァァ!」
最後の一体インテートが少女の身体を殴りつける
バゴグチャ!という粘液質な音を立て少女の腹部から背中にかけてインテートの拳が貫通する
だが─────
突如その〝死体〟は黒焔と化しインテートを腕から蝕む
「こ、この……バケモ」
彼も喋ることは許されず黒焔に焼き尽くされた
「そう、あなた達悪魔も可愛い方。本当に化物なのは………」
口篭り、うつ向いた少女の頬からは一粒の涙が伝った
バゴォン!
建物が壊れる
何軒も何軒も5秒立たずで壁には穴が開いていく
(白虎?悪魔を呼び寄せるだけだよこれ)
「来たらぶっ飛ばす!それにあいつらがこの音に気がついてこっちに来るかもしれない。それは必然的にあいつらの窮地を救うことになるかもしれねぇしな!」
高級家、ホテル、住宅、何もかも無差別に破壊していく
(今の白虎悪魔よりタチが悪いかも)
「それはないな俺が壊しているのは物。奴らのやってるのは命だ。格が違う」
千火も屁理屈を吐く白虎に言い返す気すら起きなくなり、ため息をつき、破壊音だけが響く
その時バキバキィと木々がなぎ倒されていくのを白虎は見る
「誰か戦闘してるのか?」
(白虎止まって)
千火がまるで別人のように声を変え白虎に言う
そこには盛り上がった道路に腰をかけるアルカダの姿があった
(あの悪魔……階級11柱のアルカダ……?何故こんな場所に?)
「階級11!?」
アルカダに気付かれぬように声のトーンをできるだけ抑え千火に確認をとる
(うん……11柱。今の白虎じゃ勝てないとおもうなぁ……相手の能力はダイヤモンドより硬い皮膚だから)
「なぁ……気づかれるかも。俺は声出さなきゃ喋れねぇのか?」
(ん?私に意識を集中させてくれればできるよ?)
「……」
今まで1人で喋っていることがまるで馬鹿みたいに思えた
だが今そんなことを悔やんでいる場合ではない。一刻も早く2人を見つけなければならないのだ
(あの悪魔とは戦闘しない方がいいんだよな?)
(うん。それが正しい判断だと思うけど)
(そう……か。なら逃げるか)
(白虎今回の事は身に染みておくべきだね。私言ったよね?悪魔を呼び寄せるだけだって。あの悪魔気付いてて気付いてないフリしてる。背中見せたら殺されるよ)
(行きたくねぇ……行かないとダメ?)
ダイヤモンドより硬いとなると剣が通る訳もない
さらに白虎はまだ半悪魔になり、数時間ましてや戦闘など1分にも満たない
それほどしか経っていないのだ。その状況で玉砕で立ち向かったとして勝てる保証はない
(このまま金縛りみたいにじっとしててもいいと思うよ。白虎がよければ私は何でもいいから)
(バカか。あいつら助けなきゃいけねぇのにンなことできるかよ。あと俺って死なないんだったよな?)
(死ぬに決まってるでしょ半悪魔半人間なんだから)
(ま、待て!?お前不老不死で能力はそのまんま来るって!)
(言ったっけ?半人間なんだから悪魔の力も半減されるのは当たり前でしょ?)
(…………)
勝てるわけがない。そう思っていた白虎に対して、千火は一つアドバイスを与える
(いい?あなたが死ぬ条件としては3つ。
魔力切れ
上半身と下半身を真っ二つに引き裂かれる
そして痛みによるショック死─────一番可能性の高いのは激痛によるショック死だね。魔力切れに関しては全く気にしてくれなくていいよ100回は死ねるから。攻撃の時の魔力の使い方にもよるけど)
白虎は考える
つまりこういうことだ
白虎の敗北条件は100回殺されるか、激痛によるショック死、もしくは上半身と下半身の切断
そして白虎は考える
ダイヤモンドを破壊するのに一番適しているのは同じダイヤモンドだ
「千火……」
(ん?)
「ダイヤモンドの硬さをお前の能力クリエイトで生成して切れ味を上乗せ。出来るか?」
(できるよ素材さえあればなんでも。白虎の思うままに。けどダイヤモンドじゃ足りない〝ダイヤモンドより硬い〟のなら同じダイヤモンドより硬いものを使わないと)
白虎の目に少しずつ希望の光が生まれる
「ならそのダイヤモンドより硬いあいつの皮膚を刀身に宿すにはどれくらいの量が必要だ?」
(爪1枚分の量あれば充分)
そして白虎の勝利条件はアルカダの皮膚を5センチ程削ぎ取れば彼の勝ち
「そうか…………行くぞ!」
隠れるのをやめ、アルカダに突撃した白虎の目には迷いなど微塵もなかった
その目を見て千火は
頑張ってね私だけの白虎──
「うおおぉおおおおぉぉぉぉぉぉっくたばれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
不敵な笑みを浮かべ、アルカダは立ち上がる
さぁ殺し合い(ゲーム)の勝敗条件は整った
先に皮膚を削ぐか
それともショック死、上半身と下半身の分断、100回殺されたことによる蘇生魔力切れか──────
第11柱上級悪魔のアルカダ
そして第7位の能力を引き継いだ半悪魔大瀬 白虎の激突が始まる
所────狭道路廃都市
戦闘の終わりを確認し、莉佳と大村が物陰から出ると少女と合流する
「お前、何者だ」
「大村君助けてくれたのにそんな言い方……!」
大村は酷く少女を警戒している
「私は……イリーナ、イリーナ=シグスフェア。一般的に私達のことを人外って世間は言うの」
「人外?」
と大村
「そう。人外っていうのは適正者とかと違って人間の細胞以外に身体の中に何か別の生物が混ざってるってこと。わかりやすく言うと半分人間と半分〝何か〟ってことになる」
「ご親切に説明どうも。そしてお前のその半分は何なんだよ」
大村は警戒を解こうとはしない
むしろ強まってきている
「大村君!ごめんねイリーナちゃん」
「いいの……普通の人の反応だから。私の身体の中には神龍が宿ってるの、ヒュドラって言う神話の神様で毒を操るの。その毒がさっき悪魔に使った力、私が刺した時身体にまとわりついていたのを見たと思うけど」
「ほう?んでお前はなんで平気なんだよその毒とやらに」
「私の中にいるの。ヒュドラは」
「!?」
大村の表情が一層濃くなる
「〝いる〟ってどういうこと?」
莉佳が聞く
「あ、あぁ!無理して話さなくてもいいよ?」
と莉佳が続けて言うが
「いや、話してもらう」
「大村君!いい加減に……!」
莉佳が憤る
「うるせぇ!!こいつに殺される可能性も無いわけじゃねぇんだぞ!!!!」
大村が怒鳴る
「な、何言ってるの!!私達を助けてくれたんだよ?なんで殺すの!今のは謝って!」
「いいから……話せ……」
大村がイリーナに言う
「長くなるけど……」
「いいから話せ!早く!!」
「大村君!!!」
莉佳は目に涙をため言った
「こんな……可哀想なことやめようよ?私達……『みんな仲良く平等に』でしょ?それなのにこんなに女の子に怒鳴って……可哀想だよ……」
「っ!」
大村は引こうとはしない
「いいよ、ごめんね莉佳さん。私話す
今から5万年前。
まだ悪魔も生まれてない時代に人類が創り出した黒龍が居たの。その黒龍はヒュドラをベースに人が好きたい放題色々な神龍の力を取り込ませて……
遂に制御ができなくなってしまった黒龍は怒り人類を滅ぼそうとしたの。そしてその龍の怒りを治める方法が一つだけあったの。それが贄」
その話に莉佳が顔をしかめる
「そしてその100年に一度贄を30人用意することで龍の怒りを鎮めていたの。それがずっと続いて。私が〝14〟歳の時、100年に1度のはずが20年後に現れたの。
今までよりももっと凶暴化してたらしくて1000人の贄を与えても怒りは収まらずにそして宗教の人達がとうとう言い出したの。私を生贄に捧げよって。親はもちろん必死に反対した。そして反対した親はみんな反逆者として殺されたの……そして私が贄に捧げられた」
イリーナの目から涙が零れる
その涙を拭い、少女は続ける
「それで、ね……私は生贄に選ばれた理由は今までの人間の1000倍は龍へ耐性があったみたいで……
龍に食わせるのではなく龍を私の中に入れて私を殺し龍を絶命させるっていう作戦だったの
けどそれは失敗に終わって……龍は儀式の最中に私に吸いこまれる寸前私以外の全ての人を焼き払ったの
そして……私の中に入ってきて……私は……今までずっと人に否定されてきたの……だからずっと影で暮らしてた。それで13年ぶりに目を覚まして周りを見てみれば人なんて誰もいなかったの。それで今ここに降りてきたら……あなた達は私に共感してくれた。
それだけで充分だよ。ありがとう、だからあなた達は守る。どんな事があっても絶対に」
彼女の言葉には嘘は感じられず彼女の言うことが本当だとしたら非適正者よりももっとひどい仕打ちをされてきた。という事になる
「俺はお前の警戒心を解いたつもりは……」
大村が言うが
「あなたは……私に同情してくれてる。私が話してる時ずっと手を握りしめてたから……その血。証拠」
「大村君。ほら!謝って!」
莉佳は涙を拭いながら大村に言う
「……悪かった。すまない」
「ったく!不器用なんだから……よし!イリーナちゃん。君はこれから我が部『みんな仲良く平等に!』の隊員だ!」
「は?」
大村が呆れた顔で言う
「みんな仲良く平等に……」
クスッと嬉しそうに笑うと
「うん!!大村 俊悟君、篠見 莉佳さん。よろしくお願いします」
イリーナは満面の笑みで2人に微笑んだ
そして莉佳がフッと優しく微笑み、大村は頷くと彼女達は廃棄場のトラックへと向かう
イリーナの暗い過去。
そしてイリーナが悪魔さえ、圧倒する理由理解していただけたでしょうか?
この世の中人に必要にされないことほど辛いことありませんよね……
そして次話投稿は5月15日以降となります!
最近忙しいので……。
それでは今回もこの小説を読んで下さった方々ありがとうございました!