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被災者に愛を込めて

作者: さきら天悟
掲載日:2016/04/17

名探偵藤崎誠はいつものバーで男と会っていた。

銀座のクラブのホステスの依頼だった。

親友で政治家の太田の紹介だったので、

取り敢えず、女に会ってみた。

女はある男をやり込めて欲しいと言った。

男は複合企業グループのCEOで、

「愛は金で買える」と普段から豪語しているという。

男は仕事一筋の50歳前の独身で、

連日彼女に自慢話をしに来るとそうだ。

藤崎は女に隠し事があるのに気付いた。

それにその男は一本、筋が通っていると認識している。

依頼を受けたのは男に興味があったからだった。




「彼女にここに来いって言われて・・・」

と言ってから、男はいつも女に話していることを話し始めた。

何か言われていたようだ。


一通り話を聞き終えた藤崎は一つ頷いた。

「あなたは、愛は金で買える、と言いますが、

私はお金に愛を込めることができます」


男は分厚い財布から札束を出した。

「面白い。

じゃあ、これに愛を込めてみろ」


藤崎は100万円を手に取り、上着のポケットに入れた。

そして胸に手をあてた。


「どうするんだ。

その金を」

男は思わず、取り戻そうと手を出した。


「名探偵にお任せあれ」

藤崎は深く頭を下げた。

そして、藤崎は席を立った。


「おい」と男は呼び止める。


「三日後に会いましょう」

藤崎は振り返り、微笑んだ。






三日間が経った。


ドアを開けた男は、カウンターに座っている藤崎を見つけた。

大股で歩き、藤崎を指差す。

「お前、何てことしてくれたんだ」

男は静かなバーに似つかわしくない声を上げた。


藤崎は男に向かって微笑んだ。


「あんなことが新聞に出てから、大変だったんだ。

新聞やテレビや週刊誌の記者に追っかけまわされて」


藤崎は立ち上がり、頭を下げた。


男は席に座る。

「売名行為って言われて、さんざんだ」


藤崎は微笑んだ。


「どうしてくれる」


藤崎は微笑みで返した。


「どういうことだ。

説明しろ」


藤崎はまた微笑んだ。

「だから、あの100万円に愛を込めました」


「安易だな。

ただ単に寄付しただけじゃないか」


藤崎は男の名前で100万円を熊本地震の被災者に寄付をした。

その翌日、新聞にそのことが取り上げられたのだ。

それから一部で売名行為と言う声が上がった。


藤崎は首を振った。

手帳からメモ用紙を取り出し、ペンを走らせた。


『G ENKIN』(現金)


男はワケもわからず、顔をしかめた。


藤崎は微笑み、一文字加えた。


『GIENKIN』(義援金)


「愛(I)を加えました」


男は笑った。

しばらくその笑いは収まらなかった。


「久しぶりに笑わせてもらった。

痛快だ。

でも、どうしてくれるんだ。

この騒ぎは」


藤崎は微笑んだ。

「でも、気にしてないんでしょう」


男はまた笑った。

「なんでも、見透かしているんだな」


すべてを見通している藤崎だったが、頷かなかった。

「私も買える愛はあると思います。

すべてとは言いませんが。

こんな時は、励ます、祈るより、

絶対に現金です」


「日本人は周りの目を気にし過ぎる。

特に金を持っているやつは。

売名行為と言われるのを嫌がって」


藤崎は大きく頷いた。

決意を固めるように。


男がバーを出ると、藤崎はスマホを取り出した。




翌日、事務所に訪ねてきた女に事情を説明した。

女は嬉しそうに話を聞いた。


「彼はこれまでも多額の寄付をしています。

匿名で」


女は驚きの表情を浮かべた。


「あなたも分かっているでしょう。

彼は真にお金の使い道を知っている男です。

心配いりませんよ」


女は不意に言われ表情を消した。


「結婚するならああいう人です」


女は顔を赤くした。

クラブのホステスらしからぬ。





半年が経った。

政府は宝くじを発売すると発表した。

それは熊本地震復興宝くじだった。

利益を熊本地震の復興にあてるという。

通常、購入者への還元率は約50%だが、25%に抑えた。

また被害者支援と公共事業の2種類発売する。

被害者支援は分かりやすく、被災者に一律均等割りされる。

被災の被害に応じた金額の分配は不平等を生むし、時間が掛かるからだった。

その直後から、日本中宝くじ購入の問い合わせが殺到した。


この発案は藤崎だった。

藤崎が与党議員の太田に借りを返せとねじ込んだ。

「日本人は寄付に向いてない。

だから、宝くじの名目が必要だ」

と言って。

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