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被災者に愛を込めて

作者: さきら天悟

名探偵藤崎誠はいつものバーで男と会っていた。

銀座のクラブのホステスの依頼だった。

親友で政治家の太田の紹介だったので、

取り敢えず、女に会ってみた。

女はある男をやり込めて欲しいと言った。

男は複合企業グループのCEOで、

「愛は金で買える」と普段から豪語しているという。

男は仕事一筋の50歳前の独身で、

連日彼女に自慢話をしに来るとそうだ。

藤崎は女に隠し事があるのに気付いた。

それにその男は一本、筋が通っていると認識している。

依頼を受けたのは男に興味があったからだった。




「彼女にここに来いって言われて・・・」

と言ってから、男はいつも女に話していることを話し始めた。

何か言われていたようだ。


一通り話を聞き終えた藤崎は一つ頷いた。

「あなたは、愛は金で買える、と言いますが、

私はお金に愛を込めることができます」


男は分厚い財布から札束を出した。

「面白い。

じゃあ、これに愛を込めてみろ」


藤崎は100万円を手に取り、上着のポケットに入れた。

そして胸に手をあてた。


「どうするんだ。

その金を」

男は思わず、取り戻そうと手を出した。


「名探偵にお任せあれ」

藤崎は深く頭を下げた。

そして、藤崎は席を立った。


「おい」と男は呼び止める。


「三日後に会いましょう」

藤崎は振り返り、微笑んだ。






三日間が経った。


ドアを開けた男は、カウンターに座っている藤崎を見つけた。

大股で歩き、藤崎を指差す。

「お前、何てことしてくれたんだ」

男は静かなバーに似つかわしくない声を上げた。


藤崎は男に向かって微笑んだ。


「あんなことが新聞に出てから、大変だったんだ。

新聞やテレビや週刊誌の記者に追っかけまわされて」


藤崎は立ち上がり、頭を下げた。


男は席に座る。

「売名行為って言われて、さんざんだ」


藤崎は微笑んだ。


「どうしてくれる」


藤崎は微笑みで返した。


「どういうことだ。

説明しろ」


藤崎はまた微笑んだ。

「だから、あの100万円に愛を込めました」


「安易だな。

ただ単に寄付しただけじゃないか」


藤崎は男の名前で100万円を熊本地震の被災者に寄付をした。

その翌日、新聞にそのことが取り上げられたのだ。

それから一部で売名行為と言う声が上がった。


藤崎は首を振った。

手帳からメモ用紙を取り出し、ペンを走らせた。


『G ENKIN』(現金)


男はワケもわからず、顔をしかめた。


藤崎は微笑み、一文字加えた。


『GIENKIN』(義援金)


「愛(I)を加えました」


男は笑った。

しばらくその笑いは収まらなかった。


「久しぶりに笑わせてもらった。

痛快だ。

でも、どうしてくれるんだ。

この騒ぎは」


藤崎は微笑んだ。

「でも、気にしてないんでしょう」


男はまた笑った。

「なんでも、見透かしているんだな」


すべてを見通している藤崎だったが、頷かなかった。

「私も買える愛はあると思います。

すべてとは言いませんが。

こんな時は、励ます、祈るより、

絶対に現金です」


「日本人は周りの目を気にし過ぎる。

特に金を持っているやつは。

売名行為と言われるのを嫌がって」


藤崎は大きく頷いた。

決意を固めるように。


男がバーを出ると、藤崎はスマホを取り出した。




翌日、事務所に訪ねてきた女に事情を説明した。

女は嬉しそうに話を聞いた。


「彼はこれまでも多額の寄付をしています。

匿名で」


女は驚きの表情を浮かべた。


「あなたも分かっているでしょう。

彼は真にお金の使い道を知っている男です。

心配いりませんよ」


女は不意に言われ表情を消した。


「結婚するならああいう人です」


女は顔を赤くした。

クラブのホステスらしからぬ。





半年が経った。

政府は宝くじを発売すると発表した。

それは熊本地震復興宝くじだった。

利益を熊本地震の復興にあてるという。

通常、購入者への還元率は約50%だが、25%に抑えた。

また被害者支援と公共事業の2種類発売する。

被害者支援は分かりやすく、被災者に一律均等割りされる。

被災の被害に応じた金額の分配は不平等を生むし、時間が掛かるからだった。

その直後から、日本中宝くじ購入の問い合わせが殺到した。


この発案は藤崎だった。

藤崎が与党議員の太田に借りを返せとねじ込んだ。

「日本人は寄付に向いてない。

だから、宝くじの名目が必要だ」

と言って。

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