転入しました
「…お兄ちゃん、もうあきらめなよ」
学園の巨大な門の前で微動だに動かない俺をみて、ボソッとミアにそう言われた。
周囲は生徒達が俺のほうをジロジロみている、特に男子生徒からの視線が怖い、この門を進めばこんなところに何時間と幽閉されなければならないのかと考える。
まぁ、結局アリスとミアにひきずられるようにして俺は門をくぐった。
「気持ちはわかなくもないけどもうちょっとしっかりしてよね、一応ミアと一緒で私の妹ってことになってるんだから」
「まぁ頑張るよ…」
指名手配されている俺は勿論、顔はわれてないがその妹であるミアはアリスの妹としてこの学園にはいっている。
「それとリボンが崩れてるわよ、…アリアちゃん」
アリスにリボンを整えてもらう、ちなみにアリアとはこの二人が決めた学園内での俺の名だ。
アリアは周囲の視線をアリスの影に隠れるようにしながらある場所へと向かった、理事長室である。
「…失礼します」
アリスに続いて部屋に入るといかにも仕事の出来そうな男性がいた、髪もヒゲもキレイに整えられている、そのカンジは貴族風というか気品さが感じられる。
もちろん理事長室にいる訳なので、この人がこの学園の理事長であるわけだが付け加えるとアリスの父親でもあった。
「おお、久しぶりだね…ミアちゃんじゃない君がシロ君だろうからそういえるが、ほんとにわからんな…まぁこれなら問題ないだろう」
俺達の身元や俺の偽名が通るのはこの人のおかげだ、もっといえば親元のない俺たちを引き取ってくれたらしい、なぜ親元がないのか大体検討はつくが、聞いても話してくれないので詳しくは知らない。
こちらの親の記憶もないしむこうの世界の親のこともあるので少し複雑な気分だったがあまり気にはならなかった。
(そういえばうちの親どうなってるんだろ)
急にいなくなった息子を探してるのだろうか?そう思いたい所ではあるがその線は薄いだろう…親はいつも俺を毛嫌いしていた。
衣食住はきちんと確保していてくれたが、ほんとにそれだけで一緒に出掛けたりといったことは一度もなかった。
誕生日にもらったPCも俺がボソッといったのを何も言わず普通の箱のまま部屋の前に置かれていたことを思い出す、これで満足だろといった感じで俺との関わりをさけているようだった。
「どうしたの?」
少し考えこんでいた俺にアリスがそう声をかけてきた、我にかえり席を立ちついてきなさいという理事長についていく。
そこはすぐ隣の部屋、職員室だった。
「エイリス先生はいるかね?」
理事長のその問いかけに先生方はあきれるような顔をしてこう切り返す。
「いつものことですよ、まだ来ていません。それよりその子が新しく転入する子ですか?」
少し小太りな教師が俺を見てそう言う。
「そう、私の娘だよろしく頼むよ、でも困ったなぁエイリス先生のクラスに入れようかと思って来たんだが…」
ちょうどそのとき勢いよく職員室の扉が開いて青い髪の女性が息を切らしてはいってきた。
「すいません…遅れてしまいました わっ!理事長先生!…ん?その子はまさか転入生ですか?」
「そうなんだ君のクラスにいれてくれないかね?」
「もちろんかまいませんぜひうちのクラスに来てください」
そういったエイリス先生というらしい青い髪の先生は、俺に近づいてくると手を握ってきた。
「私はエイリス、あなたの名前をきかせてくれるかな?」
どこか子供のようにキラキラしている目で俺を見つめそう聞いてくる。
「アリアです…」
「アリアさんですか、早速遅刻の現場をみられてしまった不甲斐ない担任ですがよろしくおねがいします」
「先生、髪だいぶ乱れてるよ」
「だいぶ走ってきちゃいましたから…」
アリスは先生の髪を整えている、たしかにパッと見でわかるほど乱れていた。
まぁ、そんな人がどうやら俺の担任になるようだ。
アリスとともにエイリス先生について行っている俺は教室の前についた、プレートには5Aと書かれていた、どうやらこの世界の学校の仕組みは少し違うようだ。
「みんなさんおはようございます」
そういって教室に入っていくエイリス先生に続いてアリスもはいっていった、なかなか入れずにいる俺はというと完全にオロオロしている状態だった、いろいろと不安な気持でいっぱいだった。
過去、転入初日で教室に入る手前で叫び声を出し家に帰った子を思い出す、彼の気持ちが少しわかるような気がした。
(もう、帰りたい…)
だがすでに俺に集まっている視線とエイリス先生の手招きにより、ここで逃げ出すわけにはいかないと思い廊下と教室の境界を越え足を踏み入れた、教卓へと向かう。
「じゃあ自己紹介お願いします」
先生にそう言われ緊張で少し不安だったが、女性っぽい声のトーンと仕草に気をつけながら挨拶をする。
「アリアです…よろしくお願いします」
名前だけいってたまらず下を向く、人前で女性のフリをするのは緊張するとゆうか恥ずかしいとゆうか、とにかく前を見れなかった、目でエアリス先生にもう勘弁してくださいと訴える。
「とゆうわけでこの教室に新しい仲間ができました、仲良くしてくださいね、じゃあアリアさんお姉さんの横の席に座ってください」
ひとまず俺は教卓のポジションから解放され空いている席についた、手前の一番窓際アリスの横の席である。
「…そこ、シロが座る予定だってことでずっと空けてた席なのよ」
ボソッとアリスに言われる、彼は学校でも慕われていたようだ。
ショートホームルームが終わるとたくさんの生徒が俺の回りに集まってきた、質問ぜめに会う、なかにはいきなり手を握ってきた男子生徒がいた口がパクパク
してるだけで何言ってるのか全然わからなかった。
「みんなその辺にしてあげて、アリア、一時間目の授業は別の教室でやるから移動するよ」
俺はアリスにそう言われ引っ付くようについていった、ほんとに身が持たない気がする。
「助かったよ…」
そう言う俺を見てどこか不安げに笑ったアリスはどういたしまして、とゆうと俺に教科書を渡した。
「これ、君がみんなに囲まれている間に先生から預かっといたから」
俺の知る教科書とは少し違うカンジだった、これぞ異世界といったカンジで紐でつながれた皮の表紙の分厚いものだった。
「記憶戻ってない状態でいきなり5年生の内容だから難しいだろうけど…」
俺はその表紙に書かれてあった文字をみて驚愕した。
「魔法学…」
まさに、これぞ異世界だ。