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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第2章 私は驚いている
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私は驚いている 5

倫太郎君とお昼を食べながら話の続きをした。

「こちらの1年はね。」

「私の世界の10年?」

「そうだよ。」

 

「だからね。倫子ちゃんは60年向こうで過ごしただろう?」

「私は6歳なの?」

「うん。こちらの世界の理につられたんだね。」


「もしかしたらとも思ったけど。ちゃんと倫子ちゃんは6歳になったよ。」

 私は思わず額に手を当てた。

「賭だったの?」


 倫太郎君は慌てて首を振った。

「昔,やっぱり向こうの世界からきた人がいたらしいけど,ちゃんとこっちの理につられて20歳の人が2歳になったんだ。」

「だから,あのとき赤ちゃんって?」

 倫太郎君はにっこり笑った。

「うん。あのときだと1歳になっちゃってたね。」


 話しながら美味しい昼食をいただく。一恵さんと坂木さんがやっぱりお給仕してくれる。クリームで煮たジャガイモが美味しい。分厚い魚の切り身に醤油とも違う緑色のたれがかかっている。何だろう。お豆腐みたいな白い四角のもの。上に醤油?やっぱりお豆腐かなぁ。サラダの上には魚介も散らされていて,目にも鮮やかだ。こっちにあるのは何かなぁ見慣れない丸い物が入っている。ちゃんとご飯はお茶碗に入っていて,お味噌汁やお新香まであった。


 これが夢だとしたら私はずいぶん現実的だ。自分の知っている食べ物ばかり。どうせ夢ならもっと物語の中みたいであってもいいのに。色とりどりの宝石のような食べ物とか・・・想像力が貧困なせいかあまり浮かばないけれど。


 そんなことを思っていると倫太郎君が,あのね・・と話し始める。

 

「美味しかった?」

「ええ。おなかいっぱい。」

 コトンとデザートの皿が置かれる。苺だ。


 倫太郎君の話には驚くことばかりだった。

 どうも夢ではないらしい。

 60歳から6歳になったらしい。

 これからここに住んで欲しいらしい。

 でも・・でも・・。


「倫太郎君,おうちの方達は?」

 倫太郎君はにっこり笑った。

「ここは僕の家なんだ。」

「え?」


「倫太郎君のお父さんやお母さんは?」

「父も母も隣の国に住んでいるよ。」

 こともなげに言うので驚いた。

「隣って,韓国とか中国?」

「違うよ。この国は倫子ちゃんの住んでいた日本と違って,北国,東国,中都国,西国,南国という小さな国が5つ集まっているんだ。日本とほぼ同じ形だけれどね。」

 冗談を言っているようには見えない。

「そ・・そうなんだ。」

「うん。因みにここは中都国(なかつこくだよ。今,両親が行っているのは東国だ。」

 

「ご両親様は,外交官であらせられますから。」

 と坂木さんがフォローする。

「一人でお留守番なの?偉いね。」

 私が言ったら坂木さんも一恵さんも思わずといったように笑い出し,すぐ失礼しました。と謝ってきた。


「・・・倫子ちゃん,今,君は6歳なんだよ。」

「・・・ああ6歳の子に言われる言葉じゃないんだね。でも中身は60歳だからね。」


 そう言ったら倫太郎君まで笑い出した。本当のことなのに。

 

「まだ春休みだから,たくさん倫子ちゃんと遊べるよ。」

「私はもうこれからずっと休みだよ。退職したからね。」


 すると,倫太郎君が真剣な目で言った。

「たぶん,この休み中に倫子ちゃんは外見だけで無く,まだ変わるかもしれないんだ。」 

「どういうこと?」

 

 前に来た20歳の人は2日くらいで中身も2歳に引きずられてしまったらしい。これは大変だ。この記憶をなくしたくない。

 そう言うと,倫太郎君はポケットから金色の瓶を出してきた。

「これはおばあさんが作った菜の花のエキスだよ。これを飲んでくれるかい?」

「飲むとどうなるの?」

「たぶん,記憶は残るはずだよ。」

 

 菜の花のエキスはとても苦かった。そう言うと,

「もう味覚が年齢に引きずられ始めているね。」

「これが苦く感じられるのってお子ちゃまなの?」

「そうとも言うね。」 

   


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