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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第3部 第2章 私は歩き出す
60/69

私は歩き出す 9

影の話は簡単だった。いろいろなこと・・・多分聞かせたくないことをすべてはしょっているに違いない。


「車に乗って,いろいろ話しかけられたな。最初は当たり障りのない小物の話とか,広川さんの家に行ったことがあるかとか・・・」


 そのうちに,キャンディーを勧められたそうだ。

「食べると眠ってしまう,睡眠薬入りの奴さ。

俺も使ったことがあるからな。波動を探るまでもなくすぐ分かった。触れば大体の成分も分かるしな。」

「それを食べたの?」

「まさか。

 食べる振りして座席の後ろに上手に押し込んださ。」

「それも擬態とか偽装とか言う技術で?」

「いやいや。簡単なトリックを使ってさ。包み紙が綺麗。と言ってわざわざ目の前でたたんでみせてさ。」 

 

眠ったふりをして英田さんの仲間のいるところまでついて行った影は,結構豪華な部屋に運ばれたのだそうだ。そろそろと目を覚ました振りをして,起き上がって見せた影に,あくまで英田さんの振りをしたまま,いろいろよくしてくれたという。


「遅くなったので,夕食をと誘われ,家に連絡すると言うと,もう連絡してあるというんだ。

まあ。困った振りしても,連絡をしたという言葉には疑ったりせずに,ありがとうと言ってな。向こうはしめたという顔をしていたけどな。

 そしたら夕食の席には,ロザリアの高官がいて,まあ・・・いろいろとね。」


「いろいろって?」

「まあ。そのあたりはな。」

・・・

「なかなか正体を見せないまま夕食は続いたんだが・・・食べ物の波動を確認しながらの食事は疲れたぜ。」

影はお茶をゴクリと飲んだ。

「それでも擬態を保持するためになるべく沢山食べなければならないし・・・それは奴も同じだったようで,高栄養の飲み物が目の前にあったな。無邪気な振りして,それちょうだいと言って,譲ってもらったけどな。まあ実際はかなり渋ってたけどな。」

にやりと笑って言う。

「高官は,ロザリアに留学しないかと盛んに薦めてきたぞ。

 執拗と言っても過言じゃないな。」

・・・

「もちろん,考えさせてくれと言ったんだがな。」


夕食後,帰るというと,突然彼らは豹変したそうだ。

「最もその頃には俺の仲間や城山氏,広川氏から派遣された者達が辺りに潜んでいたけどな。」


なんやかんやあって,ロザリア人達は一網打尽になったそうだ。なんやかんのお部分も本当は知りたいところなのだが・・・

 結構な立ち回りだったのか・・その時,英田さんが怪我をしたらしい。友だちとしてつきあってきた英田さんを思うと,心配になるが。




キニシナクテイイノヨ

 アノヒトタチハ アナタヲ ロザリアニ ツレテイクツモリダッタ

 テイコウスレバ チイサナコドモ 

 アシノ1ポンデモ オッテ ツレテイケト オモッテイタノヨ


・・・その日のうちにけりが付いたなら,何で3日も?

 

「もう一人の大学園への留学生も捕まえたかったからさ。

奴は英田より長くこの国にいて,沢山の者達を誘拐しているからな。」


 彼からは,情報を引き出し,誘拐された者達の行方を探るために。

「こんなことは君にはあまり言いたくないが。

 ほとんどが処分されていたよ・・・。」

・・・・・

「本物の英田さんは?」

「・・・・駄目だった。

 おまけに・・英田のところは家族全員入れ替わっていたんだ。

・・・父親は西国にある大きな会社の子会社経営・・・母親は家にいたが・・・。

 今後会社は下手したらつぶれてしまうんだろうな・・・・・。」


 言葉がない。なんということだ。自分たちのどんな欲か知らないが,そのために他の人たちの未来を,人権を踏みにじるなんて。・・・会社の人たちも気の毒だ。なんとかならないのか・・


ダイショウブヨ ホンモノノ アイダサンノ オジサンガ 

ナントカスルワ サイゴクノ カイシャノ シャチョウヲ シテイル

・・・イイヒトヨ


「これから政府も対応が大変だろうさ。

・・・おそらくロザリアは,イツモのことだが,知らぬ存ぜぬを繰り返すだろうからな。」

そういった影は冷えてしまったお茶を飲み,甘いケーキをつまんだ。

一息付いた後,さらに言う。


「連合の方も忙しくなりそうだ。奴らはこの中都国だけでなく,連合国の中のほとんどすべてに擬態している 奴らを送り込んでいるからな。

 ・・・その中心人物が大学園の留学生さ。

 奴の身柄を拘束したからには,ロザリアの潜入者たちもおそらく・・・しばらくはやってこないだろうし,活動もなかなか出来ない状況に陥るだろうさ。」


話が終わる頃,おじいさんとおばあさんも帰ってきた。

 私たちを見るなり,おじいさんが厨房に連絡を入れる。


「今日も学習室でお召し上がりですか?」

 連絡ボタンを押したとたん,そんな声が聞こえる。

「ああ。バイキング形式で。甘い物も沢山付けておくれ。」


影はまたこっそり入ってきたらしい。影が味方で良かった。


 食事の時も,まだ詳しい話を聞いていないおばあさんに対して,影の話はもっぱら差し障りのない話題に終始していた。

 一網打尽にしたという辺りもぼかしていたし,大学園のロザリア人の話もぼかされている。そんなに隠さなくたって。隠されると気になるものだ。


「広川さんには連絡したの?」

「ここへ来る前に。明日から普通通りだとね。」



 広川さんは昨日から学園に通い始めている。

 夕べの連絡で,

『倫子ちゃんと水戸君の風邪は私のより質が悪いって言っておいたわよ。』

2日休んで,悩んで泣いて吹っ切れたという広川さんの声には暗いところはなかった。


 光も,指輪を通して広川さんの心が分かったみたいで,いつものように


 ダイジョウブヨ


 と教えてくれた。


『英田さんはまた西国へ引っ越したことになっていたわ。こんなに転出入(ではいりがあることって珍しいから,みんなも驚いていたわ。』


 私もそろそろ学園に行っても大丈夫だろうか・・・


 


そろそろ学園に戻ります。でも・・・・・

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