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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第3部 第2章 私は歩き出す
55/69

私は歩き出す 6.5

・・・・・広川夏子


 どうしてこうなったんだか。


 私は車から降りて,倫子ちゃんの姿をした影と手をつなぐ。小さい手。不思議・・・

 影はにっこり笑って,

「質感も大事な擬態なのよ。」

とささやいてくる。

 声は普通に倫子ちゃんの顔の位置から聞こえてくる。どうなっているんだろう。


私たちはいつものようにゆっくりと歩く。本当に倫子ちゃんといるようで違和感がない。 

 待ち合わせ場所の小物屋さんの前に着くと,もう山名さんと英田さんが待っていた。

「こんにちは。」

「ごきげんよう。」

「こんにちは・・・」

「こんにちは。」


「あれ?」

「何?」

 英田さんが私を見て叫ぶから,私はびくんとする。

「指輪よ~ゆ・び・わ!!」

忘れていた。倫子ちゃんの守りが付与されている指輪。銀色に輝いて私の右手の中指にある。

「ああ。これ・・・」

「さっき水戸君にもらったのよね~」

 影が楽しそうに言うから,山名さんと英田さんが

「きゃー。うらやましい。」

 なんてそばに寄ってきて見せて見せてと騒ぐ。

 他のお客さんも店から出たり入ったりしているから恥ずかしい。そう言うと,

「後で聞かせてよ~」

 そう言ってやっと静かになった。やれやれだわ。影を見るとにっこり笑っている。まったく。でも,普段通りに話せたことに少しほっとする。そんなに緊張していたのかしら。影にはそれが分かったんだわ。


お店屋さんに入る。ここは今,学園の女子のあいだでとても人気のある店だ。どんな物があるのか興味津々だったはずなのに,何かあるのではないかと身構えてしまう。

 しばらくそれぞれ物色していたが,それぞれ見つけた物を教え合うことになった。


「これよ。」

英田さんが薦めてくれたのはペンだ。

「このペンはね,ここをひねると・・・」

消しゴムに見える。

「何、これ?」

影が聞く。

「ふふふ・・・消しゴム」

「新しくないじゃないの。」

私も思わず言う。

「いいえ。この消しゴムは何でも消しちゃうのよ。ペン字でも印刷された字でも・・・」

「成績表の改ざんに役立つってことね。」

山名さんの一言で思わず笑ってしまう。

あははは。

やだ。 

しないわよ~。


 こんなことをしているうちに時間は過ぎていく。今のところ、何もおかしなことはない。

 ラプに行きましょうと言うことになり,歩き出す頃にはちょうど小腹も空く頃だった。


 ラプに着く。お店は結構沢山の人で賑わっている。こんなところで何か仕掛けては・・・こないわよね。仕掛けてこないと思いたい。


影が私の手を引く。

「?」

小声で

「緊張しすぎ。ばればれよ。」

ってささやいてくる。

「仕方がないわ。私は女優さんじゃない。」

私もささやき帰す。

「何こそこそ言ってるの?」

山名さんが聞きとがめて言ってくる。


「今日は何個食べていいのかしらって聞いてたの。」

影が無邪気そうに言うから,

「何個でもいいんじゃないの?」

英田さんが返す。

「だって,今日は広川さんのおごりなんだもの。」

聞いていません。

・・・影め・・・・仕方がない。

「遠慮しなくていいわ。でも・・・お財布の中身と相談よ。」

「あら,私たちもいいのかしら。」

ええっ

目を丸くしてびっくりしていたら

「冗談よ。倫子ちゃんに薬学の勉強を教えてもらうかわりにラプなんでしょ。」

と山名さんが言う。

「そうなのよ。」

影め・・・・


 何事もなく,ラプを出る。

「じゃあまた明日。」

「またね。」

「倫子ちゃん,夕飯入るといいわね。」

 ・・・そう。影は3つ食べたのだ。

 いくら何でも倫子ちゃんはそんなことはしないはず。


二人で手をつないで車のところに行く。

 私は自分の迎えの車に,影は倫子ちゃんの迎えの車に。


 それぞれ分かれて出発する。


 しばらく走ったところで,急に前の座席との間に暗い仕切りが降りてくる。

 どうしたの?前が見えない。

「え?」

かちゃっ,かちゃっ,ドアの鍵が音を立てて閉まる。

 窓が不意に暗くなる。外が見えなくなる。

「え?何?」

あわてて

「どうしたの?」

と聞くと,頭上から声が聞こえてくる。スピーカー?

「少しおつきあいしてもらいたくて。」

いつも運転手をしてくれる人?に見えたが・・・もしかして?

「分かっているんでしょう?僕は東ですよ。」


うそ・・・


 手が端末に伸びる。さっき話し合って決めた番号をひとつだけ素早く押す。

 そして指輪をしている方の手を握って助けてと心の中で叫ぶ。

 助けて助けて影!倫子ちゃん!

・・・不意に指輪が温かく感じられる。

 ダイジョウブヨ

どこかでささやく声がする。


「端末から手を離しなさい。ここで貴女の動きは見ることが出来ますよ。端末はほら,その皿にのせて。」

仕切りの下に小皿が置かれている。

ためらうと,

「早くしなさい。さもないと,眠っていただくことになりますよ。」

仕方がない。私は端末を袋からだし,皿に乗せる。皿はすうっと下に吸い込まれる。収納庫か何かか?

「心配なさらなくても,後でお返ししますよ。・・・分析した後でね。」

大切な番号がいくつか登録されている。どうしよう・・・


かなり走ったところで車が静かに止まった。

ここはどこなの?

東と名乗った,家の運転手さんがドアを開けて降りる気配がする・・・

私の方にやってきたのだろう・・音がする・・・立ち止まった?ドアが開く。

「降りて。」


・・・・・


「素直に降りないと,車ごと処分になるよ。」


その声と姿は確かに東。

私はゆっくり車から降りた。





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