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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第3部 第2章 私は歩き出す
50/69

私は歩き出す 2.5

・・・・広川 夏美


倫子ちゃんと学園長からもらったお茶を飲んでから,二重にぶれる人がいることに気が付いた。倫子ちゃんもぶれている・・・金髪の今までより少し大人びた・・・と言っても10歳前後の少女が重なって見える。光の神子・・・金色の髪は光り輝いている。ただの金髪ではない。

倫子ちゃんが光の神子だったなんて・・・すべてを凌駕し,すべてを破壊し,すべてを一新し・・・すべてを統べる・・・・・だったっけ・・・・本当だろうか・・・

・・・私にはただのかわいい妹のような存在・・・。妹の秋子を不意に思い出す。いや・・・あの子と同級とは思えない。やはり倫子ちゃんは私の同級だ。


 前に目をやる・・・ぶれて見える人が一人・・・二人?

前の席の方の東君と・・・え?まさか・・・英田さん?

 うそ。彼女は中学園から一緒だった・・・いいえ。中学園が終わる頃の転入だった。どこから来たって言ってたっけ・・・。彼女も悪い奴の仲間なの?思いたくないけれど・・・楽しく語らったことや,一緒に遊んだ日のことがよみがえる。違和感は感じなかった。いつも楽しかった。彼女も楽しそうだった。・・・でも・・・・そんなに前から?・・・倫子ちゃんとは関係ないのか?・・・・不安が募る。


倫子ちゃんを見ると彼女も気が付いているようで不安そうな表情をしている。



 異文化理解の授業。

 日の本と違う様々な国を取り上げ,その国の人に講義をしていただく。

 今日からしばらくはロザリアから大学園に留学しているという女の人が来ることになっていた。きっと楽しい話を沢山聞かせていただけるに違いない。私はとても楽しみにしていた。


でも・・・にこやかに笑って自己紹介しているこの人も・・・ぶれて見えている・・・え?・・

 金髪の姿にぶれて見えているのは,黒髪のもう少し年がいっている・・・この人・・男性だ。この人も擬態しているのか。何のために潜り込んでいるのだろう?

影が言うように,見極めるためか?

みんなが倫子ちゃんを試そうとしているのか?



 授業の後、倫子ちゃんと手をつないで車寄せの方に行こうとしたら,山名さんと英田さんが近づいてきた。思わず警戒しそうになる・・・

「ねぇ,土曜日,ラプ・ブルーメにいかない?」

と誘ってくるので

「土曜日?午前中は用事があるけど。午後ならいいわよ。」

変に思われないように・・難しい・・・さらりと言った。

「じゃあ,詳しくはまた明日にでも決めましょ。」

にこにこしている山名さんはぶれて見えていない。ああ良かった。彼女こそ小学園からのお友達だから。

「おい」

冬彌君が近づいてくる。冬彌君もぶれていない。ほっとしている自分がいる。

「俺との約束は?」

「それは日曜日でしょ。」

「おまえ,二日も続けてラプ通いかよ。太るぞ。」

「大きなお世話。」

二人がじゃれ始めたので,いつものように

「先に行くよ」

と声を掛けて先に行くことにした。

英田さんが何か話しながら一緒についてくる・・・なんか嫌。でもそのすぐ後を山名さんと冬彌君もついてきているようなので少し安心だ。


車寄せのところには倫子ちゃんの迎えがいた。

「じゃあまた明日ね。」

倫子ちゃんが無事車に乗り込む。見送ると少しほっとする。


山名さんも冬彌君もいなくなった後・・・英田さんが私に話しかけてきた。

「ねぇ。なんかお昼休みから変だよ。どうしたの?」

なんと答えたものだろうか。

「倫子ちゃん、城山学園長に呼び出されていたよね。倫太郎君に何かあったのかな?」

・・

「分からないわ。私はすぐに失礼したから。」

「あら,一緒に戻ってきたじゃないの。」

「終わるまで,職員室で待っていたのよ。」

「へぇ。」

納得していないようだ。話せば話すほど下手なことを漏らしそうで怖い。黙っているのも不自然だ・・・私は意を決して話しかけることにした。


「そう言えば,英田さんってどこから転入してきたんだっけ?」

「あらぁ。本人も転入してきたことなんて忘れていたのに。よく覚えていたわね。」

「いえね。二人も転入生が入ってきたでしょ,だから思い出したの。水戸君はエチーゴ市。東君は東国。英田さんはどこからって言ってたかしらって思ったら気になっちゃって。」

うまくごまかして言えているだろうか。

「あら。私は西国よ。」

西国。大陸に近い国。

「そうでしたっけ。ごめんなさい。すっかり忘れていたわ。」

助かった。家の車だ。

「じゃあ。家の車が先みたいだから。お先に。」

「ええ。また明日。」


家に帰って,じりじりと父の帰りを待つ。いつもの帰宅時間になっても父は帰ってこない。どうしたんだろう。外出していた母が帰ってきた。

「お父様はまだお帰りにならないのかしら?」

「あら。今日はお帰りにならないわよ。何でも中央の方で対応が大変な事件が続いているとかで。」

「事件ってなんですの?」

「機密だとかで教えてもらえなかったわ。あぁそうそう。夏子と連絡を取りたいんだが,連絡しても出てくれないんだ。帰ってきたら連絡してくれって言ってたわよ。」


しまった。あの事件で動転していたため,いつもならする端末の確認をしていなかった。

私は慌てて端末を取り出す。

何件か連絡が入っている。そのうちの2件が父だった。


「ありがとうお母様。長くなるかもしれないのでお部屋で連絡するわ。」

部屋に入り,鍵を掛ける。

握りしめていた端末に慌てて父の番号を表示させ,発信する。


鳴っている・・・鳴っている・・・早く出て・・早く・・


「お父様?」

・・・・・

学校での出来事を報告する。うなる父・・・

「おそらく,我々が思っているより多くの者が学園はもちろん国中に潜入しているようだ。

城山教授が作った薬はこれから政府にも届くだろうが。誰に飲ませるかが問題になってくるな。みんな疑心暗鬼の塊になる可能性もある。

・・・・・・

・・・まず,おまえが言う『ぶれて見えない者』を探すことからか・・・。」


・・・


「光の神子・・・やはりそうか。」

「ご存じありませんでしたの?」

「神殿からは,名前は挙がってこなかったが・・光の神子が現れたという報告は受けていた。彼女がそうだろうとは思っていたが。

・・・

 そうだよ。誰が光の神子かを特定し,発表することは,あまり良い策とは言えない。彼女を試そうと沢山の者が沢山のことを仕掛けてくるだろうからね。

・・・そうか。

 おそらく,学園でのいろいろな出来事は,最初は誰かを特定するため,もしくは確認するために。次に特定出来た本人を試すため・・・といえるだろうな。

・・・うむ。

影が名乗ってきたか。ほう。

 ・・・

 こちらの事件?まぁそれはまた後の話だ。

・・・

 え?・・・分かった。今行く。

悪い。話はここまでだ。

 夏子,今は倫子ちゃんをしっかり守っていておくれ。」


頼んだよ・・・

ツーツーツー・・・・

最後は誰かに呼ばれて,急いで告げる言葉で終わった。


私の聞きたかったことは半分も聞けなかった。

私は考える。どうしたらいいのだろうと・・・

夜は更けていく。母が食事はどうするのと聞いてくる声がする・・・・




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