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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第3部 第2章 私は歩き出す
48/69

私は歩き出す  1



 昼休み,いつものように中庭で昼食をとっているところに,学園長からの呼び出しがかかったと,別の子が言いに来た。急いで私は昼食を済ませる。何の話だろう。


 広川さんが,心配して付いてくると言う。おびき出しではないと誰も保障出来ないので,二人して学園長室に向かった。


中庭から教室棟に入り,廊下を進む。おや。東君。

「やあ。どこに行くの?」

「学園長室よ。」

「何かあったのかい?」

「分からないわ。たった今聞かされたところだから。」


立ち止まらず足早に進む。でも東君はしつこくついてきながら話しかけてくる。

すべて答えは広川さんに任せ,何も知らない子どもの振りをして歩く。もちろん手はしっかりつないでいる。お互いの手が汗ばんでくるのが分かる。


管理棟に入る直前,管理棟の方から水戸君が歩いてくるのが見えた。

それを見て,東君は急に話しかけるのをやめて立ち去っていく。何なんだ?

彼はただの転入生ではないのか?やはり何らかの息がかかっているのか?

後ろ姿を見ていると,急に振り返った東君はにやりと片目を瞑った。ウインク?そのまま足早に視界から消えた。

私たちは向きを変えて管理棟に行く。

「あら?確か水戸君が歩いてきていたはずなのに。」

水戸君はどこにもいなかった。

「トイレかしら。」

「この辺にはトイレはないのよ。脇に行く通路もないはずなのに。どこに行ったのかしら。」

不思議なこともあるものだ・・・・


学園長室に着いた私たちに,おじいさんは

「まあ座りなさい。広川君も。戻らず一緒に聞いてくれたまえ。」

お茶を出してくれる。


座ってお茶を飲んだ私たちに,

「この学園に,今, 姿かえの呪術を使っている者が何人かいることが分かった。」

は?

「今君たちに飲んでもらったお茶は,それを見破る力を増幅させる物だ。」

そう言って自分もお茶を飲む。

SF?ファンタジー?スパイ物?

一瞬混乱する。


「姿かえ?」

「偽装とでも,擬態とでも言うことが出来るかな。自分が自分であると見破られないための呪術があるんだよ。自分で掛けることも,人に掛けてもらうことも可能だ。」

「それは・・・どこで誰が・・・自分や他の者をだまそうとしているか分からないってことですか。」

広川さんの顔色が少し悪い。

「うむ。高学園ではまずないと思っていたのだが。

この姿替えは・・星の力とも地の力とも,もちろん人の力とも違う。

・・・天の力と言霊の守りがうまく合わさって初めて出来るものだ。

だが,そうなると,出来る者は限られてくる・・・」


「世界でも天の力の持ち主は多くないと聞いていますが。」

「・・・しかし,実際は,姿替えは多く行われている・・・倫子ちゃんは知っているだろうが,かくいう私も得意だ。

 このことから考えるに,今来ている者達の姿替えはおそらく天の力ではないのではないか?私と同じような力だとしたら・・・やっかいだな。

・・・もしくは,力を持った者達が祈りを込めた物を身につけているに違いない。その方は対応は楽だがな。」

取り上げればいいんだから。おじいさんは言う。


でも,おじいさんの力って・・・そうだ。倫太郎君はおじいさんの力を借りて姿を変えてきたって言っていた。地でも星でも人でもない?

・・・・・ おじいさんは立ち上がって窓辺に行った。外をじっと見ている。それから不意に振り向いて切り出した。


「広川君,君はお父さんからいろいろ聞いているはずだ。倫子ちゃんを狙う者が近づいていることを。」

改めておじいさんの口から狙う者の存在を言われて動揺する。

「今日の事故もおそらく倫子ちゃんを狙って起こされたはずだ。」

「怪我をさせて何がしたいんでしょう?」

広川さんの疑問はそのまま私の疑問でもある。


「1つはどういう対応をするか見極める。もし対応が悪くて怪我をした場合はそのまま・・・連れ出す・・・死んでしまったらそれだけの器でしかなかったと切り捨てる・・・と言う線が濃厚だろうな。」

「あの東という人が犯人ですよね。」

「いや。一概にそうとも言えない。仕組まれたことに引っかかっただけなのかもしれない。」

・・・・・

「さっき,水戸君に俺は影だと言われました。」

「ほう。」

「本当でしょうか?」


おじいさんは答える代わりに腕のところが焦げた白衣を出す。

「見てごらん。」

目をこらす。白衣が揺らめいて見える。え?

チリリリ

え?危険?


イイエ チガウワ ヨクミテ


手が勝手に白衣の上に伸びる。私の手が白衣の上をさらりと横切るのと一緒に光が照射される・・・

「おお」

「まあ」

「え?」

白衣は白衣じゃなかった。灰色の作業着のような物に姿を変えていた。


「あ~あ。とけちゃいましたね。」

声に3人でぎょっとする。

「驚かして済みません。影です。」

そう言って現れた人は,水戸君とは髪の色だけは一緒だけれど,似ても似つかない30歳くらいの人だった。

「私の偽装をといちゃうなんてねえ。」

と頭を搔き搔き言う。

「白衣にも術を掛けていたんで・・

 東に持って行かれなくて良かったですよ。

 城山先生,持ってきてくださってありがとうございました。


・・・こんなこと言ってる場合じゃなかったですね。時間がないから手短に言いますよ。

 東は,汎国の人間です。上手に擬態していますがね。

 彼は,見極めに来ているんです。光の神子の倫子さん,あなたのことをね。

 他にも何人か。意外なところに意外な国の人物が潜んでいます。

 今言うと,不自然な接し方になって相手に警戒心を与え,逃がしてしまうこともあり得るので,東のことしか伝えませんが。」


「光の神子・・・」

広川さんがつぶやく。

「重要な人物とは知っていたけれど,まさか光の神子とは・・・・」

広川さんは私を見つめる。少し悲しそうに。


「内密に頼みますよ。」

おじいさんの言葉に,

「大丈夫です。・・・でも,父に伝えても大丈夫ですか?」

と返している。

「お父さんはおそらく知っていらっしゃると思いますよ。」


そんな声を聞きながらも,私は影と名乗る人に疑問をぶつける。

「見極めるってなにをですか?」

影と名乗る水戸君のようなそうでないような人はにっこり笑う。

「力ですよ。貴女の力。救う力になり得るのか,はたまた救われないのか・・・

ほら,学習したでしょう?


 おまえたち,みんな簡単に善だ悪だというんじゃない

 俺たちゃなにも知っちゃいないんだぜ

 本当の悪とは何だと思うんだ?

 本当の善とは何だと思うんだ?

 俺と一緒に考えようじゃないか」


「なんでその詩を?」

おじいさんがびっくりしたように聞いてくる。

「国語の教科書に載っていたんですよ。」

影がこともなげに答える。

「一年生の教科書にか?そんな馬鹿な。その詩の学習なんて一年生のカリキュラムにないぞ。」

教科書のすり替え?全員分と教師分?馬鹿な。


それからまた大変だったが,波紋を投げ込んだ水戸君(と言っていいだろうか)はすでに室内にはいなかった。

私たちも午後の授業に間に合うようにと教室に返されたのでその後のことは分からない。


歩きながら私たちは無言だった。

短い時間の中で得られたあまりにも沢山のこと・・・

話そうにも,誰が聞いているか分からないこの状況で。

「倫子ちゃん。今日・・・ううん。土曜日,倫子ちゃんのところに行ってもいいかしら。」

私は少し考えた。倫太郎君が帰ってくるかなあ。でも,帰ってきてくれていたらこのことも話し合った方がすっきりするかも・・・

「いいわ。何時?」

「本当に一刻も早く。今夜って言いたいところだけれど・・・土曜の朝一番でどうかしら。」


 約束も出来たことだし,教室に急ごう。今日は水曜日。土曜日には遠すぎる。

 水曜日の午後は最初は生物基礎だ。ちょっと眠くなるかもしれない。さらにその次は異文化理解。・・・これこそ今の私に必要なことかもしれない。



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