私は目を覚ます 10
水戸君が影?!私と広川さんは顔を見合わせた。
影は結構名が知られている。つまり年齢はそれほど低くないはずだ。変装にしてはちゃんと広川さん達と同じような年頃に見える。本当か?広川さんはどう思ったんだろう。影と聞いても不思議に思っていなさそうに見えるが・・・彼女も護衛の存在は知っていたんだろうか。
そこに山名さんや英田さんがやってくる。
「大丈夫だったの?」
「ええ。水戸君がかばってくれたの。」
「へぇ。水戸君意外といい奴だったんだね。」
「いや。それほどでも。」
水戸君はにこやかに受け答えしているけれど,目は東君から離れていない。
ばたん・・・ドアが開く。
「学園長」
おじいさんが青い顔をして息を切らして立っていた。きっとまたモニターを見ていたんだ。
先生が慌てておじいさんの方に行く。
「報告したまえ。」
慌てて先生が報告している。東君は申し訳なさそうな顔をして神妙にそばに立っている。
「すみませんでした。何かに躓いちゃって。」
下を見るが何も躓けそうな物はない。広川さんも,水戸君もそう思ったみたいで顔を見合わせる。
実験を始めようとしていた他の子達もいったん実験をやめ,一斉にバーナーを消した。
バーナーのゴーッと言う音が消え,学園長と先生,東君の声だけが響く。
みんな黙って話を聞いている。
それから,同じ班の広川さんからも,水戸君からも,私からも話を聞く。
学園長は一通り話を聞くと,水戸君の方を振り返った。
「どれ,水戸君?でいいのかね?そうか。ちょっと腕を見せてくれないか。」
「はい。」
「ほう。白衣は焦げているね。めくってみてもかまわないかね?」
水戸君は腕をめくってみせる。
「なんともありませんよ。」
確かに白衣の下の白いシャツも,その下の腕も何ともなっていなかった。
「ふう。不幸中の幸いだな。」
「はい。」
「いずれにしても,倫子君をかばってくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
「この白衣は,私が預かろう。新しい物を早急に用意させる。」
「あのぉ」
東君が口を挟んできた。
「なにかね?」
「その白衣,ボクに弁償させてくれませんか?」
「いや。学園でのことなので,君は心配しなくていいよ。」
しばらくしておじいさんは,十分気をつけなさいと全員に向かって言葉を残して,焦げた白衣だけ持って実験室を出て行った。
先生が気を取り直した頃にはもう授業の終わりの時間だった。
みんながやがやと教室に戻る。
「昨日からやたらと変なことが起きるわねぇ。」
誰かが言うと,みんなが賛成する。
「何かが起きているのかもな。」
冬彌君が言うから,山名さんも,
「私たちの知らない何かってこと?」
と返している。
確かに・・・何かが起きている。いや・・・おきようとしているのか・・・
おまえたち,みんな簡単に善だ悪だというんじゃない
俺たちゃなにも知っちゃいないんだぜ
本当の悪とは何だと思うんだ?
本当の善とは何だと思うんだ?
俺と一緒に考えようじゃないか
なんだろう。急にあの詩の一節が浮かんできた。
妙な詩ですが,これからも出てきます。




