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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第3部 第1章 私は目を覚ます
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私は目を覚ます 8

神殿では,いろいろな話をする。その後,その話に関係あることについて検証しつつ力として自分のものに取り入れる。簡単なようで,なかなか難しい。


特に今日は,グラウンドでの一件があるので,その話題に終始するだろう。

 静かに応接室で待っていると,白い衣に袖や裾が金の刺繍。神官長がやってきた。


 挨拶ももどかしく,グラウンドでの話をする。

「ふうむ。黒い渦?ですかな?」

「ええ。」

「まがまがしさを感じたとおっしゃる?」

「威圧感もです。」


ふむ。神官長さんは頷いておじいさんの方を見た。

「城山さん?」

おじいさんも頷いてから話し始めた。

「私は窓から見ていました。確かにまがまがしさを感じる黒い渦でしたね。まるで,何もかも吸い込もうとするかのように感じられました。実際,砂埃がかなり激しく上がりましたし,帽子や植木鉢をいくつか吸い上げていましたよ。」

そうなのだ。何人かは帽子を飛ばされていた。私の帽子は,つば広だけど,ちゃんとリボンをあごで結ぶタイプだったから,持って行かれそうになったけれど・・・持って行かれなかった・・・


「そして・・光ですか?」


・・・わたしは手のひらを広げて指輪を見せた。

「指輪が熱くなったんです。」

「見せてください。」

今は熱くない,倫太郎君がくれたシンプルな指輪。金色に輝いている。そっと抜いて神官長に渡す。


「・・・かなり強力な祈りが込められていますね。」

「分かるんですか?」

「多分これに祈りを付けた人は,今ちょっと立てないくらいかもしれませんね。」


!!!私はおじいさんの方を慌てて向いた。おじいさんは穏やかに私を見返す。

「大丈夫だよ。ちゃんと連絡は取ってある。やつは元気だよ。」


・・・・・連絡の手段が欲しい。痛切に思う。スマホに似たこの世界の端末。私も欲しい。私はテーブルに目を落とした。ここで心配しているのは嫌だ・・・

 テーブルが揺れる。え?またあの黒い渦なの?

 ちりり・・・胸の奥で鳴り響く

 チガウワ ミテ


テーブルに倫太郎君が映っている。

 え・・・

 倫太郎君もこちらに気が付いたみたい。驚いて身を乗り出している様に見える。どこにいるの?やはりテーブルについているみたい。

コップ?脇にあるのは薬?大丈夫なの?

 大丈夫?口を動かす。向こうも分かったみたい。大丈夫だよって口が動いた。


「倫子ちゃん?」

 おじいさんが怪訝そうに呼ぶ声がしてはっとする。テーブルはテーブルだ。何の変哲もない,重厚な木のテーブル。倫太郎君の姿はどこにも映っていない。


「力を感じました。倫子さん,何かありましたか?」

神官長は何かあったことに気が付いたようだ。

「ここに・・・倫太郎君の姿が映ったんです。」

「ほう・・・水鏡ですか。水ではなくこのテーブルで。・・・」


・・・・力を付けましたね・・・


「光があれば,影が出来る。影は光がなくては生じません。闇もまた同じ。

・・・いいえ。むしろ闇が先で光が生じたのかもしれません。

始めに言霊ありき・・それ以前はおそらく混沌たる世界。・・・そこは闇の世界だったはず。言霊は光の中でなく,闇の中で生まれたと言えるでしょうから。

・・・

影・・そう影だけでなく・・私たちには闇も時には必要です。しかし。影や闇は,優しいけれど・・・時には私たちに害をなします。身の回りに生じる闇や影,心に生じる闇や影も・・・


倫子さん,貴女はどれを選びますか・・・」



常に真上からすべてを照らし,何も曇りのない・・光で満ちあふれる・・・一点影や闇のない世界か・・・

・・・影や闇もまた善として共存していく世界か・・・


そんなことは言うまでもない。共存だ。


 共存を選ぶと,道は長く険しいかもしれませんよ。

 影のない世界・・・すべてが白日の下に・・・

どうですか?


 いやだ。人は光だけでは生きていけない。


 すべてあるがままに。ヒトは完全に善なるモノでもなく悪なるモノでもない


・・・・

 ・・・・


「あの黒い渦は何だったのですか。」

「・・・光の神子を特定するために何者かが送ったと考えて良いでしょう。」


「私を特定するんですか?」

「光の神子の特定ですよ。」

私という個人ではなく,光の神子・・・・


「・・・でも,そのまがまがしさを感じたという黒い渦,探す目的ばかりではなさいかもしれません。

  もしかしたら学園を破壊するために寄越されたのかもしれません。」

 え?おじいさんも身を乗り出す。


「学園を?誰が?何のために?」

「・・・分かりません。違うかもしれません。」

「今後も学園に何かする者があるかもしれないということですな?」

 神官長とおじいさんは顔を見合わせる。


  ・・・ありえる。

  十分な監視と警護を考えなければ




 おじいさんと家に帰る。

 車の中は無言だ。少し重苦しい。


 倫太郎君・・・薬を飲んでいるみたいだった。

 ぽつっとつぶやいた私の言葉が静かな車内に響く。


「ばあさんが作った薬だよ。大丈夫だ。」


しばらく私は下を向いて考えた。いいだろうか。図々しいだろうか・・・

意を決してお願いする。

「おじいさん,わがまま言って申し訳ないんですが,私に小型端末を買ってくださいませんか?」

「ほう?!」

「連絡が誰とも取れない状況が嫌なんです。

・・・

私の世界はスマホとか携帯って言う物があって,普段はそれで連絡を取り合っていたんです。この前,広川さんが見せてくれた端末がそれとよく似ていたので・・・。」


おじいさんはポケットから端末を取り出した。

「これのことだね。」

「はい。」

「分かった。明日には届くよう,手配しよう。」

「そんなに早く・・わがままを聞いてくださってありがとうございます。」


私は少しほっとして座席に寄りかかった。

二~三日で簡単に連絡が取れる手段が手に入る・・・

金色に光る指輪を見る。今は熱くも何ともない。

グラウンドでのあの光は?倫太郎君?あなたなの?



イイエ アナタ  アレハ ワタシ アレハ アナタ

ユビワハ ソレヲ タスケタダケ・・・



スマホに似た端末。想像力が足りません。

指輪型通信機とか,ペンダント型とか。イヤリング型も考えたけど・・・

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