私は目を覚ます 4
しばらく後,また近くに人の気配がし,静かに立ち上がることを求められた。
足が・・・
ようやく立ち上がり,また何人かに囲まれるように移動した。
・・・応接室のような部屋に通された。そこには,おじいさんとおばあさん,それから倫太郎君が待っていた。
いつ来たんだろう。
神官達が深く頭を下げ・・・
白地に裾や袖が金色の糸で刺繍された衣を着ている人が,私たちに話し始めた。
「間違いありません。この方は,光の神子です。
・・・この方が,祈りの間で祈りを捧げましたら,光が辺りに満ち・・・すがすがしい空気が広がりました。・・・私たちが祈る何倍もの光・・・何倍もの清浄さ・・でした。
このままこの神殿で・・・そうです。
神殿でいろいろな勉強も出来ますし,是非,このまま神殿で神子として暮らしていって欲しいのです。」
このまま神殿に留め置いて,神子として活動して欲しいようだ。
私は倫太郎君の方を見る。
「いいえ。この子は,家で勉強します。」
倫太郎君がきっぱり言う。
「しかし」
「この子は私の許嫁です。神殿にはやりません。」
おじいさんとおばあさんが困った顔をする。
二人はどう思っているんだろう。
「こうしたらどうかね。」
「何ですか,おじいさんまで神殿にやれというのですか?」
けんか腰?!
「いや。そうだが,違う。」
「?」
おじいさんは提案してきた。
「週に何度か学園帰りに神殿に通う。そこで始原の光について学び,また家に帰ると言うことだよ。」
倫太郎君は,それすら嫌なようだったけれど,最後には承知した。私の意見なんてどこ?
でも,おじいさんの提案が一番私にも良い。
なにがなんだかよく分からない私に,教えてくれる神殿があるならありがたい。
学園帰り・・・
・・・学園に行くのに,身長は成長したとごまかせるかもしれないけれど,髪はどうしたらいいんだろう。染める?切る?
その場を辞して,家に帰ってから,もう一度,みんなで,今後のことを相談することになった。
部屋の中,おじいさんとおばあさんを前に,倫太郎君と並んで座る。
気が付けば,もうお昼だとかで,お昼を食べながら話をするという。食欲がなくなりそうだ。
美味しいはずのスープもサラダもなんだか味気ない。早々に食べるのをやめた私に,倫太郎君が心配そうな視線を送ってくる。
「学園に行くなら,・・・髪の毛ですけれど,切って染めてしまった方がいいですよね。」
私は切り出す。
「いいえ。切らない方がいいわ。」
「なぜですか?」
「倫子ちゃん。もう君も気が付いているはずだよ。」
・・・・
床まで届きそうに伸びた髪はきらきらと光って生きているかのようだ。
辺りの空気がいつもと違う。いつも倫太郎君近くで感じるキンと冴え渡ったような空気。それと似ていて・・でも少し違う・・・髪を中心に感じられているのか?
「染めても・・・いけないの?」
「うん。」
でもこのままじゃ・・・何とか色を変えられないものか・・・悩んでいると,
ワカッタワ
髪の毛が意思を持っているように揺れ動く・・・え?・・・一瞬光って,くるくると渦巻いてふわっと上がる・・・何?・・・しばらくくるくると回ってから・・・ すとんと髪が落ちる。
あれ?金色が見えない。・・・髪をそっと手に取ると,淡い茶色に変わっている。
私も含めてみんな息をのんだ。
「倫子ちゃん,君,今,何をした?」
・・・・・
「聞かれても答えられない。自分でも分からないから。」
「倫太郎。これから神殿でしっかり勉強してもらう方が,倫子ちゃんの,そしておまえのためだな。」
「・・・はい。今のではっきり分かりました。いつまでも手の中に囲っていてはいけなかったのですね。」
・・・
神殿にもう少し早く行っていれば,こんなに悩むこともなかった?
イイエチガウ ワタシガ アナタニ アエタカラヨ
おじいさんが菜の花畑に案内してくれたおかげ?!
アナタノコトハ ナントナク カンジラレテイタノ デモ チョクセツ フレナケレバ アナタダト ワカラナイ
チョウヲ トバシテ ミタケレド 1ピキモ モドッテコナカッタカラ
夜,飛んでいた蝶。あれはあなたが飛ばしていたの?
「・・倫子ちゃん,倫子ちゃん?どうしたの,急に黙り込んで。」
私ははっとして顔を上げた。おばあさんが私の顔をのぞき込んでいる。
「ごめんなさい。」
ヒカリの今の言葉を伝えるべきなのだろうか。
もしかしたら,菜の花畑が枯れたのもヒカリが何かしたから?
・・・ソウヨ アナタト イッショニ イルタメニ ナノハナノ キンイロガ ヒツヨウダッタノ
・・・
「おじいさん,おばあさん,ごめんなさい。」
「どうした?藪から棒に。」
私は今のヒカリの言葉を伝えることにした。菜の花畑が枯れたのは,私の金色の髪に関係していることを。
「髪に宿ったのね。」
ぽつりとおばあさんが言う。
宿った?それとは違うような。
菜の花畑は元に戻るのかしら・・・おばあさんが小さくつぶやいた。
モドルワ イツカ デモソレハ イマジャナイ
「倫子ちゃんの言う『ヒカリ』それが倫子ちゃんの言霊なんだね。」
倫太郎君もつぶやく。
「僕の言霊は,『イデア』・・・だから倫子ちゃんに惹かれるんだ・・・」
次回学園に戻ります。
ここで言うイデアは,プラトンのそれとは少し違う意味で使います。
気になった方がいたらごめんなさい。




