私は目を覚ます 2
一恵さんがいつものように私を起こしに来る。
「おはようございます。」
ノックの音に応えると,
「いつもちゃんと起きていらっしゃいますね。」
と言いながら,一恵さんが入ってきた。
「おはようございます。」
のろのろとベッドから降りていつもの朝の支度を・・・
「そ・・その姿は・・・
・・そ・・その髪はどうなさったんですか?」
一恵さんの焦った声がする
髪?
手を髪にやり目の前に持ってくる。
さらりとした手触り。
いつもの手触りだ。
でも
あれ?なんか長い。
おまけに色が・・・
「金色????」
慌てて脱衣所に向かう。大きく壁一面にある鏡を見るために。
そこには,長い金髪の,6歳より少し大きくなったように見える少女が写っていた。
目の色も少し違う。濃い紫に見えていた目が,今は淡い紫色だ。
これはいったいどうしたことだろう。
ワタシガアナタダカラヨ
胸の奥で声がする。
あなたは私?!
夕べ途中で意識がなくなっているが・・・そう。
ヒカリは私と重なり、一つに融けた。ぐるぐる回って・・・
黙って制服に着替える。せっかくの秋服。
濃い茶色の制服に白いブラウス,臙脂のリボン。上着と同色のプリーツスカート。きつい。上着はなかなか入らない。まだ暑いから,ブラウスだけでいいか・・・ブラウスもきつい。
ようやく制服に袖を通し,用意された朝食を取る。
あまり食欲もないが,とにかくがんばって食べる。食べているうちに,連絡を受けたのだろう,慌ただしくおじいさんとおばあさんがやってきた。
二人とも私の姿を見て息をのんだ。
・・・・・
かなり窮屈になった制服姿の私は,今,応接室で,おじいさんとおばあさんを前にして座っている。
おじいさんもおばあさんも私を見ながら,う~んとうなって黙り込んでいる。
そこに,坂木さんが慌ててやってきた。ノックの音ももどかしく,返事も待たずに入ってくる。珍しいことだ。
「どうしたね?」
「大旦那様,実は,南側に咲いていた菜の花が,全部枯れてしまったという報告が入りました。」
「なに?!」
「ええっ」
屋敷の南側に広がっていた,あの金色の菜の花畑の花々が,一夜で枯れてしまった!!!
慌てて二人は菜の花畑を見に立ち上がった。
「倫子ちゃん,今日は学校を休みなさい。」
そう言って。
せっかく夏休みも終わり,久しぶりにいろんな人と接することが出来るのに。
休みなさいって学長が言うのは・・・でも。
この姿では・・・。
・・・私は,楽な私服に着替えた。
一恵さんが,
「こんなに早く大きくなるなんて。
・・・うん。作り直しですね。」
と言って,制服を持って出ていった。現実的な人だ。驚きから早くも立ち直って日常に目を向けている。制服は,一回り大きめのものに取り替えるらしい。
・・・だから,最初に,全部作るのはどうなんだろうって言ったのになあ。
いや。夕べから今朝までの間に10㎝以上も伸びるなんて,私も,誰も思っていなかった。今の身長は135㎝くらいだ。小学校3~4年生くらいか。昨日まで,117~8㎝位だったと思うから・・・へたしたら15㎝以上も大きくなっている。
あれは夢ではなく,実際に私の体におこったことなんだ。ヒカリが私と一体化した。ヒカリに引きずられて体が急に成長した。と考えていいのかな。
胸の奥でチリチリ・・・鳴るものがある。ヒカリ,あなたなの?
おじいさんとおばあさんが戻ってきたという連絡を受けて,図書室に戻る。
「学園には体調が悪くて欠席するという連絡を入れたから,心配しないで」
おばあさんが言う。
「菜の花畑は壊滅的だ。」
おじいさんが言う。
「薬は,3年分くらいストックされているから・・・少し種も取れそうだし。まあ。何とかなるでしょうが。でも・・・・・」
「・・・何で今なんだ。」
今,日の本連合は,いろいろ大変な時期にさしかかっているらしい。
おじいさんが言いよどんだので,私は昨夜のことをぽつりぽつりと話し始めた。
話が進んで,金色の光が
「ワタシハアナタアナタハワタシ」
と言ったくだりを聞くと,おじいさんとおばあさんは顔を見合わせ,さらに複雑な表情になった。
「倫子ちゃん。これから神殿に行こう。」
「でも,倫太郎がいないのに連れて行くんですか。」
おばあさんがつぶやく。
神殿?
倫太郎君と行く約束になっている神殿へ?今日?
神殿で何があるのでしょう・・・




