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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第2部 第3章 私は休んでいる
36/69

私は休んでいる 4

 次の日,

 ・・・倫太郎君のお父さんとお母さんは,帰って行った。また東国に行く前に,中都国の首都へ寄るそうだ。多分昨日の神殿での出来事を報告するためだろう。


「次は冬の休暇に会いましょうね。」

お母さんはそう言ってから,私の耳に口を寄せて言った。 

「倫太郎をよろしくね。

 倫太郎は,ちょっと子どもらしくないところがあって,気になっていたけれど,倫子ちゃんと一緒にいると,小さい子どもになったみたいに見えるの。」



 お母さんは,にこにこしながらそう言って帰って行った。

 

 別荘が少し寂しくなった。

 その後、私はいつものように倫太郎君と勉強をした。 

 

 勉強の後,いつもよくやる覚醒のための訓練の一つに,カードを使ったものがある。

 3枚のカードをじっと見てそのカートのパターンを覚える・・・実はこの,カードのパターンというのが分からない・・・その後シャッフルさせたカードを裏返しておき,どのカードかパターンを読み取る・・というもの。


 倫太郎君は3枚くらいなら,こともなくすぐ当てることが出来る。

 覚えれば,何枚でも大丈夫だよ。100枚でも,1000枚でも,と言っている。

 でも・・私の場合・・・・偶然当たることは多いのだけれど・・・。

 そうすると倫太郎君は,やったね。と喜んでくれるけれど,正直,偶々当たっただけだ。読み取れたわけじゃない。

 1枚のカードのパターンを読んで,10枚くらいの中に入れ,当てるという訓練だと,偶々当たると言うことも滅多にない。


 

 

 倫太郎君のおばあさんが,私に毎日飲みなさいと言って薬の瓶を渡してきたのは,神殿から帰ってすぐだった。

 私が来てからずっと調合実験していたらしい。ようやく完成したので,休暇中に服用してもらおうと思って持ってきたという。


 毎日忘れず,朝に1錠。

 この薬は,私の記憶を保ったまま,でも私の始原の光の記憶を呼び覚ますための補助剤・・・と言っていた。始原の光の記憶って何だ?疑問を言うと,呼び覚まされれば分かるだろうと言うばかりだった。

 倫太郎君に確かめると,多分詳しいことは誰にも分かっていないんだろうと言う。

 全然安心できない情報だ。でも,倫太郎君は続けて言った。

「始原の光の記憶が呼び覚まされれば,天の力の覚醒もすぐだろう。

 正直なところ・・・倫子ちゃんは僕たちにも計り知れないほどの可能性を持っているんだ。」


 薬に関しては,倫太郎君も,他の皆さんも,おばあさんの研究に間違いないって思っているみたいだ。


 倫太郎君は,

「薬を飲んでまで,覚醒させなくてもいい。自然に覚醒するまで待てるから,飲まなくてもいいよ」

って言ったけど,本当は覚醒して欲しいんだろうな。


 でも・・・薬って・・・やばそうに思うのは私だけか?

 「試しに1週間だけ飲んでみてね。」

おばあさんは,こともなげにそう言うけれど。

 「もしや,人体実験ですか?」

 と言いたい気分になるのも,私だけか?


そんなわけで,・・・薬の成果を見るためにも,訓練に力が入る。


 ・・・薬を飲み始めて3日目。

カードから揺らめくものが見えた。

 

 見間違いかと思って目をこらす。

 別のカードでも試してみる。

 やはり何かが揺らめいて立ち上っているのが見える。


 これがパターンなんだろうか。2枚のカードの揺らめきは,違って見える。


私の様子から,倫太郎君が聞いてくる。

 「どうしたの?」

 「何か揺らめくものが見えるの。」



「人によって認識されるものは違うんだ。」

 「そう言っていたね。じゃあ,これが私に『見えるもの』なのかなぁ・・あんまりはっきりしないんだけど・・・」


目が疲れたので,ちょっと休憩をする。

 目じゃなく,心で見るんだよ・・・倫太郎君は言うけれど・・


 お茶を飲みながら,倫太郎君がぽつりと言う。


「僕はまた,出かけなきゃならなくなったんだ。」

 一緒に行ければいいんだけど・・・ちょっと寂しそうに倫太郎君がつぶやく。

1週間くらい出かけて・・・ちょうど夏休みが終わる頃に帰ってくるよ。

「でも,きっとこれがきっかけで倫子ちゃんの力は目覚めるよ。

   今、一緒にいるだけで僕の力も・・・」


 ・・・?


「倫子ちゃんは,とりあえず,僕と一緒に別荘を出て,・・・僕は中央へ。倫子ちゃんは家に帰って,勉強の続きをしていてね。

 お願いだから,勝手に家から出て,遊びに行かないで欲しいんだ。広川さん達が来ても,井部先輩が来ても・・・他のクラスメイトの誰が来ても・・・」

 

なんか切なそうに言うから,私はうん・・・としか言えなかった。




私だけ先に家に帰ってきた。

 少しパターンが見えるようになっている私は,とにかくむきになって訓練を続けた。

 

 おじいさんも毎日のように家に来て,訓練と学習につきあってくれる。

 でも,なかなか成果は上がらない。

 申し訳なくて,悔しくて,布団の中で涙することもしばしばだ。


 なんかどんどん落ち込んでいくように見えたのか,おじいさんが気晴らしにと,朝早く南側の菜の花畑に連れて行ってくれた。

 こっちの世界では1年中咲いているという金色の菜の花。

 懐かしいような,泣きたいような・・・元気になれそうだ。

 

 ミツケタ・・・ミツケタ


・・・・


 ・・・夏休みは終わり,明日からまた,学園に行くことになる,そんな夜のことだった。

 

寝ている私の部屋の窓が,コンコンとたたかれている。

 半分眠りながら私は,あぁ誰か来ていると思う。

窓が開く。鍵は掛けたよね・・・まだ暑いから,開けっ放しだったっけ?!



はっとして起き上がり,窓辺に行く。

 何?何?何?


 目をこする。

 目をぱちぱちさせる。

 

 そこには・・・金色の光があった。


次回から,起承転結の,転の部分に入ります。


読んでくださっている方がいらっしゃることは,励みになります。

ありがとうございます。

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