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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第2部 第3章 私は休んでいる
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私は休んでいる 1

私は休んでいる  1


 私の足が治るのに,1ヶ月以上かかるらしい。

 折れたところが悪かったらしく,しばらくしっかり固定して,動かしてはいけないと言うことだ。

 何で病院じゃないのだろう。不思議に思って聞いたら,病院より家の方がセキュリティがしっかりしているからという返事が返ってきた。

・・・私,また襲われる疑惑があるの?

 でもあの強い力。一撃で私の足が折れ曲がるほどの力。女の子があんなに強い力を出すものなのだろうか?


 そのことも含め,あの3人が何をしたかったのか,おじいさんに聞いてみた。

おじいさんにも,百華さんの力については分からないらしい。普通の子だと認識していたようだ。


3人が私に絡んできていたわけについては,まだよく分かっていないと言うことで,教えてもらえなかった。


 後の裁判で明らかになるだろうと言うことだ。さらに聞くと,この世界では,15になると大人と同じ扱いを受けるそうだ。彼女らは,傷害,もしくは殺人未遂で訴えられ,裁判に掛けられる。

「心配しなくていいよ。・・・それぞれが優秀な弁護士を付けてくるだろうさ。家もね。この世界では,対面しなくても,裁判は進む。

・・・もし出なければならないとしても,弁護士が付いている。・・・何しろ,6歳だ。倫子ちゃんにその場に出ろとは誰も言わないさ。」

 

 あの3人の上に見えた黒いもやの話もする。

 おじいさんは,

「倫太郎も見えたと言っていた・・・ううむ。

 倫太郎も一緒に話した方がいいかもしれないな。」


 あの後の対応も教えてもらった。

 井部先輩が入ったことで,あの3人は言い逃れが出来なくなったそうだ。

 救急車が学校に来る騒ぎとなり,警察もやってきたそうだ。そのおかげで,一時は学園封鎖までする騒ぎになったとか。


 警察まで来ては,学園として隠し通すわけにはいかず,(倫子の存在なども公になりそうになったらしい。)・・・でも,中都国政府が動いてすぐ報道規制になったそうで,日の本連合の中枢には,倫太郎の関係者が,華国の関係者に襲われてけがをしたと言うことは,漏れてしまったけれど,他には情報が流れなかったらしい。

 おじいさんはかなり対応に苦慮したのではないだろうか。


・・・・・


 寝ていてもすることがないわけじゃない。ちょうどもうすぐ夏休み前のテストだと言うことで,テストを受ける代わりのたくさんのレポートを出さねばならないからだ。


 勉強も進む。相変わらず,力を具現させる方法は分からないままだが。

 歴史とか,天文は,とにかく暗記だ。

 ありがたいことにこの頭は知識をよく吸収してくれる。


 薬学に関しては,意外と私の世界の知識が役に立つことが分かった。根っこは同じなのかな。


 菜の花に多く含まれている葉酸,ビオチン,鉄,グルコシノレートなどがこの世界の子どもに特に必要な物質だ。・・・この世界の植物には葉酸がとても少ないのだそうだ。

 特に私の世界の菜の花は,こちらの世界のものの何倍も多く葉酸を含んでいるらしい。持ち込んだ菜の花は,こちらで金色に変化し,さらに有益な成分が生じたとか。


 この葉酸を,当時,倫太郎君はたくさん必要としていたらしい。この世界の子どもに必要な量の何倍も。


 よく分からなかった呪術も,少しずつ理解してきた。

 やはり,魔法のようなものと解釈しても良さそうだ。

 私の世界にはないもの。・・・おとぎ話のような。

 私の世界のものと違う言霊という考え。・・・「言霊が守る」と言う考え。

 私の世界と違う・・・イイエココガアナタノセカイ・・

 何か声がした。もう一度聞こうと思って耳を澄ませても,聞こえなかった。空耳か。

 レポートも進む。これで,単位はばっちりだろう。







 夏休みの2~3日前,広川さんと山名さんと英田さんが,お見舞いに来てくれた。クラスのみんなからだというお見舞いを持って。


 事件のことを知ったのは,広川さんはすぐ。英田さんと山名さんは広川さんから連絡をもらってからだそうだ。

 なんと広川さんは清水嘉穂さんにだまされて,職員室に行ったらしい。

 驚いた。人気(ひとけ)が全くなかったのも,あの3人が何かしたからなのか・・・?


3人から事件の後の話を聞く。

 翌日はいろいろな噂が学園を飛び交ったようだ。

 一番多かったのは,嫉妬に狂った藤井百華が私を襲ったという説らしい。

・・・・・6歳児に嫉妬・・・




「私たちがうっかり目を離したために,怖い思いさせてごめんね。」

 英田さんが済まなそうに言うけれど,四六時中私を見ているわけになんかいかないのは分かっている。


「そんなのお姉様方のせいじゃない。あの3人の怖い方たちが悪いのよ。」

 そう言ったら,山名さんがにやりとして

「あの怖い人たちは,すぐに,学園をやめていったわ。」

 と言った。やっぱり。


 あの3人は,華国に留学するという名目で,学園を去ったそうだ。

 なるほど。留学とはうまい言い訳だ。


「でも,何がおこったかは,みんな知っていますわ。」

「倫子ちゃんのけがは一目瞭然ですもの。

 ・・・彼女たちはおそらく,少女院に入ることになるでしょうね。」

広川さんが言う。裁判は大人と一緒で,入るところは,大人とは違うそうだ。大人に染まらないようにという配慮か?


続けて,山名さんも, 

「もし,何らかの理由で情状酌量になったとしても,連合国内ではどこも受け入れる学校,学園はないと思うわ。」

と言う。


「城山の家の者に害する方々なんて。日の本連合にはいられないってことですよ。」

英田さんがしめる。


 ・・・どうも城山家の立ち位置がよく分かっていない。私のはてな顔を見て3人は笑う。 

「後で倫太郎君に聞くといいですよ。」

聞きますとも。教えてくれるかどうか分からないけれど。


・・・・・


・・でも・・聞いてみようか。

 「倫太郎君の力ってなんなんですか?」

 不意に聞いた私を3人ともびっくりして見た。

 「私は,何も分かっていないんです。」


 3人とも首をかしげる。


「実は,私たちも倫太郎君の力のことをすべて知っているわけじゃないの。

 ついでに言うと,倫子ちゃんのことも・・・,


 ・・・あの3人が本当は何を狙っていたかなんてことも知らないわ。」


 ・・・知ってはいけないことみたいだし・・・小さなつぶやき・・・広川さんか。


「でも,倫太郎君の力は,とても大きくて,偉大な力らしいわ。

  親から聞いただけの話だけれどね。」


・・・・・・・・


「あの3人の話はもうおしまい。

さ,これ,お見舞いだけど,一緒に食べようと思って持ってきたのよ。」


 3人の持ってきてくれた,この街の名物のお菓子をつまむ。

 「これ,美味しいですね。」

 「街の外れにあるラプ・ブルーメって言うお店の焼き菓子よ。」

 「私も好きなの。それ。」


 今度,倫太郎君に連れて行ってもらおう。あれ・・・もしかしたら一番最初に脇を通ったあの店かしら。帰りに寄ろうねって言ってたくせに,よらずに帰ったあのお店。

 3人にその場所を言ったら,まさしくそのお店だった。

 今度,お店の中にティールームも出来たそうで,お店のお菓子とか,珍しいお茶とか,そのほか限定スイーツがあるらしい。

 

「おすすめは,季節の果物のタルトよ。」

この前,行ってきたの。とうれしそうに山名さんが笑う。


「あ~さては・・・デートで行ったな?」

英田さんが続ける。


その後も,体育の話やテストの話など,当たり障りのない話で盛り上がった。

 「倫子ちゃんと話していると,6歳の小さな子と話している気がしなくなることがあるのよね。」

 そんなことを言いながら,3人は,また来るわね。と言って帰って行った。


 

 次の日は,井部先輩が来てくれた。

 井部先輩が部屋にいるときは,なぜか倫太郎君もずっと一緒に部屋にいた。 

昨日,3人のお姉様方が来た時は,寄りつきもしなかった癖に。

井部先輩にこっそり言ったら,ものすごく笑っていた。


「先輩,助けてくださって,ありがとうございました。」

「いやいや。もう少し早く目が覚めていたら,けがなんぞさせなかったさ。悪かったね。

 誰かが来ると嫌だったから,隠れて寝ていた上に,耳栓までしていたし。ちょっと寝不足だったものだから。」

「いいえ。ちょうどいてくださったおかげで,あれ以上のけがをしなくて済んだんですもの。ありがたかったです。」


・・・あの3人の人払いにも引っかからずに寝ていたと言う先輩。不思議な人だ。


 先輩も,ラプ・ブルーメのお菓子を持ってきてくださっていた。

 先輩は主に,私が気を失っていた間のことを,わかりやすく説明してくださっれた。

 

 すぐに,端末で山之内先生に連絡し・・・


 ずっと目を覚まさなかったので,頭を打っているのではないかと心配し・・・

 最後は,救急車に乗るところまで見届けたのだそうだ。

 

「ご心配をおかけしました。」

 倫太郎君も,先輩の動きを改めて確認し,感謝の言葉を述べていた。

「いいんだよ。こんなにかわいいお嬢さんのためだからね。」

・・・なんて恥ずかしいことを平気で言えるんだろう。この人は。


 先輩が帰った後で,倫太郎君と一緒に先輩が持ってきてくださったお菓子をつまんだ。

 そう言えば・・・と,最初に案内してくれたときのお菓子屋さんの話をしたら,倫太郎君は「しまった」って顔をしていた。忘れていたんだね。


 明後日から夏休み。この世界の夏休みはどんな風なんだろう。久しぶりに学生として過ごす夏休み。足のことさえなければ,もっと楽しい気分で迎えられるのに。



読んでくださっている方。ありがとうございます。

この後学園からしばらく離れます。

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