私は迷っている 5
このあたり,残酷な表現に当たるかもしれません。
・・・・
・・・今3人に囲まれて移動中。小さいから隠されるように両手をとられ,引きずられている。
辺りは,いつもなら,たくさんの生徒がいる時間なのになぜか誰もいない。
・・・気のせいか・・・空気が重い。
この3人にも何か黒い物を感じるのは怖い思いをしているせいか・・・
何がしたいんだ?いじめか?
痛めつけられるのは遠慮したい。
・・・助けを呼ぼうにも,周りには本当に人影もない,私の手は両方からがっちりつかまれて,ふさがっている上に,後ろから抱きかかえるようにされているから・・・これは困った。
空き教室に連れ込まれると,
抱きかかえることはやめたけれど,腕だけはしっかり捕まえられて,怒鳴られる。
空気が濁る・・・黒いもやが辺りに立ちこめる。気分が急に悪くなる。
・・・・
「あなたは本当は何者なの?」
おお。単刀直入。
答えて欲しいのか?
気分の悪さも手伝って,黙っていたら,矢継ぎ早に問いは続く・・・
そんなに連続して,怒鳴るように聞いてきたって,答える暇もない。
・・・・・・・・・
さらに質問の形をした罵倒は続き、ますます空気が重く感じられる・・・
頭痛もしてきた。
「なんであなたみたいなチビが,倫太郎様に大事にされているの?」
「・・・そんなの倫太郎君に直接聞きなさいよ。」
あまりのばかばかしさに思わずそう言ったら,急に,藤井百華さんが切れた。
「生意気ながきめ!!!」
えっ
・・・・・
ドカッ ドサッ いたっ
足を蹴られた。これは痛かった。何という力だ。
蹴られたところがみるみる腫れ上がる。曲がっているようにも感じられる。
血?痛すぎる・・・
手が離されたため倒れ込む。
足で良かった。お腹なら下手したら死んでいる。
ぼんやりと考える・・・頭に霞がかかったような気がする・・
倒れたまま見上げたら,それがさらに逆鱗に触れたらしく,また蹴ろうとするから,力を振り絞って,転がって逃げた。二人の手が離れたので・・逃げられてよかった。ちらっとそんな考えが浮かぶ。
冗談じゃない。本気で蹴られたら,この小さい体は簡単に死んでしまう。ぼんやり考える。
他の二人は,さすがにまずいと思ったのか,百華を止めようとしているみたいだ。足が・・・激痛が走る。
がたん・・と音がして,今まで寝ていたらしい人が,いすから立ち上がる。
「何をしているんだい?」
重い空気が少し薄まったような気がする。
「・・見りゃわかるでしょうが。見ていたんなら止めなさいよ。」
威勢よく言ったつもりが口から出る声は弱々しい。
「井部様・・・」
「あ・・あの・・これは・・・」
「いいわけは言わなくていいよ。一目瞭然だよな。」
そう思ったらさっさと間に入れよ!!!
思っても,あまりの痛さに,意識が遠くなる・・
・
気がついたら,自分の部屋だった。きょろきょろしていたら,心配そうに一恵さんが私をのぞき込んできた。体が重い。
一恵さんの知らせで,じきにおじいさんがやってきた。ずっと家にいて私を気遣ってくださっていたらしい。
あの後,どうなったか分からないけれど,井部先輩が知らせてくれたのかな。
おじいさんの話で,井部先輩があちこち連絡をしてくれたそうだ。やっぱり。
広川さんも駆けつけてくれたとか。
足は見事に折れていて,しばらくギブス生活らしい。
足の骨折だけなのに,保健室でも,医療機関でも私が目覚めなかったので,頭を打ったのではないかと,みんなかなり心配したようだ。
1泊して検査もだいぶしたらしいが,全く気がつかなかった。
「なんで倫太郎様に助けを求めなかったんですか?」
一恵さんが言う。何のことだろう。
「???」
「リングですよ。握って倫太郎様を呼べばすぐ助けてくれましたのに。」
「だって,倫太郎君は今,お仕事でいないじゃないの。」
「・・・それでもだ。倫太郎の力は倫子ちゃんを守ったはずだ。」
・・・手を取られていたし。リングを握る暇なんてなかった。そう言ったら,一恵さんとおじいさんは深くため息をついた。
「指輪はネックレスじゃなく,指にはめさせておくべきだったな。」
「こんなに派手なのに,普段,学園に,はめていくことはできませんよ。」
私が指輪を見せると,おじいさんは渋い顔をした。
「いつも指にはめられるよう,もっとシンプルなやつを倫太郎に用意させよう。」
・・・いや。いりません。1つで十分。
・・・
・・・話しているうちに,昨日とか今日とか・・どうも話が食い違うので確認したら,なんとあれから2日過ぎていたそうだ。道理で・・・おなかがすいているはずだ。そう言うと,
「お食事をお持ちしますね。」
一恵さんが部屋から出て行った。
「あの3人は停学・・1ヶ月。
多分,外聞が悪いから,退学してよその学園に行くだろうさ。
よその学園が受け入れるかどうかは・・・疑問だがな。
学園どころではないかもしれないし。
裁判になるだろうからな。」
「裁判?」
・・・・・・・
「おじいさん,私・・・あの人達が何をしたかったのか,私にはさっぱり分からないんですが。」
・・・嫉妬とも違うような。
そう言うと,おじいさんはこう返してきた。
「あまりにあの3人が倫太郎に絡むので,以前調査をさせてことがある。
あの3人の家は,深く華国と結びついているらしい。
藤井の家は,祖父母の代に華国から移住してきたようだし,
吉井の家は,華国との貿易で富を築いてきた。
清水の家は,吉井家の事業に深く関わっている。」
「それと倫太郎君は,何の関わりがあると言うんです?」
「日の本連合だけでなく,よその国も倫太郎の力が欲しいんだよ。」
「力って?予言の力ですか?」
「いや・・・・。」
おじいさんは言いよどんだ。
「さあさ,お昼ですよ。」
一恵さんがワゴンを運んできた。それと一緒に入ってきたのは
「倫子ちゃん!!」
倫太郎君の顔は,紙のように白かった。
「倫太郎君・・心配掛けてごめんなさい。」
「全く・・肝を冷やしたよ。」
ギブスのはまった私の足を見ながら,倫太郎君は顔をしかめた。
その後,倫太郎君は,私がご飯を食べるあいだ,おじいさんと二人で話をするために部屋を出てしまった。
お昼はおかゆに梅干し,簡単な香の物だった。聞いたら2日間何も食べていないから,食べ慣れている病人食がいいだろうと言うことになったらしい。おかゆじゃおなかの減りは収まらないけれど。
私はここにいてもいいのかな。
私がいることで倫太郎君達が困ることってないのかな。
またこんなことが起きたら足手まといだよね。
急に食欲が落ちてきた。
読んでくださっている方,ありがとうございます。




