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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第1章 私は疲れている
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私は疲れている 3

ようやく・・・

 今日は新年度の公務分掌の発表の日だ

・・何という男人事!当事者じゃなくても腹の立つ人事だ。

 この教員の世界は平等の世界だと言うけれど。嘘だ。何で,たぶん1番楽だろう5年生に男の先生2人なの?大変そうな児童がたくさんいるあの学年に女性2人って何??何で1~2年生は学年女性2人なんだ?


 こんな時,女に生まれて損をした。と感じてしまう。・・・50年も連絡をくれない倫太郎君を待つ,けなげな私なのに,きっと倫太郎君は私のことなど忘れてとっくに孫でもいるに違いない・・・そんな関係の無いことまで思ってしまう。


 心がささくれ立っていく。なんて後ろ向きな私。


 その夜。


・・・・倫太郎君が来た。







 倫太郎君はあのときのままだった。


 倫太郎君は

「迎えに来たよ」

 と言った。


 そんな無茶な。私は60歳。

 何であなたは10歳のままなの?






「本当はあのとき一緒に連れて行きたかったんだ。」

 あのとき?

 私の疑問を読んだように倫太郎君は続ける。

「僕が倒れたときさ。」

 でも・・・倫太郎君はちょっと困ったように続ける。

「あのとき連れて行っても,君はまだ赤ちゃんだったから。」

 ナンノコトヲイッテイルノ?

 アカチャンッテ・・・ワタシ10サイダッタヨ。


 やっと迎えにこれるようになったんだよ。といってにっこり笑う顔は,うまく草笛が吹けたと喜んでいたときの表情だ。

「一緒に行こう。・・・行ってくれるよね?」

 どこへ?

 なにをしに?

 え???

「ちょっと待って。私,行けないわ。」

「なんで?」

 倫太郎君は首をかしげて私の手を取った。

「僕のこと,もう嫌いになったの?」


ソウジャナイワ・・キットワタシ・・・イマデモワスレテイナイカラ・・・


「だって・・・後始末をしていないから。」

 倫太郎君はますます不思議そうに私を見た。

「後始末って?」

 私はため息をついた。

 目の前にいる10歳の倫太郎君に,クラスの子どもに話すように丁寧に話す。


 まず,離任式が明日あること。

 その後で送別会があること。

 学校にある自分の私物を持ってこなければならないこと。

 クラスの子どもの引き継ぎをしなければならないこと。


 倫太郎君は泣きそうな声で

「だめだよ。今日でないと。また後50年待たなくちゃならなくなる。50年たったら,倫子ちゃんは死んじゃっているかもしれないじゃないか。」

・・・・なに?  なに?  なに????


 結局,私は離任式をあきらめた。その代わり夜の学校に忍び込み,私物をこっそろ運び出すのを倫太郎君に手伝ってもらっている。

 本当は警備保障の会社に繋がっているセキュリティなのだけれど,倫太郎君がなにやら手をかざしたらごまかしが発動したらしい。


 とにかく大慌てで2階の教室に入り込み,自分の荷物をまとめ,校長先生の机上に離任式に急に出られなくなったことを書いてのせ,学校を出る。

 倫太郎君が警備保障の機械に手をかざすと・・・元通りになった?!

 家は持ち屋なので気にならないし。

 倫太郎君って本当に何者なの?ついて行って大丈夫なの・・・・・



倫太郎君が私の手を取って

「目をつむって」

とささやくから・・・私は自分のクラスの子どもに言うように

「はいはい・・・」

と言って目をつむる。

「ハイは一回だよって言ってるのに。」

そんな声が聞こえてなんだか楽しくなる。

こんなおばあちゃんになった私を連れてどこに行くつもりなんだろう。そもそも本当に倫太郎君なのかしら?倫太郎君のお孫さんだったりして。


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