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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第2部 第2章 私は迷っている
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私は迷っている 1

私は迷っている 1


金曜日から倫太郎君が留守だったので,土日はつまらなかった。

聞くと,今週いっぱいお仕事らしい。


・・・余計な心配かもしれないけど。

しょっちゅう呼び出されているみたいだけれど,単位は大丈夫なのかな。

そう。この高学園は単位制なのだ。


 私の覚えている単位制は大学と大学院だけ。ちょっと違うような気がするのは気のせいなのかな。何しろ40年ほど前のことだから。


 最近,昔のことを少しずつ思い出すことと一緒に,忘れていくこともあることに気がついた。

 はっきり言うと,どうも,倫太郎君関係のことを,はっきり思い出すのと一緒に,自分の学生時代のことを忘れていくような気がするのだ。

自分の実年齢のこともだんだんかすんでくる。


 これは嫌だ。今までの私も私だ。60年間生きた大事な気持ちだ。忘れたくない。

 とりあえず,暇があると,今の自分の気持ちと,昔のことを書きとめているけれど。・・・いつか,こんなことを何で書いたんだろうとか,本当にこんなことがあったのかなんて思うときがくるのかな・・いや・・・私は私。どんな私でも。




菜の花エキスの効き目は薄いのか?濃いのか?

 忘れてしまう部分があるのはなぜ?


 日曜日,呪術の勉強を私に教えるためにやってきたおじいさんにそう言うと,かなり困っていらっしゃった。


おじいさんが言うには,今までのことを半分忘れれば,心の中で呪術の許容範囲が増えて,私の身につくらしい。

 忘れれば?!・・・さらに言えば,私の器だけが大事なのか?私の中身は消えたほうがいいのか?

私の疑問にかなりおじいさんは困っていた。


受け入れるために,今までの常識をどこかにしまって欲しいだけだよ・・・と,おじいさんは言うけれど・・・本当は,私が私であって欲しくないのではないか?!


それとも,本当に,私の心が,新しいものを受け入れるには硬いってことだけなのか。柔らかくするための忘却?それは嫌だ。どうしたらいい??


 その夜は眠れなかった。私は硬い。だから本来ならある力を具現できない?

私が私であることが覚醒の障害なのか?

 私の中にある天の属性って何?天のカケラ?天の魂?何だろうそれは。60年が邪魔をする?私は私だ。私が嫌なら,元の世界に送り返して欲しい。


・・・


 蝶々が私の目の前をまた横切った。今度はひらひらといつまでも消えない。何か言いたそうに行きつ戻りつしている。思わず手を伸ばすと,蝶々は私の手のひらにのったかのように見えた。


 っ・・消えた。起き上がって明かりを付け手のひらを見る。右の手のひらに金色に光る何かがついている。


 確かに蝶々は私の手のひらにいた。夢でも幻でもない。これはどういうことか。

私はいつまでもいつまでもベッドの上で考えていた。


 月曜日。私は眠い目をこすりながら学校へ行った。

 頭がふらふらする。明らかに寝不足だ。


 学園に行くと,目の下が黒いですよと心配されてしまった。


 とりあえず,最初の2時間は持ちこたえられた。指名もされたような気がするし,答えも言ったのだろうと思う。


 3時間目・・・数字が目の前を躍る。記号も踊る。ふにゃ~としていたら,

 「若槻さん,眠いなら,保健室へ行きなさい。」

 数学の先生に見とがめられてしまった。

 

 広川さんが,私に付き添うことになり,一緒に保健室に行ってくれた。

 「どうなさったんですの?」


 「実は・・・夕べ蝶々が私に止まったんです。何でかなとずっと考えていたら眠れなくなってしまったんです。」


我ながら訳の分からないことを言っている感がする。

 「そう・・・」


 広川さん,いい人だ。真剣に考えてくれている。

 「あまり堅く考えすぎるなってことですわね。」

 「えっ。」

 「何でか・・なんて蝶々のことは蝶々に聞くがよろしいですわ。考えても無駄ではありませんか。」

「すがすがしいまでの切り捨て。ありがとうございます。確かにそうですよね。何でかなんて私たちに解る術もありませんものね。」

 「すっきりしたなら何よりですわ。」


私はその後,保健室のベッドでぐっすり眠った。

 ベッドの脇で広川さんが保健室の先生とこんなことを話しているのも知らないで。


「城山様が手を離せない今,倫子ちゃんを見守らなければいけないのは,私たちのつとめですわね。」

「学長からもくれぐれもと頼まれていますからね。

  迅速に連れてきてくださってありがとうございました。」

「いいえ。家でも,倫子ちゃんの存在は大切だと聞かされていますから。」

 「ほう。次官から何かお聞きですか?」

 「いいえ。父は,機密だからと教えてくれませんでした。ただ,気をつけて見守ってやれとだけ。」

 「そうですか。」


 「もしかしたら,これから,いろいろなことが・・あり得ると言うことですか?」

 「たぶん。」


 「・・・・」

 「家の人には・・・連絡はしますが,今は寝かせておいてあげましょう。」


 目が覚めたのは,迎えに来た一恵さんに起こされたからだった。


車に乗って家に帰る。

 やはりぐるぐると思考は同じところを巡る。


 私は私でありたい。私でありながら覚醒したい。

 そのためにはどうしたらいいんだろうか。



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