表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第2部 第1章 私は浮かれている
25/69

私は浮かれている  6

今日は火曜日。体育がある日だ。

昼休み、倫太郎君と一緒に昼食をとった後,着替えに行く。

もうお姉様方(そう呼ぶように強要されている)でいっぱいの更衣室。


 出ようとしたところで,また例の3人組のお姉様方に捕まってしまった。

「倫子さん,今度は器械運動ですわ。」

「器械運動,分かります?鉄棒とか跳び箱らしいですわ。」

「大丈夫ですの?」

 これだけ聞いていれば,純粋に私を気遣っているかのように聞こえる。


「ご心配いただき,ありがとうございます。」


 本当に聞くだけなら。・・・でもいかんせん。そのにやにや笑いは何?

 ここはさっさと逃げるに限る。


「お休みなさったらいかがですの?」

「体育だけ, 小学園で一緒に受けると言うことは出来ないんですの?」

「先生に訴えてあげましょうか。」

 大きなお世話であろう。

 


「リンちゃん。」

 広川さんだ。

「一緒に行きましょう。」

 英田さんもありがとう。

「ウン」

 わざと小さい子みたいに(小さいけど)頷いて二人と手をつなぐ。

「お先に」

 広川さんがそう言って3人で更衣室をでた。

 

「ありがとうございました。」 

「いいのよ。」

「多分,いつものパターンで,これからさらにねちねち言い始めるに違いないから。」

「聞くに堪えないのよ。」

 後ろからやってきた山名さんも言う。

 本当にこのお姉様方には助かっている。打算もなくかわいがってくれるようにも見える。ありがたいことだ。


・・・・・


 ここの施設は広い。

 体育館も4つに分かれている。

 1つは,この前まで使っていたボールなんか使うところ。ネットなんかがすぐ張れるようになってる。

 1つは,武道専門みたいだけれど,2年生での選択で何か武道があるらしい。

武道に関しては,そういえば,こちらに何があるかも知らないな。

 1つは,用途が様々らしくなにも置かれていない。

 もう一つは,体操関係。いろいろな器具や道具が使いやすく並べられている一角がある。今日からしばらくここで授業だ。

 わ・・・跳び箱大きい。この体じゃ・・・


 実は器械運動は,若い頃から得意種目だったりする。

 鉄棒も,跳び箱も。ついでに,床運動も実は得意だ。

 中学校,高校と体操もやっていたんだけれど。

 残念ながら,大きな大会では良い成績を残すことは出来なかった。

 そうそう。バレエもしていたことがある。部活の体操と両立できなくてやめちゃったけど。

 それにしても,跳び箱はこの体には,大きすぎる。

 

 

・・・鉄棒・・・こんなに高かったけ・・・ いや・・私が小さいのか・・・出来るかな。多分出来るような気がするんだけど・・・

 40年くらい,まともにしてないからなあ。

 いや。子ども達に見本を見せていた。もちろん跳び箱も。

 でも,ここ10年くらい見せることもなくなっていたっけ。


 先生方が,私たちに説明を始めた。

 鉄棒は跳び箱と組み合わせて,今回を含め,2回で終了だそうだ。少ない。

 跳び箱か,鉄棒か選択できるようだ。

 これからグループに分けるらしい。よかった。跳び箱じゃ,また何も出来ずに終わりそうだから。

 まず,自己申告で,鉄棒か,跳び箱かを選ぶ。もちろん鉄棒。

 

 その後で,さらに,みんなどのくらい出来るか,先生方はチェックを始めた。

 


 私の番だ。


「先生,」

「ああ,お休みしていていいよ。君には高いよね。」

「いいえ。すみません。一番高いところで,あげていただけませんか?」

 

 ・・・・

「大丈夫かい」

 と先生は言いながら私を鉄棒へ,だきあげてくれる。

 しっかり鉄棒を握ったことを確認し,

「気をつけるんだよ。」

 と言って,すぐ抱えられるように,鉄棒の脇の邪魔にならないところに立つ。

 さすがです。


もちろんぶら下がっても足は届かない。

くるんと回って鉄棒の上にあがる。

座って鉄棒の周りをぐるっと見る。

先生と目が合う。びっくりしているみたいだ。


この鉄棒は公園なんかによくある,堅い,普通の物だ。

同じような発達なんだな。互いに影響し合っているって行ってたっけ。言葉とか困らないのはいい。

 そんなことを考えながら下を確認する。

 マットの位置。他の人の位置。


 この鉄棒はしならない。堅いから。大丈夫かな。でも・・・やってみたい。

 

 ひょいと回ってぶら下がる。


 ちょっと反動を付けて思い切り回る。昔,男子がいないときよく試していた・・大車輪だ。くる,くる,くる・・おっ出来る。これなら・・・一瞬,大丈夫かなと・・考えたけれど・・・やってみたい。

 ちらっと,着地地点にだれもいないか,ちゃんとマットが敷いてあるかを,もう一度確認してから。くるりと・・・・,手を離して空中で回転して・・おっ・・一ひねりして・・・どうか?・・・すとっと降りる。ポーズ。おっ決まった。我ながらびっくり。この体,すごい。


 ・・・・・シーン・・・

 あれ?


親切なお姉様方がわっとよってくる。

「すごいわ」


 先生方もびっくりしている。

「すごいな。」

「逆上がり程度で合格なんだが。もう若槻さんは合格だよ。鉄棒は満点だね。」

 先生のお墨付きをいただいてしまった。うれしい。


 時間の後半は,鉄棒組と跳び箱組に分かれてそれぞれ練習した。

 

 例の3人の人たちは,1人は跳び箱,残りの2人は鉄棒にいたけれど,鉄棒に残っていた山名さんがずっとそばにいてくれたから,大丈夫だった。時々聞こえよがしの声も聞こえたけれど・・・


 教室に帰ってきたら,どこから情報を仕入れたのか,倫太郎君に捕まって,しかられてしまった。

 危ないよと。ちょっと怒っているみたいだった。

 これで今期の体育はばっちりだし。後は呪術だよ。そう言ったら倫太郎君はため息をついていた。

「倫子ちゃんって,おてんばだったんだ。」


 おてんば・・・そんな言い方もあったなぁ。こっちの世界ってなんだか私の子どもの頃の世界に似ているかもしれない。

・・・今も子どもだった。

 時々どっこいしょとか,やれやれなんて言うと,お姉様方に変な目で見られているけれど。


 なんだか最近とても楽しい。

 青春時代をもう一度しているみたい。

 6歳の外見でなければ,きっともっと楽しいんだろうな。

 それだけは残念。

 

 あの3人に絡まれると,面倒くさい。これなら小学園からでも良かったかなと思う。

 でも・・・小学園だと,勉強も,人間関係も別の意味で面倒な感じがするね。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ