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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第1章 私は疲れている
2/69

私は疲れている  2  

・・・

 なにやら最近,昔の景色の中に自分が紛れてしまっているようで・・・疲れている上に少し怖い。

 もう1月も終わりになる。あと2ヶ月でこの生活ともお別れなのに。


 今日は職員会議の日だ。

 次年度のためにいろいろなことを決める会議だ。

 でも私には次年度はない。ここぞと思って改革案を出しまくる。何言ったって大丈夫。どうせ来年はいないんだから。

「もっと良くなるにはこうしたらどうだ,これは?」

 これは案外おもしろい体験だ。研究主任様ご苦労様。改革してみてね。


 めまい・・・ふいにまた菜の花畑だ。

「倫子ちゃん。いやなことはいやだってはっきり言わないと意地悪は終わらないんだよ。」

「分かっているけれど。言いづらいのよ。この先まだ何年もここにいるんだと思うとさ・・・」


・・・ああ。これって卑怯。


 会議は終わっていた。


「若槻先生,今日はいつになくたくさん話されていましたね。」

「言い捨てになっちゃうけどね。」

 卑怯かなあ・・・。

 隣のクラスの若手教師とお話しながら教務室に戻る。



 ・・・・・



 今日も菜の花畑で遊んだ。昨日もそうだった。きっと明日も遊ぶに違いない。


 遊んでいるうちにどんどん少年のことを思い出していく。

 あの子は町外れの古い洋館に,おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に住んでいた。


 古い洋館の中はでも,子どもの目から見ても「西洋」っていう感じがした。

 時々お邪魔するとおいしいケーキと紅茶を出してくれた。それが楽しみだった。


 少年は倫太郎君と言って私と同じ年だったと思う。でもなぜか倫太郎君は学校に来ていなかった。

「今思うと変だわね・・・なんで学校に来なかったんだろう。」

 鮮やかな黄色の世界がだんだん色あせて緑になっていく。花は終わる。

 なんで倫太郎君と遊ばなくなったんだっけ。


 すっかり金色から緑・・・そして黄色く枯れていく菜の花畑。倫太郎君はいない。淳二君がなぜか隣にいて私を慰めている。なぜ?


「泣くなよ。悪かったよ。倫太郎がいなくなるなんて思わなかったんだよ。」


 そうだった。倫太郎君は病気でこの町に療養のため来ていたのだった。

 あの日の午後,一緒に遊んでいた時・・・急に・・・倫太郎君は倒れた。

 私は泣きながら洋館に走って行き,おじいさんを呼んできた。おじいさんは私に心配するなと言って倫太郎君を抱き上げて洋館に帰っていった。


 次の日お見舞いに行ったら,おばあさんが出てきて,

「倫子ちゃんが今日来てくれて良かったよ。実はね,倫太郎は都会の病院に行ったんだよ。おじいさんが付き添って行ったので,この洋館も明日には閉めて,自分も都会に行くことになっているんだよ。」

 と言った。そして,呆然としている私に,おばあさんは倫太郎君からの手紙をくれた。


 その手紙には大きな字で

「いつかどこかでまた会おうね。そのときは倫子ちゃんは僕のお嫁さんだよ。」

 そうだ。そう書いてあったんだ。他にも私には読めない字で何か書いてあったんだけれど。

 そうだ。それだから私は結婚しなかったんだ。・・・少しいいなと思った人もいたけれど。・・・心のどこかに倫太郎君のことがあったから・・・


・・・


「先生」

「はい?」

不意に現実に帰って来た・・・

「私,この分数の計算がわかんないんです。」

「奈々子ちゃん。いつも偉いね。わかんないところをきちんと聞きにくるもんねぇ。」

「何でこうなるんですか?」


 まだ4年生なので同分母分数の計算しかないのだけれど,仮分数にして引き算したり,足し算して仮分数になった分数を帯分数に直すところがまだよく分からないらしい。

時間をかけてじっくり図を書きながら教えていく。

「分かりました。」

 奈々子ちゃんが納得して席に戻っていくのと時間を同じにして,清掃の時間が始まる合図があった。 


 そう。分数の問題を倫太郎君に教えてもらったことがあったっけ。

ということはあれは3年生か4年生の頃の・・出来事なんだわね。ああ・・・50年も前のことなんだ。倫太郎君。会いたいなぁ・・・今は何をしているんだろう。


読みづらかったらごめんなさい。

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