私は困っている 2
こちらの世界で3日目の朝 ・・・30日たったのかなぁ。
朝食の時倫太郎君が私に指輪を渡した。金色の指輪を受け取るとほんのり温かい。
指にいたずらではめてみる。あれ?ぶかぶかだったのにぴったりだ。
「指のサイズに合わせてちょうど良くなるように付与したよ。」
「何のことだか・・」
「学園に行くときはネックレスにしていってね。」
「今もちょっと邪魔かも・・・」
そう言ったら少し悲しそうな顔をするから,
「でもありがとう。あのままじゃ絶対指になんか出来なかったものね。」
慌ててフォローする。
二人で図書室に行く。図書室の中にもいくつか部屋があり,そのうちの一つは学習室のようだった。
本当は私は一人で講義を受けるらしい。でも今日は初日と言うことで,倫太郎君が付き添ってくれると言った。私の学習が進んだら,一緒に講義を受けることになるらしい。
私につきあっていたら自分の勉強が出来なくて困らないかと尋ねれば,元々高学園の勉強の大半は終わっていていつでも大学園に飛び級できるそうだ。でも,私が来ることを考えて,普通通り進級していく道を選んでいたとのことだ。
「だって,もし,倫子ちゃんが来れたら,きっと小学園だろうと思ったんだ。高学園の学生は,小学園にボランティアで週1回行けるからね。」
「うれしい誤算だったよ。倫子ちゃんが高学園に進級できるなんて。
多分・・・薬学が分からないと思っていたよ。出来て中学園かと・・・ごめんね。見くびりすぎだったよね。」
なんて正直。ちょっとあきれてしまう。
そんなに馬鹿な子に見られていたんだね。50年前の私。
普通の10歳だったけれど,考えてみればあのときの倫太郎君はもう100歳だったってことだから。お馬鹿さんに見えたんだろうな。
中に入ると,学習しやすいような机といすが何脚か置かれていた。今の私の体に合わせてあるのか,子供用のいすも置かれている。
そのいすに,ひょいと私を抱き上げて座らせると,倫太郎君も隣のいすに腰を下ろした。
何を勉強するの?と聞くより早くノックの音がし,一人の白髪のおじいさんが入ってきた。
「おはようございます。」
倫太郎君が立ち上がって挨拶をする。私は子供用のいすから立つことは難しかったので,そのまま
「おはようございます。座ったままですみません。立つとひっくり返りそうですので。」
と言い訳もする。
おじいさんは
「東野 博」
と名乗った。
大学園の歴史部長だという。
「今日はこの国の歴史をおさらいしましょう。」
そう言って話し始めるそれは物語だった。
「こうしてこの日の本のくには5つに分かれてしまいましたのじゃ。」
「ひのもと・・・」
「そう。はじめは1つの国だったんだよ。」
「いつかまた一つの国になるといいのでしょうが,今のままでは難しいでしょうなぁ。とりあえず,連合という名で1つになっているかのように見えますからなあ。」
それぞれの国にいる各首相が同一国になることを拒むらしい。
「今のまま・・・日の本連合という形で差し障りがないなら,それはそれでいいのでしょうが。」
ため息交じりに東野先生がつぶやくように言った。
日の本連合には,5人の元首がおり,さらにその中から連合元首も選ばれているという。連合元首は持ち回り,任期2年だそうで,今年からはこの中都国の元首がその地位に就いているという。
よく分からない。そこまでしているなら1つの国としても良さそうなものだが・・・
「・・・その辺りは,また・・・・
さて,時間ですな。また明日,今度は近代について学習いたします。」
気がつけばもうお昼らしい。東野先生はこれでお帰りになり,午後は別の先生がいらっしゃるとのことだった。
学習室の隣にお昼は用意されており,今日は,おにぎりや鶏の唐揚げ、カラフルなサラダ,味噌汁といった簡単なメニューだった。
「今日はコックがお休みをとったんです。ですので今日のお昼は私が作りました。」
一恵さんがそう言って味噌汁をついでくれた。
「おいしい。」
と言うと,一恵さんは満面笑顔で喜んでいた。実際塩加減も抜群だった。
「庭でピクニックみたいにして食べたいね。」
と言ったら,今度裏庭の桜が咲いたら,一緒に外でピクニックにしようと約束してくれた。
というか,裏庭には桜の木もあるんだ。
私の疑問が顔に出ていたらしく,
「裏庭には桜の並木というとオーバーかもしれないけれど10本くらい5年前に植えた若木があるんだよ。」
「5年前。」
「あの後さ。菜の花だけでなく桜も持ち込んだのさ。他にも植物をいくつか。そのうちに効用とかも教えてあげるよ。」
「こちらでは桜はいつ頃咲くの?」
「そうだね。もう3月29日だから,そろそろ咲いてもおかしくないね。」




