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バグった師匠に育てられて  作者: かーむ
8/13

それでは独り立ちしよう

 中央(セントラル)から帰省する間際、ファイルマン少将からの呼び出しが入り三日後には戻ってきて欲しいとの事で早急にエルトリアに帰るのが決まった。


 サフィアさんは軍務、ユリウスじーさんは集会所大総統(ギルドマスター)の仕事が滞納していたのだろう。部下の人に首根っこ掴まれて拉致られた。


 列車に揺られて中央からエルトリアまで片道四時間の旅。

 暇すぎで売り娘の子に「そのお菓子ぜ○ぶちょうだい」やってニコラと気持ち悪くなりながらお菓子を食いまくった。


 食べ過ぎて涙目になりながらも可笑しくて笑った。


 到着して列車を降りた時「合格おめでとう」ってニコラに言われた時は本当に泣きそうになった。


 エルトリアに到着した後は三つの魔法具を回収してメリーさんに挨拶しに行った。

 自宅に戻ると客が家の前に行列を作ってしまっていてニコラは慌てて本業に帰還して行った。


「……えっと、とりあえず合格して先日から国家魔導師に成りました

 今日はその報告というか、まぁそんな感じです」

「う、うん。とりあえずおめでとう、ね

 ……エリィちゃん本当に凄いよ

 ついでにバカラッシュみたいな感じになっちゃってるけど……」


 メリーさんは話を聞いたばっかりはビックリしていたが、ユリウスじーさん並に喜んでくれた。

 手土産のバカラッシュ。『ソレノイド』を隠してあった森に入った時出会したバカラッシュを一匹仕留めてきた。


 この事「エリファスが国家魔導師に成った事」は勿論、村中にその噂が広まるのにそう時間を浪費することもなかった。


「何かエリィちゃん。二、三日会わなかっただけで別人みたいになったわ〜

 それでそのカッくぅいい服、キリーが編んだのよね?」

「……やっぱり姉妹だと見た目で分かるものなんですかね

 メリーさんの言う通り。父上が買ってくださいました」

「男前よねぇ、ニコラも。あの店でモノ買うなんて〜

 姉妹って言ってもここ五、六年会ってないしお互いの作ったものなんか見ただけじゃ分かんないわよ、作ったのが普通の服ならねっ!

 まあ中央(セントラル)で上革の魔繊維織りはキリーくらいしか出来ないもの……」


 魔繊維織りっていうのか。

 まぁ凄い着物なのは着た時点でわかったが。


「やっぱり姉妹ですね」

「嬉しくないけどぉ〜、エリィちゃんに言われるなら嬉しいわッ!」


 やっぱり姉妹。

 何かあったのだろうか。


「それじゃあそろそろ戻ります

 あのバカラッシュは……」


「村のみんなで分けておいて下さい


 ……でしょ?」


 やっぱりふたりは姉妹だな。


「あっ、っとエリィちゃん、何事にもガンバだよっ!」


 メリーさんがいい忘れた事を思い出す様に大声で言った。


「? はぁ、まぁ頑張ります」


 何だ?

 国家魔導師としてこれから頑張れってことか?




 ◇ ◇ ◇




 自宅に帰る頃には日も一刻前には地平線に沈み辺は真っ暗になっていた。

 

 十三の息子が帰るにしてはやや遅めの時間帯かも知れないがニコラは自己責任だから、と言って放任している。


 ニコラは俺が自己管理できる部分は放任主義を貫き、十歳の時のように貴族が家に押しかけるなど歳相応の問題から外れたことに関しては絶対に息子を保護する姿勢をとる。 


 普段からぽーっとしている様に見えて行動や考えがしっかりしている。


 ニコラのイクメンパパのスキルが異様に高い。できるオトコと言うのはそういう事なのだろうか。


「おぉ……帰ったか」

「ただいま、父上」

「…………」


 ニコラが訳も分からず落ち込んでいる。


「えっと……その。父上、何か僕悪いことしましたか?」


 いや、帰宅時間に関して十歳の時から怒られた記憶はない。

 なら、なにが理由だ?


「……エリィは『父さん』って言ってくれないのか?」

「……はい? 何を急に……」

「うぅ……」


 うぅ……じゃねぇッ!! 

 気持ちわりぃ。

 前言撤回だわ。

 ただの親バカじゃねぇかよ。


 ……メリーさんめ。あの最後のガンバを言ったって事はニコラを(そそのか)したのはメリーさんだな?


 大体な成長してからそんな小っ恥ずかしいこと言わないでくれないなかね。

 こっちが辛いよ。

 

 俺が呆気にとられている間、ニコラはもうげんなりしている。


「えっと……お、親父(おやじ)?」

「うぉぉおぉ!!」


 やっぱりそういう反応するか……

 『親父』って呼称、父さんよりも親密度高いもんな……

 『親父ポジション』って気さくとか、お互いに気を遣わない存在的な、多分ニコラにとっては甘美な響きなんだろうね。


「よしっ! エリィッ親父からの魔法修練を受けたいかッ?!」


 いきなり立ち上がったニコラはふんぞり返る様に言い放った。


 うちの親父はテンションの緩急がえげつないな。


「よろしくお願いします

 親父まじかっけー」

「だろぅ~?」


 くねくねすんなっ!




 ◇ ◇ ◇




「――、っとまぁエリィに教える魔法はもう無いって事が今日の修練かな」


 何となーく予想してましたけどね。

 全然ガッカリしてませんけどね。

 

「父上はやっぱり父上ですね!」

「すまんすまんって!悪いな。期待させるような事を言ってしまった」

「……まぁ親父が夜な夜な魔法の練習を始めた時点で薄々感じてはいましたけど」

「あははーまじかーバレてたかー

 ……もうエリィには魔法だけなら勝てないかもなぁー」


 ニコラは優しく微笑みこちらに向き直る。

 親子の会話って世間一般だとこんなんなのだろうか。

 まぁいっか。十人十色、その家族ごとのコミュニティがあるんだろうし。


「……エリィ中央(セントラル)に行った後はどうするつもりなんだ?」


 そう。エリィが国家魔導師である以上、あと二日後には中央(セントラル)に一旦戻らなければならない。


「一応、その後も国家魔導師として仕事をしたいとは思っています」

「あぁ、それはいいね。エリィの中に少し目標が立ったんだ、前進したな

 ならそのまま進んだ方がいいと父さんは思うぞ?

 何時までもこの街に拘っていたらチンケな男になっちゃうから」


 ニコラの言う通り、エルトリアで出来ることに関しては大体、達観しつつあった。

 魔物刈りも、バカラッシュを追い駆けた時も、物足りなさを感じた。

 要は自分の実力が周囲の環境よりも圧倒的に勝ってきたのだ。


 もっと他の事をしたい。 


 違う何かが欲しい。


 圧倒してしまう実力がある以上、どれだけ自重し意識が高くても誰だって(いず)れ何処かで怠ける。


 例えば、高校生のテストが足し引き算だけになって何時までも真面目にやり抜ける奴がいるだろうか。


 その感覚に近い状態に陥っていた。


 俺も最近そんな風になりかけていた。


 魔法や武術が極まる中、増長する自分ではなく、単に怠惰している自分が常に側にいた。


 国家魔導師の資格を得るために修練に励み、その(ゆる)みは若干引き締まったものの、中央(セントラル)からこの街に帰ってきて、如何(いかん)せん何か足りない。


 いち早く何処かへ行き、自分の足で旅でもしたい気分になった。


 しかし現実を考えて見れば、十三の子供が一人で歩くことがどれだけ異常か。


 この世界では一般に十五で成人、ギルドにも軍にも入隊できるが、普通の常識からすればそんな基準が無くても十三歳の一人旅など、まず常識的な思考からして有り得ない。


 国家魔導師だから金の心配はない?


 もし何らかの節に資格剥奪になったら何をして生きる?


 どこに寝泊まりする?


 身辺警護はどうする?


 将来的な可能性はどうする?


 十三の独り立ちなど問題は山積みと言うより、たた周囲の不安を募らせるだけである。


 俺が出て行ってもニコラはここで鍛冶屋を続けるだろう。

 それは揺るがない事実だった。

 中央(セントラル)に一日行く事すら渋っていたのだ。

 ここはニコラにとって仕事場以上の場所なのだろう。

 十三年ともに過ごしているから何となく分かる。

 

「エリィは考え過ぎだよホントに

 もっと、こう……気楽に行こう、な?

 あれもこれもと安全安心ライフを送ったら父さんみたいないい男にはなれないしエルトリアで最強のエリィも外の世界ではそう簡単にはいかないぞ?」 

「いいの? 親父……?」

「エリィを拾ってから覚悟していたから平気、平気。どうせこんな日が来るだろうと何時も思っていたんだしねぇ」

「なら……」

「行って来なさい。それがエリィの為になるから」


 やっと旅立てる。

 ニコラの様にしっかりした親に拾われなかったらこうやって話をすること無く俺は勝手に家を出て行ったかも知れない。

 いや、確実にそうしただろう。


 ただ、ニコラは別だ。

 ちゃんと目を向いて話をしないと、きっとこっちが後悔する。


 だから今回の件も話すべきかどうかでエリィなりに悩んだ。

 

「……いつ戻るか分かりませんよ?」

「そんな事エリィの自由だ

 あー犯罪はダメだぞ? 

 あと結婚式の時は絶対に呼んでくれよー」


 やっぱりこの人に拾われて家族になって良かったと思う。


 


 ◇ ◇ ◇




 翌朝、駅のホームまでメリーさんとニコラが見送りに来てくれた。


 


「エリィ、ちゃんとお財布は持ったか?」

「はい」

「泊まるときはちゃんと名前を書くんだぞ? 忘れ物すると取られるからな」

「もう平気だよ。親父」


 昨日あれだけさり際のカッコよかったニコラも相変わらず心配性が直らないせいか荷物確認が延々と昨日から続いている。


 そんな俺らを苦笑するメリーさんは片目に眺めている。

 俺が親父って呼ぶようになった事に関しては少し驚いていた。まぁ父さんと呼ぶように唆した本人なのだからワンステップ縮まった俺らを見たんだ。当然の反応だろう。


 メリーさんは俺が旅立つ事には全く驚かなかった。「あーあー優秀な卸先がなくなっちゃったー」と言ったくらいだ。


 しんみりした別れにならないようなので良しとしますか。 


 蒸気を上げた汽車がホームに止まる。


「それじゃあ……


 行ってきます」


「ホントに体に気をつけてねっ!」


「頑張れよ、エリィ」


 軽く会釈して汽車に乗り込む。


 ドアが閉まると警笛を鳴らした汽車はどんどん速度を上げてゆく。



 次にこの街に帰って来るのはいつになるかなぁ……



 この後広がる世界の広さに胸を躍らせながら……



「……やべ、歯ブラシ忘れた……」

次回から中央(セントラル)偏はじまります。



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