稼いでます
「おぉっエリィちゃんだね~?
どれどれ。今日もまた大量かい?」
「はい、熊の群れが居たので子供以外まとめて狩りました。今回も期待できるんじゃないでしょうか」
「……うちの娘もエリィちゃんと同じ十歳になるけど、うさぎにすら臆しちゃって。もう、エリィちゃんに鍛えてやってほしいわ〜!!」
「……ハハハハ……」
俺は狩りの報酬は全て街にあるこの肉屋に持っていく。ここの女将さん(確か名前はメリーだった気がする)?は獣の革とか肉とか全部換金してお代を出してくれる。
所謂、卸売業者みたいなもんだ。
メリーさんはニコラより歳上なのかな見た感じ四十後半の女性。でも歳相応のシワから顔を出す容姿は昔の美貌を思わせる。今でも俺は美人さんだと思って接しているがな。
ニコラ曰くここの店に狩ったものを持っていけばちゃんとした値で取引してくれるのだとか。この時代、フェアトレード主義の商人なんてほとんど居ない。
この街は比較的、穏やかで治安も保たれているから釣り値を法外にぼったくる奴が蔓延るような事はないから安心できる。
ただ出回る貨幣の中には金貨や銀貨の回りを削って貴金を取り出しされてしまったものがある。そういう私情を挟さむ奴に出会った硬貨はやはり価値が下がる。それも含めて買い取りしてくれるのがこの店。
リアカーに乗った熊さん四匹。
三メートル位ある巨体な鹿一匹。
まぁ大量ではあるかな。
小鳥一匹とかの日もあるから大量だな。
……鹿でかすぎなんだけど。
リアカーから脚はみ出ちゃってるし。
こいつは見た事がない。
多分俺の中では初討伐、初捕獲。
故に幾らの値がつくか知らない。
ずっと山の中逃げるから身体強化使って結局二時間くらい追いかけっこしてたら熊の群れに出会うっていうね。
結構、今回の狩りは色々と苦労した。
安かったら悲しくなる。
「……こ、こりゃバカラッシュじゃないかい。エリィちゃんこの鹿どうやってとっ捕まえたんだい?」
「……追いかけて捕まえました」
「バカラッシュは罠も見破るし岩むき出しの山道も駆け抜ける。普通なら何組かのパーティーで追い込む獲物のはずなんだけど……今回はエリィちゃんに金貨出さなきゃいけないわね。久々に市場が賑わうわよっ!!」
おいおい。鹿すげー事になってんぞ。
金貨だってよ金貨。
因みにこの世界の貨幣制度は百枚で次の硬貨と同値になる。
銅貨100枚で銀貨1枚。
銀貨100枚で金貨1枚。
金貨100枚で聖金貨1枚。
という具合になっている。
大体、銀貨が2枚か3枚あれば一日食って寝れる位の価値。
そして俺の狩りの報酬は全て懐に入りお小遣いになる。小学生バイトだ。大分気前が良いがまぁ気にしてられんな。
ニコラには金の使い方を覚えるためだから稼いだ金はちゃんと自分で考えて使え。と言われた。
現在の所持金は銀貨40枚。
銅貨は多過ぎるのでポケットマネー以外、全て貯金箱にぶち込んで有る。故にいくら在るかは割愛。
「ほいじゃメリーさん査定からしてエリィちゃんの報酬は金貨二枚に銀貨十五枚。あっ銀貨二枚はまぁいつものね〜」
多分銀貨二枚は磨り減った貨幣が混じっているのだろう。
こんなご時世に律儀な人だ。
しかしドン引きするような値打ちものだな。バカラッシュだっけか。
熊だって四匹で銀貨十枚に届かないんだぞ。クマのほうが強いのに……
「えっとじゃ銀貨二枚お返しします」
「ん?子供が遠慮するんじゃないよ〜」
「いいえ今気づいたんですが血抜きが不完全だった熊が居ましたよね、リアカーの血ノリからすると少なくとも一匹居たはずです。すいません次からはしっかり処理しておきますね」
リアカー左側面にのベニヤ板にべっとりと赤い血がついてしまってる。バカラッシュは気絶させたので血が出るなら熊だ。そして血抜きは森の中でした。
血抜きが不完全だと最悪売り物にならない。
仕事のミスはやはり当人が責任を取らなくては。
いつもちゃんとお勘定してくれるメリーさんに申し訳ない。
「参ったねぇ~それじゃ仕方なく貰っておきますか。
で?今日はもうエリィちゃんお暇しちゃうの~?」
「あぁはい。午後からは父上に鍛錬を付き合ってもらうのでこれから戻って準備します」
「あらっそれはそれは。引き留めようとしてごめんなさいね〜。また今度、狩りのお話聞かせてちょうだいね
ちゃんと鍛錬頑張るのよ?」
「はい! では有難うございました」
そういえば僕十歳になりました。
◇ ◇ ◇
水魔法で水球を作り炎魔法で肌温度まで暖めて自分にぶっかける。
あぁ気持ちいい。
魔法の威力調整をしながら爽快にリフレッシュ出来る一石二鳥の午後イチの簡易風呂。このままシエスタしたい。
「エリィ……
今日は随分稼いだみたいだな」
「偶然『ばからっしゅ』という鹿を捕まえまして……金貨二枚ほど」
「なっ……バカラッシュを捕まえただと?!」
金貨二枚に食いつかないのか。
十歳のガキが半年食いっぱぐれない大金持ってるのに。やはりデリカシーが無いのか。いや、俺もか。
「父上、ばからっしゅはたいそう珍しい物なのですか?」
「いやバカラッシュ自体の数が希少なわけではない。捕獲率が希少なんだ。俺も若い時、バカラッシュを見つけては追ってみようと試みるが結局逃げられてな。アイツらは体格が大きいほど逃げ足が速いし体力もあるからな」
なんか嫌な予感。
「……因みにどれ位の体高から大きいと言われますか?」
「二メートルもあれば大物間違いなしだ。肉も良質で金貨は決定だろうな」
「三メートルとかは……?」
「?? 三メートル?そんなでかいバカラッシュを追うやつなど………
エリィまさか……」
「捕まえたばからっしゅは父上の身長の倍はあったはずです」
ニコラは口をあんぐり開けて呆然としている。
バカラッシュって旨いのかな。高値がつくんだから革だけじゃなくて、さぞ肉もいいんだろう。
今度レストラン行こ。
お金あるしある程度欲張っても間に合う。
「まぁいい。そうだなウチの息子はちょっとネジ外れてるのかもしれん」
「そんな事より父上。今日は鍛錬でしょう。さ、始めましょう」
かれこれニコラの指導付き鍛錬なんて半年以来かもしれない。ニコラに教わる度に成長している実感が湧いて出てきてたまらないのだ。独学よりも十倍早い習得度。
最近は努力を惜しまない気持ちが若干判ってきたかも。気のせいか。
「今日からは『錬金術』を教える。『付与魔法』や『治癒魔法』のように一筋縄ではいかないぞ。覚悟しておけ」
「はいっ!」
◇ ◇ ◇
三日後……
「父上!見ててください」
「……ん?」
エリィは地面に両手をつく。
すると巨大な像がまるで最初から地面に埋まっていて、急に地表に出てきたように思えた。
等身大の土製像。
「……『錬金術』です。合格ですか?」
「……うん」