転生
俺、エリファスは転生した。
成人して速攻ブラック企業勤務でつい先ほどまで残業に時間を食い尽くされ、運悪く帰り道、泥酔した男女を助けて車にパーンされて、綺麗に潰れたと思ったら、見知らぬ天井を見て「おぎゃぁああああ」って言ったのは俺だ。
一ヶ月ほど時が過ぎて判った。俺は「剣と魔法とがひしめく異世界に転生した」のだと。通貨が金貨や銀貨、鎧とか平然と着ちゃったり、剣とか腰に掲げたり、火を吹いてみたり、兎にも角にもテンプレ中世の異世界に転生した様だった。
転生した家にはエリファスを含めてふたりが住んでいた。
父親の名前はニコラ・フラメル。
三十代くらいの黒髪ポニーテールというアラサーダンディーの印象が強い。
俺が来るまでは町の辺境の中一人暮らしで鍛冶仕事を営んでいるようだった。母親の姿が見えない辺り俺は拾われたのかもしれない。
まず、転生したのは良しとして、重要なのはこれからどうするか、である。
折角、ファンタジー世界に転生したんだ。暖暖と生きるのもいいが、破天荒に冒険とかしたい。
流れ的に身体を鍛えて、魔法を使えるようにするべきだろう。こういう展開は幼い頃から修練を積むと、目覚ましい結果が伴うものだ。
超頑張った結果。
首がすわる前にこの国の言語を理解し、半年経った頃には無詠唱で魔法を使えるようになった。
半年一緒に生活したニコラを見ていて、ニコラが普通の鍛冶屋でないのが判った。これがエリファスにとって魔法を使える様になるきっかけを加速させたのだと思う。
まず、ニコラは魔法に対する造詣が異様なまでに深い。言語を理解したエリファスは、手から水を出していたニコラに魔法の教えを乞いた。するとニコラは少し戸惑いながらにも魔法を教授してくれた。
詠唱がやたらめったら長いので『詠唱の内容』ではなく『魔法のイメージ』を意識するとあらま簡単、属性魔法なら今ではすべて使える。
エリファスの父、ニコラは鍛冶屋の中でも高度な技術を駆使するようだった。ニコラの顧客はみんな、石造りの内装に似つかない高位身分の重臣みたいな奴らばっかりだった。鍛え直しを頼むため手に持った剣も宝石が散りばめられたり、禍々しかったり、兎に角ニコラは街の傍らにあるレベルの鍛冶屋でない。
ニコラは王族のお抱えなのか。
この辺りは未だ定かでない。
五歳になる頃にはニコラの鍛冶仕事を手伝いながら、格闘術を学んだ。
この格闘術も全てニコラから見て盗んだ。村の一本道を走り体力も付けながら効率よく術を吸収していった。つか、このおっさんはホントなんでも出来る。
六歳の時、広すぎる知識、実力や品格ある来客の押し寄せる正体が謎すぎる父親のことが気になっていよいよ俺は行動に出た。
俺が母性本能をぐすぐる微笑を駆使し、ニコラに武器発注を頼みに来た女騎士に「ねーおねぇーさん。ぼくのぱぱって、どんなひとなのー?」っとちょいと詮索してみた。女騎士の人は微塵も渋らずに答えてくれた。
「貴方のパパはね、この国のギルド創設の初期メンバーなのよ」
取り繕った俺のスマイルを保つのに必死だった。
異世界ファンタジーに欠かせないギルド。その存在が与える影響は大きい。
その創設メンバーだと?
つまり、ギルドの産みの親?
教祖様?
特許持ってんのかな?
ニコラ居なかったらギルド出来なかったのか?
いや、待て待て、そこはどうでもいい。もうギルドは出来てるなら良し。
間が悪くどうやら俺が女騎士の人に聞いてるのがニコラにバレた。そしたら面倒臭そうにニコラは俺に全てを話してくれた。
「別に大それた事なんかしてないさ。軍人の派遣組織を創ろうって話合った奴と手を組んだだけで――」
「父上は偉業を成し遂げたんですよ? 僕は父上のようなお方に出会えて光栄です。将来は父上のような方を目指そうと思いました」
と、褒めてみると親バカなのか表情がたるんたるんになった。ウチの親父はラノベのヒロイン並のチョロさだった。
というか、この親父は場のノリに任せる所が要所要所目立つ。何せ、他のギルド初期メンバーはみんな貴族や大臣になって金持ちライフを謳歌していると言っていたのに、ニコラは鍛冶仕事に汗を流している。
不思議だと思いつつも、半分水に流した。
この日を境にニコラはエリファスを一層愛を注いだ。