その日彼は焦げた
しかし重い。痛い。だるい。
肩に乗せた鉄パイプがギリギリと肉に食い込んでくる。
まじでヤバイ。足がフラフラしてきた。
まだ鉄パイプはトラックの荷台に半分ほど残っている。
あーバイト選びミスったわ。
ふと、同じクラスの奴らがレジ打ちやらトッピングについて話していたことを思い出す。
俺も面倒くさがらずに履歴書書いて無難に飲食店で働いときゃあよかったかもな。
手続きが楽そうだからと大学に入ってすぐ派遣企業に登録した自分を恨めしく思いつつ、パイプを運び続ける。
「志摩くん休憩にしようか」
「あざーす」
返事をして俺はへたり込んだ。
「ご苦労様、重いだろう。お茶飲むかい?」
今日のバイト先であるマルハチ倉庫の主、高橋さんだ。どうやら俺にお茶をもってきてくれたようだ。
「ありがとうございます。」
冷めたいお茶が体に染み渡る。実に素晴らしい。
「いつもこんなに重たいものばかり扱ってるんですか?」
作業中にテッシュ箱の束なんかも積んであったので、(なんで今日だけ鉄パイプなんだよ)と思いつつ尋ねてみた。
「うちは、物流センターみたいなもんなんだが昨日ホークリフトが壊れちゃたんだよ。軽いものは昨日運びきったんだが、重いものが運び切れなくってね。急遽バイトを雇うことにしたんだ。」
「あーそれは大変でしたね。えっとこのトラック以外にも運ぶものってありますかね?」
今俺は軽く冷や汗をかいている。
「いや。これだけだよ。さあ後半分ぐらいだし運んじゃおうか」
どうやら最悪の自体は回避できたようだ。
軽く手を叩きながら作業を開始する高橋さんをみて、タフだなこの人と思いつつ後に続いた。
結果として全てのパイプを運び終わったのは日の暮れた頃だった。
「お疲れ様でした。お先失礼します。」
全身が軋むように痛い。早く風呂入って寝よ。なんて考えつつ倉庫を出る。
残念なことに結構な勢いで雨が降っていた。
(駅まで走るか)幸い体は丈夫な方だ、風邪は引かないだろう。
「まちなさい、志摩くん。傘はあるのかい?」
「持ってきてないんですよね。天気予報見てなかったんで」
苦笑いしながら返答する。絡むなよ。正直早く帰りたい。
「そうかい。ならこの傘を持っていくといい」
高橋さんはしっかりとした造りの大きめの傘を差し出してきた。
「ほんとですか。ありがとうございます。また後日持ってきます。」
傘いらねー。返しにくるのだりいな。なんて思いながら適当に返事をする。
「いいよ。いいよ。返さなくても今日はよく働いてくれたからね」
「ありがとうございます。ではありがたく頂戴します。またよろしくお願いします。」
「うん。またたのむよ」
高橋さん実にいい人である。
俺は傘をさした。これがなかなか実に使いやすい。鉄心だろうか重心は安定していて、グリップはゴム?合成樹脂的なもので出来ている。
これはイイもの貰ったな。信号待ち中さした傘を眺める。
っと。青か早く帰ろ。前を向き直すと同時に視界が眩いばかりの光に包まれた。