絡み付き話
もうちょっと更新ペースをあげたいです本当に。
造形はシンプルだ。ぬらぬらとした粘性の液体の光沢に悍ましさと生理的嫌悪がある。
具体的な形は、タコやイカの足から吸盤を取り除いたようなもので、ツルッとした表面に地味な色合いをしている。
淡い光を発した幾何学的な模様を描いた地面から、それがうぞうぞとうごめきながら這い上がり、模様の中心にいる彼に絡み付いていた。
悍ましいはずのそれが、彼の存在によりなまめかしいものへと変わっていた。
ほぼ裸の彼に、足元から蛇のように巻き付きながら、徐々に上へ上へ侵略を始めた。粘性の液体が彼を濡らし、肌の光沢がなまめかしさを増幅させた。
少し離れた所で椅子に座り、それを操っているパチュリーは真剣な目付きである。が、口はニヤつき、鼻からはダラダラと血が流れている。
それは……触手は彼の胸元まで達した。先程の傷はもうない。咲夜の手当てが完璧だとしてもおかしいが、パチュリーの魔法か、永遠亭で貰った薬なら納得出来る。
触手は胸元を重点的にまさぐっている。他にも、腕や足、腰なんかにも巻き付いているが、そちらは身体を固定するのが目的のようだ。
一本の触手が彼の口元をつついた。わずかに開いた口に潜り込もうと動いている。
彼は抵抗する事もなく口を開き、触手を迎え入れた。ぐじゅぐじゅと彼の口一杯に触手が捩込まれた。
「んぐっ……」
触手は口内をうごめき、歯茎をくすぐるように細かく振動したり、内側から頬を押したりした。
内側から触手によって膨らんだ彼の頬を見たパチュリーは、鼻血の量を増やした。もう自身の服の前面は真っ赤に染まっている。
彼やパチュリーを囲むように本棚がある。しかし、本はあまりない。フラスコに入った不気味な色をした薬品や、水晶球のような魔術具が並べられている。
薬品は薬品、魔術具は魔術具といったように規則的に整理されているが、一つ一つの形状がバラバラなので整理されてるようには見えない。
パチュリーの背後に一人の女が現れた。唐突だ。転移系の魔法でも使ったのだろうか。
「パチュリー様、お嬢様が」
「ええ、わかったわ。あとはお願い」
女が言い終わる前に返事をし、ぶつぶつと何かを呟くとパチュリーは消えてしまった。転移魔法なのだろうが、音や動きがなく、漫画やアニメで表現されるような派手なエフェクトもない。ただ忽然と消えるだけだ。
地味というか、合理的というか……。
パチュリーが消えて少しすると、触手がゆっくりと魔法陣へと戻り始めた。無論、彼を怪我させないようにゆっくりと丁寧にだ。
触手の動きに合わせて女も動き出した。鮮やかな赤いショートヘアー、白いシャツの上から黒いベストを羽織り、ベストと同色のロングスカートは歩く度に揺れている。
これだけなら普通の人間の女だが、視覚情報を頼れば彼女を人間と間違える事はないだろう。
これぞ悪魔といった漆黒の翼が、彼女の背中から一対生えていた。また鋭い双眸と滅多に動かない表情に、威圧的な印象があった。
彼女の種族は小悪魔、名前は不明だ。小悪魔と呼べば返事をするので、小悪魔という名前の小悪魔なのかもしれない。
小悪魔はバスタオルを広げ、触手から彼を受け取った。触手はそのまま魔法陣へ戻り、触手の姿がなくなると魔法陣の発光も収まった。
彼は小悪魔にもたれ掛かった。力が入らないようだ。
彼の顔が小悪魔の豊満な胸に埋まり、触手の粘液が小悪魔の服に付着した。清潔なイメージのある服だ。実際小悪魔は毎日手入れしている。
「あ、ごめん」
「お気になさらず」
「うん」
小悪魔はそのまま彼の身体を、懇切丁寧にバスタオルで拭いた。彼は無抵抗……というか、小悪魔が仕事をやりやすいように身体を動かしていた。
二人とも無表情なので凄くシュールだ。
彼はともかく、小悪魔は一般的な小悪魔とイメージが異なっている。
男を手玉にとったり、悪戯で迷惑をかけたり、サキュバスのような淫魔と同一視されて……言わば性的な事に関わるイメージが強い。
この小悪魔は真面目そうだし、悪戯するようには見えない。最後のは……まあわからないが、とにかく見た目や行動が小悪魔らしくないのだ。
小悪魔である前にパチュリーの使い魔だという事だろうか、だとするなら素晴らしい忠誠心だ。ただ自制してるだけかもしれないが。
ベチャベチャになったバスタオルを転移魔法の要領でどこかへ消し、彼をジッと見つめた。彼も小悪魔を見つめ返す。
「(……とりあえずアレで良いか)」
小悪魔は彼に手を差し延べた。彼は小悪魔の手を握った。すると次の瞬間には別の部屋にいた。
クローゼットや箪笥がいくつか置かれている他には、姿見が一つあるだけの部屋だ。
「こちらにお着替え下さい」
そういって小悪魔が取り出した服は――
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「結論から言うと、これといった問題はないわ」
パチュリーの言葉を聞いて、自室の椅子に青い顔で座っていたレミリアは安堵の溜息を吐いた。とりあえず彼が吸血鬼になっていなかった事に、安心したのだろう。
「なんで大丈夫だったかはわからないけど、三つ推測があって、そのうちの一つが答えなら、まだレミィは安心出来ないかもしれないわ」
ビクッとレミリアの身体が震えた。安堵したのにはもう一つ理由がある。
「一つは牙が引っ掛かっただけで、吸血に当て嵌まらなかったから、多分これだと思うんだけど、今まで牙を引っ掛けただけの相手なんている?」
レミリアは首を横に振った。
「そうよね。吸血鬼の牙が人を傷付けるって事は、噛み付いて吸血している状態以外にはないでしょうし。確証はないけど、牙で傷付けるだけなら、相手に影響はないと思うわ」
確かに血を飲む以外で牙を使う事はない。噛み付く時は血を飲む時だし、それより有効な攻撃手段ならいくらでもある。
「彼の体質という可能性もあるわ。吸血鬼にならない体質、一種の抗体のようなものがあるのか、或いはそういう能力をもっているのか……でもこれは全然現実的じゃないわ。あくまでも可能性があるだけ、よ。現実的なのは次の、レミィがまだ安心出来ないものなんだけど……」
レミリアはゴクッと唾を飲み、緊張した面持ちでパチュリーを見つめる。
「あらかじめ霊夢が何かしら対処を施していた、んじゃないかしら」
博麗の巫女としての霊夢は非常に怠け者だが、幻想郷屈指の才能と実力があるといわれており、それを証明するかのように数々の異変を解決している。
スペルカードルールという非殺傷的な戦いだけでなく、単純な殺し合いでも彼女が負ける姿は想像出来ない。
いやむしろスペルカードルールだからこそ、彼女を負かす事が出来るのではないか、とさえ思う。
そんな霊夢なら何かしら、例えば結界のようなもので彼を護るくらいは容易く出来てしまうだろう。そして彼が帰った時にその結界の異常を見抜いてしまうだろう。
「首何個ぐらいで許してくれるかしら?」
諦め、全てを悟り覚悟を決めたレミリアの顔は、実に美しいものだった。
先程パチュリーが彼を触手でいじくりまわしていたのは、吸血鬼化しているか調べる為だった。決して欲望に身を任せた訳ではない。
ただ他に調べ方があるかと問われれば、ないわけではないし、触手を使うまでもなくもっと簡単に診断する方法もあったし、映像を記録する魔法を先程使っていたのも事実だが、決して欲望に身を任せた訳ではない。
そう、パチュリー・ノーレッジは欲望に屈するような女ではないのだ。
「そんなふうに考えていた時期が私にもありました」
「レミィ、なに言ってるの?」
「なんでもないわ。彼と楽しんでらっしゃいな」
本音をいえば一刻も早く彼と交流したいレミリアであったが、昼食の後はパチュリーの番と決めたのも他ならぬレミリアだ。
朝は寝坊という完全な自業自得で妹に譲り、昼食の間は吸血鬼化の事で頭が一杯で、彼とろくに話も出来なかった。
まあそれを補って余りある幸福も得たが。
「ええ、そうさせてもらうわ」
パチュリーの返事はレミリアの耳に届かなかった。咲夜から口移しされた“アレ”を思い出したからだ。
甘味、塩味、酸味、苦味、旨味。これらの味覚で表現するのは難しい。レミリアの経験にある味わいではなく、また過去これほど“美味しい食事”に出会わなかった。
胸の奥が熱くなる。彼の一部が今、私の体内を駆け巡っているのだ。これほどの幸福はない。自分が吸血鬼で本当によかった。吸血鬼でなくても、彼の血を味わう事で幸福ないし興奮を得る者はいるだろう。だが、この“美味しさ”がわかるのは吸血鬼だけだ。
レミリアは自身の人差し指をあどけない動きで口へ運び、かぷっと噛み付いた。行儀の悪い子供のように、しかし表情は見た目通りの子供ではない。
食事であり嗜好品、一種の崇拝も含まれるだろうか。吸血鬼以外は彼の血液に麻薬的な楽しみしか見出だせない。食事というのが大事なのだ。食事として楽しむのが大事なのだ。
悟りと覚悟を得た美しい表情が、妖艶に色気を放つ女のソレに変わったのを見届けたパチュリーは、やれやれといった具合に溜息を吐くと、その場から消えた。
「っ……ちっ」
レミリアはいつのまにか自身の人差し指に、深く牙を突き立てていた。口内に流れた血液はほんの数滴だったが、意識を取り戻し、自己嫌悪に陥るには充分な量だった。
「まずい、な……」
自身の血だ、当たり前か。と自嘲し、姿を消してしまった友人へと振り返る。
「……鼻血で口元と服がえらい事になってたけど……言わなくて大丈夫だったかしら?」
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パチュリーは赤面した。
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彼とパチュリーは柔らかなソファに腰をかけ、くつろぎながら読書をしていた。
二人の間には白いテーブルがあり、そこには紅茶とクッキーが置かれていた。鼻孔をくすぐるチョコレートの香りが堪らないこの一品は既製品ではなく、小悪魔の自信作である。
彼は律儀だ。クッキーを食べる時は、一々読んでいる本を閉じて傍らに置く。そしてクッキーを食べたら、本に触る前にちゃんとハンカチで指を拭う。
パチュリーは本を大事に扱うその姿に素直に好感を抱き、この誠実さが彼の魅力の正体ではないか、と思った。ついでに一連の仕種の愛らしさに鼻が熱くなったが、耐えた。先程のような思いはもうしたくない。
無論、今のパチュリーは新品同然に綺麗な服を着ているし、口元や鼻周りが赤く染まってるなんて事もない。
だがしかしこれは卑怯だ。うん卑怯だ。勝てる訳がない。
彼の服装だ。上は白い半袖のシャツ、下は水色の吊りスカート、足にはソックスにローファー、頭には水色のリボンがついたカチューシャをつけていた。
どこかの人形遣いの幼女時代のものだ。なんでここにあるんだ。いや本人はたまに来るけども。
そりゃこんな服装で女の子座りで上目遣いされたら誰だって鼻血噴き出すはちくしょうがしかも吊りスカートの肩に引っ掛けるヒモが片方外れかかってたんだぞありがとうございますそのあと自分のハンカチで私の鼻血を拭こうと手を伸ばして来たんだぞこの野郎が失神しそうになった私を責められる道理があるのかまあ小悪魔のバッチリ着替えシーンを撮影してたって言葉を聞いたらすぐ復活出来たけれども魔法って便利ね服を提供してくれたアリスには録画した物を送りたいと思いますあと魔理沙にも送りますこれは八つ当たりだ。
元々お喋りとかそういうのは求めてない。同じ空間に居るだけで大分満足出来るし、一人で読書するよりなんだか楽しい気もする。
でも直視出来ないのは辛い。クセになってんだ、鼻血出すのってぐらい今は危ない。やましい理由で鼻血出してる訳だから恥ずかしいし、何より彼が心配する。なら直視しなければいいか。辛いけど我慢だ。そう同じ空間に居てくれればそれでいいんだ。
パチュリーは納得してページをめくった。
「パチュリー」
透き通る美しい声にパチュリーは反射的に振り向いた。
パチュリーが色々考えてる間に、彼は小悪魔と話していた。小悪魔から簡単な頼まれ事をしたのだ。
これはあくまでも主を喜ばせようとした小悪魔の善意であり、本当に簡単な事だったので彼も快諾した。
振り向いたパチュリーは、彼がクッキーを自分に差し出しているのを見た。見てしまった。
「はいあーん」
パチュリーは赤面した。自らの鼻血で。
はい、触手っていいですよね。いや普通は女の子がぬっちょぬちょになるから良いんでしょうが誰得なんだろうねこれ私得だよ!
勘違いされても構いませんが一応いっておくと女の子が触手にいじくりまわされるのも好きです。でも触手を操って男を弄ぶ女の子の方が好きです。
でもパッチェさんを鼻血キャラにする気はなかった。いつのまにかなってた。
そしてこあちゃん登場という事で、はい多分他にはないこあちゃんだと思います。どうせだから私が好きなタイプを書きました。無愛想で長身でおっぱいのついたイケメンにしました。中身は乙女……なんて事もないでしょう、私の好みだとね、うん。まあ二次創作だし、ね、許して、ね。
あとロリスファッションですね。アリスまだ出てないね。多分次の次くらいで出ます。多分。次回はおぜう様回だからね。エロティックに書きたいですね。
あと今回多分読みにくいね。
フラン「翼」
私「え」
フラン「早く翼描写しないと死ぬ」
私「え」
じ、次回やるから……