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東方逆接触  作者: サンア
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エンディング話


 だから言ったろう。これは東方逆接触なのだと。



 秋風が冷たい。あんなに暑かった夏も過ぎ去って、食べ物や読書やスポーツで盛り上がった秋もそろそろ終わりに近付いている。


 博麗神社を囲むようにある木々の紅葉も、散り始めている。


 冬は苦手だ……寒いし。


 魔理沙は首に巻いたマフラーを、厚手の手袋をはめた手でギュッと握った。


 流石に厚着だったかな。汗ばんだ肌へ風を送ると、爽快な冷たさが湿った肌へ心地好く染みていく。


「こんなもんかな」


 片手の箒で集めた落ち葉の山を見て呟く。さつまいもを買ってきたから、焼き芋でもするか。


 縁側に顔を向けると、さつまいもを入れた紙袋の隣に座る彼が目に入った。


 魔理沙は慌てて駆け寄った。


「寒いんだから、部屋に入ってないと」


「そう?」


「冷やしちゃダメだって、私が手伝ってる意味ないだろ」


「ん」


 彼は素直に部屋へ入っていった。魔理沙は障子戸を閉め、さつまいもの入った紙袋を手に取った。


「やっぱり」


 さつまいもは湿った新聞紙に包まれていた。彼が焼き芋の準備をしてくれていたらしい。


 相変わらず察しが良い。あ、いや、焼き芋やろうぜとか言ってたかな……。


 魔法で焚き火を熾こし、さつまいもを突っ込んでしゃがむ。後はしばらく待てばいい。


「なんかお菓子も作りたいなあ……スイートポテトとか」


 一人でボーッとしてるのも暇だ。でも火から目を離す訳にもいかない。


「……知ってるかな? きっと知ってるよな。教えてもらおう」


「何を?」


「スイートポテトの作り方……ってまたぁ」


 いつの間にか彼が隣に立っていた。魔理沙は眉間にしわを寄せて立ち上がる。


「暇で」


「わかるけどさあ……冷えると良くないんでしょ?」


「暖かいよ」


 彼は焚き火を指差した。


「……ま、閉じこもってばかりもよくないか……」


 多少は動いた方が良いとかも聞くし……ほっといたら多少じゃ済まない彼だが。


 今の彼といると、どうしても視線がそこに向かう。なんというか……幻想郷でもこれは、なんというか……不思議だ。


 服装は、着物に霊夢の半纏を羽織っている。いつもの服その二って感じだ。


 いつもの服その一であるトレーナーにジーンズは、しばらく着ていない。トレーナーはともかく、締め付けの強いジーンズは今の彼にはふさわしくないのだ。


 スイートポテトの作り方を教わる前に、魔理沙は気になったことを聞いてみた。


「今で、えっとどれくらいだっけ?」


 魔理沙は彼のお腹を指差していった。


「三ヶ月だよ」


 彼は、やや膨らんだお腹を優しげに撫でながら囁いた。


 外見だけなら全く違和感はない。普通、一般、常識、といった感性の強い魔理沙でさえ、不思議と思えど、あまり違和感は覚えなかった。


 大体幻想郷は何でもありだ。しかし、にしても、“男性が妊娠”するのは、かなり不思議なことだと思う。


 思うのだが、やはり違和感はない。考えても仕方ない。スイートポテトの作り方を教えてもらおう。


「なにしてんのよ」


 魔理沙が口を開こうとしたところに、声が飛び込んで来た。上からだ。


「焚き火?」


「じゃなくて」


 ゆっくりと彼の隣に降り立つと、彼の手を握った。


「冷やしちゃダメ」


「そんなに寒くないよ」


「あなた一人の身体じゃないの」


「ん」


「ごめん魔理沙、お願いね」


「う、うん」


 彼は霊夢と共に神社に入っていった。正確には居住スペースか。まあいつもの土間と繋がった居間だ。巫女さんの家だ。


「……いいなあ」


 二人が土間へ入って行ったのを確認してから、魔理沙はぼそりと呟いた。





「少子化?」


「そう、外の世界では深刻な社会問題なのよ」


 彼に産んでもらえばいい。そう言った紫が、外の世界の話を始めたのには理由がある。


「で、それがなに?」


 霊夢の口調には少々怒気が孕んでいた。理解は出来ていても、まどろっこしいのは嫌いだ。


「外の世界の繁栄はすなわち、幻想郷の繁栄」


「あのねぇ」


 何を当たり前のことを抜かしているのだ。さっさと本題に入れ。


 霊夢の目付きが鋭くなった。紫は宥めるように笑いながら続ける。


「繁栄には子供が必要」


「紫」


 低い声で威圧する。しかし紫は意に介さない。


「少子化の深刻さはわかってもらえた?」


「私が怒る寸前なのはわかってもらえた?」


 いやもう怒っているのだが。


「ここからが本題よ」


「弾丸喰らいたくないなら早くして」


 ここまで霊夢が怒りを表にしても、紫は人をからかうような笑みを止めない。


 紫にしても、笑みを止めて真面目な顔付きをしたいのだが、止めれないのだ。


 紫は嬉しくて仕方なかった。


「理由は省くけど、外の世界で少子化は解決したわ」


「そりゃ良かったわね」


「あら、そうかしら?」


「……ああ、良くないわね」


「でしょ?」


 少子化の解決自体は外の世界にとって良いことだ。それによって外の世界が繁栄するなら、幻想郷の繁栄にも繋がる。


 では、外の世界で少子化が“忘れられて”しまったら?


 忘れられた少子化が幻想郷に流れ着き、幻想郷で少子化が始まったら?


 幻想郷の人口は外の世界とは比べようがないほど少ない。


 小さな島や村で子供が減ったらどうなるか。そう考えれば、わかりやすいのではないだろうか。


 人間がいなくなれば、人間の恐怖を糧に生きる妖怪も生きられなくなる。


 幻想郷の存亡に関わる危機だ。


「でも、同時に忘れられたものもあった」


「なに?」


「少子化を何とかしないといけない、っていう漠然とした想いよ」


 紫は続けて言った。予想以上にたくさんの人が、そういう想いを持っていたのだと。


 きっと世に本当の悪人などいないのだろう。だとしたら、彼のような奇跡など生まれるはずがない、と。


「少子化はその漠然とした想いと混ざり合って」


「相殺した……訳じゃないみたいね」


「人々の想いは凄いわ。想いは打ち勝った。だからこそ外の世界でも解決したのかもしれないわね」


 科学的ではない話だけど。付け加えて笑う紫に、最早霊夢の怒りは霧散していた。


「そしてその想いは、一人の人間に託された。忘れられてしまった一人の人間に」


 少子化を何とかしないといけない、という漠然な想い。これは具体的にどういうものだろうか。


 色々あるのだと思う。一つの命を背負う覚悟を決めなくてはならない。ただでさえ、たくさんの不安を常に抱えているのに、だ。


 それを解消するものはなんだ。充分なお金、ゆとりのある生活、健全な環境、正しい教育、いくらでもある、キリがない。


 彼がそうだというなら彼から考えてみよう。


 触りたくなる身体、働き者、誠実、愛おしくて仕方がない。


 触りたくなる身体は積極性を。働き者なのは、労働に対する意欲。誠実や子供好きなのはそのまま。愛おしくて仕方がないのは、何よりも必要なのは愛だから。


「ちょっと待って全然本題じゃない」


 彼の正体というか本質に触れられたのは嬉しいが、問題は彼に産んでもらうという点だ。


「漠然とした想いって言い換えれば無数の想いよ。中には、男性が妊娠出来ればって考えた人もいるの」


「……ああ」


「いきなり色々聞かされて混乱もするでしょうけど、後は貴女次第よ」


 紫は薬の瓶を霊夢へ手渡した。


「なにこれ?」


「男の子を孕ませられるようになる薬」


「おい」


「じゃ頑張ってね」


 紫はスキマへと消えていった。


 彼が産めるというならば、力を失うことがないならば、後は霊夢次第だ。天子が言うように、霊夢が逃げるのを止めればいい。


 彼に想いを伝えればいい。今まで怖くて逃げていた。伝え切れずに遣り過ごしていた。


 震える……怖くて仕方がない。彼に、拒まれたくない。拒絶されたくない。断られたくない。嫌われたくない。


 震えが止まらない。痛いくらいに激しい鼓動が、縮まった喉を通る呼吸が、全身を加速する血流が、苦しくて苦しくて……。


 ふわりと何かが背中を包んだ。いや、何かが、なんていうまでもない。


 彼が霊夢の背中を抱いていた。天子辺りにけしかけられたか……答えをすぐに出せというのかあのワガママ娘は……。


「大丈夫……大丈夫だよ」


 違う。あの子は意外と優しいんだ。霊夢が泣いてるから慰めてあげて、とでも彼に言ったに違いない。


 霊夢から不安が消えていく。彼を想って抱いた恐怖がなくなっていく。


 霊夢は彼の手を握って言った。


「大切な話があるの……」





「フフフ、この中にいるのよねぇ……スゴいわねぇ……フフフ」


 魔理沙が焼き芋を持って土間へ入ると、まず目についたのが嬉しそうに笑いながら彼のお腹を撫でる紫だった。


 紫は誰よりもこの結果を喜んでいた。霊夢と彼が大好きだから。


「ねえねえ名前決めた? まだ?」


「まだよ。産まれてからゆっくり考えるわ」


 素っ気なく答える霊夢だが、表情は明るい。酔っ払ってる時みたいだ。


「それがいいよな。はい」


「ん、ありがと」


「ありが、なんで熱くないのこれ?」


 焼き芋は湯気が立つほどなのに、触っても熱さは感じなかった。


「氷魔法のちょっとした応用だぜ」


 魔理沙は得意気に笑った。


 その後はお茶を片手に談笑。いつもの、日常だ。何も変わりはない。


 しばらくしたら彼が夕飯を作り始める。萃香も帰ってきて、多分霊夢は先に風呂に入る。


 夕飯が終わったら、晩酌が始まるかもしれない。名ばかりの宴会だ。そうなると魔理沙は予定通りには帰らない。どこからか人妖も集まるだろう。


 何も変わらない。いや、彼が来て、変わったのが今なのかな。


 魔理沙の予想通り、宴会が始まった。予想と違ったのは、夕飯の段階で始まったことだ。


 風呂上がりの霊夢がバスタオルを巻いた身体で居間に入ると、漂う酒の香りに少し顔が緩んだ。


「キャーっ! 霊夢ちゃんセクシー!」


「殺すぞ」


「すみません」


 霊夢がしかめ面になったのは、紫の茶々にイラついたからではない。禁酒しているからだ。


「わあ、なんだか聴こえる気がします」


「あなたなら聴き取れるかもしれないわね」


 美鈴は彼のお腹に耳を当てていた。それを咲夜は優しげに見守っていた。


「ようやく妖精達が妊娠した理由がわかったわ」


「彼の影響?」


「そうよ。男が妊娠するのに比べたら不思議でもないわね」


 紫から顛末を聞いたパチュリーは彼の本質を簡単に理解した。さらりと答えを返したレミリアもまた、その能力でわかっていたのだろうか。


「そういや、人里にカップル向けの施設が増え始めたのも」


「彼が来てからね」


 これも人々の想いの力か。予想以上に影響しているらしい。


 少子化に対する危機感が子孫を残しやすい環境を作ろうと人々に意識させた結果、カップル向けの施設が増えたり、妖精が妊娠したり、人里の人口が増えたりもしていた。


 しかし、何よりも影響を受けていた少女達の、この反応はどうだろう。


「幽香のお腹も出てきたよね」


「太ってるみたいだからやめて。太ったんだけどね」


「わあ、凄い」


 メディスンとリグルが幽香のお腹を撫でていた。そう幽香が彼とそうなった時点で、もっとなんというか……荒れてないのがおかしい。


 もっと殺伐とした事態になるのでは、そう思っていた者は少なくなかった。


 しかしそう思っていた者達ですら、何とも……ただめでたいことだとしか思えなかった。


 負けたとか、先を越されたとか、奪われたとか、そういう感情はなかった。


 むしろ――


「今度は私もお願い出来ます?」


「ちょっと美鈴、私が先って約束したじゃない」


「咲夜、主人に先んじるとはいい度胸だ」


「やってなさい、私はそのうちでいいから」


 このように――


「私もお兄さんに卵産んでもらう」


「あのねお空……ああそっか、そっちもいけるんだよね……」


「なるほど、お燐も産んでもらいたいのね。私はどっちも」


「あたしをお兄ちゃんに産んでもらうんだよ」


「やめなさいこいし」


 各々が――


「母体への影響とか負担は八意製薬におまかせです」


「なので私達にも、ね」


「…………」


「嬉しそうね永琳」


 欲望の――


「わ、私達もいいのかな?」


「勝ち取れ、ばんちゃんは勝ち取る」


「せいじゃあっ、飲めっ! んで勢いで孕めっ!」


「いや姫そんな強引なんぐっ」


 いや――


「私もとうとう女になる時が来たようですねぇ」


「……ま、まあ……向こうから、誘われたなら……その……」


「ダメよ椛! 妊娠する時は三人一緒って約束したでしょ!」


「してません」


 愛のままに――


「ふむ、儂も年甲斐なく恋しくなってきたのう」


「古狸は大人しくしていたらどうだ?」


「女狐には負けたくないのじゃがなあ」


「喧嘩すんなってマミゾウ」


「そうですよ藍さま」


 そう――


「私も……頼んでみようかなあ……」


「あら、魔理沙がそういうなら私も頑張ろうかしら」


「どっちにしろ次は私の番よ!」


「相変わらずワガママお嬢だね。でも、ワガママ通した方が早いかも」


「あんたらねぇ」


 愛のままに――


「私が三人は欲しいってことを踏まえてやりなさいよ」


 やっぱり怒らないのか。独占欲がない訳ではないはずだが。


 きっと人々の想いっていうのは都合良いものが多いのだ。一夫多妻が認められたら、とかそういうのが影響してるのだろう。


 何でもありだ。だが、彼女らが彼を愛しているのは、それだけは違う。


 それは間違いなく、これまでのふれあい……接触が育んできた愛情だ。その接触に至る原因は、人々の想いだが、あくまでもそれはきっかけだ。


 つまり彼女達は、人々の想いに影響されてはいるが、飲み込まれてはいないのだ。


「寝る」


「ん、おやすみ」


 彼を気遣って素面でいる霊夢は酒の飲めない辛さを誤魔化そうと、腹を満たして早々に布団へ向かった。





「あなたが好きよ。あなたの何もかもが好き。さらさらの髪も、白い肌も、キュッとしたお尻も、膝枕してくれるのも、頭を撫でてくれるのも、手を繋いでくれるのも、抱っこしてくれるのも、触らせてくれるのも、キスさせてくれるのも、美味しいご飯作ってくれるのも、一緒にお酒を飲んでくれるのも――」


 まるで濁流。好きだって伝えるのがこんなに難しいなんて、自分がこんなに不器用だったなんて……堰は切れた、言葉は止まらない。


「甘やかしてくれるのが好き、優しくしてくれるのが好き、尽くしてくれるのが好き――」


 Dゲームから抜け出すと、ご丁寧に布団の敷かれた寝室へと運ばれていたのに気付いた。お膳立てはバッチリだ。


 霊夢は少しずつ彼に身体を寄せ、徐々に、徐々に、彼を押し倒していった。


「あなたの答えを聞くのが怖いの。好きだから、好き過ぎるから、あなたに嫌われるのが……怖いの」


「好きだよ」


 彼の即答に霊夢の顔が蕩けた。全身に走った悦びが、完全に押し倒された彼の唇へと霊夢を誘う。


 淫靡な水音が幾重に続き、甘い声が合間を埋める。口を離すと透明の橋が二人の唇を繋ぐ。


「ありがとう、でもごめん、もう止めれないの……止まらないの」


 霊夢の手が、彼の服へと潜り込む。繋いだ片手は指と指とが絡み合う。


「あなたに……凄いことをするんだけど……」


 先程飲んだ薬の効果は既に出ていた。何をすればいいかも理解していた。


「……嫌がっても止められないの、ごめん、お願い……」


 切ない声で自らを抑えられないと吐露し、そして懇願する霊夢。


 彼は、優しげに言うのだ。いつものように囁くのだ。


「いいよ」


 何故なら彼も、霊夢のことが大好きだから。


 とにかく最初に伝えたいと思います。ありがとうございました。



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