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東方逆接触  作者: サンア
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57/66

あざとさ話

ギャグ回です。



「常日頃から考えていたことがあります」


 神妙な面持ちで静かに口を開いた八雲藍に、ゆっくりと視線を向けた八雲紫は妖艶な笑みで応えた。


「何かしら?」


 極めて自然体である。きっと藍がどのように切り出しても、同じように応えるのだ。実際、自堕落に欲を貪っていた藍に同じように応えたことがあった。


 あれから何年、何十年、何百年……堕落も歓喜も絶望も、底抜けに深く、途方もないほど広い紫の器が拾い上げてくれた。


 だからこそ主従が続いているのだろう。


 藍は力強い視線を真っ直ぐ紫に向けると改めて口を開いた。


「彼は美しい」


「あなたがいうのなら、間違いないのでしょうね」


 傾国の美女とまで呼ばれた藍の“美しい”である。誰よりも説得力のある言葉だ。


「私もそう思うわ。彼は美しい」


 一般的に見てもそうだろう。本来、男性の形容に美しいという言葉は違和感があるものだが、彼に対してならば自然……当たり前でしかない。


 恋に盲目になった女達の過大評価かもしれないが。


「その美しさに、私は……私の欲望は……愚かなことをしようとしているのです」


「あら……それは、とてもとても興味深い話ね。是非、聞かせてちょうだい」


 うつむく藍に、あえて話すように促す。主人の命令ならば話さぬ訳にはいかない。藍ならそう考えると、紫がわからぬ訳がなかった。


「私は……私はあの美しさに……」


 震える声に紫の期待が高まる。この優秀な従者がこれほど考え悩むとは、藍には悪いが気になって仕方ない。


 しかし、答えを聞いた紫は、いつもの藍じゃねぇか! と思うことになる。


「“あざとさ”を付け加えようとしているのです!」


 あざとさとは何か……紫は聞かなかった。先程から立ったり伏せたりピクついたりと落ち着きのない藍の頭にある狐耳を見れば聞くまでもなかったからだ。





 博麗神社の境内で、彼は椅子に座っていた。両手を重ねて太ももに置き、すぐそばでとてもとても楽しそうに机に何かを並べている藍をジーッと見ていた。


 ヘアバンド……カチューシャ……フード……頭部への装身具だ。フードを被るにはそろそろ暑くなってきたのではなかろうか、という言葉を口にする者はいない。


 数十名が集まるこの場においてでさえ……だ。


 彼に身に付けさせようとしているのはわかる。ただの装身具を身に付けるだけでここまで集まるだろうか?


 集まるだろうな……集まるだろうが、用意された装身具はただの装身具ではない。


 いや機能的にはただの装身具なのだが、見た目は大きく異なっている。


 レイアウトに満足した藍がマイクを握った射命丸文へチラリと視線を送る。


 スゥーッと息を吸い込み、若干の間を置いて大きく言葉を吐き出した。


「獣耳は好きかああああああああ!?」


 空気が揺れるほどの歓声が沸き上がる。


「彼は好きかあああああああああ!?」


 歓声が膨れ上がる。よほどの振動故か、境内の石畳にピシリとヒビが走った。


「では彼にぃ! どの獣耳を付けたいぃ!?」


 全員が全員、欲望を吐き出し始めた。


「犬耳ぃ!」


「猫耳ぃ!」


「兎耳ぃ!」


「鼠ぃ!」


「虎ぁ!」


「お前たちの気持ちはよーくわかったあ!」


 尽きることない欲望に区切りの言葉を入れ、続けて叫んだ。


「これよりっ! 第一回! 幻想郷獣耳祭を開催しますっ!」


 歓声が起こす衝撃を肌にピリピリと受けながら、やはり彼は左右に揺れる藍の尻尾をボーッと眺めていた。


 さて読者の諸君には幻想郷獣耳祭について説明せねばならない!


 幻想郷獣耳祭とはっ!


 色んな獣耳を彼に付けるお祭りっ!


 以上っ!


「それでは主催者及びエントリーナンバー一番、八雲藍さんから始めていただきましょう」


 机……いたって普通の長机であるのだが、今この時は獣耳机と称することとしよう。


 獣耳机の後ろに立ち、マイクを受け取って拍手をする人妖達に会釈をすると、愉しげな笑みを隠さずに口を開いた。


「まずは、私のワガママに付き合ってくれた皆様へ感謝します」


 丁寧で穏やかな口調である。八雲の従者に恥じない姿だ。わりと恥じてることが多いだけにギャップがある。


「さて、早速、私が彼に付けてほしい獣耳を発表させていただきます」


 藍は自身が並べた獣耳の一つへ、迷うことなく手を伸ばした。


「こちら、黒の猫耳です」


 会場がざわめき出した。


「狐耳を選ぶと思った浅はかさは愚かしい……といったところでしょうか」


 ざわめきの理由は藍自らが口にした。会場の者達のほとんどは、狐耳を選ぶだろうと予想していたのだ。


 藍自身、狐の妖獣だ。ならば狐耳を付けたいと思うのは自然だ。


「確かに、狐耳を付けたいという気持ちもある。しかし、あざとさの、獣耳の代表とはなんだろうか? 私は猫耳、それも、黒だと確信している」


 身振り手振りの一つ一つに力強さを感じる。そういえば彼女の従者は……ああなるほど、本当に好きなのか。


「ま、あくまでも私は、である。他の思想を貶すつもりもそれより上だというつもりもない」


 藍がマイクを襟元から胸に突っ込んで固定した。豊満な胸故に可能な技だ。こういうことを平気でやるから主人が恥じることになるのだが、本人は気にしない。


 獣耳机の隣に座る彼の背後に移動し、両手で丁寧に黒猫耳のカチューシャを彼に付けた。


 歓喜の雄叫びが上がる。空間が揺れて歪むほどの振動に、真っ赤な鮮血が散っていた。


 鼻血である。限界を突破した興奮が噴出したのだ。珍しいことではない。


 カチューシャに付属された猫耳は玩具のような適当な作りではなかった。根元から斜め上にピンと張り、内側にはやや空間のある立体的な構造だ。


 外側の毛は短く伏せているが、内側の毛はふわふわと立っている。また基本的には黒色だが、内側の真ん中辺りは真っ白だ。


 本物に近い質感をしている辺りに、藍のこだわりがうかがえる。


 その上、


「こう?」


 藍が何かを彼の耳元で囁くと、彼が丸めた両手を顔の横に上下にずらして移動させた。


 いわゆる、猫をイメージさせるポーズである。


 あざとい。非常にあざとい。そのあざとさに、藍は胸元から引き出したマイクを引っ張り出して叫んだ。


「ありがとうございます!」


 藍は興奮を通り越して感涙していた。


 そして、会場にいたほとんどの者が、彼のあざとさにノックダウンしていた。


「ありがとうございます! エントリーナンバー一番八雲藍さんでした!」


 真後ろに倒れた藍は拍手を受けながら担架で運ばれて行った。


「さあでは続きまして、獲得ポイントの発表です!」


 文の隣で、耳当てが付いたゴーグルを装着したにとりが、耳当て部分にあるパネルを操作していた。二人の背後には巨大なモニターがある。


 ゴーグルの名称“スーパーキャワワカウンター”略して“スキャウター”あざとさを数値化する河童の発明品である。


 あざとさ全般にいえる数値ではあるが、今回は“獣耳力”と称することにしよう。


「藍さんの獣耳力はーっ!」


 大音量の効果音の後に、モニターに数値が表示される。


「七〇〇! にとりさんこの数値はどうなのでしょうか?」


 スキャウターを外したにとりが説明を始める。


「非常に高い獣耳力といえます。一般的に美少女と呼ばれる妖獣の獣耳力が一〇〇から二〇〇ですからね。しかし外見だけではなくポーズや行動も重要です。彼と手を繋いで歩いていた犬走椛の獣耳力は五七〇でしたしゅいぎ!?」


 にとりの顔面に刀の鞘が飛び込んできた。


「すみません。手が滑りました」


 野球の投手がボールを投げた後と同じ体勢の椛が無表情でいった。


「……それではエントリーナンバー二番、二ッ岩マミゾウさんっ! お願いします!」


 文は額から冷たい汗を流しつつ、何事もなかったかのように進行した。


 マミゾウは楽しげに口角を上げ、獣耳机の前に立つと、挨拶もそこそこに振り返った。


「見てもらった方が早いからのう」


 早々に獣耳を手に取り、彼の前に移動する。ほんの一時だけ観客から彼の姿が隠れる。


 マミゾウが彼の背後へ回り込むと、やはり歓声が上がった。彼女達の喉に限界はないらしい。


 マミゾウの選んだ獣耳は――


「白の犬耳じゃ」


 藍の選んだ猫耳とは違い耳全体にもこもことした毛があり、横幅が広く先端がやや伏せている。形も色も藍とは対極的だ。


「猫耳のあざとさは認めよう。わしも好きじゃ。だが……」


 ――目を閉じる。


 ――息を吸う。


 ――息を吐く。


 ――目を開ける。


 一連を終えたマミゾウの表情は、普段の飄々とした遊び人ではなかった。


 それは確かに、化け狸を束ねる大妖怪、佐渡の二ッ岩であった。熱狂に酔ってなければ、格の劣る妖怪は頭を垂れていたであろう。


 そして、マミゾウは口を開いた。高らかに宣言したのだ。


「世には、犬派と猫派がおるのじゃ!」


 荘厳な雰囲気を醸したにしては、少し気が抜ける宣言だが、まあ確かにその通りだ。


「派閥争いについては何も言わんし、言えん。太古から続く趣味嗜好の一つじゃてな。しかし、犬派にとってあざとさの究極とは、やはり犬耳なのじゃ」


 犬系の妖獣達から喝采が鳴り響く。


「そして、わしにとってはこれになる。白の犬耳、堪らんのう。犬種にもよるが、猫に比べると大きく毛も長い。触り心地に違いがある……と、猫と比べる話ではなかったな」


 苦笑。どうやら藍に対抗意識を持ってしまっているらしい。犬猿ならぬ狐狸の仲。器の大きなお互いではあるが、相対すると少々感情的になってしまう。


「犬の良さではなく、彼に付けてのじゃったな。見て感じてくれとしか言えんからのう、こんなものを用意した」


 司会の背後にあるモニターに画像が表示された。あらかじめ撮影していたものだ。


 鮮血。大丈夫、いくら鼻血を出したって彼女達は人間じゃなく妖怪なのだから、何の問題もない。


 一部人間はいるが、医療関係者もたくさんいるので何も問題はないのだ。噴出した鼻血の量が異様なほどだとしても、絶対に問題はないのだ。


 モニターに表示されているのは、両手と膝を曲げて、腹を見せるように仰向けに寝転がった、犬耳の彼だった。


「以上じゃ」


 マミゾウは満足げな顔で締めた。観客達の反応が期待通りで嬉しいのだろう。


 が、獲得ポイントでほんの一時渋面を晒す。


「二ッ岩マミゾウさんの獣耳力は――六七〇! これは藍さんに一歩及ばないかっ!」


「やはり、モニターを通したあざとさと、生のあざとさとの差だと思われます。逆に言えば、生のあざとさにここまで肉薄する服従ポーズを称賛するべきでしょう」


「大きな動きやポーズは事前に撮影していますからね。小さな動きならばこの場でも行えますが……」


「藍さんはその辺りを計算していたのでしょう。余談ですが、犬耳を付けた彼を見た椛の獣耳力が六五〇とこの記録に迫りゅいん!?」


 にとりの顔面に盾が飛び込んできた。


「すみません、盾が滑りました」


 円盤投げの後に似た体勢の椛が無表情でいった。


「……続いてエントリーナンバー三番っ! 鈴仙・優曇華院・イナバさんですっ!」


 文は何事もなかったかのように進行した。


「えっと……鈴仙です。よろしくお願いします……」


 鈴仙は緊張していた。やや足が震えている。仕方のないことだ。彼女はそもそも人見知りなのだから。


「わ、私は、つけ耳は使いませんっ」


 ざわめく。それはそうだ。つけ耳を使わず何で戦うというのだ。


 いやすぐに合点はいった。そう彼女はあの八意永琳の弟子なのだ。


「こ、これ、お願い、します」


 鈴仙は彼に小瓶の飲み薬を手渡した。彼はそれを受け取ると、何の躊躇いもなく飲み干した。


 これがどういう薬なのかは、状況から容易に想像がつく。


「こちらのつけ耳は全て良く出来ています。でも、“本物”じゃあない」


 確かにそうだ。非常にクオリティは高いが、あくまでも作り物である。


「でもこの薬なら、再現……いえ、本物になれるんです!」


 鈴仙が彼を指差した。両側頭上部からにょきにょきと、数倍の速さで再生した植物の成長過程のように、白い毛に覆われた長い耳が生えてくる。


 上へ上へと伸びていく姿は竹の子を連想させたが、途中でだらんと笹のように稲穂のように垂れ下がった。


 幅と厚さのあるふかふかの獣耳がぺたりと彼の耳を隠す。


 これは兎耳……それも、垂れ耳である。


「破壊力ばつ牛んっ!」


 鈴仙は倒れた。自身の嗜好を身にした彼を見て、極限に達したのだ。絶頂した……否、絶頂し続けている。


「れ、鈴仙さんに代わりまして、撮影した写真を発表させていただきます」


 とりあえず場を繋ぐ為にと文がモニターへ注目を集める。


 表示された彼にはもちろん兎耳がついて……いや生えている。既に服用したことがあるから躊躇いがなかったのだろうか。


 服装は桃色のワンピースだ。半袖の袖口はキュッと絞られ、裾にはフリルがあしらわれている。首からはニンジンのネックレス。


 柔らかく腰を曲げ、右手に持った赤いニンジンをカプッとくわえてカメラ目線。


「はかったな鈴仙!」


 因幡てゐが倒れた。自身のコスプレにあざといポーズあざといアイテム。これは仕方がない。もう全部仕方ないのだ。


「こ……こっちも……ほ、本物……」


 鈴仙は震える手で彼のズボンを掴んで少しだけ下げた。写真と同じ位置に丸いふわふわの尻尾があった。


 狂乱の中で鈴仙は意識を手放した。ニヘラァっと笑いながら……。


「鈴仙・優曇華院・イナバさんの獣耳力は――七八〇! 藍さんの記録を塗り替えました!」


「素晴らしいですねぇ。緊張を隠せないぎこちない発表でしたが、生の獣耳にあざといコスプレ、更に彼の柔肌から生えた尻尾のコンボ……これは常人では耐えられません」


「中立の立場にいる私も、最後の力を振り絞ってズボンを下げた鈴仙さんには敬意を表します!」


「あれがなければマミゾウさんより低いポイントだったと思われます。あと、兎耳を生やした彼を見たもみもみの獣耳力は七四〇でした。肉食の性が情欲を刺激したのだんべしゅ!?」


 にとりの顔面に刀の柄がぶつかった。


「すみません、刀が滑りました」


 槍投げを終えたような体勢の椛が無表情でいった。


「それでは続きましてぇー!」


 その後も祭りは熾烈を極めた。


 虎耳、鼠耳、ミミズク耳、触角。


 同じ耳でも、色違い、形状違い、生派。極限までリアルを追求する者もいれば、敢えて作り物っぽさを求める者も……。


 議論はどんどん激化していくも、ポイントは接戦。言葉の戦いが拳の戦いに変わるのも時間の問題であった。


 そこに、二人の救世主が現れた。


「狐耳なんてどうでしょうか? その……ら、藍様みたいな……」


「た、狸耳……べ、別にマミゾウを意識した訳じゃないけど……」


 藍の従者橙とマミゾウの良き友封獣ぬえだ。


「ば、バカな! 獣耳力十万……二十万……まだ上がるだと!?」


 あざとさとは、自然に生まれるものである。計算して作るものではないのだ。


「四十万っ、五十万っ、五十三ま、ぐおっ!?」


 スキャウターが爆発した。限界を超えた数値にエラーをおこしたのだ。わざわざ爆発させる必要性を感じないが、河童のロマンに口を出すのは不粋だ。


「えぇと、では優勝は?」


「まだだ! まだ彼につけた訳じゃない。これはあくまでも、大好きな人の獣耳を提案した純粋さによる獣耳力であって彼に獣耳をつけたことによる獣耳力じゃないややこしい!」


「自分でいっちゃった」


 正直もう優勝どうこうの話ではなくなってきていた。自身の提唱する獣耳の最強を決める戦争になり始めていたのだ。


 そこに飛び込んできた二つの純粋無垢に、闘争の空気は散っていた。


 そうだ。獣耳に差なんてある訳がない。各々の一番は各々で決めればいいのだ。


 その心で、周りの一番を尊重していく。それこそが主催者である藍が望んでいた在り方ではなかろうか。


「にとりさん、二人が優勝でいいじゃないですか」


 文の言葉に周りが賛同する。にとりは微妙な表情だが、その空気には従わざるおえなかった。


 こうして幻想郷獣耳祭の優勝が決まった。優勝賞品は、それぞれが提案した獣耳をつけた彼とツーショットの写真となった。


 普段を考えると、とてつもなく健全な賞品だ。


 この後は血濡れの境内の掃除と気絶者の介抱だが、そこまで彼に煩わせる訳にはいかない。


 河童が行う予定だ。実験の成果を得たし、興行的な収入もある。何より彼の為だ。


 いや、主催者の為だろうか。


 なんだかんだいっても、彼は掃除を始めてしまうだろう。ならば別の、楽な事を頼めば良い。





 藍が目を開くと、最初に黒猫耳をつけた彼の顔が飛び込んできた。


「……素敵だ」


「ありがとう」


 藍は彼から視線を離さずにゆっくり起き上がった。神社の寝室だ。ちょくちょく世話になるのですぐに気付いた。


 だが、藍はもっと重要なことに気付いた。そして驚愕した。これはつけ耳ではない。生えている。


「薬か?」


「うん」


「そうか……素敵だ」


「ありがとう」


 鈴仙の発表の時点では完全に気を失っていた藍ではあるが、少し考えれば気付けぬことではなかった。


「ふむ……よし、来い」


「ん?」


「膝に乗れといっているのだ」


「ん」


 藍は布団をどけると、膝をポンポンと叩いた。口にもしていたが、改めて来いと合図しているのだ。彼は従った。


 気絶している間に着替えさせていたのか、藍の服装は普段の袖口の広い中華服ではなく、白い着物になっていた。


 肌触りが良く涼しげで、これからの季節の寝巻きに適している。と感じるや否や帯を解いた。


 ぶるんと胸が弾む。ギリギリで零れないのは、彼が膝に乗ったことで衣服が固定されたからだ。


 彼は藍と向かい合うように膝に座っている。


「ギューッとさせてくれ」


「ん」


 彼の返答を聞いた瞬間、藍は彼の首筋に鼻を押し付け、両腕を腰に回し、口にした通りギューッと抱きしめた。


「ん~~っ」


 幸せそうな声が漏れると、チュッチュッと唇を何度か首筋に当て、最後に生々しい水音が立つくらいに吸い付いた。


「ゃん」


 藍は、彼の耳がピクピクと痙攣するのに気付かなかった。見えないのだから。


 しかし、手首に当たる艶かしい感触には気付いた。尻尾である。


 黒く長い尻尾が、藍の手首を淡く撫でる。こそばゆいが、それ以上に快感だ。


 片腕の力を緩めて隙間をつくると手首に尻尾が巻き付いてきた。


 負けていられない。藍の九尾が一尾一尾ゆっくりと彼へ巻き付いてゆく。


 手首を腕を脇を、首を胸を腹を腰を、尻を太ももを膝を足首を。


 長く太い藍の尻尾は、見た目からは想像し難い器用な動きで彼を責め立てる。


 胸の熱さは口から吐き出され、彼の首や胸に赤い痕を残していく。


 腹の奥の熱さは股ぐらを通って尾に集まり、彼の身体を蹂躙する。


「ダメだ。すまない。我慢出来ない」


 藍は彼を押し倒した。身体を前に傾ければ済むことだった。


 熱さに身体が耐え切れないのだ。もうどうしようもない。


 藍はあらゆる方法で彼へ欲を発散するだろう。全身を貪り、己の体液で染める。


 藍にとっては、それを“純潔”と呼ぶことは理解し辛いことだったが、散らす覚悟は出来ていた。


 彼が本気で拒絶すれば話は別だが、そうしない限り、藍はやめないだろう。


 我慢出来ないというわりに、藍は焦っていなかった。ゆっくりと口付けを交わす。愛を伝えている。


 が、この時藍は気付いた。彼の猫耳がピクピク動いているのに。


 藍の知る、彼が反応する箇所に触れていく。耳が上下左右に反応する。尻尾もだ。彼の感覚器官と繋がっているのだ。


 藍の目的が変わった。どの箇所にどのような動きで反応するのか、またその動きでそれぞれの箇所の反応の大きさを確認出来ないか。


 普段反応の薄い彼の“感じる”箇所をより追及する絶好のチャンスであったのだ。


 傾国の美女の妖艶さが、無垢な子供の無邪気さに変わってしまったのだ。やってることは子供らしくないが。


「ここは? ここはっ? ここはぁ? そうかお前、ここが好きなんだな? ずっと触っててやるからなあっ」


 子供のようにはしゃぐ藍に、万が一の暴走に備え、部屋の外で待機していたマミゾウは、


「なんだ可愛いところがあるじゃないか」


 と呟いて、口の煙管を離して煙を吐いた。


「……今度わしもやらせてもらうかのう」


 珍しいことだ。マミゾウはほんの少しだけ、藍に嫉妬していた。



ギャグ回とはいったが、えっちぃのがないとはいってない。

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