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東方逆接触  作者: サンア
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南無三話後編

ほぼ即堕ち命蓮寺。



 寅丸星は飢えていた。飢餓に近い状態であり、牙を剥き出しにした口の端からはよだれが垂れていた。


 寅丸星は命蓮寺の本尊だ。毘沙門天という外の世界でもまだ廃れていない名のある神の代理で、なんと妖怪である。いや、であった、というべきか。


 穏やかな性格だがやや天然で、なくしものをしては部下の鼠妖怪に叱られているのは命蓮寺の修行僧らには周知だ。


 だが、基本的に真面目な星は毘沙門天の化身としての仕事をしっかりとこなす優秀さと、威厳のある佇まい、外見の美しさも相まって、見事に人妖から信仰を獲得している。


 そして今の彼女の状態は、優秀な僧侶でも、穏やかで美しい本尊でも、天然でうっかりな寅丸星でもない……ただ飢えているのだ。


 彼女は虎を祖とした妖怪で、蓮の飾りを乗せた癖毛はその名残か、金髪に黒色を混ぜた虎を思わせる色合いだ。


 大きな袖の衣に虎柄の腰巻き、羽衣のような白い輪を背中に、自身の背丈より長い槍を左手に宝塔……水晶に寺の屋根のような飾りをつけた……まあいわゆる大事な物だ。よく無くすが。


 服装は毘沙門天を意識し、槍と合わせて威厳を保つ為のもので、戦いに使ったりはしない。星は優秀だから使えなくはないかもしれないが。


 今彼女は槍も宝塔も手にしていない。なんならその毘沙門天を意識した服装ですらない。


 寝巻きに使っているであろう少しよれた着物姿だ。はだけた胸元からはさらし等は見えない。


「……良い……匂い……」


 寅丸星は元々人を喰らう妖怪であった。聖に弟子入りし、毘沙門天の化身となってからはその頃の姿には戻れなくなった。


 しかし抑えきれない性質もある。


 寅丸星は飢えていた。とてもとても美味しそうな匂いによだれを流し、寝起きの身支度を整えていない格好で、ゆっくりしかし確実に匂いの元へ歩いていた。





「とりあえず覚えることから始めましょう」


 尼の思わせる紺色の頭巾からは水色の髪が覗いていた。


 雲のように白い長袖に紺色の肩掛けを羽織り、膝ほどの白いスカートの裾には藍色の山模様が入っている。


 全体的にゆとりのある服だが、正座しているからかむっちりとした太ももがスカート越しに浮かんでいる。


 対面には同じく正座する彼。


 ほぼ着の身着のままで聖に連れられた彼は、滝行後の着替えを用意しておらず、とりあえず一輪の服を貸して着せたのだが……。


「(男の子なんだよね……スカート似合うなあ)」


 現状一輪との違いは頭巾の有無だ。彼の腕には長い袖に、中程まで覆われた手には薄い冊子。寺の理念や般若心経が記載された……パンフレットのようなものである。


 なんだか不敬な気がしないでもないが、表紙に『命蓮寺修行体験ツアー!』などと筆字でビシッと書かれているので、間違いではないだろう。


「(これ、煩悩なのかしらね? 気を付けないと)では始めます」


 何を始めるのかといえば、読経である。仏門に帰依しているなら日常のことだ。


 一輪は仏壇へと振り向くと、スゥーっと息を吸い、大きく口を開いた。


 瞬間、脳裏に先程の彼が浮かんだ。


 濡れた肢体を、透けた肌を、触られ掴まれ刺激されて弾んだ太ももを、尻を、そして彼の甘い声を……脳が勝手に反芻する。


 脳内の彼は少しずつ自分と同じ服装へと変わっていった。背後の彼と同じように。


 罰当たりなことを考えてはいけない。本尊を祀る仏壇の前にいるのだ。


 無心になるのだ。無心になれば考えに意味はなくなる。頭を心で御するのだ。


 口を開いて経を唱えろ。それが私の信心であり、彼の更生への道なのだ。


 一輪の心とは裏腹に、身体が上手く働かない。これが姐さんのいう彼の魔性とやらか? これに村紗はやられたのか?


 段々と熱っぽくなってくる。薬でも盛られたんじゃあるまいな……いやそんな気配はなかったし、一輪は彼を迎えに行ってからはお茶の一滴も飲んでいない。


 第一彼は持ち物がない状態でここまで来たのだ。そんなことをする子にも見えない。


「大丈夫?」


「ひゃい!?」


 いつまでも読経を始めない一輪へ彼が声をかけた。するとビクッと肩が跳ね、開いたままの口から間抜けな声が漏れた。


「だ、大丈夫! 大丈夫ですごめんなさ――」


 慌てて振り返ると言葉が詰まった。魅了された……からではない。一歩手前ではあったが。


 信じられない光景があったからだ。


「えぉっ……ん、ちゅ……おいしっ……んんっ」


 一輪の目に飛び込んで来たのは、彼の頬に吸い付く寅丸星の姿であった。


 星が入って来たことや、この生々しい唾液の音に気付かなかったのも、なんというか不覚だが……それよりも、そんな状態で他人を心配出来るゆとりを持った彼に驚いた。そしてちょっと、胸の奥がキュンとした。


 一輪は比較的常識人(常識妖怪?)なのであろう。自身の心の変貌はひとまず置いて、どう考えてもおかしくなっている星を止めようと立ち上がったのだから。


「やめなさい! なにしてるのよ!? 姐さーんっ!」


 とはいえ一輪も戸惑っていた。短期間に仲間の変貌を二度も見てしまったのだから仕方ない。


 一輪は星を引き剥がそうと力を入れて引っ張るがびくともしない。


 それどころか彼の服に手を掛け、はだけた胸へと口を近付け出した。


「姐さーん! あっねっさーっんっ!」


 自分一人ではどうしようもないと姐さんこと聖を呼ぶが、本人は人里にて布教活動に励んでいた。


 一輪は入道使いという非常に珍しい妖怪であり、いつも傍らに雲山という入道妖怪を従えている。


 雲のような身体……いや雲そのものに、厳つい老人男性の頭と筋骨逞しい拳――多分筋骨自体は無いが――を持ち、見た目通りの強い力を活かした仕事を担当している。


 雲山の力ならば星を引き剥がすことも可能だろう。しかしその日に限って雲山は傍にいなかった。


 いやその日に限ったことではない。最近は一輪から離れて仕事をしていることが多い。


 雲山は見た目は頑固親父だが、紳士的で優しく人を気遣える誠実な面がある。誰かに似ているな。


 自分のようなむさい妖怪が近くにいては、一輪の人妖付き合いに難がある。


 そう思ってわざと離れているのだが、一輪はそれを少し寂しいと感じているし、離れている時に限って力を貸してほしい事態になるのだ。


 今みたいに。


「星! 寅丸星! お願い正気に戻って!」


 やや涙目の一輪の呼び掛けは一切星に届いていない。


 彼の胸元と頬は星の唾液に濡れ、肩と腕には歯形がついている。


 彼を貪るのに夢中で仕方がないらしい。


 一輪も実は相当に強い力を持っている。村紗を吹き飛ばしたのが良い証拠だ。


 星がそれ以上に強い力を発揮しているのは確かだ。一輪に抗いながら、歯形を別にしてではあるが、彼を傷付けないようにとデリケートに力を行使している。


 だが一輪は、星に触られたり、舐められたり、噛まれたり、する度に漏れる彼の甘い声で力が抜けてしまい、本気が出せないでいたのだ。


「ああもうどうしろってのよ!?」


 とうとう激昂して怒鳴った。


「ごめんね」


「あ、いえあなたは悪くないのだけれど……むしろ謝るのはこっちというか……」


 一輪は今まで必死に星を止めようとしていたのが馬鹿らしくなってしまった。


 彼は時折甘い声を洩らす以外には特に変化はないのだ。いつも通りといってもいい。


 彼にとってこれぐらい慣れっこなのだ。


「(この人、悟りを開いているのでは……)」


 星が暴走状態にあるのは確かで、噛み付いたりしていても歯形が付く程度で止めれる理性はあるらしい。


 とはいえ二人きりには出来ない。危害をくわえないと思うが、一線を超えてしまう可能性は充分にある。


 きっと彼は、そうなってしまっても心を乱さないだろう。だから誰にも気付かれない。


 よくわかった。彼に更生は必要ない。確かに魔性を身に宿しているが、決して邪悪ではない。


 一度冷静になって星の言葉を聞いてみた。


「んちゅっ……好きです……へろっ……ん、愛してます……んん、もうっ食べてしまいたい……」


 自分の服を着ている彼にそれを言っている仲間に対してある種の羞恥は感じるが、まあとにかく邪悪な意志はない。


 一目惚れでいいのだろうか。自分も似たような状態だから何も言えないが、魔性の効果には個人差があるということか。


 気持ちがわかるという時点で自分も相当だな。


 さて、星はいつ頃落ち着いてくれるのだろう……姐さんが帰って来るまでに元通りになれば、それなりにフォローしてやれるのだけど……。


「ただいま戻りました」


 ダメでした。とりあえず事情を説明してこよう。一輪は立ち上がり部屋を出た。





 聖によると、寝不足が原因で情緒不安定になり、昔の人喰いの性質が五感と共に研ぎ澄まされ、そこに彼というご馳走が現れた。とのこと。


「本当に申し訳ありません」


 深々と頭を下げる星に、先程の荒々しい気性は感じられない。赤面し、謝罪しているのだから記憶は残っているはずだ。


 聖が手刀を落としただけでこの通りである。どんな術を使ったのやら。


「大丈夫だよ」


 湯上がりで身体から湯気を立てた彼が、本当に全く気にしていない様子で返した。怒鳴られたり罵られたりする覚悟をしていた星には拍子抜けだ。


「どうやら私が間違っていたようです。更生など必要ありません。しかし帰依して修行は続けましょう。それがあなたの幸せに繋がるのですから」


 彼と同じように身体から湯気を立てた聖は、彼に寄り添うようにしてやたら饒舌に語りかける。


 聖は数十分前、星の唾液やらでベタベタになった身体を清めるようにと風呂へ案内したのだ。


 何がどうなったか知らんが一緒に入ってきて、彼の魔性に堕ちたようだ。


「では修行を続けましょう! 座禅なんてどうです? あの肩を叩く奴はそれほど痛くないですよ。集中を促すためのものですから。まあ全く痛くない訳ではありませんが」


 聖はペラペラと饒舌だ。多分、肩を叩かれて甘い声を出す彼に期待しているのだろう。


「聖、気持ちはわかりますが時間も時間です。食事にしませんか? お詫びを兼ねて何か特別なご馳走を用意しても……?」


 星の言葉に聖は思案する。特別なご馳走とは、星がいう場合は肉のことである。


 星の暴走は寝不足だけが原因ではない。人喰いの性質を抑えるには、代用品を摂取するのも有効だ。


 肉食は基本的に禁じられているが、例外というか抜け道はある。


 檀家から勧められたものはお布施となるので無下にしてはいけない。


 確かに星は肉を食べたいと思っているし、先日檀家から肉の塊を貰ったことも知っている。が、単純に彼に喜んでもらいたいと思っているようだ。


 その心情を察せないほど聖は鈍感ではない。お詫びを兼ねてというなら尚更だ。


「精進料理も充分ご馳走だと思いますが、わかりました。そろそろ食事時ですしね」


 根が善人の聖はこれを受け入れた。


「やった」


 欲求に素直なのか星は喜びを口にして無邪気に両手を上げた。


 その様子に仕方ないですねと呟きつつ微笑みを浮かべる聖。


 夕食時、久しぶりの肉料理に喜んでいたのは星だけではない。


 むしろその時まで知らなかった一輪や村紗の方が喜びは強かったかもしれない。肉体にも活力が湧いてきた。


 これがいけなかった。みんなすっかり油断してしまったのだ。


 寺での生活で早寝早起きは基本だ。特別な予定がなければ、空が暗くなった頃には就寝の準備に入っている。


 そういう生活に慣れているのか、聖達は寝付きが良い。


 星も本来ならそうだ。しかし星はしっかり眠った後だった。前日の忙しさ故だったが、星はその忙しさに心底感謝した。


 その日彼は泊まることになった。霊夢には聖から伝えておいたそうだ。


 唐突だが、発情した虎は二日で百回致すらしい。


 改めていうが星は虎を祖とした妖怪だ。


 そして、理性を取り戻しただけで情欲が収まった訳ではなかった。


 更に肉を喰らったことで身体的に充実した状態となっている。


 他の者が寝静まったタイミングで、彼の部屋にゆっくりと侵入する。


 しっかりと理性を持った星が、だ。


 本来なら耳を澄ませてようやく聴こえるくらいに小さな彼の寝息も、敏感になった星の五感には扉越しでも明確に聞き取れた。そのため侵入に躊躇いがなかったのだ。


「綺麗な人ですねぇ……」


「そうよね」


「やっぱさ、雰囲気も違うよね」


「わかるわかる」


「…………」


「…………」


「…………」


 ただ狙っていたのは星だけじゃなかったらしい。


「やい一輪」


「なによ?」


「お前、あたしの楽しみを邪魔したんだから譲れよ」


「嫌よ、私まだ触ってすらないのよ」


「ん~、散々触って舐めた私は譲らざるおえませんね」


 と言いながら星は彼にかかった布団をゆっくり剥いだ。


「おい寅丸」


「身体が勝手に」


「わかる」


「それな」


「…………」


「…………」


「…………」


 彼を囲み、無言で止まる。


 中途半端で終わった村紗も、触れてすらいない一輪も、まだまだ収まらない星も、譲るつもりは欠片もなかった。


「尻は譲れよ」


「そこが一番美味しいとこでしょうが!」


「お前がいうとシャレになんねぇよ」


「まあでも私も、その……お尻がいいかな……と」


「今更恥ずかしがんなよ」


 村紗、星と違って一輪はまだ枷が外れ切れていないようだ。


「ふー……フー……」


「星、鼻息荒いわよ」


「仕方ないじゃないですか……臨戦態勢を整えてきたんですから……」


 星は限界ギリギリであった。また暴走し兼ねない勢いだ。これでは意味がない。


 確かな理性で彼の全身にかぶりつきたいのに、暴走しては意味がない。柔らかい部位から徐々に固い部位に歯形を付けたいのにこれでは意味がない。


「……私達は一つのパンを奪い合うような間柄でしょうか?」


「言いたいことはわかるが……」


「いえ、星の言う通りよ。このままでは埒があかないわ」


「じゃあどうすんのさ?」


 星はグッと握り拳を突き出した。


「公平に、ジャンケンで決めましょう」





「良い度胸じゃないかご主人」


「はい……」


 星は正座をしていた。その前には小柄な妖怪が立っている。一目で妖怪とわかったのは、頭についた二つの丸い耳が特徴的だからだ。


 腰の辺りから伸びる毛のない長い尻尾から察するに、彼女は鼠の妖怪なのだろう。


 虎は猫科の猛獣で、猫は鼠にとって天敵であるはずなのだが、二人の関係性は逆転しているらしい。


 セミロングの髪は鼠妖怪らしい灰色で、先程述べたように特徴的な丸い耳が二つついている。


 白い長袖のシャツに袖のない上着を羽織り、首から下げたペンデュラムは水色の肩掛けに挟まれ、スカートは本来なら隠れている太ももを、小さくも張りのある太ももを、裾に等間隔に空けた長方形気味の穴で晒していた。


 彼女の名はナズーリン。表向きは星の部下で通っているが、実際は監視役で、それを命じたのは本来の主人毘沙門天である。


 ナズーリンの背後では聖の前で正座している一輪と村紗がいた。村紗は心底悔しそうにしているが、一輪はどこかホッとした様子だ。


「ご主人、これが何かわかるかな?」


「……ほ……ダウジングロッドですか?」


「そうかそうかご主人、つまり君はそういう奴なんだな」


「うぅ」


 ナズーリンの右手には鉤型のロッドが握られており、これは星の言う通りダウジングロッドといって、探し物をするのに使う道具だ。


 しかしナズーリンは左手を差し出していた。左手には水晶球に寺院の屋根が乗ったような……星の大事な物の一つ、宝塔が乗っていた。


「君は誰に何を探せと言ったのかな?」


「な、ナズーリンに……宝塔を探して下さいと……お願い、しました……」


「そうだろうそうだろう。だというのに、その無くしたはずの宝塔を差し出しているというのに……このダウジングロッドの方が気になったのかい? ハハハ」


 笑い声を出したが顔に全く笑みはない。怒っているのだから当然だ。


「人に探し物をさせておいて、自分は性欲に身を任せたと? へぇ~、人格を疑うよ」


「ううぅ」


 しかし、ナズーリンは最初から怒っていた訳ではない。


 普段とは違い、今回は昨日――そろそろ一昨日になるが――の激務が原因で、星の頑張りを見てたナズーリンはなんなら労ってあげようと、里の茶屋で饅頭まで買ってきたというのにこのうっかり寅兵衛は……すっかり元気になって男の身体を貪ろうと……しかもその男が自分の大切な人だと気付いた時にはもうナズーリンの怒りは有頂天で、収まることを知らなくなっていた。


 村紗と一輪が解放されても、星はまだ正座のままだった。これは朝まで小言が続きそうだ。


 聖はぼんやりと目を覚ました彼の衣服の乱れを直しつつ、思案していた。


 どうにか星を助けてやれないか。ナズーリンの気持ちもわかるのだが、このままでは翌日の仕事に差し支える。


 命令出来る立場ではない。ナズーリンは命蓮寺的にはあくまでも協力者であって、信者や僧侶という訳ではないのだ。


 話せばわかる相手ではあるが、しこりを残したくはない。結局、気が済むまで星を怒ってもらうしかないのだろうか。


 聖が悩んでいると彼が立ち上がった。次いでスタスタとナズーリンへ近付いていく。


「……なんだい?」


 無論、ナズーリンの意識はそちらに向いた。彼はナズーリンの手を取ってこう言った。


「一緒に寝よ?」


「わかった着替えてくる」


 即答であった。


「ほらご主人宝塔を持ってとっとと寝たまえ。早くしろ、早くしないとダウジングロッドでえぐるぞ」


「お休みなさ~い!」


 星は宝塔を受け取ると全速力で部屋へ帰って行った。


「あらあら……星、走っては危ないですよ」


 聖は星を注意しつつ、彼に軽く頭を下げて部屋を出た。


「……君は優しいな」


「ん?」


「ふふふ、着替え、手伝ってくれるかな?」


「ん」


 その日ナズーリンは怒りを忘れ心地好い眠りを得た。目覚めて最初に見るのも彼だったし、朝食後に彼を神社へ送るのも彼女の役目だった。


 お出かけの約束もした。ちょくちょく会いに来てくれるとも言った。幸せで仕方がなかった。


 さて二人でどこに出掛けよう? この季節だ。川で泳ぐのも悪くない。彼の濡れた肌を堪能するのも良い。


 静かな丘でピクニックなんてのも素敵だ。彼の膝で寝かせてもらえたら、夢想するだけでも堪らない。


 ナズーリンが公園をゆっくり散歩しながらデートプランを計画している頃、命蓮寺に霊夢が訪れていた。


 霊夢は応対した一輪にこう言った。


「彼に歯形をつけた奴を殺しに来た」


 なんやかんやで宝塔はまた無くなった。



ナズーリン大勝利でした。

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