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東方逆接触  作者: サンア
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肝試し話

肝試し要素ねぇな。


「うらめしやー!」


 もっともスタンダードな妖怪――幽霊?――の脅し文句を叫んだのは、それはもう恐怖の対極に位置するのではないかというような愛らしさをもった少女だった。


 肩に届かない程度に整った髪は爽やかな水色、水色と赤色という色違いの両眼、小さな口からはペロリと舌がはみ出し、さながら戦士の大剣が如く両手で構えた不気味な紫色の傘を、それについた大きな一つ眼と真っ赤な舌を強調するよう前方へ突きだしていた。


「あんさっ」


 呆れたような口調……いや口調だけではない。表情からポーズから醸し出す雰囲気から呆れているのが感じ取れた。


「まずうらめしやってさ、もっとジメっとした恐怖だと思うんだよね」


「はい」


 から傘を持った少女――多々良小傘は水色のミニスカートの側面に手を両手を置いて姿勢を正した。やや涙眼なのは目の前の相手が思った通りの反応をしなかったからだ。


「だから叫ぶ言葉じゃない。そんで――」


 小傘を批判している少女は辺りを見回してから溜め息を吐き、更に呆れを強調して言った。


「この昼下がりの賑やかな公園で怖がられると本気で思ったの?」


 小傘は「あっ」と口に手を当てた。本当に本気だったのか、小傘を批判した少女――封獣ぬえはますます呆れ返った。


 ぬえの姿は非常に特徴的だ。髪の長さは小傘と同じくらいだが、右の後ろ髪が外に跳ねた髪型で、小傘の片眼より深い紅の瞳、黒地のワンピースには禍々しい赤い渦巻き模様、腕には蛇が巻き付いている。


 何よりも目を引くのが背中の羽根――本当に羽根かどうかは不明だが――三枚ずつの赤い右翼と青い左翼、目を引くのは色ではない、形だ。


 右翼は刃物、取り分け鎌を想像させる固い攻撃的な形。左翼は対照的に粘土のような弾力があり、矢印状で時折グネグネと動いている。


 もっとも、形状や弾力なんかは自在に変化出来るのかもしれない。ぬえは、周りに走り回る子供がいる場所で、刃物の如き鋭さの羽根を広げる愚か者ではない。遠慮なく広げているのはそういうことだろう。


 同じ理由で今は手にしていないが、普段は三又の槍を装備している。まあ直接使うことは“あまり”ないが。


 そんなぬえは、眉をノの字に曲げ、目を細め、口を少し開き、草の上に敷いたござにあぐらをかき、頬杖をついていた。


 普段は黒いニーソックスと膝上のワンピースで絶妙に露出していた太ももは、あぐらの隙間の黒い紐パンに霞んでいた。


「じゃあ」


「べろべろばあー、は幼稚過ぎ」


 小傘は押し黙った。


 少ないパターンで懲りもせずによくここまで頑張れたものだ。感心したのではない、皮肉だ。


「どっちにしろ、そんな顔で真っ昼間に正面からいったって誰も驚かないよ」


「でも最初はみんな驚いてくれたよ」


「離れた場所からかつかつ下駄鳴らして走って来る妖怪見たら誰だって驚くわ」


 今はもう慣れて耐性がついたらしく、笑って流されてしまうそうだ。


「お兄さんは驚かなかったよ」


 ピクッとぬえの細い眉が反応した。小傘が驚かなかったというなら真実なのだろう。


 彼女は心を食べる妖怪だ。自分が人を驚かし、成功すれば腹が満たされる。


 だから、相手が驚いたかどうかの判断に間違いはないはずだ。


「あいつがねえ……」


 小傘のいうお兄さん、ぬえのいうあいつとは、まあいうまでもないかもしれないが彼のことだ。


「あいつは別。私の悪戯だって驚かないし」


「ぬえちゃんの悪戯ってどんなの?」


「どんなのって……!?」


 突如ぬえの両頬が真っ赤になった。ぬえは小傘から顔を背け、傍らに置いていた黒いマフラーを頬を隠すように巻いて立ち上がった。


「寒いから帰ろ!」


「え、今日はお日さまも出てて冬にしては暖かいくらいだけど」


「いいから!」


「いいけど、わちきの家散らかってるし、命蓮寺は出開帳で忙しいから公園に来たんじゃ」


「じゃ喫茶店!」


「そういえばお腹空いてきたね。でもわちき丼モノが食べたい」


「えっと和食?」


「カレー丼がいい」


「和食でいいのかなそれ……あ、近くの食堂なら何でもあるな」


「あそこ、この時間は並ぶからヤダ」


「なんなんだよお前! そういうワガママを驚かせることに活かせよ!」


「ぬえちゃんなんで顔にマフラー巻いてるの?」


「聞けよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!」


「びっくりした」


 ぬえがマフラーで顔を隠しているのは赤面しているからだが、なぜ赤面しているのか?


 それはぬえが仕掛けたとある悪戯が原因で、その時のことを思い出すとぬえは羞恥心を覚え赤面してしまうのだ。


 とりあえず立ち上がって動けば少しは落ち着く。小傘からの質問は誤魔化せばいい。というか偶然にも話題の変更が出来たらしい。


 小傘の天然さには頭を悩まされるがこういうアホな部分にはたまに救われる。


「で、どんな悪戯をしたの?」


 雄叫びを上げて注目を浴びながら呼吸を整えているぬえに向かって、臆面もなく質問をぶつける小傘。


「……お前……クソッ……とりあえず場所変えよう……」


「カレー丼」


「わかった……わかったから……」


 小傘は空気を読めないし読まない。短所でも長所でもあるその性格が、今はぬえを苦しめていた。


 ただでさえ赤面するようなことで頭が埋まっているのに、カレー丼が置いてある並ばないでいい飯屋と悪戯についての質問を処理しなければならない。


「あれ、ぬえちゃん赤くなってる?」


「お願い、しばらく口開かないで」


 更に増えた。いやこれは誤魔化す難易度が上がったのか。そもそも誤魔化すのが難しい。小傘自体が素直な世界観で生きているからか、人の嘘というのに敏感なのだ。


 人が嘘をついている理由を察してくれれば嬉しいのだが、そこはアホの子遠慮がない。


 ぬえはもう彼と悪戯という単語がセットになってしまうと恥ずかしくなる。だから忘れてもらうのが一番なのだが……。


 まあ小傘は悪い子ではない――それは妖怪としてどうなんだ――恥ずかしいという部分も含めて真実を話せば、からかったり、いい広めたりする子ではない。


 真実を話すのが凄く恥ずかしいのだが。


 映画館のレストランにカレー丼があったのを思い出して歩き始めるぬえに、素直にお願いを聞いた小傘がついていった。


 ここからは、ぬえがレストランで小傘にした悪戯の話である。







 ぬえはあぐらをかいて座っていた。紐パンが丸見えであるが、特に気にしていないようだ。


 頬を膨らませ、眉間にシワを寄せ、頬杖をつき、隣で談笑する二人からそっぽを向いていた。


 ぬえがこの体勢でいることは珍しくない。隣にいる二人が注意しないのはそういうことだ。


 とはいえぬえにそういう注意をする者は少ない。聖白蓮と二ッ岩マミゾウくらいだろうか。


 隣にいるのはその少ない者の一人、二ッ岩マミゾウである。


 赤みかかった茶髪はやや乱れが目立つが、指通りはさらさらしていて潤いもある。ただ髪型に気を使っていないだけだろう。


 種族は化け狸、それを示す大きな丸い尻尾……ではあるが、色合いや縞模様はアライグマに近い。頭についた耳も、いわゆる狸っぽい丸耳にはない尖りがあった。


 尖った耳の間には枯れた葉っぱ。穏やかに曲がった眉の下にはこれまた穏やかそうなタレ目。装身具の丸眼鏡が知的さも醸し出しており、事実賢い。


 薄い桃色の肩掛けの真ん中にある谷間が黄土色のノースリーブへと繋がって、谷間の深さに劣らぬ大きさの胸が、柔らかな材質の上着と無着用の下着によりくっきりと形を浮かばせていた。これには膝ほどのスカートに描かれた波と船の模様が霞んでしまう。


 あぐらをかいた足は素足で、ぶっきらぼうな形のはずなのになんともいえない艶かしさがあった。多分それは故意に醸している。


 だからぬえは機嫌が悪いのだ。慕っているマミゾウが自分に構わず、彼にばかり構っているのが面白くないのだ。


 その彼を挟んでマミゾウがいるのも気にくわない。マミゾウの大きく柔らかい尻尾で包まれながら、たまにこちらへ意識を向けてくるのは侮辱とさえいえる。


 そしてもっともっと気にくわないのが、彼に触れているマミゾウをうらやましいと思っている自分だ。


 彼に触れるのは気持ちいい。でもひねくれた自分はそれを認めたくない。またマミゾウを取られたという嫉妬まであって……見た目以上にぬえは荒れていた。


 帰ろうかな。今いるのはマミゾウの家である。食事に誘われて来たのだ。


 んで食事が終わったので、なんとなしにだらだらとしているのだ。


 しかしこのまま帰るのはなんだか悔しい。囲炉裏の炭がパチっと小さく弾けた。なんか悪戯でもしてやるか。


 そうだ、何を遠慮している。妖怪は妖怪らしく感情のままに行動すればいいのだ。


 さてどんな悪戯をするか……ぬえが考え込んでいるとマミゾウが立ち上がった。


「ちと小用じゃ」


「いちいち言わなくていいよ」


「ふふ」


 ついツッコミを入れてしまった。多分マミゾウなりにぬえに気を使ったのであろうが、部屋の奥へ歩いていったマミゾウを見送るぬえの視線は笑っていた。絶好のチャンスだ。


 ぬえは腕に巻き付いた蛇を操り、彼の背後へ移動させた。彼の着衣は貸本屋の娘のもので、女座りの彼の背後に隙間があった。


 ぬえが操る蛇が本物かどうかはわからないが、触った感触はざらざらしていて冷たい。この冷たいのが大事だ。


 この暖かい部屋の中で、突然冷たいものに触れられたら……。


「ほれ」


「うひぃやぁっ!?」


 このように変な驚き方をするだろう。


 背後から不意をつかれたぬえは獣のように前方へ飛び退けた。首筋を片手で押さえながら振り返る。


「飲まんのか?」


 ニヤッと笑ったマミゾウが、二本の瓶ジュースを片手に立っていた。この寒い季節にご丁寧に冷やしていたらしく、瓶の表面はうっすらと濡れていた。


 ぬえは怒ろうとしたが、構ってもらえたのが少し嬉しくて変な表情になってしまった。


「うううぅ~」


「ふっふっふ、すまんすまん」


 とりあえず唸ってみたら謝りながら近付いてきてジュースを差し出してくれた。ラムネか……冬に飲むものじゃないな、いいけど。


「多分通用せんぞ」


 ボソッと囁いたマミゾウにピクッと尖った耳が反応した。蛇のことか。マミゾウにバレるのはわかっていたからそれには驚かないが……。


 確かに爬虫類や虫に飛び付かれて動じる人ではないと思う。でも“急”というものには身体は否応なしに反応するものだ。


 熱さ冷さには特に……事実ぬえは恥ずかしくなるくらいみっともない反応を見せてしまった。


 彼にも見られてしまったのか……ぬえは余計に恥ずかしくなった。そして自分も恥をかいたのだから彼も恥をかくべきだと謎理論を展開し、マミゾウがジュースを手渡す前に蛇を突撃させた。


 ジュースの冷たさで反応が薄れるのを危惧してだが、どっちにしろマミゾウのいう通りだった。


 彼がジュースを受け取ろうと腰を上げた瞬間、彼に触れないよう慎重にスカート内へ侵入していた蛇が、太もも目掛けて飛び掛かった。


「ありがと」


「どういたしまして」


 ……欠片の反応もなかった。蛇は確かに太ももに当たり、更なる混乱を誘発させる為に巻き付いたはずなのだが……いや間違いなく巻き付いている。彼が座り方を変えた。巻き付いてる蛇が床に挟まらないように体勢を変えたのだろう。


「誘っとるのか?」


 確かに絶妙に誘惑しているような座り方である。


「ん?」


「足じゃよ、脚」


「何かが巻き付いた」


「冷静じゃのう」


「びっくりしたよ」


「え」


「そうは見えなんだが」


 つい声を出したぬえを一瞥して、口元に指を当てると、少し間を置いてマミゾウが悪戯な笑みを浮かべていった。


「ま、よい。それより何が巻き付いたか確認せねばならんな」


「え」


「そう?」


「そうじゃとも。あ、でも立ち上がったりスカートをめくったりしてはいかんぞ」


 後者の方はやってもらいたいがと付け足しつつ、説明を続ける。説明を聞いているとぬえはどんどん汗ばんでいった。


「蛇だったりしたら刺激するのはマズイからのう……じゃから、ぬえ、お前さんスカートに潜ってくれ」


「はっ」


 おい化け狸お前なにいってるんだ。と普段なら口にしていたが今のぬえにそんな余裕はない。


「わしでは体格やら尻尾やらが邪魔になるからのう。お主なら大丈夫じゃろう」


 羽根の方がよっぽど邪魔になりそうだが、と普段のぬえなら考え付くが今のぬえに余裕はない。


 まず驚かなかった理由がわからなかった。しかしすぐに驚いていたと彼が発言したので少し混乱した。


 次に、ぬえの腕に巻き付いていた蛇は普通の蛇ではなく、要はぬえの一部である。ぬえは今接触しているのだ。


 そして彼はそれを何となく理解したから蛇に気を使って座り方を変えたのだ。


 蛇に気を使ったとはすなわちぬえに気を使ったということ……ぬえの鼓動が平常時とは違うリズムを刻んでいた。


「ほれぬえ、足首の方からゆっくりめくって……そんで頭突っ込んでの」


 マミゾウは完全に面白がっていた。マミゾウには比較的素直なぬえだが、この時ばかりは更に素直にいうことを聞いた。


 露出した足首の辺りから両の指でゆっくりと裾を掴み、少しずつ持ち上げた。白い脚が視界に入る。


 軽く曲がった膝の上に巻き付いた蛇が、艶かしさを増幅させ、それが自分の一部だと思うとたぎるたぎる。


 もはやぬえに冷静な思考力はない。欲望に殉ずる無垢な妖怪はスカートの中へ潜り込んだ。


「ああ、蛇が巻き付いてるなあー、ちょっとやそっとじゃ取れそうにないなあー」


 わざとらしい演技にツッコミを入れる者はいない。彼は全てわかって気にしてないし、マミゾウはただただ面白がっていて、ぬえは数時間後とてつもない羞恥と今後一生の想い出――トラウマ――を得ることになる。


 だから今、この瞬間こそがぬえの絶頂であるかもしれない。蛇をほどくふりをして彼の膝裏に手を挟めたり、太ももに頬を押し付けたり、ひたすらに呼吸をしては押し殺した笑い声を上げたりしてるこの瞬間こそが……せめてこれが絶頂ではなく、あくまできっかけであることを祈ろう。


 どちらにしても今後ぬえはこの羞恥から逃れられないのだが……。





 小傘はバクバクとそれはもう美味しそうにカレー丼を食べていた。慣れてないのかスプーンは握り締めるように持っていたが、食べ方自体は丁寧であった。しかしその勢い足るや凄まじさがあった。


「こ、こんな……感じ……」


 小傘に話すことになってしまったのを、心の底から後悔した。驚かす云々であの時のことを連想した自分が悪いのだが……。


 ただ空腹時の小傘に話すのはこれがあるから嫌だ。夢中で食事をしてるかと思って話を止めたら催促してくる身勝手。


 人当たりが良くて大人しい――驚かすという性質を別にして――癖にぬえにはこういう態度であったりする。ある意味気を許しているのだろうか。


「げふぅ、ごちそうさま」


「行儀悪いぞ」


「そだね」


 椅子にもたれ掛かってお腹をぽんぽんと叩く。満足したようで何よりだ。そんな笑みをぬえがこぼすと、


「ぬえちゃんって、ド変態なんだね」


 早速蒸し返してきた。


「……知らぬぇ……」


 改めて赤面したぬえは片手で顔を隠してそっぽを向き、しっかり反論出来ない自身の情けなさを自嘲した。



私「スカートの中で肝試しってか!」


フラン「肝は試してねぇよ」


小傘ちゃんがメインの予定がぬえちゃんがメインになりましたね。ぬえちゃんのパンツは黒の紐パンです。異論は認める。マミゾウさんはふんどしがいい。小傘ちゃんは縞パンがいい。異論を募集する。


なんかこう、嫉妬や喜びや快楽に挟まれて変な笑顔になってるぬえちゃんが書きたかった。多分アへ顔一歩手前だからまだアへ顔晒したおぜうは負けてないよ。醜態ランキング世界一位ですよ。


フラン「やめて差し上げて」


私「じゃモンハン系の仕事があるからこれで」


フラン「お前、ハイスラでボコるわ……」



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