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東方逆接触  作者: サンア
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料理対決後編

神子「リアクションで建物を壊せばいいのですね!」


にとり「うちそういうのはやってないんで」


 無事予選を勝ち抜いた布都は、その後も順調に勝ち進んでいた。とはいえ、実力による勝利とは言い難い。


 トーナメント方式ではなく、採点式なのにも救われた。採点なら個人の好みで大きく差がつくこともある。


 とはいえ、予選と違って審査員は十人に増えている。少数なら一人の高得点で結果も揺らぐが、多数ではそう上手くはいかない。


 端的な話、興行的に布都は主役なのだ。興行開催のきっかけだし、料理の腕も悪い訳ではない。傲慢なようでどこか憎めないアホ……ではなく天然な部分もキャラクターとして立っている。


 単純に美味しさだけを競ったなら、敗退した中に布都以上の者がいただろう。


 だがこれはコンテストではなく祭りの名を借りた戦い、勝負なのだ。審査員に好かれるというのも無視出来ない要素だ。


 まあ、“客受け”する布都の場合は……多少八百長がかっているが……。それもこれも、お金を落としてもらう為に……もとい、観客に楽しんでもらう為の“河童”のいじらしい戦略なのだ。


 出店や関連商品の売上に笑みを抑えきれない者がいた。河城にとりだ。河童の中でも優秀な技術者である彼女はくつくつと小さく声を上げ、普段の柔らかな目尻を深く歪ませ、片手で己の顔を掴んでいた。


 ギリギリとこめかみと額に指がめり込む。痛いはずだが、本人は気にする様子は……いやあえて強く掴んでいるのだ。今彼女は痛みを求めている。


 下卑た笑みを隠す為ではない。どちらかというと、罪悪感からくる贖罪か。確かに彼女はあたたかくなる懐に喜んでいるし、普通の人間に対しては罪悪感どころか、当然の代価くらいに思っている。


 仲間とそんな話をしていた。そんな話はスタッフの控え室でだけしていれば良かったのに、つい気が緩んで……彼に聞かれてしまった。


 背後にいる彼に気付かず、茶を片手に……仲間が気まずい表情で何度も視線を送っていたのに……。


 彼は何も言わずにその場を離れていった。きっと気にしていない。今彼に会いに行っても普通にいつも通りに接してくれるだろう。


 にとりは彼に聞かれたことで、彼を騙していることにハッキリと気付いてしまったのだ。そう考えると心臓に引き締まるような痛みが走り、目の端から涙がつーっと流れた。


 準決勝が始まる頃には、にとりは家に帰って布団の中にこもっていた。


 にとりが布団に入る前に服を脱ぎ捨てている時、料理祭会場の控え室に準決勝出場者が集まっていた。


 数百から絞りこまれた六人……決勝に勝ち進めるのは半分の三人。


 有名料亭の板前や昼時には行列の絶えない大衆食堂の店主などが残ってきたのは納得だが、アリス・マーガトロイド、鈴仙・優曇華院・イナバ、蘇我屠自古、物部布都と……料理対決にしては少し華があり過ぎる。


 先程の河童の会話を聞けば、意図的にバランスをとっているのがわかる。無論、前者二人以外も一定以上の腕前がなければ不自然だ。


 アリス、鈴仙、屠自古は日常的に料理をしているし、布都に関しては彼という説得力が文々。新聞によって周知となっている。


 端的にいえば、八百長が行われているなどと観客は考えてないのだ。八百長といったが、実際そこまで大げさなことはしていない。する予定ではあったのだが、予想以上にアリス達は料理上手だったのだ。


 多少のアシストはしたが、それだけで主催者の思惑通りに大会は進んでいった。


 ただし布都は別だ。ガッツリと点数操作がされているし、それ以外にも色々とアシストというかなんというか……努力家の布都ではあるが、日常的に料理をしている者にはまだまだ追い付いていない。


 そして布都はここで敗退するだろう。ここから先には八百長がないからだ。


 そういう指示を仕切るにとりが帰ってしまったのだから仕方ない。他の河童達が慌ててない姿を見るに、そもそも準決勝からは八百長は無しと決めていたのかもしれない。既に興行的には充分成功している。


 控え室の長机には小袋の駄菓子や飴、お茶やフルーツジュースなどが置かれていたが、誰も手を付けていない。布都以外は。


 バリバリ、ムシャムシャ、モグモグ、片手にお菓子片手にジュース、頬が膨らむ程に詰め込んでは飲み込み詰め込んでは飲み込み……欠片の緊張感もないのか、ただ空腹なのか……。


 屠自古は殺意を孕むほどの怒りを一旦置き、呆れ返って溜め息を吐いた。


「ほらもう、ぼろぼろこぼれてるぞ」


 ハンカチを使って布都の口元を拭う。布都は幼児のようにハンカチへと顔を突き出していた。普段からこうだとすれば随分甘やかされている。


「……」


「なんだよ?」


 屠自古が布都の口からハンカチを離すと、布都が気まずそうな目でチラチラと屠自古を見た。


「機嫌……治った、かの?」


「いや、ぶち殺すよ」


 布都が顔面蒼白したのは単純に怖かったからだ。顔付きはまるで変わらないのに、一気に殺意を放出してきた。


 赤い炎が青い炎になったというか……静かな水面のような怒り……明鏡止水……。


「私に勝つんだろ? そしたらお前の望み通りギャフンとでも何でも言ってやるししてやるさ」


 布都は震えた。本当に恐怖すると震える以外に出来ることはないのだと知った。


 二人を何となく見ていたアリスは、布都が原因なのだろうと理解しながらも気の毒に視線を反らした。


「でも私に勝てなかったら……わかるよな?」


 そういって屠自古は薄く笑い、布都の服についたお菓子の屑を払った。


 ある種余裕をもった屠自古の行動に布都は敗北を確信した。

事前にトイレに行っておかなければ大変なことになっていたかもしれない。


 屠自古が布都の服を整え終わって数分すると、スタッフの河童から呼び出された。控え室を出る布都の足取りはとても重かった。



 準決勝ともなると会場の熱気も凄まじいものだ。空っ風の冷たさに悩む季節だというのに、観客達は額に汗ばみ、中には上着を脱いで振り回している者までいる。寒さなど感じていないらしい。こういうのを熱狂というのだろうか。


 布都は冷静であった。どうせ負けるんだと、諦めたのではない。独特の感性が先程の恐怖を思考の外に追いやったのだ。


 会場が唸るような歓声も、本業新聞記者の豊富な語彙を用いた選手紹介も、入場の際に上がった炸裂音とド派手な火花も、なにも聴こえていない。


 予選の時のように熟考している。敗北を確信した布都ではあるが、結果が出るその時まで諦めてはいけない。


 勝つために何をすればいいのか、どんな料理を作ればいいのか。


 思考の外では他の選手が動き出している。もう始まったらしいが、スタートの合図は布都には聴こえていない。聴こえていないが、認識はしている。


 和食というお題もしっかり理解していた。


 マイクを使って大音量でそのお題を叫んだ文は、一向に動く様子のない布都を見てどうしたものかと、他の選手の実況をしながら悩んでいた。


 本職が料理の二人は単純な業を実況すればいい。磨きあげた職人の業は最早芸術である。包丁の動かし方の一つにさえ、知識のない素人をも引き込む力強さがあった。


 アリスなら人形だ。小さな人形達がアリスを手伝うように動く姿は、子供を楽しませ大人を感心させた。人形を操るのには指を使うはずだが、アリスの指は箸や包丁や鍋やらをひっきりなしに握っており、とても人形を操っているようには見えない。


 そんな姿を実況するのに言葉が尽きることはなかった。無表情故に冷たく見えるが案外ノリの良いアリスは場を盛り上げる為に文の実況に合わせ、人形にアクロバティックな包丁使いをさせたり、フライパンを投げ渡させたり、その後“良い子は真似しないでね”と書いたフリップを観客に見せるように人形に持たせたり……その上でプロ顔負けの料理を作るのだから、興行側からすれば万々歳。


 そんなアリスに隠れているが鈴仙も、文的にとてもいじり甲斐のある選手だ。人見知りなのか衆目に晒されている状況に緊張しており、それが強く表に出て文の質問上手く答えられずたどたどしい口調になってしまう。


 そんな姿に初々しさを覚えた男性から支持を受け、度々聴こえる可愛いという声にうつむく。


 本来なら恥ずかしいし、大会そのものにも興味はないが、優勝商品が尊敬する師匠の欲しがっている物だからと我慢して頑張っているのだ。


 彼女の腕前だがここまで勝ち残っていただけあって中々のものだ。姫と呼ばれる者が身内にいるのだから、それに相応しい料理をと努力したのだろう。当の姫様は庶民的な料理が大好物なのだが。


 味以外にも、女性受けする可愛らしい盛り付けや低カロリーなどの個性も評価に繋がっている。審査員が全員女性なのも大きな要因だ。


 屠自古はなにやら話し掛けにくいオーラを発していた。文も長年生きる妖怪であるからそのオーラの性質は知っている……殺気だ。おそらく布都への……しかし自分にも微かに向けられているような……新聞にしたのが原因か。


 屠自古の個性はなんというか、端材を上手く使った副菜や嫌いな物を食べやすくする調理法、鍋や炊飯釜を使った調理時間の短縮なんかの工夫が、主婦に受けている。


 物を一々大事にする性格とせっかちでワガママな同居人によって培われてきた技術だ。


 そしてワガママな同居人こと布都……ハッキリいって未熟だ。しかし思い通りのコメントを引き出しやすいので場を繋げやすいのだ。


 そんな布都が予選の時のように深い思考に陥っている。これでは文の質問にまともな答えを返せない。


 他が動き出しても、料理をまだ始めていないから少し心配になってきた。屠自古の殺気と何か関係があるのだろうか。


 その辺りを実況しようとした瞬間、布都が己の両頬をパンッと叩き、気合いを入れた様子で食材を選びに走り出した。


 文は安心して笑みをこぼし、改めて状況に無駄に語彙を混ぜ込んで実況した。



 結果を語ろう。決勝へ勝ち進んだのはアリスと鈴仙と行列の出来る食堂の店主だった。


 得点は伯仲していた。屠自古に至っては勝っていた。上から二番目の点数だったのだ。


 彼女の辞退によって鈴仙が勝ち進んだのだが、なぜ屠自古は辞退したのか……。


 会場では決勝戦が行われているところだ。お題はデザートだったか、自分なら何を作っていただろう?


「あんたなら何作る?」


 胸元へ抱いた彼の耳元に口を寄せて囁く。彼は口元に人差し指を当てて少し考えると、


「葛切り、かな」


「何でも作れるね」


「何でもは無理」


「そうか……」


 彼を抱いた屠自古が何をしているのか。不特定多数のように快感に身を任せているだけではない。殺意を散らしているのだ。


 奇しくも、準決勝で布都と屠自古は同じものを作った。肉じゃがである。和食というか家庭料理の代表であろう。


 まるで生かという程に切ったままの形を残しておきながら、スッと箸が通る程に柔らかく煮えたジャガイモに審査員は驚きを隠さなかった。ほろほろと口の中でほぐれながらしっかり含んだ味を広げ、口内がぼそぼそにならないようしらたきと肉が引き締める。審査員は白飯がないことが拷問だと嘆いた。


 シンプルだからこその高評価高得点であった。しかし布都は更にシンプルであった。


 煮崩れた芋、大きめに切られた豚肉、やや多めのしらたきにだめ押しの厚揚げ。


 正直彩りも良くない。味も屠自古のに比べると濃い目だ。


 しかし、西行寺幽々子はこう評した。


「これは心の栄養ね」


 司会の文も他の審査員も驚いた。何せ今まで美味しいしかいってなかったのだから。


 だが審査員達も言葉の意味は察していたようだ。神子は笑っていった。


「これは普段の屠自古の味ですね」


 それを聞いて屠自古は負けたと思った。


「屠自古や、ジャガイモがドロッとしておるぞ」


「ああ、めんどくさいからな」


「屠自古や、肉が大き過ぎるぞ」


「食い出があんだろ」


「屠自古や、しらたき多過ぎではないか」


「あたしが好きなんだよ」


「屠自古や、ちょっと濃過ぎだぞ」


「飯が進むだろ」


「屠自古や、こころが命蓮寺の肉じゃがには厚揚げが入っていなかったといっておったぞ」


「え……マジ?」


 お前散々文句いったじゃないか……また肉じゃがかなんて嫌な顔して……。


「んっ」


「あ、わりぃ」


「いいよ」


 少し腕に力が入ってしまったか。怒ってる訳じゃない。もう布都のことは許してやるつもりだが、心でそう思っても身体が上手く働かない。


「あ~あ、全く……こうやって中途半端にストレス溜めたままになるんだ」


 怒りそのものは晴れていない。それが後々心に残るのに、一方では許してやらなきゃならないと思っている。難儀な性格だ。


「でも」


「いうなって……んむ」


 散々ビビらせて最後にはそこそこのお仕置きで結局許してやる。つもりだったのも彼にはお見通しなようで、いわれると恥ずかしいからと己の口で彼の口をふさいだ。


 ストレスを上回る幸福があれば、少しは怒りも収まるはずだ。実感しているから間違いない。


「……んはっ……あのさ」


「ん?」


 長時間楽しむものかと思ったが、舌と舌を絡めるとすぐに屠自古は口を離した。やや眉を寄せて彼を見る。


「肉じゃが食べたろ?」


「味した?」


「した」


 布都が作ったのを食べたらしい。微かに感じて彼に確認すると肯定……少し恥ずかしくなったが……また口を近付けた。だが当初の目的通り、怒りはごまかせた。恥じらいで、だが。


 一方布都は個室で震えていた。


「もうダメだあ……おしまいだあ……」


「おいエリート野菜人、さっさと消し炭にされにいくぞ」


「引っ張るでない! 屠自古は伝説の超大根人であるぞ!」


「お前本当に消し炭にされるぞ」


「……あ、ダイコン足で怒ったのか」


 今気付いたのか。こころは白い目で布都を見た。


「土下座で許してくれるかのう?」


「無理じゃね」


 先に屠自古に会っていたこころは屠自古が許すつもりなのを知っていたが、充分に反省させろともいわれたので突き放す物言いをしている。


「……帰ってしまうか」


「デデーン決定だな」


「わかった覚悟を決めるから待て」


 こころは鼻で笑って布都から手を離した。神妙な顔付きでぶつぶつ言い出した布都を尻目に、布都が作った肉じゃがの入った鍋を見て、傍らの箸をとって鍋から直接とって食べた。


 厚揚げから出汁が溢れて口内からこぼれそうになると慌てて手で抑える。


 こころは何も言わなかったが、頭の面は笑っていた。



フラン「厚揚げ?」


私「うちの肉じゃがには厚揚げが入るの」


フラン「うん」


私「友達との世間話でそれ言ったら」


てゐちゃん大好きさん「……厚揚げ?」


私「みたいな反応だった」


フラン「一般的じゃないのかな?」


私「わからん」


皆さん家の肉じゃがには何が入りますか? と露骨にコメントねだっておこう。


今回はやりたいことをあまり出来なかった。リアクションとかキャラクターの掛け合いとかガンガン入れて、料理漫画のパロディをどんどんしたかったのだけれど、料理漫画って文字にするの凄く難しいのかもしれない。


それにイチャイチャをあまり入れられなかった……その辺は次回頑張ります。

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