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東方逆接触  作者: サンア
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料理対決話中編

布都「料理は勝負であるぞ!」


屠自古「おう消し炭にしてやんよ」


こころ「違う料理は心だ」


神子「つまりこころちんをいただいてもよろしいのですね?」


「いいの?」


こころ「神子はダメ」


なんとなくわかる関係性。


 河童という妖怪は比較的人間に友好的だ。人間を盟友としているし、人間を楽しませる為に度々興行を開催する。


 内容は様々だ。海獣のショーであったり、プラネタリウムであったり、祭りであったり、そして関連商品の出店が開かれる。


「人間の近くで人間の為になるようなことがしたいんだ」


 彼女は“大抵の者には真っ白に見える笑顔”でそういった。しかし敏感な者ならその笑顔に寒気とどす黒く濁った嫌な臭気を感じ取れた。


 日本画に描かれた醜悪な見た目とは違う愛らしい少女の姿は油断を誘い、そんな少女らが開いた出店ではついつい財布の紐が緩み――客がいなくなればほくそ笑む。


 つまるところ、河童は盟友と称す人間を利用して金を稼いでいるのだ。


 それが悪いこととは思わない。別に騙している訳でもなければ、手抜きの商売でもない。しっかり人間の好みを考えた興行だ。人間を楽しませているのだから、彼女らの思惑に口を挟む理由も権利もない。


 だから彼女らの新しい興行である、“幻想郷大料理祭”に参加するもしないも、各々の自由なのだ。


「何をそこまで怒っているのであろうか?」


 人里の公園に設営された大規模な会場の選手控え室にて、布都は腕を組んで苦悩していた。


 先ほどすれ違った屠自古のことだ。気安く話し掛けた布都を鋭い眼光で睨み付け、無言で去っていった。


「むー、何かしてしまったかの?」


 布都にはまるで心当たりがないらしい。ダイコン足という発言を覚えてないのか、悪気がないのか……恐らく後者だ。彼女はアホ……ではなく天然なのだ。


 そんな彼女は、一般の参加者とは違う待遇を受けている。もちろん良い待遇だ。


 数百人単位の参加者がいるにも関わらず布都には個室があてがわれていた。


 理由は簡単。布都のインタビュー記事をきっかけにこの幻想郷大料理祭が開催されたからだ。


 正確には布都のインタビュー記事で煽るようにして企画を通りやすくしたのだが……まあ要するに河童と天狗が組んで金儲けの段取りをつけていたのだ。


 そんな事情から布都を無下に扱えなかった。ある程度マスコット的な役目を担わせるつもりである。もっとも、参加者としてはどういう結果になろうと知ったこっちゃないが。


 実際布都の力量ではどうだろうか。オムライスを布都基準で完璧に作れるようになって一週間……決して努力は惜しんでいないし、彼という優秀な師もいた。


「美味しいけど、ありふれた美味しさだ」


 布都の料理に対するこころの評価だ。悪い評価ではないが、良い評価とも言い切れない。普通よりは良いといったところか。


 彼から教わった通りに作ったはずだった。懇切丁寧に下ごしらえをし、材料の投入のタイミング、火加減、味付け、全てに繊細に気を使った会心の出来であった。


 しかし、何かが足りないらしい。一体なんだろう?


 思考がそちらに切り替わると、屠自古の怒った表情も忘れてしまった。


 結局答えが出ないまま予選が始まった。必要なのは何か、思考を続けながら案内に従い会場へと移動する。


 司会者や審査員のいるステージで何やら大仰に紹介されていたが、本人は目を瞑って腕を組んだまま言葉を発さない。


 それが良かった。小柄な少女であるが、道士であるという触れ込みとその佇まいに不思議な貫禄が付与されていた。


 審査員に選ばれていた豊聡耳神子は、布都のことだから自身の力量なりを誇張してアピールするかと思っていたので少し驚き、これも彼の教育の賜物かと笑みをこぼした。


 実際ならそうだろう。無駄に神子を褒め称えたりもしたかもしれない。だが今の布都は無意識というか、思考に夢中で事象に興味がなくなっているのだ。


 紹介が終わると案内に従い、大勢の選手に紛れてゆく。


 それから少しして、幻想郷大料理祭の開催が宣言された。


 予選ではおよそ数百人の参加者を二十人までにふるいにかける。非常に競争率が高い。


 テーマはご飯もの。いわゆる米を使った料理だ。炒飯やリゾット、寿司類もそうだし、丼ものや肉巻きおにぎりなど、まあ簡単に思い付くだけでもたくさんある自由度の高いテーマだろう。


 参加者達が材料の並べられたフロアへ殺到する。流石に数百人が一斉にそれをすれば大変な事故に繋がるので、数十人単位でブロック分けしてブロックごとにテーマを変えていくらしい。


 数十人でも大変な喧騒だが、混雑しない程度の広さは確保されていた。


 最初のブロックに選ばれた布都はゆっくりのんびりと相変わらず思考を続けていた。目は開いているし、何を作るかしっかり考えた上で材料選びをしているようだが、それでも心ここにあらずといった様子で観戦していたこころを心配させていた。


「大丈夫かあいつ……」


 無表情ではあるが、共に学んだ同士としての友情があるのか。握った拳は震えていた。


「大丈夫」


 その拳を隣に座る彼が片手で優しく包んだ。彼の体温が伝わると拳の震えは収まった。


 が、心配する気持ちはまだある。どうしたってそれは残る。


 そんなこころの気持ちに、布都は当然気付いていない。


「それではここで審査員を紹介したいと思います!」


 料理が完成するまでの間を繋ぐ為だろうか。司会の文がマイク片手にステージに設置された豪華な席に座る三人の紹介を始めた。


「判定といえばもちろんこのお方! 白なら選び黒なら排除! ご存知閻魔大王四季映姫・ヤマザナドゥだああーっ!」


「あ、ごめん映姫様忙しいから無理だってあたいが代理で」


 一瞬の静寂。


「ってかさっきからずっと座ってたんだから気付いてたろ?」


 しかし流石は幻想郷最速、このアドリブに即座に対応してみせた。


「ねぇ控え室でも言ったよね」


「まさかこの死神が来てくれるとは! 是非曲直庁には内緒だ! 小野塚ぁーっ小町ぃーっ!」


「いや、えと、あの、内緒じゃないんだけど――」


 歓声が小町の声を掻き消す。小町は別に審査員なんて誰でもいいんだろうな、と思いながら観衆達のノリの良さと文の視線を察して黙った。


「斬ればわかる! 辻斬りならこいつが怖い! 魂魄妖夢だああっ!」


「美味しいもの食べたい」


 小町の隣には西行寺幽々子が座っていた。


「……(胸が)デカァーーイッッ! 説明不要! 西行寺幽々子だああああーっ!」


 また歓声が上がる。思えば歓声の大半は男の声だ。小町は胸がざっくり開いた着物で谷間を露出しているし、幽々子に至っては乳の中程、つまりギリギリまで露出している。痴女か。


「外の世界の有名人! 偉人最強! 豊聡耳神子おおおーっ!」


「え、私偉人最強なんですか!? じゃなくて……」


 他の二人に比べてほんの少し歓声が小さい。神子は羽織ったマントを両手で引っ張り胸元を隠した。


「……屠自古か青娥に代わらなくて……本当にすみません……」


 決して小さくはない。小さくはないが、隣の二人と比べると……。


「おおっとここで最初の料理が完成したようです!」


 タイミング良く審査に入った料理が届いた。


「ここで審査について説明させていただきます! 全ての料理をこの三人の審査員に食べてもらう訳ではありません!」


 幽々子が信じられないものを見る目で文を見た。


「ブロックごとに分かれた一般審査員から、一定の評価を受けた料理のみが特別審査員である三名の審査を受けられます! ……あ、幽々子さんは食べたいだけ食べていただきますので」


 幽々子に笑顔が戻った。


「その後特別審査員に一人百点満点で採点していただき、最終的に最も点数の高かった一人が予選突破となります!」


 なるほど、特に難しいこともないシンプルな形式だ。よっぽどのバカでもない限り混乱することはないだろう。


 さて、ではなぜ布都の目が見開き、包丁を握った右手が痙攣しているのであろうか。


 深い思考の中でも、流石に大切な人の名前や声には反応する。布都にとって神子はそういう存在だ。そして神子の名前と神子の声が聞こえた。


 思考が中断してしばらくは放心。次に頭が動いた時には身体が震えた。神子に食べさせねばならないと考えたからだ。


 それだけならばまだ……少なくとも包丁が持てないほど震えたりはしなかったろう。だが彼から教わったという事実が布都の動揺を強くした。


 自分が失望されるだけなら良い。自分の失敗で彼が失敗されることはあってはならない。大切な人が大切な人を失望するなんて、布都には許せないことだった。


 無論、神子がそんなことで自分や彼を失望するなんてことは有り得ない。有り得ないのはわかっているが、一度考えてしまうと不安は拭えない。


 そして神子を疑ってしまったような変な罪悪感までつきまとう。暴れてしまいそうなほど身体が震え出した。


 しかし暴走してはそれこそ失望される。落ち着け我の全身ッ!


 こういう時は深呼吸だ。鼻から吸った方が良いと聞いた。深く深く息を吸う……とっても美味しそうな匂いがあちらこちらから……ダメだ、落ち着けん。


 震えを止めなければ料理が出来んぞ……どうすれば……。


 雑念を払いたくて首を左右に振った。たまたま彼とこころが視界に入った。すると急に落ち着いた。


 落ち着いたというのは正確ではない。驚いたのだ。


 無表情が常の二人が笑っていたのだから。


 声を上げず、口を開かず、相手を安心させるように静かに笑っていた。


 そして彼が小さく手を振った。きっと自分に向けてだろう。布都は包丁を握った手を軽く振ってそれに応えた。隣で調理していた誰かが危なッ!? と叫んだが意に介さない。


 布都の震えは止まっていた。



「こころちん!? ねぇこころちん!?」


「ちんはやめろ」


 布都の控え室で神子がこころに詰め寄っていた。


「てかキモいからやめろ」


「なんで!? こんなに愛してるのに!」


「マジでやめろ」


 神子は自身の頬をこころの頬へ密着させてすり寄っていた。


「じゃあ笑顔! さっきの笑顔を神子ちゃんに見せて! 見せてくれたらスリスリはやめるからっ!」


「……イヤだ」


 こころはぷいっと顔を背けた。


「あ~あこころがつ~め~た~いぃっ」


「よしよし」


 すると神子は彼へ泣き付いた。外面とは随分違う。彼女は気の許せる相手にはこうなってしまうのだ。甘えたがりというか、普段気を張る分反動が大きいというか……。


 こころはこころで先程自分が笑顔になっていたなど気付いてもいなかった。ただ彼と触れ合って幸せな気持ちでいただけだ。


 そう、とっても幸せで、気持ちの良い……なんというか……なんだろう、表現出来ない。でも、思い出すだけでも少し幸せになれるような……。


「今笑った……こころちん今笑ったでしょっ!? もっかい! もっかい神子ちゃんに見せて!」


「笑ってない。ちんやめろ。向こう行け」


 再度詰め寄る神子を突き放すように……というか必死にスリスリとやらを阻止しようと両手を突き出して抵抗している。よっぽど嫌らしい。


 布都はボーッとそれを……いや一方向を眺めていた。椅子に座って、膝に手を置いて、姿勢良く真っ直ぐに背中を伸ばしているが、顔は呆けていた。


 予選突破してからずーっとこうだ。力が抜けたのか、緊張から解放されたのか。


 付き合いの長い神子がそれほど心配してないのだから、珍しい状態でもないのだろうが。


 しかし彼はそのような布都を見た事がなかったので、少し心配になった。だから声を掛けようと近付き――


「うわああああああーっ!」


 叫んだ布都に驚いて後退りした。神子とこころは特に気にした様子も……いやこころの面は驚きを表していた。


「見たことか! 我の実力の前に頭を垂れる死神と亡霊の姿を!」


「あ、いつもこんな感じだから気にしないでね」


「一度竹林の医者に見せた方がいいぞ」


 自己啓発のようなものだと神子は語ったが、それにしては自分を誉めるばかりで違う気がするが、これをすることで理解していなかった部分に気付いたりするので間違いではないというか……普通人とは感性やら何やらやがもう違っているのだろう……百八十度ぐらい。


 一通りの賛辞を自身へ与えると、少し荒い呼吸で椅子へもたれ掛かった。ぶつぶつと呟いている。


「ふむ……あそこは……もう少し手早く……形もやや不揃いだったの……気をつけねば……」


「竹林の医者に見せた方がいいぞ」


 大事なことだからもう一回言ったらしい。


 十数分もするといつもの布都に戻った。布都を見るこころの目が少し変わったが、まあ友情にヒビが入る程ではないだろう。


「貴殿のおかげで勝てたのだ。礼を言うぞ」


 布都は彼へ頭を下げた。こういう挨拶は丁寧にする子だ。


「まだだよ」


 礼をいうのは早いと彼。布都はにやりと笑うと声を張り上げた。


「そうだとも! 我の目的は屠自古をギャフンと言わせることであるからな!」


「あ、そうなんだ」


 とこころにすり寄った神子が呟いた。神子には人の欲というものがよくわかる。そうなんだと納得したのは、布都の言葉だけではなく心中に対してもだ。


 日頃の礼ね。かわいいこと考えるじゃないか。


「なぜだか屠自古からとてつもない殺意を感じたが」


 当の本人は怒っていた。布都の感謝に気付きながら、布都の無神経に激怒していたのだ。


「参加しているなら丁度良い! 屠自古を下す絶好の機会よ!」


 怒っている理由を布都に伝えてもいいが、神子はあえてそれをしなかった。このまま競わせた方が案外上手くいくと考えたからだ。


「それには貴殿の力が必要! よろしく頼むぞ!」


「ん、わかった」


 軽いなあ。彼の軽さも、布都の想いを知っているからこそなのだが。


「では早速ご指導を! 我はまだ登り始めたばかりであるからな! この果てしなく長い料理坂を!」


「布都、その台詞は終わってからにしよう」


 しばらくして蘇我屠自古の予選突破が各々に伝えられた。



前編の次は後編とは限らない。いや違うんです予想以上にこう布都ちゃんの心情とか神子ちゃんのキャラクターとかがガンガン思い浮かんで……大丈夫オチは思い付いてるから、なんなら最終回の構想も何となく出来てるから――


フラン「ストーリー考えてないとか云々」


私「まあでも、物語は完結するものだよ」


フラン「で、完結はいつ頃?」


私「……ゆ」


フラン「ゆ?」


私「ゆうかりんが自機になったら」


フラン「…………」


私「でもほら明確な完結はしないから、新作とか書籍出る度にまた新キャラとの絡み書くつもりだから、最終回という言葉に縛られる必要はないと思うんだけど」


フラン「……そうだな」


私「あ、それ一番キツい」



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