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東方逆接触  作者: サンア
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料理対決話前編

久しぶりの前後編



「たのもおーっ!」


「たのもー」


「ん? おらぬのか? たのもおーっ!」


「ん? おらぬのか? たのもー」


「朝っぱらから何よ?」


 博麗神社に轟く大声に不機嫌に応対した博麗霊夢は、白い着物に半纏を羽織い、乱れた頭髪をボリボリと掻きながら鋭く尖った寝ぼけ眼を大声の主に向ける姿はとてつもない威圧を発していた。


「おおこれはこれは霊夢殿!」


「おおこれはこれは霊夢殿」


 そんな威圧を感じてないのか気付いてないのか、かたや笑顔かたや無表情で霊夢に歩み寄る二人の少女。


 銀に近い灰色の長い髪をポニーテールに纏めた頭に烏帽子を乗せ、水干を思わせる白装束のゆったりとした袖は自身の両手を包んでいる。紺色のミニスカートからは時折白色の下着がちらついているが、本人は気にしていないらしい。


 衣服のそこらからたなびく五色の紐はただの装飾か何か深い意味があるのか。


「実は頼みがあってのっ」


「実は頼みがあっての」


「頼みねぇ」


 霊夢の視線は大声の主である物部布都から、その真似をしている少女へ移った。


 ピンク色のロングヘアーと同じ色の瞳にはふさふさの睫毛。ずらして着用した女のお面の赤い結び紐は結ばれずになびいていた。引っ付いているのだろうか。


 青いチェック柄の上着に桃色のリボンと星形やバツ形のボタン。足元までの丈のあるロングスカートは風船のように膨らんでいる。


「寒くないの?」


 腰の辺りで露出したへそを見た霊夢が尋ねた。


「そんなに」


 無表情からはアンニュイな印象を受けるが、実際は能動的な彼女の名は秦こころ。霊夢の質問へハッキリと返事をすると、霊夢の背後から現れたエプロン姿の彼をジッと見つめる。


 先程から醤油と出汁の香りが漂ってきていた。


「ご飯食べる?」


「食べる!」


 二人揃っての即答であった。


 本日の朝食は麦飯、豆腐の味噌汁、鰯の塩焼き、肉じゃが、かぶの浅漬け。


 オーソドックスだが飽きのこない郷愁を感じさせる味だ。幻想郷こそが、郷愁そのものであるのかもしれないが。


「かぶ、美味いの」


 パリパリとかぶを咀嚼し、麦飯をかっこみ、味噌汁を含む。とても食欲が刺激される……本当に美味しそうに食べる子だ。


「肉だ肉だ、何より肉だ」


 こころは肉じゃがの肉ばかりをばくばくと食べていた。無表情だがお面が先程とは違う。彼女はお面で感情を表現するらしい。


 瞬く間にオカズの皿とおひつが空になり、霊夢と萃香を呆れさせた。まあ成長期(少なくとも見た目は)なので良く食べるのは当たり前のことだろうし、どこかの亡霊よりはよっぽどマシだ。


 食後のデザートまで綺麗に平らげると、布都は湯呑みの茶をすすってムフゥーと息を吐いた。堪能したか。


 こころは洗い物を手伝っている。慣れた様子だ。日常的に洗い物をしているらしい。


「あんた頼み事があるんじゃなかったの?」


「…………あ、忘れておった!」


 アホか。と小さく呟くと萃香が吹き出した。


「料理、料理を教えてほしいのだ!」


 霊夢は眉間にシワを寄せて首を傾げた。少しして自分にではなく、彼への頼みだと気付いた。


「言う相手が違うわよ」


「そうだのっ!」


 布都は立ち上がると洗い物を終えた彼の元へ歩いて行った。


「しかしなんでまた料理なんて……どうでもいいけど」


 相変わらずの興味がない様子で茶をすする。


「ちょっとくらい興味もちゃいいのに」


 苦笑いで呟いた萃香の言葉も届かない。そもそも聞く気がない。


 萃香は逆に興味津々だ。野次馬根性が強いのだろうか。


 料理を習いたい理由を彼へ語る布都に耳を傾けて、ふふっと吹き出した。一々布都の真似をしているこころがツボに入ったらしい。


 とにもかくにも料理を教える程度の頼みを彼が断ることもなく、博麗家の台所にて小さな料理教室が開かれたのだが……これが後にとある大きなイベントへ繋がるのを、まだ誰も知らない。


「我はな、オムライスが食べたいぞ! たまごがふわふわなんじゃろ? ふわふわなんじゃろ?」


「待て、私はかために焼いた方が好きだ」


 しばらく布都の真似をしていたこころだったが、オムライスの話でそれをやめた。食べ物の好みで議論が激化するのは珍しくない。


「なんとっ!? そういうのもあるのか……」


 布都の無知と純粋さゆえに議論へとは繋がらなかったが、こころの熱は収まらない。


「何故、何故なのだ! 何故、ふわふわの柔らかたまごが称賛されるのだ!? ソースもそうだ! デミグラスソースだとか醤油風味とかチャラつきやがって! ケチャップが至高だろう!」


 こころは頭の面を次々と変えながら身振り手振りを交え熱のこもった演説をした。


しっかりと想いは伝わるのだが、無表情だからか少し可笑しさもある。


 感情を学ぶために色々な人の真似をしていたようだが、この様子なら充分に理解出来ているのではないか、と萃香は思った。


「そうなのか……我はまだ食べた事がなくてのう」


「じゃあ作ってみようか」


「かためだぞ! ケチャップだぞ!」


「はいはい」


 とりあえず最初の授業はオムライスとなったようだ。


 彼のオムライスはシンプルだ。具は小さく切った鶏のもも肉だけで、塩コショウ、ケチャップ、ウスターソース、コンソメを合わせた調味料と一緒に炒め、やや水気が飛んだところで白飯を投入。


「ケチャップだけじゃないのか?」


 バンダナとエプロンを身に付けたこころが、フライパンを振る彼の隣で質問する。


「うん、色々入れた方が味が複雑になるから」


 そう答えると、こころは納得したようにコクコクと頷いた。


 白飯に充分色が付いたら一度皿に移し、バターをなじませたフライパンにたまごを入れ、かき回しながら卵焼きを作り、その真ん中へケチャップライスを乗せ、フライ返しで包み、最後に逆さにした皿をフライパンに置き、片手で支えながらフライパンをひっくり返す。


「うおっ!?」


 こころと同じようにバンダナとエプロンを身に付けた布都が声を上げて驚く。わりと躍動感のある行動だったからだ。


 一呼吸間を置いてフライパンをどける。


「おお~っ」


 すると二人の感嘆の声が上がった。綺麗な黄色にやけたたまごで細長のひし形に整ったそれは、スタンダードなオムライスそのものであった。


 湯気と共に漂うたまごの香りに二人の食欲が刺激された。少し前に食べたばかりだというのに。


「玉ねぎを入れるなら、マーガリンかバターで透き通るまで炒めると甘味が出るよ」


 今回はなかったから入れなかったけど。付け加えながらケチャップを手に取り、オムライスに何かを……。


「希望の面……」


 彼には絵心もあるらしい。


 オムライスへスプーンを入れると、たまごのぷっつりと切れる感触と同時に火の入ったケチャップの香りがふわりと上る。


 口に放り込んで一噛みするとケチャップの風味が広がる。よく炒めているケチャップライスからは酸味が程よく飛んでおり、口当たりが柔らかくなっている。


 かたいたまごは食感のアクセントになっているし、鶏肉の弾力とも調和している。


 シンプルな材料でも調理次第でここまで複雑な味わいになるのか。布都は感心しつつ完食した。


「やはりかためにケチャップが一番だな」


 こころも持論通りのオムライスに満足している。


「半熟も美味しいじゃないか」


 寝転がりながら萃香。隣の霊夢は雑誌をペラペラめくっていた。


「半熟が美味いのはわかる。だがかためより美味しいという風潮は嫌いだ」


 物事をハッキリいう子だ。萃香は笑ってなるほどね、と呟いた。


「でさ、なんで料理習いたいの?」


 彼からアドバイスを受けていた布都へ、疑問を投げ掛ける萃香。


「むっ、それはの……っ!」


 布都の表情が一変した。ギリリと歯を強く噛み締めて目を鋭く尖らせた。拳も強く握られており、激怒しているのは一目瞭然であった。


「と……屠自古の奴が……」


 一体何をされたのであろうか。萃香は起き上がって身を乗り出した。


「おつかいしたのにお小遣いをくれなかったのだっ……!」


「そうかい」


 萃香は寝転がってそっぽを向いた。


「家事が出来るからと粋がりおって、我もそれくらい出来るというのを見せ付けて屠自古を土下座させてやるのだ!」


 こいつアホなんだな、と思いながら萃香は目を閉じた。


「ん? 普段屠自古に世話になってるからと言ってなかったか?」


「つあ!? こころっ! それを言うでない!」


 布都は真っ赤になってこころの口をふさいだ。素直じゃないな。


「そうなの?」


 彼からの質問に困った布都は激怒の表情を和らげ、ポリポリと指で頬を掻きながら答えた。


「ま、まあ、そそ、それもあるが……お小遣いをくれなかったのも事実でな。その意趣返しも含めて我の料理を叩き付けてやるのだ!」


「ん、わかった。美味しいご飯作ろうね」


 悪意ばかりじゃないのに安心した彼は、自分に出来る限りの事をしてあげようと決めた。


「うむ! 貴殿の指導と我の才が合わされば出来ぬことはない! 極上の料理を作って屠自古を感涙に沈めてやるのだ!」


「おー」


 彼とこころの張りのない掛け声の後に、布都の高笑いが博麗神社に響き渡った。


 それから一週間布都は毎日神社に通い、彼に料理を教わった。


「あうおっ!?」


「指切ったな」


「手当てしなきゃ」


 時に失敗し、


「焦げてしまった……」


「苦いな」


「苦いね」


 時に失敗し、


「上手に皮が剥けたぞ!」


「三個中一個がな」


「頑張ったね」


 時に微妙に成功し、


「砂糖と塩を間違えた」


「今時それはベタ過ぎる」


「ちゃんと書いとくね」


 少しずつ少しずつ、


「出来たぞ!」


「ケチャップくれ」


「ちょっと薄味かな」


 成功と失敗を繰り返し、


「これはどうであろう?」


「なんかセンス無いんだよなあ」


「んー……」


 そしてついに、


「せ、成功した……」


「うん、成功したな」


「うん、成功したね」


 上手にオムライスが作れるようになったのだ!


 ちなみに、ここでいう上手とは形のことであって味のことではない。


「うははははとうとうやったぞーっ!」


 しかし有頂天になった布都にそれは些細なことであった。


「味もそこそこか……?」


「そこそこ、かなあ?」


「そこそこですねぇ」


 そんな布都は鴉天狗の良いカモだった。少しおだてればベラベラ喋るのだから楽な相手だ。自分の高笑いで呼び寄せたというのも皮肉な話だ。


 翌日、文々。新聞の一面には布都の発言がつらつらと並べられていた。具体的には、我の方が料理が上手いとか、屠自古など有象無象に過ぎぬとか、べ、別に日頃の感謝を形にしたいとか思っていないのだからなっとか、まあ色々わかりやすいというか、文の記事にしては捏造が少ないというか……。


「またこいつは人様に迷惑かけて……」


 蘇我屠自古はちゃぶ台に広げた新聞を茶菓子片手に読んでいた。表情はやや明るい。布都の思惑が容易に読み取れる文章……というか布都の言葉そのままだったからだ。


「今度頼む時は小遣いくらいやるか……ん」


 ピシッ、湯呑みにヒビが入った。偶然だろうか、いや違う。


 薄い緑色のウェーブかかった前髪に隙間で切れ長の目が一際鋭く尖った。口は犬歯を剥き出しに今にも吠えかねん様で歯を鳴らしている。


 傍らな普段被ってる黒い烏帽子がこてりと倒れた。


 濃い緑のワンピースは足首ほどまで丈があり、裾には大量に御札が貼り付けられている。御札には特に意味はないかもしれない。だがワンピースの丈には意味がある。


「屠自古~、今日のおやつなんで」


 ビリィッ! 左右から引っ張られた新聞が大きな音を立てて引き裂かれた。


「どうしたの!? 太子まだ読んでないよ!? 神子ちゃんまだ読んでないよ!? これじゃ揚げ物の油切りに使うしかないよ!?」


 ニコニコと部屋に入ってきた豊聡耳神子が驚愕して屠自古にツッコミを入れるが、屠自古の耳には届いていない。布都と屠自古にとっては非常に大事な御方なのだが……。


 何事かと神子がヒラヒラと辺りを舞う新聞の破片に目を向けると、首と胴が離れた布都の写真と、あのダイコン足の亡霊、という文章見えた。


 蘇我屠自古は亡霊である。そして彼女が亡霊になった理由は布都にある。


 彼女は幽霊らしく足がない。その代わり真っ白な足のような何かがあった。人の足のように二つに別れ、足首から先が少し尖っており指はない。


 確かに、ダイコンに見えなくもない。屠自古はそれを隠すような服装をしている。


「いいぜ布都……てめぇがそのつもりなら……まずはそのふざけた幻想を……殺ってやんよ!」


 布都は触れてはいけないものに触れたのだ。


 神子は、無事だった彼とこころのツーショット写真を懐に収めながらその場を離れた。



こころちゃんのキャラクターは某Mー1グランプリを参考にしております。


フラン「かためのたまごが好きなんだ?」


私「いや半熟のが好き」


フラン「え?」


私「かたい方が包むの楽でさ。とりあえず冷蔵庫にあった材料で作って、そのままそれを描写した」


フラン「だから具が鶏肉だけなのか」


私「こころちゃんの味覚は友人の発言をそのまま引用した」


フラン「まあ気持ちはわからなくない」


私「半熟たまごなら牛乳入れて焼くといいんじゃないですかね」


フラン「料理出来るアピールしてもモテないからな」


私「……マジ?」


フラン「マジ」


次回は料理対決の本番になります! みんな今のうちに鉄鍋の○ャンとかミスター○っ子とかを読んでリアクションの予習をしておくんだぞ☆


まあ建物壊すようなリアクションを一々描写してたらストーリーのテンポが進まない進みにくいなので普通に評論家気取りな文章を書くと思います。多分。

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