ダンジョン話その三
萃香「天子先生……戦いが……戦いがしたいです……」
天子「……あきらめちゃえば?」
グロ要素があるよ、やったね!
霊夢の気が住むと、早速冒険に出掛けようと天子が提案した。
「説明ばっかじゃ萎えるしね」
わかってたならもうちょっと早く切り上げてほしかった。一行のそんな気持ちに気付くはずのない天子は、ズカズカ歩いてギルドを出ていった。霊夢が溜め息を吐き、魔理沙が苦笑いでその背中を押した。
「ワガママ娘だよ」
萃香が笑いながらいう。
「そう?」
彼の言葉に萃香は驚き、同時に納得もしていた。彼にとってはこの程度ワガママに入らないか。
萃香にとって天子のワガママというのは単純に面白いものだった。なんせ、普通と違うのだ。情緒不安定と言ってしまってもいい、ある種狂っているのかもしれない。
純粋なのだ。計算が一つもない。ここで駄々をこねれば折れてくれるだろう。ということを考えていない。実際駄々をこねた時点では通っていた事柄を、更なるワガママで台無しにしたこともある。
大多数にとっては迷惑きわまりない存在だが、萃香にとっては面白い奴だった。これまで様々な人間や妖怪と触れ合って(殺し合って)きた萃香だが、こういう奴は他に覚えがない。幻想郷は人間も妖怪も神様だって、そんな奴らばかりで……本当に楽しい所だ。
ギルドを出た天子は先程の広場への道を真っ直ぐ歩いて行く。他にも複数道はあるが、どうやら冒険への入口は広場にあるらしい。
広場についた天子は腰に両手を当て立ち止まり、振り返った。
「早くしなさいよ!」
みんなの距離が想像より離れていたのを見てついつい怒鳴る。霊夢は意地でも速度を変えなかったが、魔理沙が走り寄り、彼と萃香が少し早足に天子の元へ。
「もう、ちゃんとついて来なさいよね!」
というと天子は振り向いてまたズカズカと歩き始めた。城への道の丁度反対側だ。これ以上ワガママは堪らないと魔理沙がそのすぐ横につき、天子の歩速に合わせ歩いた。他の三人はマイペースだ。
「兵士の数が減ってる」
霊夢がのそのそとした歩みで呟いた。前方の萃香がそれを耳で拾うと、振り返り後ろ歩きになって口を開く。
「職業につく事で、行動範囲が広がったのさ」
まるで経験したかのような言い方に霊夢が怪訝な表情を浮かべる。
「ゲームにはよくあることだよ」
「ああ」
霊夢は小さく納得した。昔自分と魔理沙が蹴飛ばして遊んでいた長方形で灰色の太い物体で遊んでいる萃香を最近よく見掛ける。
自分達がしてた蹴鞠もどきではなく、正規の遊び方だ。何やらA、Bと書かれた二つのボタンや十字のボタンをせわしなく指でポチポチ動かしていた。
それがゲームというらしい。何でも神社に転がっていたやつで彼が遊んでいたのをきっかけに、河童やら魔法使いやらの力を借り、蓄電池なんてものまで作って快適に神社で遊べるようにして毎日楽しんでいる。
充電とかいうのが必要らしく、蓄電池にも電力を溜める必要があるのだが、太陽に数十秒照らせば最大まで溜まるように出来てるとか。
それ自体が凄いのは何となくわかったが、河童の技術が凄いのか、魔法使いの発想が凄いのか、その辺りは霊夢はわからず、同時に興味のない出来事であった。
ただ少し嬉しい事があった。ある古道具屋の店主が、その灰色の物体……彼曰くGBで遊ぶのに必要なこれまた灰色のソフトと呼ばれる物を譲ってくれたのだ。ソフトには、楽しげにポーズを決めるキャラクターやそのソフトのタイトルであろう文字が書かれたもの、はたまた荘厳な山々が細かに描かれたシールが貼られていた。
そもそもそのソフトに貼り付けるためのものだろう。シールが貼られている部分は四角形にごく小さく凹んでいる。こんな小さなシールによくこんな細かい絵が描けたものだ、と霊夢は感心した。実際は大きく描いたものを外の世界の技術で小さくしたものなのだが、そんな技術は霊夢に知るよしはない。
古道具屋の店主は、「どうせ使う事もないし、これくらいで彼に借りを返せるなら安いものさ」と、あの蒐集家とは思えない気前のよい言葉でたくさんのソフトを持ってきた。
その上、「なんなら君のツケも白紙に出来る程度には彼に借りがある」とまで言っていた。嬉しい事とはこれの事だ。近いうちにまた何か貰って行こう。
無論霊夢は、ツケを払うという発想すらしていなかった。
萃香がふらぐが云々言ってる間に大きな鉄の柵が見えてきた。柵の近くに立つ兵士が、壁に上斜めに突き刺さってるかに見える棒を掴んで下げた。刺さってる訳ではないらしい。
すると鉄の柵ががらがらと音を立て上昇していく。柵の左右には威圧感のある高い城壁があり、柵が収納されている部分も城壁には違いないが、収納部を作る為か内側に少し出っ張っている。恐らく外側も同じように出っ張っているのだろう。
なるほど、これは城門か。
これといった手続きもなく、一行は城門を抜けた。
そもそも霊夢達が通り抜ける間にも数人の冒険者や、馬車を引いた農民風の男が通っていた。常に行き来する者達がいるくらいだ。もしかして、門が閉まっていたついさっきの状態こそが珍しいものだったのかもしれない。
つまり警備や監視に熱心ではないのだ。
「閉まってる状態なんてさっき初めて見たわ」
魔理沙の質問に天子はさらっと答えた。
「そっか、“遊び”だもんな。多少適当になるか」
現実を追求し過ぎると窮屈になってしまう。快適さを求めるには、適当な部分も大事な要素といえる。
「一応、不可侵条約だとかモンスターが入り込めない結界だとか、そんな設定も冒険者カードで読めたり見れたりするわ」
暇だったからたくさん見たり読んだりしたわ。額に青筋を浮かべた天子が笑顔でいう。
背後に紫の悪意がなければ自業自得と切り捨てていたのだが、魔理沙としては純粋に可哀想だと思っていた。それはこの“遊び”を始める直前の行動に表れていた。
何かフォローするべきかそう考えながら歩くと地面の感触が変わる。石造りの橋を渡って街道へと一歩踏み出したようだ。
顔を上げると、広大な緑の平原が目前に広がった。その平原を切り抜くように出来た白い道、それが街道だ。丘の波をいくつも泳ぎ、遠くの方にかすかに見える村まで繋がっていた。
街道の両端には魔理沙の腰ほどの木製の柵があり、街道と平原を分けている。平原側の様子はよく見えた。のそのそ歩く牛の集団や平原を薙いで駆け抜ける馬、木の根元でせわしなく鼻を鳴らすうさぎ、それを狙うキツネ。
緑の中には小さな森や林もあり、それらはまた別種の緑で平原を彩り、また通常でも綺麗なのに緑の中にいることでその美しさを一際輝かせている色とりどりの花もある。
「作り物にしちゃあ芸が細かいなあ」
魔理沙は感心した。平原に風が吹いた時の揺らぎなど涙を流してしまいかねない。幻想郷で当たり前に見れる光景だが、それでもやはり美しいと思った。
そしてその光景に見とれている間に村についていた。疲れもあまり感じていない。数分くらいしか経っていないようにも思う。そこまで自分は我を忘れていたのか。魔理沙がそんな自分を軽く恥らい、そんな自分を誤魔化して苦笑いを浮かべると「意外と早くついたわね」背後から霊夢の声がした。
自分だけがそう感じていた訳ではないらしい、とホッとすると天子が口を開く。
「見た目は演出のようなものね。建物とか街が見えたら、どんなに遠くに見えてても数分以内にはたどりつくわ」
これも快適さのための適当さ、だろう。辺りを見回すと、建物が一般的な村と比べて少ないと思った。畑もないし、そもそも村人の姿が見えない。あるのは宿屋と酒場が一緒になったであろう二階建ての木造建築と、三軒の建物や薪を保管する小さな小屋くらいだ。
「ここは村っていうより、中継地点ってとこかしら」
まともに利用出来る施設は宿屋兼酒場くらいで、他に出来るのは情報収集だけと言ってもよい。その情報もいわゆるRPGにおけるテンプレ――つまりは武器は装備しないと意味がないぞ――といったチュートリアル的な内容なので、経験者の天子がいるこのパーティには不用だろう。
「ちなみに冒険者カードの機能で、一度訪れた村や街には自由にワープ出来るわ」
買い物は主に先程の城下町で行うのが基本らしい。そして職業についた時点で、彼らには初心者用アイテムが配布されており――これらも冒険者カードで使ったり調べたりする――既に冒険の準備は整っている。
あとは目的地に行くだけだ。村には道が三つある。南に彼らが歩いてきた城下町への道、北に次の村へ続く道、そして東側にある道が、今回の目的地である――はじまりの平原――への道だ。
いずれも代わり映えのない白い道だが、はじまりの平原への道には、『この先モンスター注意』と書かれた立て看板があった。
「フッフッフ……ハハハ……ふふ……ああー……くくっ……かか……」
萃香である。立て看板を見てからずっとこの調子だ。戦えると思ったからだろう、とんだ戦闘狂いだ。
霊夢と彼はこれに対しこれといった反応は見せないが、魔理沙と天子はドン引きだった。たぎりを抑える為に彼の尻をわしづかみにしてる所も引く要因になっている。
「ん……」
霊夢が立ち止まった。隣にいた彼と萃香、背後にいた魔理沙も続く。
「どうした霊夢?」
「気配が変わったわ」
言われて魔理沙が霊夢の隣まで歩くが何も感じない。前方の天子がさらっと言った。
「ああ、そこからはいつ敵が出てもおかしくないからね」
魔理沙がドキッした。萃香の笑みが一際濃くなった。霊夢と彼はそのままだ。
「なんて入った瞬間敵なんて――!?」
刹那、天子が抜刀した。剣閃の後に赤い血飛沫が飛び散る。
「浅いか!」
身を翻しながら背中の盾を左手に構えた。天子の前方には四足の獣が三匹、うち一匹は前足から背中にかけて斜めに赤い傷が走っていた。
「よっしゃああーっ!」
萃香が駆け出す。霊夢が腰のホルダーからリボルバーを抜き、獣に向けて構えた。彼はその隣でお祓い棒を振った。
するとお祓い棒の先から針のような形の弾丸が発射され、萃香を通り過ぎ、獣の一匹に突き刺さる。獣が怯むと天子が大きい踏み込みと共に上段から剣を振るう。鮮血が舞い、怯んだ獣の首が落ちる。初手天子に飛び掛かった獣だ。
「ひ、とつ!」
天子が叫ぶと獣が後ろ足をバネに天子へ飛び掛かる。
「なあーめんな!」
それを盾を使い裏拳の要領で打ち払う。獣は喉の詰まった犬のような悲鳴を上げ、走りよっていた萃香の方へ弾かれた。
萃香は地を滑りながら左腕を身体ごと後方にひねり、地上すれすれの軌道で拳を唸らせた。
「ぎょぼごごおっ!?」
形こそ犬であったが、その悲鳴は犬とはかけ離れた歪で耳障りなノイズだった。萃香の拳が腹部を貫いたのが原因だ。血飛沫を浴びてなお萃香は笑顔を崩さない。
「さいごおーっ!」
天子が叫ぶ。獣はその天子も萃香も無視して離れた場所にいる三人の元に駆け出した。
「あ……」
萃香の笑顔が引っ込んだ。天子も露骨に表情を……戦士の顔から養豚場の豚を見るそれに変えた。その理由は、獣が明らかに彼を狙っていたからだ。いや違う、狙ってしまったからだ。
霊夢の額からぶちっと何かが切れる音がすると同時に、六回、火薬が爆ぜた。霊夢が構えた銃口からは煙が上がっており、弾丸を正確に獣の四つの足、前足に二発ずつ、後ろ足の先に一発ずつ命中した。
獣は勢いからつんのめって転がり、後ろ足の先端からはドバドバと血が流れ、前足は根元を残し吹き飛んでいる。
弱々しい犬の鳴き声を上げたその獣に、カツカツと――土の地面――に音を立てながら近付き、一切の躊躇なく大きな動作で膝を上げ、獣の……頭を踏み抜いた。
メキョ。
戦闘終了。後にこの時パニックになって何も出来なかった魔理沙はこう語った。
「本当に恐いのは人間かもしれない」
フラン「イチャイチャは?」
私「お尻触ってたやろ?」
フラン「戦闘は?」
私「最後の方にあったやろ?」
フラン「……タブレット端末でゲーム三昧すごいですね」
私「それほどでもない……あ」
――少女きゅっとしてドカーン中――
フラン「もう適当に終わらせていつもの下ネタ書いてろこの駄豚がっ」
私「え、でも次回はフランちゃん出番あるけど」
フラン「来週までに書かないとゲーム全部壊す」
私「……助けてくだしあ」




