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東方逆接触  作者: サンア
25/66

☆逆転話

私「ゼノブレ飽きた」


フラン「スマブラ飽きた」


食事中の閲覧はオススメしません。


「あー……うぷっ……おぇっ」


 夜が更けて、明けて、昼時になってもいっこうに喧騒の絶えない旧都の路地裏で、鬼人正邪は青白い顔をして壁を背に座り込んでいた。


 黒髪に白と赤のメッシュが混ざったショートカットの頭には、小さく短い角が二本生えているが彼女は鬼ではない、天邪鬼だ。鬼という文字こそ入ってはいるが、力の弱い小物妖怪である。


「うう……きもちわりぃ~」


 その証拠がこれだ。現在の彼女の体調の悪さは酒の飲み過ぎによるもので、普通の鬼なら、いや普通の妖怪でもこうはならない。


「……水……飲みたい……」


 口の端からよだれを垂れ流しながら、やや上を見上げると建物の隙間の空に飛んでいる火焔猫燐の姿があった。


 誰かを抱き抱えている。噂の彼だということに気付くのに、そう時間はかからなかった。


「……幸せそうな……面しやがってよぉ……」


 小物とはいえ流石に妖怪である。距離はあるが、表情ぐらいは読み取れる視力があるらしい。


「ムカついてきた……ははっ」


 正邪は苦しさも忘れてギザギザの歯を強調するようにニッコリと笑った。なにやら思い付いたようだ。


 のそっと立ち上がると路地裏から通りに出て、火焔猫燐の動きを追う。そう遠くない場所に降下して行ってる。確かあそこには、最近菓子屋が出来たはずだ。


「へへっ……どうしてやろうかな……へへへ、ゆっくり考えるさ」


 二日酔いは治ったのだろうか。正邪はスタスタと胸を張って歩き始めた。


 ワンピースのような服装の下半身には矢印を連ねた装飾があり、腰には逆さにしたリボン、胸元にも同様に逆さにしたリボンがつけられている。


 なんだろう、向きに……逆さまというのにこだわっているような、そんな印象のある装飾だ。


 菓子屋の前には竹製の長椅子が置かれており、その傍らに赤く大きな唐傘がややナナメ掛けに設置されていた。地底なので日よけというよりは、装飾的な意味の方が強いのだろう。実際直接的な太陽の光というのは感じられない。ただ朝と夜で明るさが変わるだけだ。


 店自体はそれほど大きくない。竹の看板や瓦の屋根、紺色に白文字で店名の書かれた暖簾。なんてことない普通の店だ。近くに梅の木があったが、それも開花しておらず店を彩るものとしては地味なものだ。だが、その地味さが良いという者もいるのだろう。


 扱ってる商品の評判は良い。特に羊羹の人気が高く、開店と同時に売り切れるのも珍しくないとか。実際正邪も食べた事があり、表情を変えるほどには美味しいと感じていた。感想を聞かれた時は、素直に美味しいというのが癪だったので皮肉を述べていたが。


 菓子屋そのものにはもちろん用はない。そもそも正邪の目的はお燐と彼、取り分け彼だ。


 彼が幻想郷のあらゆる者に好かれているのはよく知っている。噂話やら天狗の新聞やらと頼りない情報源ではあるが、ここまで話に上がる何かが彼にあるのは間違いないし、先程確認したお燐の表情でそれは確信に変わっていた。


「クヒヒッ」


 下卑た笑いだが、楽しくなると止まらなくなる。正邪は性質上、悪戯が好きだ。それも、相手が困ったり嫌な思いをするのが純粋に好きなのだから手に負えない。妖精の無邪気さとは違う悪意がある。


 もっとも厄介なのがその反骨心だ。噂話の中に星熊勇儀と彼の関係について触れたものがあった。地底に住む者なら、星熊勇儀を我から敵にしようとはしない。だが正邪の反骨心は……やってはいけないことをやってみたい、の究極系だ。


 実に愚かしい。そして、だからこそ厄介だ。


 ソッと店内を覗くと、並べられた商品を指差すお燐と傍らで頷く彼がいた。オススメの商品を教えてるらしい。


 正邪は静かに店を離れた。さて、どんな嫌がらせをしようか。直接傷付けるというのは良くない。不快感や悪意を向けられるのは良いが、敵意を向けられては生死に関わる。そんなのはゴメンだ。


 偶然を装った事故が一番良い。事故ならば敵意は向けられまい。大袈裟に謝ってみせれば許してくれるものだ。


 それではなにをしようか……何か都合のよい持ち物でもあったか……あった。多分、酔っ払っている時に懐に入れたのだろう小さな酒瓶だ。


 これをつまずいたふりをしてぶっかけてやれば、嫌な思いをしてくれるに違いない。


 正邪は薄笑いを浮かべながら瓶を開封し、店から彼らが出て来るのを今か今かと待ち侘びた。


 まだかな? まだかな? ああ店員の挨拶が聴こえたぞ。他に客はいなかった。じゃあ彼らへの挨拶だ。もうすぐ出て来る。暖簾が揺れた、今だ。


 正邪は絶妙なタイミングで歩き出した。少し離れた場所から、やや速めのスピードで。これなら彼らが出て来た時には目前まで迫れているはずだ。つまり彼らが出て来た瞬間につまずけば、目論見通りといくわけだ。


 正邪の誤算は、丁度良い所に石が転がっていたことだ。


「うひゃ!?」


 ふりじゃなくて、本当につまずいてしまった。すると、タイミングは合っていても目論見通りにはいかない。


 まず酒瓶を落とした。強くたたき付けたわけではないので、瓶が割れたりはしなかったが中身は零れた。そもそも正邪がやろうとした行為もそうだが、鬼に見付かれば怒りを買いそうだ。


 そのまま正邪はたたらを踏んで前へつんのめった。そこへ出て来たのが彼だった。彼は一瞬で正邪の状態を把握すると、華奢な見た目からは想像もつかない動きで正邪を抱き留めた。力が足りずやや後退しつつ尻餅をついたが、とりあえず正邪が地面にぶつかることはなかった。


「(と、とんだ恥さらしだ……)」


 相手に嫌な思いをさせる所か、怪我をしそうになったのを救われる。きっかけが悪意だっただけに自己嫌悪が凄まじい。


 助けてくれた相手への感謝や謝罪の気持ちは一切ない。


「(興が削がれた……さっさと謝って帰るか)」


 正邪は媚の張り付いた笑顔を作った。彼女なりの処世術であり、これが中々効果的なのも彼女を増長させた原因だ。


「あっ! ご、ごめんな……さ……」


 正邪はわざとらしくあわてふためき、謝りながら顔を上げた。その時初めてハッキリと彼の顔を見た。


 正邪の時間は止まった。


 止まった時の中で、正邪の頭には祝福の鐘の音が打ち鳴らされていた。昂揚と幸福を同時に感じている一方で、とても冷静に納得している自分がいた。


「(ああ……こうやって堕ちていくのか)」


 と。そしてそれをなんの抵抗もなく受け入れる自分に、かけらの違和感も覚えなかった。


 それくらい、彼の顔立ちは正邪の好みのド真ん中だった。悪意を振り撒くのが好きな自分の、先程までのつまらない悪戯に嫌悪するくらい、彼に惚れてしまっていた。


 正邪の感じる幸福の正体はそれだけではない。


 彼の現在の服装に要因がある。星熊勇儀がたまに着る青い着物、それと同じものを着ている。胸のやや下で赤色の帯をリボン結びにし、勇儀同様に肩と胸のギリギリの所までを露出させている。


 正邪の片手は彼の胸元に置かれていた。初めての接触がこれでは、正邪のこの反応も仕方ないな、と一部始終を見ていたお燐は思った。


「大丈夫?」


 彼の質問で正邪の時間は動き出した。


「あ、えっ、ああ……はい、大丈夫……で、そそそそちらこそお怪我は!?」


 緊張して変な敬語になってしまう。その上相手を気遣う自分が滑稽に思えた。心の底から心配しているのだから尚更だ。


「ちょっとお尻痛いけど大丈夫」


 正邪は安堵して立ち上がり、彼へ手を差し延べた。彼は正邪の手を握り、立ち上がろうと腕に力を入れた。


 むろん手を繋いでいる正邪は冷静ではない。彼との接触の異様さに内心動揺している。背後で優しげに微笑んでるお燐も動揺に含まれているが。


 彼を立ち上がらせると正邪は改めて頭を下げた。彼女を知ってる者がその姿を見れば驚く程度には殊勝な態度だ。


 その時だった。彼が気にしてないと言おうとしたまさにその時。正邪の顔が青白く染まり始めた。原因は正邪が落とした酒瓶だ。零れて出来た小さな酒溜まりから、濃いアルコールの匂いが漂っている。


 正邪は振り返るとヨロヨロと少し歩き、両手で口を抑えその場にしゃがみ込んだ。酔いが振り返したのだ。


 今にも吐き出しそう……と思う間に胃から込み上げてきたものが喉まで達した。


「ううぐぅ~!?」


 背後の彼にみっともない姿を見せたくなくて我慢するが、もう手遅れであった。


「お……ぐ……」


 数秒後、正邪は嘔吐した。酸っぱい匂いが漂い出した。


 恥ずかしい。泥酔して意識がない時なら未だしも、意識のハッキリしてる時に、しかも初恋の直後がこれだ。泣きたくなる、いやもう涙は溢れていた。


「ありゃりゃ」


 お燐は驚く様子もなく、歩き出す彼の背中を見ていた。酒というものが嗜好品として地上以上に強い意味をもつ地底では見慣れたものだ。


「う……ぐ……うぅ……」


 一度吐き出すと堰が切れた。二度、三度、四度と呼吸も困難なほどに続けざまに嘔吐した。苦しさの中でこんなに飲んだのか、と冷静に嘔吐物を見る自分がいた。


 不意に背中に温もりを感じた。彼の手だというのはすぐにわかった。さすってくれてるらしい、優しい人だ。


「ご、ごめっおぅぐ!?」


「いいから、気にしないで」


 言葉を発しようとすれば、喉が刺激されてか何かわからんがまた込み上げてくる。彼もそれがわかっているのか、その旨を伝え正邪を介抱した。


 十数分してまだ顔色は悪いもののある程度は落ち着き、彼はというと正邪の嘔吐物を片付けていた。何となく恥じらいを感じた正邪だが、手伝う体力も気力もなく、菓子屋の長椅子にグッタリと肩を落として座っていた。


 視界の端で黒い何かが現れた。そちらに顔を向けようとすると頬に冷たい物が当てられた。


 ガラスのコップに注がれた水だ。よく冷えている。


「どうぞ」


 どうやらお燐が菓子屋で貰ってきてくれたらしい。正邪は受け取ると半分ほどをゆっくりと喉に流し込んだ。


「災難だったね」


 黒に緑の模様が入ったゴシック系のワンピースを揺らして、正邪の隣に座った。前髪の揃った深紅の髪を両サイドで三つ編みにし、三つ編みの根本と先端に黒いリボンをつけている。また頭部には黒い獣の耳が生えているが、人の耳もちゃんとついている。どちらも耳として機能しているらしい。


「……はい」


 彼が優しくしてくれるのはわかる。だがお燐が親切にしてくれる理由がわからなかった。彼に頼まれたのか?


「あんたさ、正邪だろ? お空と遊んでくれたんだってね」


 それか。正邪は額から汗を流した。だがお燐の反応は正邪の想像とは違っていた。


「お空も楽しかったって喜んでてさ、よかったら地霊殿に遊びに来てやってよ」


「え……あ、はい」


「敬語使わなくていいよ」


「……うん」


 罪悪感かな、これ。正邪には経験がないことで、どうにも判断がつかなかった。


 確かに正邪はお空こと霊烏路空と遊んだことがある。でもそれはお空を利用しようとしての事だ。


 正邪はある思想から異変を起こすのを目論んでおり、強大な力をもつお空を利用出来ないかと近付いた経緯があった。しかしあまりにも……あまりにも鳥頭なお空を扱うのは難しいと判断し、切り捨てたのだ。


 自分の事も忘れてるものだと思ったが、覚えていたのか……。


「機会があれば、行くよ」


「ん、ありがと」


 なぜだか、正邪は少しだけ嬉しくなった。自分を覚えててくれたからだ。だから、礼というよりは詫びになるが、遊んでやるくらいはいいか、と思った。


 正邪は立ち上がった。彼が片付けを終えて、こちらに歩いて来たのが見えたからだ。


「大丈夫?」


 何度この言葉を聞いたろう。相手への気遣いを忘れない人だな。


「うん、もう大丈夫、大丈夫だから……あとは自分でやるから」


「もう終わったよ」


「……その、すみません」


 自分はこんなに気持ちを込めて謝れる生き物だったのか。正邪は自分で驚きながら頭を下げていた。


「なにか、出来ることはない……かな?」


 彼が見返りを求めるような人でないのは重々承知だが、正邪の気が済まなかった。


 彼は首を傾げて腕を組んだ。可愛いな、お燐と正邪は心中で同じ感想を抱いた。


「じゃあ、今度神社の掃除手伝って」


 また大丈夫とでも言われると思っていた正邪は面食らったが、


「はい、喜んで!」


と即答した。お燐が吹き出したのは居酒屋の店員を想起したからだ。


「ふふ、お兄さんそろそろ行かないと」


「うん」


 そういえばわりと長く二人を拘束してしまっていた。用事もあったりするだろうに……正邪はまた謝ろうと思ったがそうすると彼が気を遣うと思い黙っていた。


 その分、今度手伝う時に頑張ろう。と心に刻み込み、こちらに手を振りながら離れる二人を見送った。


「またね、正邪」


 しっかり名前を覚えていてくれた事に感動しながら……。



「ねぇねぇお兄さん」


「なに?」


「あたいがおまんじゅう持ってて良かったでしょ?」


「ん?」


「だってお兄さんが持ってたら、正邪とぶつかった時に潰れてたかもしれないよ」


「ああ」


「ね?」


「そうだね」


「そうでしょ?」


「うん、いい子いい子」


「えへへ~」


 火車と彼の会話より。

フラン「正邪って地底にいたの?」


私「知らん」


(いないと思うけど)食事中の方は大変失礼しました。


こんなん正邪ちゃんやない! って思った方へ、私もちゃうと思う。ゲロインは似合ってると思うけど。


個人的な話になりますが、悪役はいいんですが悪人を原作キャラから作りたくないんです。ほのぼのだからね。でも正邪ちゃんのゲスい魅力も書いていきたいと思ってます。


次回はなにを書こうか本格的に迷ってます。とうとうナズーリンを本編に登場させるか……でも衣玖さんともイチャイチャしたい。


悩み所やね。リクエストは随時受け付けてます。望み通りの話を提供出来るかは保証しません!



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