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東方逆接触  作者: サンア
23/66

乗っかられ話

思い付いたけど本編で使い所がわからない掛け合い。


魔理沙「私と彼を天秤にかけたらどっちが重い?」


霊夢「ほんの少しだけ彼」


魔理沙「へぇ意外」


霊夢「あなたはそんなに軽い女じゃないわ」


魔理沙「……う、うん」


霊夢さんマジイケメン。


 妖怪の山の麓から少し奥に進んで行くと、途方もなく深く巨大な“穴”がある。これが地底への入口であり、通常ここに近付く者はいない。地上と地底の間に結ばれた不可侵条約があるからだ。


 もっとも、好んで地底に行こうという者は、通常の枠組みからは外れているのだろう。


 周辺の木々の根がゴツゴツとした岩肌を突き抜け、深い暗闇へと伸びている。また岩肌は苔むしており、滑りやすくなっているので、登攀とうはんに長じていても下りていくのは難しい。


 まあ空を飛べる彼女達には関係のない話だ。


 お空は自身の背丈ほどもある黒翼を広げ、大きな羽音を立てて空を羽ばたいていた。ごうごうという羽音の後に翼と羽毛が舞い、背後を追従しているさとりがそれにまみれていた。


 さとりの目が鋭く尖っているのは、それが原因ではない。ただ昨夜眠れなかっただけだ。目の下の隈も酷く濃い。それなのにさとりの気力の充実には凄まじいものがあった。


 流石に霊夢の監視下では彼に手を出せないが、地底に行ってしまえば話は別だ。さとりの頭には最早それしかなかった。


 彼を抱きしめ地底へ意気揚々と滑空しているお空は、主人のそんな邪な想いに気付いていない。嬉しそうに笑みを浮かべ、彼と共に過ごせる今日に希望を抱いている。


 あるいはこの笑顔を裏切る事になるのを、さとりは気付いていないのか。いや気付いていてそれでも抗えないのかもしれない。


 暗い闇をひたすらに進んで行くと大きな川があり、川には橋が架け渡されている。橋の欄干に腰を預け佇んでいる者を見付けたお空は、空中で静止するとゆっくりとそこへ下りた。


「パルスィ!」


 お空の元気な声に、彼女はゆっくり顔を上げた。


 ボリュームのある金髪が揺れ、細く尖った耳が顔を出す。


「……」


 緑色の目は眠たげに半分ほど閉じられ、青赤黒で構成されたペルシアンドレスのような服のスカートや裾には、今彼女達が立っている橋を彷彿とさせる模様や装飾がある。


「パルスィ?」


 返事が無いのに困惑してもう一度名前を呼ぶと、水橋パルスィは小さく息を吐いてから言葉を発した。


「おろしてあげたら」


 それがぬいぐるみのように抱かれたままの彼の事だと気付くのに、少しだけ時間がかかった。


「私なんか放っておいて、先に行くものだと思っていたわ」


 皮肉めいた笑みを口元に浮かべたが、こういう言動はお空に効果はない。


「だってお兄さんが来るの、パルスィ楽しみにしてたでしょ?」


「そっ!?」


 パルスィの声が引き攣った。半眼だったのも大きく見開いている。


「そうなの?」


 彼からの一言は無慈悲な追撃であった。一番誤魔化したい相手からの質問なのだから。


「……べ、別にそんなことない……わよっ」


 必死に取り繕ったが、多分頬は赤くなってしまっているだろう。子供の無邪気さには救われる事もあるが、逆も多々ある。


 まあしかし、二人の背後でニヤニヤしているさとりを見たら、幾分か冷静さを取り戻せた。


「えー、だってお兄さんの為だってたくさん買い物してたのに」


「ちょっそれ秘密って言ったでしょ!」


「あっ」


 取り戻したばかりの冷静さを吹き飛ばされた。能力の都合上さとりにはバレていたかもしれないが、彼の前で言われたのは誤算だった。本当に子供は読めない。


 彼はジッとパルスィを見つめていた。


「……な、なによ」


 見つめられていることに対し、言動ほど不満はなかった。むしろ、彼に見られてることに多幸感を得ているくらいだ。


 だが、どうしても自分に素直になれない。ジッと見つめあう度胸もない。突き放すような言動をしてしまう。


 幸い、彼はそれを気にするような性格ではない。というかへこたれない。かなり強い精神力があるはずだ。そうでなければ、霊夢と同じ屋根の下で暮らせるものか。


「なに買ったの?」


 あまりにも普通の質問に軽く拍子抜けしたパルスィだったが、とりあえずでも彼のために、という部分を無視してくれたのは有り難かった。


「た、たいしたものじゃないわよ。お菓子とか……勇儀が宴会するっていうから、お酒とか……ホント、それくらいよ」


 実際彼の好みというのが良くわからなかった。好き嫌いは無いようだから、とりあえず自分が思い付く美味しい物を用意したのだが、正直不安だった。


 万が一嫌いな物を出されても、彼は食べるだろう。美味しいと言ってくれるだろう。無理をさせる事になるだろう。それは心苦しい事だ。


 素直に好きな物が聞ける性格だったら良かったのに。と、自身を呪い、それを聞ける者を妬んでいた。


「どんなお菓子?」


 質問は続いた。そういえば詳細は語ってなかったか。


「羊羹よ。最近旧都に出店した所の」


「あ、羊羹好き」


「しょ、そうなの?」


 予想外の返答に出だしを噛んだ。


「うん」


「そうなんだ……」


「うん」


「そっかあ……」


 パルスィの口元はそれはそれは緩んでいた。多分本人は気付いていないのだろう。


 幸い、彼やお空に指摘される前に、視界にさとりが入ったから正気を取り戻した。相変わらずニヤついている……というかさっきから体勢が変わってない。


「さとり?」


 パルスィの言葉に彼とお空も振り返ったが、いっこうに反応がない。彼が近付いて、さとりの顔の前でひらひらと手を動かした。


 反応はない。が、かすかに息遣いが聞こえた。心地好さそうに一定のリズムでの呼吸……。


「寝てるみたい」


 流石に限界だったらしい。



 その屋敷を一言で表すなら、質実剛健、であろう。外観はいたって普通の和風建築だが、強度や耐久性はまるで別物。


 理由は材質の違いと、鬼の建築技術によるものだ。どこか武骨な印象もこの屋敷に住んでいる者の影響かもしれない。


 屋敷からは笑い声が絶えない。一際大きな笑い声は屋敷の主人、星熊勇儀のものだ。


 額の真ん中にそそり立つ赤い角は、女性である彼女には不適切な表現かもしれないが、旧都にいたどの鬼よりも雄々しく立派だ。ろくに手入れをされていない金髪のロングヘアーは、命の焔を燃やしたかのように色濃く輝いている。


 隆々とした筋骨は一見すると女性らしさを損なわせるが、決して彼女の身体のバランスを崩さず、むしろはち切れんばかりの胸やすらりと伸びた手足、腰のくびれや引き締まった尻を強調していた。


 服装は外の世界の体操着を思わせるものに、一定感覚に赤い線の走ったロングスカート。赤い線以外の部分をよく見ると半透明になっており、彼女の鉄拳を恐れぬのなら下着を確認する事が出来る。


 勇儀はあぐらをかいて座り、愛用の赤い盃を片手に、もう片方の手で彼の肩を抱き寄せていた。笑顔の原因はこれだが、笑い声の原因は先程のさとりだ。立ったまま目を見開いて眠っていたのが、よほど面白かったらしい。


 なにがそこまで面白いのか周りにはイマイチ理解出来なかった。ツボにでもハマったのかもしれない。


 しかし勇儀の笑いには人を引き付ける魅力があった。笑う顔が美しいとか、笑い声が綺麗だとか、そういう理由ではない――笑う顔は美しく、笑い声が綺麗であるのは事実だが――。


 もっと感覚的な何かだ。彼との接触に近いものだとも言える。こちらに情欲はないが、安心感だけなら彼にも勝るかもしれない。


 ま、その辺はそれこそ個人個人の感性の問題だ。いま重要な事ではない。いま重要な事は、目の前の広い座卓に色鮮やかな料理がある事、背後に大量な酒がある事、そして隣に彼が居る事だ。


「はあっ! パルスィの持って来た酒は一際美味いねぇ」


 笑みは絶やさず、盃を空にすると大きな声で言った。


「それはどうも」


 特に表情を変えずに答えるパルスィ。二人は気心知れた友人のようで、こういう言葉のやり取りは珍しくない。


 この場にいないヤマメなんかは、勇儀と相対すると緊張が強く表に出てしまう。ヤマメに限らず、旧都に住む者達はほとんどがそうだ。むしろパルスィの方が珍しく、そういうパルスィだから勇儀も気に入っているのだろう。


「うん、美味しいね」


 勇儀の盃に口をつけた彼が、勇儀と同じ感想を言うと、パルスィは勇儀の時とは違うリアクションで応えた。


「それはどうも」


 言葉は同じだ。しかし声の調子、大きさ、イントネーション、表情、体温、鼓動、他の所はなにもかも違う。


 長年の付き合い……は関係なく勇儀は気付いた。これは喜んでいる、と。


 勇儀に限らず誰が見ても明らかである。その場には十数人の男女が居たが、気付いていないのはお空くらいのものだった。


 それに気付いているといっても、それを茶化すような者はいない。勇儀がそれを嫌うからだ。先程はさとりがいたので冷静に戻れたが、いまのパルスィは我を忘れたままだ。


 この場に居る者は大体が酒に酔ってるのだから、ある意味パルスィの状態は正常といえる。またパルスィも少なからず酒が入っているので、普段よりは警戒心が緩くなっている――もっとも彼への警戒は拒否というよりは恥ずかしいという感情に基づくものだが――。


 彼が来てから勇儀はパルスィのこういう一面を知った。以前は妬ましい妬ましいと言いながらも、旧都ならではの馬鹿騒ぎに付き合ってくれる友人だった。彼女の笑顔など数えるほどしか見た事がない。


 冷静で感情を表に出さない奴だった。たった一つの出会いがパルスィを、いやこの世界を大きく変えてしまった。変化の元となった彼自体は、ただ毎日を当たり前に生きてるだけなのに。


「あんたは凄い男だよ」


 グッと彼を胸元へ抱き寄せて囁いた。彼はこれといって表情を変えずに、


「そう?」


とだけ言った。


 宴会も中盤を過ぎると混沌の様相を呈してきた。なんせ素面の者がおらず、皆感情のままに行動するからだ。殴り合いなんて当たり前、泣き声と笑い声が同居してるし、唄いながら踊っている者もいた。祭りのようだな、とようやくやって来た黒谷ヤマメは思った。


 とりあえず勇儀と彼に挨拶をしようと一歩踏み出すと、ヤマメを見付けた妖怪達から歓声が上がった。


 ヤマメの性格は非常に旧都に適応している。明るく気さくで人見知りが皆無。旧都のお手本と言ってもいい――性格のお手本とは少々おかしな話だが――。


 この状況で一度見付かるともうたまらない。笑い上戸、泣き上戸、怒り上戸、と様々な者達に行く手を阻まれ、またヤマメはそれを無視しない優しさをもっている。


「わかった、わかったよ。なにがそんな楽しいんだい?」


 こうなると彼の元へは行けない。なにがどうなってそうなったか知らないが、パルスィに押し倒されている。傍らでは大きく笑う勇儀。少し離れた所に迎えに来たであろう火焔猫燐を振り回して踊っているお空。


 また次があるさ、優しげな笑みを浮かべ、肩を叩いてくる笑い上戸の妖怪から盃を受け取った。



作者はフランちゃんにボコボコにされたので今日のあとがきはお休みとさせていただきます。


私「ゼノブレイドクロス楽しいいいいいいぃ!」


フラン「早くスマブラやりたいんだけど」


また次回!

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