胸元話
眠りから覚めた霊夢はけだるそうに起き上がると、あくびをしながら両腕をピンと天井へ伸ばした。
「ふわ……はぁ」
目尻の涙を拭いつつ、枕元にきれいにたたまれていた巫女服を手に、立ち上がって洗面所に向かう。
「ぐえっ……うん? ……ん」
最初の一歩が隣で眠っていた萃香を踏ん付けたが、萃香も霊夢も気にしてないのか、霊夢は歩みを止めず、萃香はすぐに寝息をたてた。
洗面所に入り、寝巻きの白装束を脱ぎ、洗濯物のかごに放り込む。
「……今日なんかあったような気がする」
段々と頭が働き始めるのを感じながら、普段の格好へと着替えた。
肩と脇を露出した真っ赤な巫女服に、胸部には黄色いタイ、二の腕の部分から手首にかけて徐々に膨らんだ真っ白な袖。
最後にくしでといた黒髪に、真っ赤で大きなリボンをつけた。めでたいカラーリングだ。
「なんだったかしら……全然思い出せない」
袖やリボンをヒラヒラと揺らしながら、居間へと歩く。
「ぐえ……んん……ん」
途中、また萃香を踏ん付けたが、お互い先程と同じように気にする事はなかった。
居間につくと、台所の方で彼が食事の準備をしているのが目に入った。味噌汁や焼き魚の匂いが鼻孔をくすぐる。
「おはよう」
一瞬霊夢を見た彼は作業を中断せずに挨拶をした。
「おはよう」
霊夢はそれに返答しつつ、いつもの場所に座り、せわしなく動く彼の下半身に視線を向けた。思い出すという事は既に放棄している。
十数分ほどすると、彼は朝食を食卓に並べ始めた。白飯、みそ汁、焼き魚とシンプルなメニューだ。
それを四人分並べると、萃香を起こしに寝室へ。
「ふわあ……あ? あ、おはよー」
彼が寝室に入ると、ちょうど起きた所だったようで、布団にあぐらをかいて両腕を大きく伸ばし、盛大なあくびをすると彼に気付いて挨拶をした。
「おはよう、ご飯出来たよ」
「ん、わかったよ……えへへ」
萃香は立ち上がると、無邪気に笑いながら彼に抱き着いた。彼の胸元に顔を埋めるようにしている。
「……ん」
彼は慌てた様子もなく左腕を萃香の背中に回し、右手を萃香の頭に乗せた。萃香はというと深く深く呼吸を繰り返している。
彼が視界から消えた事で、ようやく目の前の朝食に気付いた霊夢は、彼と萃香は待たずに朝食を食べ始めた。マイペースだ。
「あら美味しそうね」
もぐもぐと口を動かしながら背後へ振り返り、声を発した人間……いや妖怪を見て、また食卓へと向き直り、ごくんと喉を鳴らした。
「美味しいわよ、知ってるでしょ?」
焼き魚に醤油を垂らしながら言葉を返すと、妖怪は「そうね」と答えながら霊夢の正面に座った。
癖のあるボブヘアーは美しい緑色をしている。顔立ちは端整で、特に真紅の瞳と吊り上がった目尻が妖艶だ。
白いカッターシャツの胸元を大きく膨らませ、その膨らみに黄色のリボンが乗っており、チェック柄の赤いベストを羽織っている。
下半身にはベストと同じチェック柄の赤いロングスカートを着用しているが、ベストとは違い裾が白いレースの装飾がある。
スタイルも良い。痩せ型というわけではなく、健康的に肉付きがあり、全体的にバランスが整っていながら、一部のパーツが大きい。魅力的な大きさ……下品な言い方をするなら、“男心を刺激する”体つきだ。
そして一番印象的なのは彼女が纏う雰囲気だろう。
顔立ちなのか、服装なのか、スタイルなのか、どこから醸し出されるのかはわからないが、とにかく彼女からは加虐的な雰囲気が感じられる。実際ドSでもあるが。
「で、あんた何しに来たのよ?」
聞いてからみそ汁をすする霊夢。
「朝ごはんに誘われたのよ」
急須のお茶を湯呑みに注ぎながら答える妖怪――風見幽香。
「ああ、そう」
誰に誘われたかは聞くまでもなかったので、その会話はそこで終わった。
普通なら無言の間が気まずいものだろうが、そんな事を感じる二人ではなかった。
数分後、萃香の相手を終えた彼が居間に戻ってきた。
「あ、おはよう」
幽香の姿を確認した彼が挨拶をした。それを聞いた幽香は、満面の笑みで立ち上がり、彼に近付いた。
「ええ、おはよう……ふふふ」
そして挨拶を返すと彼に抱き着いた。その隣を、満足げな表情を浮かべた萃香が通り過ぎた。
彼は抱き着かれた事に驚いたりはしない。いや実際は驚いているかもしれないが、端からはそう見えない。
彼は幽香の胸に顔を埋めつつ、両腕を幽香の背中に回した。つまり彼も幽香を抱いてる状態になっているが、彼には特に考えはない。なんとなく、幽香の背中に手を回しただけだ。
「うふ……ふふふ……」
幽香は彼の髪に鼻を密着させ匂いを嗅ぎながら、右手を背中に、そして左手を何のためらいもなく彼の尻に置いた。
置いていたのは一瞬で、次の瞬間には揉みしだくという行為に変わっていた。
「……んん」
流石の彼も普段より大きく声を漏らした。単純に揉む勢いが強いからなのか……気持ちいいからなのかはわからない。
霊夢と萃香は見向きもせずに食事を続けていた。興味がないわけではない、あとで私もやろう、とは思っている。いつもの事だから一々気にしないだけだ。
数分して満足したのか、先程と同じ場所に座り、額に浮かんだ汗を拭い、彼が座るのを待った。
「ごちそうさま」
彼が座ると同時に霊夢が食べ終わった。食後のお茶を楽しもうと、急須に手をのばしている。
「いただきます」
彼と幽香は給食の時間の小学生のように声を合わせて挨拶をし、少し冷めた食事を始めた。
一人称で進めようと思っていたのですが、諸事情で三人称となりました。
大体のキャラクターが彼にあんな事やこんな事をします。私の妄想を文字にしてるだけです。でも普通に笑えるようにも書きたいです。