若い魔術師と精霊 【前】
王城の地下室、普段は誰も入れない階にそれは鎮座していた。
地下フロアからその部屋に行くまでには、幾度も許可証の確認を求められ最後には目的の部屋の前で。
「ケビンさんと、フィー様。2名の入室ですね。どうぞ」
衛兵が確認し、入室時間を帳面に書き込んだ。
極寒の部屋。
「うんよく冷えてるね、凍らし甲斐があるってもんだわ。」
そんなに広くはない部屋で、部屋には装飾が一切ない。あればそのまま氷付けになるので、あえてはずしているのだ。
入って正面の壁の前には、巨大な棺が安置されており蓋の上部はガラス製となっていて中身が見えるようになっていた。
皮製の手袋をはめて、フィーがサリサリとガラスの部分に積もった霜を剥ぎ取れば中には、見知った顔が目を開いて見つめていた。
「…! びっくりするでしょー!、もう目開けて待ってないで!ケビン、開けて」
「だって師匠が勝手に覗き込むから」
クスクス笑って、その昔フィーが術を刻み込んだ開閉ボタンを、ケビンが操作すればバシュッと音と共に棺の蓋をゆっくりと開ける。
「おはよ、ケビン」
「おはよ、マーロウ。師匠の定期健診だよ。」
温度計を振り切る氷点下、術で保温を施す魔術師でなければ人間は凍ってしまう程の冷気の中、マーロウと呼ばれるプラチナブロンドの腰までのロングヘアの女性は差し出された手を借りて立ち上がった。
「ケビンのお師匠様、おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「はいはい、腕輪に刻んだ術も何もかも順調そうだね。ケビンがせっせと禁呪を掛けている様子が目に浮かぶわぁ、アンタばれないようにするのよ?」
カナダの提督の息子であるケビン、冬の遊び場である雪深い森の万年雪それがマーロウの正体だ。
数百年掛けて溶けない雪は、精霊となり意思を持つ。
遊び場に来たケビンを意思を通じ、溶けないよう存在を保つために親の権力を総動員させた結果が、今現在。
高校を卒業し、フィーに弟子入りしてからは隙を狙って禁呪中の禁呪を勉強し、コソリとマーロウに掛けているのだ。
ボディの溶解を防ぎ、劣化を回復させ現状維持を永久に。
ケビンは知らない、禁呪を見続けた魔術師がどうなるか。
何食わぬ顔で笑顔を向けるが、その瞳には細かい禁呪の文字が写り込んでいる事を。
禁呪には、必ず代償が必要な事を。




