泡沫の夜 始
「お前らー、ごはんできたぞー!」
『はーい』
兎澤先生の手作り料理は何かな…と思っていたら、コンビニ弁当だった。
「い、いつもは違うんだぞっ」
どう見てもいつもコンビニ弁当だと思う言い方だ。額に汗かいてるし。
そんなんだからいつまでたっても腹筋割れないんですよ。
「いっただきまーす」
蓮也は何も気にしていないように無邪気に食べ始めた。
「ふえ、食った食った」
「そうだな。久しぶりにけっこう食べた気がする」
「俺はまだまだいけるけどな」
兎澤先生は腹を叩いてみせた。…筋肉質な体から放たれる音ではないと思う。
「さて…。宮内、新城、お前ら一緒に風呂入れ。節約しないとやばいんだ」
「え、教師って給料高いんじゃないんですか?」
「そうそう。そんなことを聞きましたけど…」
「俺の場合、いろいろ使い道があるから少しでも節約していかないと今月やばいんだ」
俺と蓮也は顔を見合わせ、諦めるように溜息をついた。
「いいっすよ、もう」
「仕方ないですね」
そう言うと兎澤先生はにんまりと笑い
「じゃあ俺先に入るから」
とさっさと風呂場へ行ってしまった。
「…なあ、聞いてくれるか?」
「なんだ?」
蓮也は、2人きりになった寝室で急に真剣な眼差しで話し始めた。
「俺、ずっと、好きな人と一緒に風呂に入るというのが夢だったんだ」
「ふうん。それで?」
「…それが今日、実現されるんだ」
「え、お前の好きな人って、まさか」
そこまで言うと、蓮也は急にキスしてきた。
2分くらいして唇が離れた後、
「そう、水音。あんただ」
「え…」
なんだこの気まずい空気。
「…俺のことなんて恋愛対象として見てなかったのに、急にキスしてすまない。だけど、僕はずっと水音のことが好きだった。マジメに勉強してテストで高得点をとって喜んでる姿、孤独に泣いている姿、女装コンテストで恥ずかしながら登場してきた姿。全部かわいくて僕にはこの人しかないって思った。だから…」
「もう言わなくていい」
俺は蓮也をきつく抱きしめ、頭を撫でた。
「え、水音、どうした?」
「俺も、蓮也のこと好きだ」
ちらっと蓮也の顔をみると、真っ赤に紅潮していた。
「両想いだったんだね…」
「まあな。蓮也と会えてうれしかったぜ」
「もう1回キスしていい?」
「ああ」
と、そこに兎澤先生が全裸で入ってきた。
「お前ら……そういう趣味だったのか。悪いことは言わないが、とっとと風呂入っちまえ」
そう言って、兎澤先生は去って行った。
「見られたな」
「見られたね」
「まあいいか。入るぞ」
「うん」