紙で出来た髪を持つ神のお話
私の思い出 私のお話
これは 紙をつかさどる神の誕生のお話です
燃えてゆく
刻まれてゆく
溶けてゆく
私はそんな最後をとげた紙をたくさん見てきた
どの紙も最後は悲惨だった
とくに酷い最後だった紙は 生まれてすぐに燃やされた
なんて身勝手な人間なのだろうか 紙の事を考えた事はあるだろうか
だけどその中には 何百年も残り続ける紙もある
その紙の束を本と言う 本はその中にたくさんの紙を束ね 守っている
大事にされる 大切にされる 宝物にされる
紙として生まれたものならば 必ず夢見る理想郷
その紙の理想郷も 今は燃え盛っている
熱く輝く炎に包まれて 泣いている
叫んでいる 助けを止めている
私は見ていられなかった あの紙の束を
何百年も人間に愛され続けた 人間を愛し続けた
あの本の山が 当たり前のように燃え盛る所を私は見ていられなかった
だから 飛び込んだ
その体に炎をまといながらも その本の山を目差して
炎の中を突き進む
そこは地獄のように熱かった
私を焼こうとする炎 その炎が私を包み込もうとする
炎に焼かれてゆく 私の服
炎に焼かれてゆく 私の体
炎に焼かれてゆく 私の長い髪
炎に焼かれてゆく 私の全てが
それでも私は進む 右手と左手に水がたくさん入ったバケツを持って
意識が薄れてゆく 息が出来ない でも
でも 水を
あの本の山に この水を
燃えないで もう燃えないで 私の前で燃えないで!
そしてたどり着く 本の山はその大半に火が燃えて真っ黒くなっている
いま みずを かけて あげる から
私は最後の力を振り絞って
その本の山のまだ燃えていない
本の山の天辺からバケツ一杯に 私の最後の願いを込めて水をかけてやった
おねがい 紙の神様 どうかこの本の山を 守ってください
そして 私の
私が守ろうとした
あの本の山の天辺と その周囲は燃えなかったという
そこだけは 燃え尽きなかったという
他のすべてが燃え尽きても 私が燃え尽きる頃にも
最後には本の山だけがそこに残った 本の山の周りには黒い灰が飛び交う
その黒い灰の中に私はいた
私は幸せだった
私も一緒に 紙と一緒に
私は紙と混ざり合い 風に吹かれ 空を飛んだ
暖かい 心があったかくなる
体はとても軽い
気分がいい
こんな気分の時には
大好きな本を好きなだけ選んで 好きなだけ読みたい
そんな思いを秘めながらも 私は灰となって空へと消えていった
そして 私は 気がつくと
紙の 髪を持つ 神となっていた
おぉ…………。
まさかこんなお話が出来上がるとは……。予想外です。